96.陽動
「一体なんだったんだ?」
どれのことを言っているのだろう。眠気の原因。相手の目的。言葉の意味。素直な撤退。それら全てのことを言っているのだろうか。
疑問を言うなら、僕にも多い。気配察知を使えない理由もわかっていない。
色々とあって、これまで純粋に観光を楽しんでいただけであった。
言い訳を述べるなら、だって危険なかったし・・・と言いたいが、危険を避けるための物を何かが起こってから気にしたのでは遅かった...。何もなかったから良かったけど。
「わたちもよくはわかってないん。たしか・・・他種族を調べることで予言に抗う術を探し出す...。みたいなことを言ってた」
「予言?・・・前から、聞きたくはあったんだが、こんなことがあった以上ここで聞きたい。なぜ君らは人間の国を攻めたりしたんだ?それに関係があるってのか?」
「知らないん...?」
「あぁ、知らん」
「僕も知らないよ?」
「・・・そう...。簡単な話。未来で起こる出来事から世界を守るためなん」
「それが、予言って奴か?でも、所詮は予言。つまりは、人が言ったことだろ。なら、適当言ってるだけかも知れねぇじゃねぇか。そんなことで攻め込んだってのか?」
「・・・良くないことだったとは思ってるん...。でも、予言は絶対に起こる」
「へぇー。で、なんでだ?」
「神様が言った言葉だから」
神?様?それって、全知全能のみたいな存在を表してるだけの言葉だよね?実在するの??
「神ぃー?ハッ、嘘つけ。いるわけねぇだろ」
「今はいない」
「あ?」
「でも、昔は本当にいた。らしい・・・」
「やっぱ、そうじゃねぇか。遥か昔の馬鹿が神を名乗って好き放題してただけだろ。信じさせるために壮大な予言だなんだを残して騙してきたってだけのことさ」
ハナリさんの顔には、全力で否定したい想いが出ている。だが、実際に自分が体験した出来事ではないためか、言葉で信じさせるのは不可能だと思っているようだ。
「・・・でも、わたち達は信じてるん。祖先の言葉を。それに、他の予言も当たってるって聞いたん」
「そりゃ、長い長い時間があれば、当たるなんてこともあるだろうさ。所詮は数撃って当たっただけのことだろ」
「違うん。全部。外した予言は一つもなかったって聞いたん。たぶん、未来の者達に信じさせるために様々な予言をしてたと思うん」
「・・・例えば?」
「第十一代目の妖精族長老が襲名した日、木々が燃え尽き灰と化す。北に迎え、さすれば、食い止めれるであろう。わたちが実際見た予言。これ以外には知らないけど、長老の話では、他にも実際にあったらしいん。わたちは長老を信じてる」
反論することはできるが、これ以上は水掛け論。根拠のない不信と根拠ありの信頼なら、少しハナリさんに軍配が上がりかけているだろう。
たまたまだと言えばそれまでのことでもある。だが、長老の話も加えるとさらに劣勢になる可能性が高そうだ。
「まぁ...話に聞くほどの存在ではなさそうだが、そう思わせるぐらいのが・・・いたのかもな。そんな奴が言った、予言の一つに人間の国を滅ぼせとでも?」
ちょっとした悔しさが滲み出ている。でも、信じてみることにはしたようだ。
もし、そんな予言をされていたのであれば、人間から何かをしようとしていたのかもしれない。それを未然に食い止めるための予言...。被害が一番少なくなる方法だったのだろうか。
「違うん。今までの予言は全て、最後の予言と言われる。これだけのために作ったとされてるん」
「それだけ言うなら、相当なことが起こるんだろうな。なにがあるって?」
「それは―――」
その時に遠くの方から。まるで、大樹が次々と倒れるかのような音が森全体へと響き渡る。
「なんだ?」
大きいとは言っても近くで鳴ったわけではない。僕達に聞こえた音でかなり遠いことがわかる。
「わからないん」
「行ったほうがいい...よね?」
ラキュさんがいる以上大抵のことはどうにでもなるだろうし邪魔かもしれない。僕達が合流したところで意味がないかもしれない。ただ、人手がなければどうにもならないことはある。一人でも多いことに越したことはない・・・はずだ。
それに、先程の件もあるのだ。向かうべきだろう。
心配だというのが一番の理由だけど。
「そうだな。さすがに世話になった。手伝えることくらいあるだろ」
「そうだよね」
「こっち」
全員の同意を受けて、ハナリさんが音の鳴った方、その正確な方角を指で指し示す。僕達は当然、疑うようなこともなく走り出した。
僕だけ先に行ってもよかったのだけれども。
「いや、さっきのこともある。あっちは陽動で、狙いは俺達かもしれねぇ。各個撃破だけは避けるべきだ。離れないほうがいい」
たしかに、その可能性もあった。だからこそ、僕達三人でできる最高速度で向かう。
何事もないことを願って。




