12.これで悔いなし
出遅れたとはいえ、馬車よりも馬に騎乗する人間の方が速い。追い付かれるのは時間の問題なのは皆わかっている。だからといって、解決策があるとは限らない。街の中で逃走劇を繰り広げていくのよりは遥かにましになった。それだけがこの場の共通認識だ。
「追い付かれる前にどうにかするしかないね」
「ねえ、あれって」
窓の外、馬車の左前方、建物の間付近に一人の男が立っていた。暗がりで見にくい緑っぽい髪。大人には見えない身長の男。オウキだ。
とは言っても、なにをするつもりなのか。止まって確認なんてしている場合ではない。馬車の速度ですぐさま通り過ぎてしまう。だけど―――なんか、親指を立ててたな。
「オウキ君なにするんだろう」
「「さあ」」
「でも、嬉しいな」
なんだかわからなくても、こちらの為に何かしてくれようとしていることぐらいは、読み取れる。これが友人と言うものなのだろう。そこまでの長い付き合いでもないのにみんな手助けをしてくれる。時間じゃない。関わり方なのだろう。
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親指を引っ込め。後ろから追いかけてきている。人を見る。――どうするか
魔法を叩きこむか。いや、殺しをしたいとは思わない。というか、できない。なら弱い魔法を打ち込むか。いや、見た目からして門番だ。弱すぎる魔法では防がれる確率が高すぎる。
これが騎士団であれば、俺ごときが不意打ちで放つ魔法も防いでくると思えたのだろう。実際、騎士団と門番では感覚からしてまるっきり違う。騎士団は常在戦場。暗殺でも殺せはしない。誇張表現ではあれど、それに近いことが可能な者が多いと聞く。だが、門番は多対一で待ち構えて取り押さえる。奇襲に対応するなど専門外。出来るものはいるのかもしれないが、オウキが見た目でわかるわけもない。
いきなり起こされた。
――ユイトが騎士団に捕まっちゃう!もしかしたら、西の門から出てくるかもしれないわ!
――なにかあれば私が責任を取って必ず守るから!力を貸して欲しいの!
オウキとて、友人の助けはしたい。だが、国に楯突こうとは思わない。それを察してか、責任は取ってくれるというのだから。手伝わない理由はない。寝起きはいい方である。
そんな感じで西の門に来て隠れてみているものの、来る気配はない。気配を読めるわけでもないが、来たところでどうしようか。
門が開くのが見える。馬車が走ってこちらに向かってくる。
――お別れかもしれないんだ。最後くらい挨拶はしておくか。こんな俺にもよく話しかけてくれたのだから。
親指を立て。任せろ。となにも決まってないのに合図をだす。伝わっていることを願って。それと、友達になれた感謝も。
さて、殺しはせず、防がれもせず、足止めができて、そんな都合のいい魔法。あるのだろう。知らないだけで。だが、知ってなければ使えない。ならば...!自分しか知らない魔法で奇襲すれば、足止めになりつつ、対処も思いつかないのではないだろうか。
手持ちの何か、出るときに持ってきた短剣を片手に持つ。それを、自身の手に向かって切りつける。――イってえぇ....‼
頭で考えて、けがをした時に一度だけやってみたことがある。今回はより大きく。
手の中の出血を利用して。体外に放出する。短剣よりも少しだけ大きい剣をイメージしながら。
――毒血剣
心の中で唱えながら形を想像する。それを自身の体で隠しながら、馬が目の前に通る前を横切るように歩いていく。
門番達は慌てて減速し始める。子供を引いてしまわないように。速度が落ちてきた馬たちの目の前を突然少年が擦り付けるように走り抜ける。
「離れな――!離れたか・・・急ぐぞ!」
少し遅れたものの、極僅か。急いで再出発する。だが、徐々に馬の速度が落ち始める。
「ど、どうした!?」
オウキの毒は強くはない。人であれば皮膚にあたった所で、痺れを起こす程度だろう。口や目にわざわざ入れたりしなければ大した力ではないのだ。馬も同様のはずだった。だが、人間とは違う。人間であれば、我慢ができる。だが、動物は?その鋭敏な感覚で痺れを感じ取り。違和感を無視できない。一度気になってしまうと走る命令よりも自身の体に起きた現象の解決の方が遥かに優先される。
だからこそ、オウキの微弱な毒でも効果は抜群となる。普通の人ではほぼ操れない。特異体質だからこその血に魔力が多めに含まれた体質だからこそ、操れる力。それを、友人のため。痛みと工夫で最大限の効果を発揮させた。
――長居はするべきじゃないな。俺にできるのはこれくらいだ。
だが、さらに後ろから。赤く輝く人物が近づいている。
――マズイ。もう一人....いや!あれは、騎士か!しかも、団長...?だったか。もう一度やるべきか・・・
考えてる暇はない。魔法を放つ選択肢もあったが、先ほどの成功体験でうまくいくとしか思えず、同じ方法で近づく。少し頭を下げて申し訳なさそうにしながら。
同じく、少し減速させながら接近する馬。その横を通り過ぎ血を当てようとするが・・・!
「ほう、その赤い剣、魔法の類か!狙いは馬。貴様も仲間?雇われでもしたのか。まあいい!」
そういって、いつの間にか馬から降りて、血の短剣を持つ手を掴んでいた女。そのまま、足止めされていた門番達の方へオウキの体をぶん投げる。
「おわっ....!!!」
「そいつは敵だ!任せるぞ!俺は馬車を追いかける」
それだけ、言い残し。すぐさま馬に乗って走り出す。
――すまない。だが、さすがにあれは無理だ....。
反省するとすれば、大きめの魔法であれば少しの足止めにはなったのだろう。もしかしたら、馬だけなら完全に止められたかもしれない。
これからどうなるのか。わからないが友人の助けにはなれただろう。後悔はない。
はずなのに・・・。手首の痛み、腕の痛み、傷。早くも後悔が押しあがってくる。オウキであった。




