新しい家族
お母様が亡くなった。
いつも笑顔で優しくて、綺麗だったエリザベスお母様。
少し具合が悪いだけだと言っていたのに、5年も病に伏せっていた。
私に心配させない為に、すぐ良くなると言いながら痩せ細っていく姿と、
ゆらゆらと力なく揺れる感情に、私はそれが嘘だと気付いていた。
でも、優しい嘘をつくお母様に合わせて、私も知らぬフリを続けていた。
そして、とうとうその時が来てしまった。
お父様もお母様を凄く愛していて、貴族間では珍しい恋愛結婚。
夜会で二人は知り合い、瞬く間に恋に落ちた。
しかし、侯爵家の次女だったお母様は、当時貴族歴が浅い子爵位だった
お父様とは家格が不釣り合いだと、両親も含め周りに大反対されていた。
そして、お父様は王宮の文官として頑張って功績を上げ、
叙爵で伯爵位になり、二人は晴れて夫婦となった。
だから、お母様の死後わずか1年で再婚すると聞いて、
私はショックを受けた。
お母様への裏切りのような気がして、素直に喜べなかった。
しかし、お父様は気落ちする私に、この再婚は人助けだと説明してくれた。
何でも地位的に複雑な位置にいる方で、
それを保護する目的の偽装結婚だそうだ。
お父様は、王宮内財務省の文官として努めていて、
時折、宰相の補佐も任されている頭脳明晰さに加え、
国に忠誠を誓う誠実さは、王家でも認められているのだ。
詳しくは聞かせて貰えなかったが、王家絡みの何らかの揉め事を治める為に、
今回お父様がこの偽装結婚を請負った、という所のようだ。
決して口外してはいけないと言われ、私は黙って頷いた。
良かった…
お父様は、お母様を裏切った訳じゃないのだわ。
私は心からホッとした。
* * * * * * *
「お嬢様、そろそろお見えになります。馬車が内門に入って来ました」
「ベラ、私こんなラフな格好で大丈夫かしら?」
「大丈夫です。
家族になる方なのですから、そんなに畏る必要ありません」
今日は、新しい継母と兄達が、この邸にやってくる日だった。
これからここで、偽装とはいえ、家族として暮らす人達だ。
何か事情があるようだし、温かく迎え入れよう。
私は髪を整えて、玄関ホールに向かった。
お母様譲りのホワイトシルバーの髪に、
ライラック色のピンクがかった明るい紫色の瞳。
ぼんやりした色彩だが、私は優しげなこの色合いが好きだった。
瞳に合わせたライラック色のドレスワンピースを身に纏い、
玄関ホールの階段を降りて行く。
「ライラ、こっちだよ」
「お父様、お待たせしました」
「ちょうど彼らも来る所だ、さ、私の隣へ」
「はいっ」
お父様の横に並び、姿勢を正して貴族令嬢らしく彼らを待った。
私より4歳上の19歳の双子のお兄様だと聞いていた。
二人とも貴族学院を卒業後、王宮で働いている。
一人は騎士団に所属する騎士、もう一人は魔術師団に所属して、
魔術や薬学の研究員をしているそうだ。
彼らは、経歴を聞くと結構なエリートで、
伯爵家の後ろ盾など必要ないように思えた。
伯爵家の後継問題はどうなるのだろうと、ふと思ったが、
お父様は変わらず、私に婿を取らせて継がせるつもりで、
再婚相手の継母、双子の兄達もこれは承知しているそうだ。
じゃあ、これは…ただの同居なのね。
一体何の為の偽装なのかしら…
ああ、それは触れてはいけないのだったわ。
でも縁があって同じ邸で暮らすのだし、仲良くなれればいいのだけれど。
そして、静かにドアが開かれ、彼らが入室してきた。
金髪碧眼の清楚で優しそうな継母が、静かに近づいてくる。
身のこなしを見ると、随分身分が高そうに見えた。
やはり…何か事情があるのだわ。
そして、彼女の後ろには眉目秀麗な双子の息子が、
同じ歩幅と速度で歩いてくる。
この美しい人たちが偽装とはいえ、私の家族になるのだ。
「ようこそ、ミュレル様、御子息殿、我がガーディア伯爵邸へ。
こちらは私の娘、ライラックです」
「は、初めまして。ようこそ、いらっしゃいました。
ライラックです。よろしくお願いいたします」
「初めまして、ミュレルです。まあ、可愛らしいご令嬢ですわ。
こちらこそ、今日からよろしくお願いいたします。
ほら、あなた達もご挨拶なさい」
「じゃあ、俺から先に。
リアムです。騎士団に所属してます。よろしくね、ライラックちゃん」
「ルイスです。魔術師団の研究部に所属しています。…よろしくお願いします」
二卵性の双子だと聞いていたが、
髪の色と瞳の色が違うだけで、よく似ていた。
先に挨拶したリアムは、継母と同じ色合いの金髪碧眼で
愛想良くニコニコしてる。
ルイスは、黒髪銀眼でクールで素っ気ない態度。
でも、この二人…表面的な態度と内面が全然違う。
「お疲れではないですか?」
「はい、そんなに距離もありませんでしたし、元気ですわ。
あ、そうですわ、こちらをライラックお嬢様に」
「…え?」
「とても綺麗だったので、つい買ってしまいましたの。
お好きだといいのですけど…」
「ありがとうございます。み、見てもよろしいですか?」
「ええ、勿論」
ピンクの可愛い箱に、赤いリボンがついたプレゼントを貰ってしまい、
恐縮すると共に、彼女の心遣いに嬉しさで一杯になる。
リボンを外し、そっと開けると丸いガラスが見えてきた。
中にはライラックの花が咲き誇っている。
あ、これ… 魔力を流すと変化するフラワーボールだわ。
「うわぁ…綺麗っ…」
「お名前に合わせて、ライラックの花を選んでみたの。
うちは二人とも男の子でしょ?
こういう可愛らしい物を娘に贈るのが私の夢でしたの」
「ありがとうございます!凄く素敵です!大事にします」
「良かったな、ライラック。素敵な贈り物をありがとうございます」
「ふふっ、気に入っていただけて良かったです」
私は思いがけない贈り物が嬉しくて、そのフラワーボールを抱きしめた。
視線を感じて顔を上げると、双子の兄達がこちらをジッと見ている。
ニコやかなリアムと無表情のルイス。
やっぱり、表面的な態度と内面が全然違う。
ニコニコの金髪碧眼のリアムは、無反応。
無表情の黒髪銀眼のルイスは、ブンブン。
私には、特殊能力がある。
向き合っている相手の後ろに、
犬のようなモフモフの “尻尾” が見える。
そして、その “尻尾” の動きは、
相手の感情に連動して揺れるのだ。
ちなみに落ち着いて見える継母は、
ずっとゆらゆら揺れていて、私が贈り物を喜んだ後は、
はち切れんばかりにブンブンしていた。




