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18話『乙女』

「よし、じゃあ今日は解散。明日からは遅刻しないでよね!」


 自身のサイドポニーを叩いて後ろにやりながら夢宮が言う。


 今朝は結局遅刻し、意識が低いと散々怒られた。遅刻っつっても五分ぐらいだろ、と言いたいところだったがそこは我慢。今回は全面的にこっちが悪いからな。ひたすら平身低頭で謝ったさ。

朝、眼を怪我して眼帯を探してたと言い訳をして、遅刻のことも眼帯をしていることもなんとか誤魔化したがな。


 まあ見回りが終わった後までネチネチ言われるのはちょっとムカつくが、そこは今回の見回りで得られたモノに免じて見逃そう。

 得られたモノ。それは頭痛薬の効果が分かったことだ。安藤からもらった頭痛薬を飲んでいればとりあえず能力を使っても頭痛は来なかった。ひとまずは安心して能力を使えるということだな。


 見逃す理由はそれだが、平身低頭で謝っていたのにも理由がある。

 まさかこっちが悪いからといって慣れない謝罪姿をこの馬鹿に見せるわけもない。

 言うことは言ったとばかりに後ろへ振り向いて歩き出そうとする夢宮に声を掛ける。


「あー、夢宮? ちょっと待ってくれ」


「なによ? なんかあった?」


 足を止めてこちらを向く夢宮は、表情に疑問符を浮かべている。


「別に何かあったとかそういうんじゃねぇんだが、一つ、提案があるんだよ」


 そう、これこそが平身低頭で謝っていた理由。この提案を通すためだけに、今日ばかりは夢宮に噛み付かないよう気を付け、刺激しないようにも気を付けていた。

 とはいえ、それだけでこいつが二つ返事の了承を寄越すわけもないんだが。

 予想通り夢宮は懐疑的な顔で尋ねてくる。


「提案……? なに?」


「あー、まあ自分で言っといてなんだが案というほど大げさなもんじゃねぇ。ただ、そうだな、親睦会でもやらねぇか? って話だ」


「はあ? なに馬鹿みたいなこと言ってんのよ。あんた疲れてるんなら、とっとと家に帰って寝た方がいいんじゃない?」


 取り付く島もないとはこのことだとばかりに一蹴された。正直キレそうだが、ここで台無しにするわけにはいかない。

こちらとて親睦会なんて馬鹿みたいなことをやりたいとは思わないが、どう足掻いてもこいつの家に行く必要がある。

 だったら親睦会の有用性を挙げていくしかねぇ。


「よく考えろ、夢宮。俺らって案外互いのこと知らねぇだろ? それはチームとしてどうなんだ? 何をするにしてもチームを組むならチームワークっつーのが必要だろ」


「それはまあ、そうね。でも今のままでも問題ないんだから大丈夫だと思うんだけど?」


「確かに今までは問題なかった。が、これから先、今より強いラスターが出てこないとは限らない。俺が止めてお前が仕留める。そんな今の戦術はお前の能力が一撃でラスターを殺せるというのが大前提になってるだろ。じゃあお前の能力一発じゃ仕留められないラスターが現れたらどうなる? そこで必要になるのがチームワーク、コンビネーションだと俺は思うんだが」


 くっ、納得させようと必死になるあまり不自然に饒舌になっちまった。これはさすがに訝しがられるか……?


 ちらりと夢宮の様子を窺うと、うーんと唸りながら上を向いていた。どうやら不審には思われなかったようだ。そもそも親睦会なんて話を持ち上げた時点で不審がられてるというのもあると思うが。

やがて考えがまとまったのか俺の方へ向き直り、口を開いた。


「一理あるわね。確かに私の能力が必殺でいられる保証はどこにもない。悔しいけどね。これからも確実に殺すためにチームワークを深めるというのは、そう考えると悪い案じゃないのかもしれない」


 右手を開いて閉じてと繰り返しながら夢宮は言う。

 よし、かなり好感触のようだ。追加のひと押しでトドメだ……!


「だからそのチームワークを深めるというので親睦会ってわけだ。互いのことを知るってのは別に身の上話をしようってわけじゃねぇ。適当に談笑でもすればある程度仲は深まると思う。相手がどんな話をするのか、どんな話に興味を持つのかとかを知ることでチームとしての仲も深まるんじゃねぇか?」


 俺のその最後のひと押しを聞いて、夢宮は軽く溜め息を吐き尋ねてきた。


「はぁ……。どこでやるのよ?」


「……夢宮の家」


「却下。じゃあまた明日ね」


「ちょいちょい待て待て!」


 踵を返し去ろうとする夢宮の肩を掴み引き止める。それでもなお前に進もうとする夢宮を、絶対に離すまいとして肩を掴む手に力を込めていると、夢宮は心底うざったそうに俺の手を払いながら振り向いた。更に勢いよく振り返られたためにサイドポニーでビンタされる。


「あーもう! 変態をウチに上げるわけないでしょ!」


「はぁ!? 誰が変態だっつーの、馬鹿!」


「そこまで必死に食い下がってる時点で変態に決まってんでしょ! 乙女の部屋に変態が入れると思ったわけ!?」


「おと……め……? そいつは一体どこにいるんだ?」


「あんたマジでぶち殺す! 今ここで!」


「上等だこの野郎! 謂れのない汚名をここで晴らしてやるよ!」


 下手に出てればいい気になりやがって。今回ばかりはキレないでいようと思っていたのに、もうすっかりいつもの調子じゃねぇか。


 夢宮はもう右手を構えて変質させようとしている。喧嘩を買ったはいいが、このままじゃデッドエンドしか見えねぇ……。

 とにかくこちらも能力で対処しようと眼帯に手を掛けた辺りで、一つ策を思い付いた。


 もうここまできたら煽りに煽ろう。幸いにもこいつは直情型の傾向が強い。そして今まで関わってきて煽りに弱いのも確認済みだ。

 煽ることで了承の方向に誘導する、それしかねぇ!


「ああ、なるほどなぁ。そこまで必死に拒むってことはあれか。人様には見せられないぐらい汚い部屋なんだろうなぁ!」


「はぁぁぁ!? 誰の部屋が汚いって!? 清潔も清潔ですけどぉ!? 女子に部屋が汚いとか乙女心が分かってないんじゃない!?」


「だからその乙女をここに連れてきてくれ! 少なくとも俺の目の前には脳筋ゴリラしかいねぇからよォ!」


 夢宮の額に青筋が浮かんでいるのが分かる。これはマジのぶちギレ状態だ……。

 さすがに煽りすぎたか……? いつ飛んでくるか分からない空気の槍に謎のドキドキ感を味わっていると、夢宮は何故か持ち上げていた右腕を下ろした。


 正気に戻った、のか?


「……よーく分かったわ。だったら私が如何に乙女かってところを見せてやるわよ! 付いてきなさい!」


 いや、こいつ正気に戻ってねぇな? 怒りがゲージを振り切って訳分かんなくなってるだけだこれ。


「付いてこいってどこにだよ! 校舎裏!?」


「ウチに決まってんでしょ! ごちゃごちゃ言ってないで早く来なさい!」


 ……どうやら、作戦通りに事が進んでいるようだ。これは乱闘になるパターンかとも思ったが、なんとか上手く言ったようだな。

 しっかし、あれだ。


 こいつ、チョロいなぁ……。


 大股で歩いていく夢宮の後を追って、俺も速度を合わせ歩き始めた。

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