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48話 夜明けの一閃

 オークション本会場となるシアターホールはルナック大劇場の中でも1番広い場所だ。

 そしてその次に大きいのはこの扉の先にある第二シアターホール。


 扉に手を置いて軽く押してみれば、引っ掛かることなく俺を迎え入れた。


「おや、君が来たのか」

「……昨日ぶりです。レイ団長」


 後ろの扉は静かに閉まる。淡い光で照らされた第二シアターホールにはレイ団長しか居なかった。

 資材すら見当たらない。


「どうしたんだい?そんな怖い顔して」

「貴方がヤコウ店長から奪った機密書類を持っているのは知っています。それを返してください」

「機密書類?何だいそれは」

「ふざけないでください!ある程度のことはわかっているんです!ヤコウ店長は貴方が不幸にならないように止めようとしているんですよ!」

「ふっ、アハハハッ!いや〜てっきりクロバラちゃん辺りが来ると思ってたんだがね。まさかヨザクラくんが乗り込んでくるとは」


 ステージ上で笑い出すレイ団長。場所も相待って全てを演じている役者のように見える。

 そして俺はそんな彼を遠くから眺める観客状態。意を決してステージへと歩き出した。


「メイさんから聞きました。兄妹の目的は錆人を1人残らず裁くことを」

「そうかい」

「レイ団長はその機密書類を使って今日のオークションで上層部の悪事をバラすことも察しています。でもその書類だけでは貴方が不利になる!」

「そうかい」

「っ……一旦ヤコウ店長たちと話し合いましょう!俺たちは利害が一致している部分がある!まずはその機密書類を渡してください!」

「不利なのは承知の上さ。僕は死刑さえ恐れていない。今日やることに意味がある」

「レイ団長!」

「一旦そこで止まれ。ヨザクラ」


 するとレイ団長は拳銃を俺に向けてくる。俺は止まって刀を握るが打つ気配はない。

 単純に脅すためだろうけど、ここで強引に奪い返すのはリスクが高かった。


 この人は頭脳と口の上手さだけで兵士団長に抜擢されたのではない。

 戦闘面でもセンスがピカイチだからこそ、その高みに立っているのだ。


「君何だか顔つきが変わったね。それは昨日も思ったが、また一段と清々しくなっている」

「そうですか」

「僕もだいぶ君を舐めていたよ。まさか君に尋問を許可した捨て駒が他人に心を開いて自ら声が出ないことを訴えるなんてさ。彼はだいぶ僕を恨んでいるだろうね。すぐに釈放してやるって言葉を裏切ったのだから」

「やっぱり彼が話せないことを知っていたんですね。その上であんな持論を展開したんですか?」

「全てが持論なわけではないさ。彼らの目的は事実を述べている。まぁその目的は僕の口車に乗せられたものだけれどね」


 確か元兵士8人が掲げていたのは『リメンバーを始めとする外部の錆人取り締まりグループの排除』。


「彼らになんて言ったんですか」

「あいつらは人一倍兵士団の安月給に嘆いていてね。全く贅沢な奴らだよ。元孤児の僕からすれば貰えるだけありがたいのに。……でも奥底にある不満は僕にもわかる。だから協力をしてもらおうと思ってね。教えてあげたんだ」


 口調はいつも通りなのに表情は恐ろしいくらいに消えている。銃口は俺の額に向けられたままブレずに捉えていた。


「君たちの給料が上がらないのは近年外部の錆人取り締まりグループに金を取られているからだと。ルナック国家はリメンバーを始めとする外部に厚い信頼を寄せていると」

「でもそれは嘘ですよね」

「ああ。実際、ルナックの金は汚い上層部の懐に横流しされている。僕は兵士団長の座についてそれを知った。でもそんな僕より先にその事実を知っている人が居たんだ」

「ヤコウ店長」

「その通りさ。ヤコウさんは顔が広く情報収集を得意とする。僕は上層部の悪事の証拠を手に入れることは出来なかったが、その過程でヤコウさんが独自に調べていることを知った」


 そう考えるとヤコウ店長は長い間調査をしていたのか。十数年の付き合いだけれど全然気付かなかった。

 無意識に刀を握る力が強くなる。


「自分が証拠を手に入れられなかったからヤコウ店長から横取りしたわけですか」

「長い目で見れないからね。今こうしている間もルナックでは錆人が増えている。その現実が憎たらしい」

「お金に困っている人たちからすれば貴方の行いは一筋の光になるでしょう。……でも犠牲者が出ています!彼らが目指す先は同じだったのになぜ重症を負わせたり、自由を奪ったりしたんですか!?」

「確実に実現するためさ。僕は最初からストーリーテラーだった。妹を潜入させるためにモブになる役割を与えた。錆人と兵士が繋がっている噂を流した。君たちの思考を遅らせるために演じて襲えと指示もした。1番大変だったのはこれかな?」


 するとレイ団長は片方の手をスーツのポケットに突っ込んで何かを取り出す。

 それは小さな球体だった。


「火球…!」

「これを作るのに苦労したよ。今まで無かった物を生み出すのは骨が折れたが意外と楽しかったな。まぁリメンバーの天才は意外と早く成分や仕組みを解明したけれど」

「レイ団長が作った物だったなんて…」

「僕のシナリオを辿る相手は強敵だ。だから出来るだけ多くの手札で惑わしたかった。時間稼ぎには十分役に立ってくれたし、ハイになって君を殺そうとしたあいつらを止めることもできた」


 火球はレイ団長の手のひらの中でコロコロと転がされる。それくらいの刺激なら発動はしないだろうが、彼がいつ俺に投げつけてくるかはわからない。


 俺自身に油が染み込んでないとしてもこの第二シアターホールはレイ団長のテリトリー内だ。


 あの火球は油にしか依存しないため、どこから油が飛んでくるかわからない。

 俺は神経を更に研ぎ澄ませるように深呼吸した。


「手を汚しながらここまで頑張ったんだ。次にいつオークションが開催されるかわからない」

「だからと言って」

「だから僕は今日、ルナックの夜明けのための一閃を放つ!」


 パァン!と乾いた音が第二シアターホールに響き渡る。俺の足元には穴が空いていた。


「子供じみた願いとか詰めが甘いとか言えばいいさ!それでもこれ以上真実を知った上で錆人が生まれるのを見たくはないんだ!」


 続けてレイ団長は発砲する。俺は弾から逃れるために近くの椅子に身を隠した。

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