Beautiful girl
丸みを帯びたアーチ状の整った眉。まつ毛はしっかりと持ち上がり、驚いた瞳が更に大きく見えた.
魔力を帯びたかのような輝く瞳に、大崎は瞬間引き込まれていた。突然現れた女生徒を、何とか思い出そうと、記憶を探る。
「びっくりしたああ」
そう言うと、女生徒は胸を撫で下ろした。白面な顔に雪白の肌。かごめも白いが、メイクの施されたそれは一線を画す。こんな美少女を簡単に忘れるわけがない。しかしやはり、大崎の知らない女生徒だった。
「君は?」
コホンと一つ咳払いをすると、小顔の際立つ少女はにっこりと笑った。
「学園二年、花咲凛です」
「二年? かごめくんなら、帰ってしまったんだが……」
「違いますよお。大崎先輩を訪ねて来ました。靴箱の手紙、読んでもらえました?」
「あの手紙は、君が出したものだったのか?」
「あんなの書くの初めてで、つい、教科書に載ってる歌を引用しちゃいました」
そう言うと、凛は小さく舌を出した。おどけて見せたかと思うと、急に真剣な眼差しを、大崎に向けて来た。
「大崎先輩は、今付き合ってる人、いますか?」
大崎は、ついに来たとばかりに口ごもる。
「い、いや。付き合っている人はいないが……」
困惑した大崎に、凛のストレートな質問が飛んだ。
「沢村さんですか?」
「そうじゃない。そうじゃないが……君も僕の、悪い噂は知っているだろう?」
「変態大崎? それがなんだって言うんですか? 根も葉もない噂だってことくらい、凛は知ってますよ。それより先輩のご活躍、そちらの方が評価されるべきです。聞きましたよ。新聞部の若林部長を、コテンパンにしたお話。凛は前から、あの人はいけ好かないって、思ってたんですよねえ」
学園の誰もが、自分の事を悪く思っている。それがなぜかはわからない。だがこの時、花咲凛はそんな自分の良き味方、理解者になり得るかも知れない。大崎はそんな風に思うのだった。
「でもよかったあ。大崎先輩と沢村さんが、付き合ってなくて安心しました。凛も入り込む余地は、あるって事ですよね?」
「余地? どうして僕に、あんな手紙を……」
「凛は大崎先輩が、好きだからです」
この世に生まれて十数年、誰かに告白などされた事がない。凛に気持ちを打ち明けられてもなお、大崎は疑わずにはいられなかった。だが、激しく胸を叩き付ける動悸だけは、確かなものだった。
「し、しかし、僕は……」
出来過ぎとも思われる凛の容姿に、もはや断る理由は見つからない。かごめと小谷が居なくて良かったと、大崎は心の底から思うのだった。
「直ぐに返事がもらえるとは思ってません。凛ももっと先輩の事知りたいし、凛のことも知って欲しい。だから、凛は探偵倶楽部に入部します!」
「この倶楽部に入部?」
「だめですか?」
凛は不安そうに、大崎を下から覗き見た。
「入部するのは、花咲くんの自由だ。僕がどうこう言うことじゃない」
それを聞いて凛は「やったあ」と手をあげる。その姿が、どこかかごめくんに似ていると、大崎は感じたのだった。
「凛と呼んで下さい。明日、また来ます」
「ああ、それではまた明日……り、凛くん」
大崎の声が、緊張のあまり上擦った。
「失礼します。レイ様」
凛はペコリと頭を下げると、嬉しそうに踵を返した。後ろで一本で束ねられた、ブロンドのテールがぴょこんと跳ねる。
「レイ……様?……」
凛が去った後も、貰ったラブレターと同じ甘い香りが、立ち尽くす大崎を包み込んでいた。




