Declaration of war
「待ってよ、小春ちゃん!」
夕暮れ時の廊下を、小春は時々振り返りながらひた走る。それをかごめは、何事かと必死で追い駆けた。教室に飛び込んだかごめは、肩で息をしながら、信じられない光景を目の当たりにした。
「なんなの……これ……」
教科書や参考書、ノート、プリントなど、かごめの机の中に入っていたはずのもの全てが、教室の床に散乱していた。机の上には死ね、ぶりっ子などといった辛辣な言葉が、これでもかというくらいに書き殴られている。
机だけではない。体操着などが入れてあるロッカーも同様に、中のものが無造作に引っ張り出されていた。
「誰が、こんな事……」
かごめは自分の机に手をつくと、死ねと書かれた文字を、手の平で擦る。しかし、油性のマジックなのか、文字が消える事は無かった。かごめの瞳と唇が、わなわなと震えた。
「小春ちゃん、誰がやったの?」
小春は小さく被りを振った。
「わかんない。私が図書室に行く前は、こんなには……。少しして戻ってきたら、こんなことになってて、かごめちゃんにとにかく早く知らせなきゃって思って」
小春は心配そうに、うつむくかごめを覗き見る。かごめは、今まで経験したことのない心の痛みを感じていた。誰がどうしてと、頭の中にこだまする。傍で見守る小春にも、かごめの胸に響く悲痛な叫び声が、聞こえるようだった。
「このクラスの生徒じゃないと思う。だってかごめちゃんは、クラスの人気者だもん」
小春はかごめを励まそうとするが、かごめは消えない文字をひたすら擦り続けていた。
「消えない……」
「かごめちゃん……」
見かねた小春は黒く汚れたかごめの手に、自分の手を重ねた。
「かごめちゃん、先生に相談しよう。このままにして、先生に見てもらった方がいいよ」
かごめは自身を落ち着けようと、目を閉じ深く息を吸い込んだ。
「このことは、誰にも言わないで小春ちゃん。私は探偵倶楽部の部員なの。これは私自身の手で、解決しなきゃいけないことなの」
かごめはそう言うと、再び机を擦り始めた。小春の脳裏に、中学時代の悪夢が蘇った。かごめの瞳に光るものを見た小春は、掴んだ手に力を込めた。。
「そんなことしたら、可愛い手が汚れちゃうよ? 私も手伝うから、一緒に片づけよ。ね? かごめちゃん」
自分の手に置かれた小春の手に、かごめは汚れた手を更に重ねた。
「ありがとう……小春ちゃん」
教室が茜色に染まるの中、小春の手の温もりが、かごめの心に染み渡るのだった。




