03 霜取り
「詰め込みすぎたんだよ」
とあなたは言う。
「そうかもしれないね」
と答えながら、「いつもと変わらないよ」と心の中で呟く。
「故障。買い換えた方が早いのに」という本音を飲み込んで、あなたが買ってきた大きなクーラーボックスに、中身を移し替える。
買って7、8年目の冷蔵庫。
やたらと冷えて、冷蔵室や野菜室のものまで凍ってしまう。そのくせ、製氷機の給水タンクまで凍らせてしまうから、よく冷えるのに氷は出来ないという、なんとも間抜けな機械になってしまった。
「霜取りをしてみよう」とあなた。
「霜は見当たらないけど」とわたし。
どうせ買い換えるにしても中身は整理しておいた方がいい。気持ちを切り替えて作業する。
焼肉のたれ、3本。
チリソース、2本。
賞味期限の切れた調味料、調味料、調味料…。
こまめに棄てているつもりだったのに。
冷蔵庫から全室取り出して、パッキンに挟まったクズ取りに夢中になる。
ポタ。
庫内に落ちる水滴の音。視線を向けると、パッと広がる雫が見えた。
次々と、どこからともなく現れて、水たまりを広げていく。
よく見れば、背面の凹凸に沿って、ジワジワと溢れてつたう流れもある。
扉を全部開いて。
溜まったものを一切合切放り出して。
ぽっかりと広げて。
ただ静かに。
ポタポタ。
あーー、泣いてる。
そう、思った。
こんな風に心を空っぽにして泣けたらーー。
気づかずに凍らせてしまった感情を、こんな風に溶かすことができたらーー。
羨ましい、と思った。
「故障なんて言ってごめんね」
※※※
溜め込んだものに気付かずに、空回りのエラーを起こす。まるで私みたいだなと思いました。
壊れた冷蔵庫への対応も印象的でした。私とは正反対の性格の夫は、まずは原因を探ろうとする。私は故障と決めつけて、買い換えようとする。原因を探らないから、同じ過ちを繰り返す。まさに私が今までしてきたこと。
電源を落として空っぽにした冷蔵庫と同じように、全ての活動を止めることは出来ない。だからこそ、1日で復活する冷蔵庫より時間がかかってもいいはず。




