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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
539/539

決戦  玖

「いやったああああああああああああ! ぐふふふふふっふふふふふ、勝った! よもや勝った! 我勝ちけりぃぃぃぃぃぃ!」


 ど、どうした?


 三成子が表情を変え大発狂している。先程までは余裕ぶって勝って当然のような顔をしていたが、凄い喜びようだ。


「くうううううううっ! 苦節、八年の、い、いや、違う! 苦節、四百年! 東軍を、内府を倒すことに成功したのじゃ! 我、歓喜! 我、歓喜! 我、歓喜じゃあ!」


 四百年もあんた生きてないだろ、でも八年も参加していたのか……。


 周囲から石田島軍の面々が集まって来る。


「おお、やりましたな! 三成様!」


「悲願を達成しましたぞ!」


「うおおおおおおおおおっ! 治部様!」


「終わった、帰れる……」


 部下たちも凄い喜んでいる。最後の豊久の一言が気になるぞ。


「え~、これを持ちまして、石田島軍、その傘下である宇喜多小西軍、毛利吉川軍、対、徳川池田軍、その傘下である黒田細川軍、小早川脇坂軍、福島藤堂軍の対戦は、石田島軍側の勝利に終わりました。総合優勝は石田島軍です。おめでとうございます。そして,、お疲れ様でした」


 石田島軍は審判員から最終的な勝利を告げられる。


「うおおおおおおおおおおおっ! いやった! やったぞ! ♪ だいいち、大万、大吉と長年の苦労と~、長年の悲願が達成じゃ! 達成ぇぇぇぇぇじゃ♪」


 石田島隊の五人が肩を組んで大合唱を始める。こいつら凄くウザい。男はつらいよの替え歌か? そんなもんまで用意してるなんて……。


「のう、左近、あれを!」


「はっ」


 左近が腰から何らやら取り出した。それを受け取った三成子が審判員に近づく。


「審判殿、これを……」


「な、なんですか? これは」


「縄じゃ」


「縄?」


「捕縛を頼む」


「えっ、捕縛? で、出来ませんよ、捕縛なんて!」


「儂は捕縛された。大津城の門前に晒されたのじゃ」


 それ、お前自身じゃないだろ!


「それと同じようにしろと?」


 三成子は頷く。


「で、出来ませんよ! 体験型のイベントじゃないですか! お互いの健闘を称えあいましょうよ!」


「せめて内府だけでも……」


「出来ません!」


 その会話が耳に入っている山科はえっマジかって顔をしている。


「ちっ、融通の利かん奴じゃ、こちらは本気なのに……」


 本気になるなよ。


 三成子はとことこと福島正則の前に詰める。


「ふふふふふふふふふ、のう正則殿、武運良くして、汝を生け捕りに出来てよかったわ」


「むむむ」


 続いて黒田長政の前に行って声を掛ける。


「お、おおおおおっ、長政殿、武運が味方せず残念でしたのう……」


「お、おう……」


 そして最後、家康である山科の前へ。


「のう内府殿、このように戦に敗れる事は、古今よくある事で少しも恥ではないぞ、ふふふ、よく頑張った徳川家康はさすがに大将の大器量である、かーっかかかかか!」


「あっ、はい」


 上から目線で言及され、山科は思考が追い付いていない様子で答えた。


 三成が捕縛後、諸将からされた事をやり返してやがる。


「いやいや、ふははははははははははは、勝ったわ! 勝ったわ! さてさて勝って兜の緒を絞めようかのう!」


「おい、やっぱり、あいつムカつくぜ! 一言云ってやる!」


 戦国チンピラの細川忠興はムキになり乗り出す。


「あっ、いや、忠興、やめとけ、あれは阿呆じゃ、阿呆にムキになるな! 相手をすることはない!」


 後ろから長政に止められる。


「み、皆さま、これにて決勝戦は終了です! 閉会式は関ヶ原古戦場記念館で行いますのでご移動をお願いします! お願いします!」


 審判員が数人がかりで場を鎮め誘導をし始める。


 そうして、我々は関ヶ原決戦地から関ヶ原古戦場記念館へと移動して閉会式を臨むこととなった。


 場が落ち着かず興奮冷めやらぬ中、閉会式が始まる。


「え~、本日は長い時間本イベント、そして検定にご参加を頂きありがとうございます。そして、本日の勝者は石田島軍に決まりました!」


 司会者から声が上がる。


 開会式同様、黒い背広を着た実行委員達が並ぶ。そして、その横には石田島軍の面々だ。


「石田島軍の方々は、知力を振り絞って、今回の戦いを制し、覇者となりました。石田島軍の皆様には二級古戦場戦略マイスターの証書と美麗関ヶ原大戦のキャラクターフィギュアを進呈致します。ご希望の甲冑レプリカの方は後日各お宅へと郵送させて頂きます……」


 実行委員長らしき男が、証書を手渡していく。石田島軍の面々は緊張しながらそれを受け取っていく。


「それでは、今検定の勝者である石田島軍の代表として石田三成子氏からコメントを頂きたいと思います」


 実行委員長からマイクが三成子に手渡された。


 三成子はニヤリと笑う。


「え~、我らは、四百年前からの悲願であった関ヶ原の戦いをとうとう制する事が出来た。とうとう東軍に勝ったのじゃ! 思い起こせは、秀頼様を中心とした太閤様御置目による政権運営を目指いしておったのに、内府が逸脱し主導権を取ろうとしたり、伊達政宗と私的な婚姻計画を行ったりと勝手三昧を始めた事が諸悪の根源じゃった。内府の奴はとにかく粕であると。それを我らはただただ制止しようとしたのじゃ! そして……」


 やばい、長い! これ長いやつだ……。


 また始まったぞとはかりに、皆うんざりというった表情を浮かべ始める。


「……また、家康は太閤様から伏見城に居るようにと云われておったのに、大阪城に入り込み、好き勝手三昧の政治運営、違反、違反、そのまた違反じゃ、そんな違反者にようやく鉄槌を喰らわせる事に成功したのじゃ、とにかくじゃ、やった、やったのじゃ!」


 ようやく云い終えたかと思ったら、改まってグイッと顔を上げる。


「……内府よ、内心深く反省するがよい! 今回の勝利は秀頼様、そして、太閤様に捧げる。わ、私は亡き太閤様のご恩に報いられて…… あっ、あぐっ、、うくっ、いかん……」


 色々云っているうちに感極まってきたらしい、声が上擦ってきた。


「わ、わ、私は…… と、とても…… ひっく、ひっく、う、嬉しいぃ!」

 

 三成子が目元を拭う。批判したり泣いたり感情の起伏が激し過ぎるぞ……。


「噓泣きだ……」


 下の参加者の誰かが聞こえるように云った。本当に噓泣きくさい。


「な、何を! 違うわ! ウソ泣きじゃないわ! 誰じゃ、今云ったのは?」


 誰も返事はしない。目は赤そうだが涙までは見えない。


「……話が無駄に長いぞ……」


 また誰かが云った。


「長いだと! 長くなんかないわ! もっともっと語りたいことは沢山あるんじゃ!」


 三成は怒を発動。


「ぶーぶーぶー、東軍の批判ばっかりだぞ! もう聞きたくないぞ!」


 今度は十人ぐらいが云い出す。


「この馬鹿ちんが! 東軍の敗残者共め!」


 その一言がいけなかった。


「ぶーぶーぶー、ぶーぶーぶー、ぶーぶーぶ! 三成ぶーぶーぶー」


「貴様等、ぶうぶう五月蝿いわい!」


 周囲は野次合戦になった。もうどうにも止まらない! 場は混沌だ。


「静粛に! 静粛に! もう、煩いから終了します。それでは今回の関ヶ原古戦場戦略マイスター検定にご参加いただきましてありがとうございました。また来年会いましょう。では……」


 審判員の強引な掛け声を持ち、今回の検定は終了した。


 終わった。終わってしまった。


 改めて思い返してみると、何か想像していたのとは違ったが、駆け引きは面白かったし、色々な人に出会え、中々楽しめた事も事実だ。


 残念ながら勝てなかったけど……。


 とは云え、美麗関ヶ原大戦の世界にも浸れたし。関ヶ原古戦場跡地も堪能できた。


 また参加しても良いかもしれないな。


 そんな事を思いながら、私はその関ヶ原古戦場跡の混沌とした状況を眺めていたのだった。



               終わり。

章管理が100を超えてしまい。これ以上章の区分がとうとう出来なくなりました。

丁度良い機会なので、これにて龍馬子は一旦終了させて頂きます。

お読み頂いていた皆さま誠にありがとうございました。深く御礼申し上げます。

尚、書こうと思っていた続きは別作品として上げようと思います。


ではではです。

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