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昔、といえば。私はずっと日本でJKやっていた記憶があるから、バルベ先生には迷惑もかけたっけ。小さいときなんかは、男の人に診察とはいえ体を見せたくなくて「女医さんプリーズ!」って叫びながら逃げたこともあったわね。
この世界では医者も魔法を使う関係で、そもそも女医なんて存在がいないかったから家族もみんな、何言ってるのこの子?って反応だったなぁ。お兄様だけは意味わからなくても味方してくれたけど、「他の男にマリアの体は見せられない!」って発言は非常に、ひじょーに気持ち悪かった。何ですか他の男って。
そうそう、治療に使う魔法は光属性の精霊に気に入られていないとできないもので、世間一般では高位魔法に分類されている。光属性だけじゃなくて闇属性もそうだけど、精霊が気難しいと言われているこの二属性はそもそも扱える人が少ないっていうのも理由の一つらしい。実感ないけど。
だから医者という存在自体が少ないし、多くは貴族や王族の専属やお抱えになって治療費もバカ高いって聞くわ。バルベ先生は我がエーデリアン家のお抱えだったけど、辞めてからは市政の人々のためにってこの診療所を開いて格安で患者さんを診ている、実はとっても徳の高い人。死んだらきっと天界で女神様に褒められるんじゃないかしら。全知らしいし、先生の聖人君主っぷりも把握してるのでしょう。
……あれ、本当に全知だったら天使な子供達のあんなとこやこんなとこまで知ってるってことなのかしら?それってアリなのかしら?許されるのかしら?むしろ私が知りた……あらいけない、私ったら。
「そういえば、ララちゃんの傷はもういいのかい?」
冷静になれ~と両頬を抓っていた私に先生は思い出したようにそう聞いてきた。
あ、ちょっと力入れて抓り過ぎたかも、いたい。
「もともと庭で転んだだけですし、もう元通りにヤンチャしてますよ」
「獣人の子供は人の子より好奇心が強いし、それに対応できるだけの身体能力もあるからね。ちょっとヤンチャなくらいが正常でいいんじゃないかい?」
「それはもう!ララは元気にはしゃぐ姿が一番可愛くて!……でも一緒にいるクロエやジュリーまで無茶しないかハラハラしっぱなしです」
ララは6歳の猫の獣人で、元気いっぱいでヤンチャな可愛い子。亜麻色の背中まで伸びた髪がさらさらなのにふわふわで、できれば奇麗なままでいてほしいけど、いつも庭の葉っぱやらがついちゃってる。元気な証拠でいいんだけどね。
クロエは最年長の7歳でお姉さんポジションな子。下流貴族の出身だからちょっと堅いところはあるけど、それも皆を思ってこと。本当はとっても優しいし寂しがりやな一面もある、ララとは違った意味で放っておけない子なの。
ジュリーはララと同い年の子で、ともかく優しくて純粋ないい子なの。だからかは分からないけど、ジュリーも私と同じで精霊を見ることができる。そのせいで色々あったけど、毎日笑顔を絶やさない根の強さを持っているわ。最近はリボンを付けたり、女子力も上がってきてて可愛くて可愛くて。
「あぁ、子供達の話しをしてたら帰りたくなってきました」
「君も難儀だねぇ。でももう診療所を開ける時間だよ」
「はぁい」
診療所の扉の横にある窓のカーテンを開けて回るのが私の一日の仕事始め。カーテンを開けることで診療時間であることを外から見てもわかるようにしているの。喫茶店とかのopenとかclosedって掛けてある小さい看板みたいなものね。商店のシャッターが開いてるか閉じてるかって違いの方が分かりやすいかしら。
「先生っ!」
カーテンを開けた途端、勢いよく扉が開いて患者さんが入って来た。この調子だと、今日も忙しいのは確定ね。
今頃子供達は何をしているのかしら。……はぁ、帰りたい。