終話『誓い』
焦げ茶色の扉を開き、中へと入る。
その瞬間、サイドポニーを揺らしながら駆け寄ってきた人物に怒鳴られた。
「石火、おっそい! 今日は会合だって言ってたでしょうが!」
「まだ集合時間の五分前だろうが、このせっかち花蓮め」
「私より早く来なさいよね!」
「お前はここに住んでるんだろうが! お前より早く来るなんて出来るか!」
レボルスのトップ、母さんが消えたことによってレボルスは事実上の解散。ということで夢宮はマンションを解約せざるを得なくなり、住むところに困っていたようなのだが、何を思ったのか安藤の奴が自宅に受け入れたらしい。
『二階には部屋の余りがあるからな』
とのことだ。つまり夢宮はかつての復讐相手の家に居候しているということだ。なんとシュールな。
ちなみに居候というと、暮野さんは我が家に健在だ。まあ助かるからいいのだが。
だだっ広い白空間を見渡す。クレーターかのように抉れまくっていた床は、元通りの白さになっていた。
まだあの戦いから一週間ほどしか経っていないというのに、仕事の早いことだ。
存分に室内を見回し、安藤のいる部屋の角、机のある場所まで歩いていく。
「それで、今日は集まるって話を聞いただけで何をするか聞いてないんだが?」
俺の言葉に安藤は笑って答えた。
「別に、会合というのは小娘が誇張しただけに過ぎない。こちらとしては一つ報告があるだけだ」
俺の後ろに付いてきていた夢宮を睨むと、逆に睨み返される。どうせ安藤と喧嘩ばっかりでストレスが溜まってるんだろうな……。だからといって誇張する意味は分からんが。
「私的には色々話があんのよ。愚痴だっていっぱい溜まってんだから、あとでしっかり聞いてよね」
「今の言葉の訳すと『いっぱいお話しようね』といったところだろう。若者同士、あとでゆっくり語らうといい」
「うっさい! 余計なこと言うな!」
安藤と花蓮の会話が、父と娘のモノのように見えて仕方がない。正直微笑ましい以外の言葉は浮かばないが、これでは話が進まない。
視線で話の先を促すと、安藤は一つ咳払いをして話し始めた。
「お前の母、春道桜花、まあ旧姓を名乗っているだけで戸籍上は大威桜花のようだが、それは置いておくとして。あいつは『ガルディア』本部に監禁させてもらっている」
「……ああ、それで?」
「ウイルスの話は未だ詳しく聞き出せてはいないが、お前と直に話をさせろと申し出てきたとの話だ。それさえすれば自分の知っていることは話してもいいと」
「だから、本部まできてくれって話か」
安藤は首肯し、更に話を続けた。
「日取りはお前に都合のいい日でいい。本部も日を跨ぐほど遠いわけでもないし、来てくれると助かるんだが」
少しだけ心配そうな眼をしながら自身の白髪頭を掻く安藤に、俺は笑いながら即答を返した。
「別に構わねぇよ。急にってわけにもいかねぇから、明後日以降にはなるがな」
「すまん、恩に切る。ではちょうど休日である四日後にさせてもらう」
白衣からスマホを取り出して、メモなのか先方にメールをしているのか、とにかく何か文字を打ち込む安藤。
それを眺めていると、隣にいる夢宮から声を掛けられた。
「あんた、本当にいいの? お母さんのこと嫌いなんじゃ」
「あんなんでも母親には違いねぇからな。一度は否定こそしたがよ。それに、親父をちゃんと助けるにはあいつの話を聞かなきゃなんねぇし、な」
「……そう」
夢宮はそう呟いて、いつもの様子からは想像もつかないような優しい笑みを浮かべた。
ああ、そうだ。決着がついたからって全てが終わったわけじゃない。能力の問題も、ラスターの問題も、親父の問題も終わってない。
だから、左眼の眼帯に眼を当て誓う。
その名の通り、世界の日常をぶっ壊した『異能変質』は俺がこの手で、この眼で止めてやる。
だからまずは、そのための一歩を踏み出そう。
これにて完結です。
もしかしたらそのうち続編を書くことがあるかもしれませんが、現状では構想を練っていないため、ここで完結とさせていただきます。
書くにしても数ヶ月はかかると思いますので。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




