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中編

 思えば女子と二人で下校なんて小学生以来だ。

 カラカラと鳴る自転車を引き、委員長の後を追うように、街灯が照らす歩道を進む。


「逢魔ヶ刻ね」

「そうなの?」

「うん」


 よく知らないけど、この時間は好きだ。

 オレンジと紺のグラデーションに彩られた空と、縁が輝く黒い雲を見ていると、異世界の景色の様でワクワクする。


「魔に逢ったらどうする?」

「なんだよ魔って。お化け?」

「さぁ、分からない。でも、別にオカルトじゃなくても、人間が一線超えたら、それは魔の一種だと思わない?」


 人間は人間だろ。

 そうハッキリ言えれば良いのだが、テレビ画面に映る凄惨な事件の記憶が、そんな言葉を押し込めた。


「……そういえば、さっき聞きそびれた事があったんだ」

「何?」

「具体的には言えないんだけど、何か気づいてる?」

「何かってなに?」

「僕のこと……って言うと違うか。僕が知らない僕のこと……かな」


 保健室で委員長から感じた違和感が正しければ、彼女はきっと何かを知っている。


「うん。知ってる」

「マジか。それ教えてくれよ」

「良いけど、その前に図書室でのこと、一部始終教えて」

「一部始終って言われてもなぁ。小説読んでる途中で寝ちゃって、気づいたら保健室、ちゃんちゃん」

「さっき夢がどうとか言ってたでしょ。そこも全部」

「それは……」


 流石に恥ずかしい。

 勘のいい彼女のことだから、僕が篠宮先輩激ラブだということがバレかねない。


「夢を見たのは覚えてるけど、内容までは思い出せないな」

「ふーん」


 委員長はすっと歩みを止め、お下げを揺らしてこちらに振り返った。


「りんご」

「えっ……」

「どうしたの橘くん。そんなに驚いた顔して」


 それは図書室で見た夢の中で、篠宮先輩が最初に言った言葉だった。

 しりとりをしたことは勿論、篠宮先輩と会話したことすら教えていないのに。


「な、なんでそれ、知ってるんだよ」

「なんでって、私が聞いた噂よ。例の連続事件の犯人は、必ず最初にそう言うらしいの」

「へ、へえ」

「それでね、何も答えないと飛んでくるんだって」

「……何が?」

「りんごが」


 あくまで真面目な顔で、委員長はそう言った。


「どういうことだよ? 犯人が投げたって事か?」

「そうでもないみたいよ。犯人を無視して家に入った被害者は、トイレの中でりんごが飛んできたらしいの。窓もドアも閉まっていたのにね」

「ありえないだろ」

「そうね、でもそれだけじゃないの。そのりんご、数秒後には跡形もなく消えるんですって。残るのは、被害者の体に付いた痣だけ。ありえないわよね」


 そう言うと、委員長はスカートのポケットからスマホを取り出して、なにやら画面を弄り始めた。


「あと、凶器はバラバラって先生も言ってたでしょ? 噂だとりんごの他にも、パイナップルとか積み木が飛んできたり、中には家の中でカラスに襲われた人や、トロンボーンで鼓膜を破られた人も居るんですって」


 その話が本当なら、それはもう妖怪とか都市伝説の類だろう。

 いや、オカルトにしたって訳がわからない。


「本当に滅茶苦茶だな」

「そうね。ところでこれ、何に見える?」


 そう言って委員長が僕に向けたスマホの画面には、中央が楕円形に赤くなった、人間の背中らしきものが映し出されていた。


「背中……?」

「背中は背中だけど、私が聞いてるのは背中についた跡の方。何かの形に見えない?」


 よく見るとその跡は、全体が均等に赤いわけではなく、規則的に肌の色に近い部分があり、何かの模様に見える。


「確かに模様には見えるけど、分からないな」

「そう。私はパンに見えるわ。フランスパンっぽくない?」

「うーん……言われてみれば確かに」


 色の薄い部分が切れ目だとすれば、確かにフランスパンに見えなくもない。


「これ、橘くんの背中の写真よ」

「僕の?」

「そう。図書室で見た橘くんはね、確かに寝ていたけれど、様子がおかしかったの。居眠りってある程度ポーズが決まっているでしょ? 橘くんはそのどれでもなく、後ろから殴られて気絶しているような感じだったの。それで、もしかしたらと思って脱がせてみたら、パンの跡がついてた。それが橘くんが知らない橘くんの事」


 委員長はスマホを仕舞うと、再び歩き始めた。


「りんご以外に襲われた人にも共通点があって、それは犯人としりとりをした事なんですって」

「……しりとり」

「そう。でもしりとりなんて、いつまでもやっていられないでしょ? だから途中で切り上げてその場を去ると、犯人が最後に言った物に襲われるって話よ。それがりんごでも、多分パンだったとしても」

「……なんだよ」


 委員長の言いたい事がなんとなく分かってきた。

 彼女は僕を、傷害事件の被害者だと考えているのだろう。

 そして、篠宮先輩を犯人だと。

 確かに僕はしりとりをして、最後には何者かに銃で撃たれた。

 だけど、なぜそうなる?


「いや待て、変だ。僕は違う」

「何が?」

「僕は最後にパンって言ったんだ。それで負けた。でも僕を襲ったのはパンじゃない。あれは多分、スナイパーだった。後ろから撃たれたんだ」


 スナイパー。

 篠宮先輩が最後に言った言葉、そして僕が見た長い銃を持つ人影、聞こえた発砲音、背中に感じた気絶するほどの衝撃は、少なくともパンじゃない。


「スナイパーか。つまり橘くんは、あの先輩がスナイパーと言ったのに対してパンと答えたのね。それでスナイパーに撃たれて気絶して、背中にはパンの跡がついたと」

「……そう、だけど、余計に意味不明だろ。スナイパーが弾の代わりにパンを撃ったとでも言うつもりか? ないない。だからあれは夢だったんだって。っていうか、その事件もあり得ないだろ。噂は噂だよ」


 そう、噂なんて信憑性のない物、あり得ない。

 それに、仮にそんな魔法使いみたいな奴がいたとして、篠宮先輩な訳がない。

 篠宮先輩は、きっとそんな事をする人じゃない。


「確かに聞いた噂とは少し食い違うけど、でも、それ以前にこれまでの事件と決定的に違う事があるじゃない」

「何だよ」

「これまでの被害者は、途中でしりとりを放棄した。それに対して橘くんは、負けたとは言え、あくまでも最後までしりとりをやり遂げたってこと」

「まぁ、そうだけど」


 そもそもしりとりなんて、勝ち負けを決めたくてする遊びじゃない。

 時間潰しのため、何となく始めて、何となく終わる物だ。

 僕だってあの時は緊張してたから負けただけで、普通にやれば決着なんかつかない。


「あくまでも推測だけど、途中放棄はペナルティとして一方的に攻撃される。でも、『ん』で終わる単語を言ったり、既に使われた単語を言って負けた場合は、その言葉が守ってくれるんじゃないかしら」

「じゃあなんだ。僕は先輩のスナイパーに撃たれたけど、パンが守ってくれたって言いたいのか?」

「そういうこと。それが一番しっくりくるでしょ?」


 確かに、言わんとすることは分かる。

 でもその考察には明らかな矛盾があった。


「鉄砲の弾を、パンで守れる訳ないだろ」

「馬鹿ね橘くん。ただのパンじゃなくて、フランスパンよ」

「馬鹿はどっちだよ。フランスパンでも弾を防げるわけないだろ」

「フランスパンを舐めない方がいいわ。知ってる? フランスパンって、硬いのよ」

「…………」


 確かに。

 フランスパンは硬い。

 硬すぎて意味がわからない。

 かぶりつけば顎が壊れそうなほど、フランスパンは硬い。


「橘くんはスナイパーに撃たれけど、その軌道にフランスパンが割り込んで、弾の直撃を防いでくれた。ただし勢いまで殺すことは出来ずに、フランスパンが背中にぶつかって、その衝撃で気絶してしまった。どう? この考察」

「完璧だな。でも、間違ってる」


 確かにフランスパンなら銃弾くらい余裕で防げるだろう。

 だけど、それ以前の問題がある。


「篠宮先輩は、そんな事をする人じゃない」

「さっきから聞こうと思ってたけど、橘くんと先輩はどんな関係なの?」

「どんなって……」

「橘くんは篠宮先輩の何を知っているの?」

「それは……」


 篠宮先輩は僕の片恋相手で、図書委員長で、恋愛小説が好きで……。


「…………」

「なんにも知らないって感じね」


 反論の余地もない。

 だって篠宮先輩との関わりは、全くと言って良いほど無いのだから。


「あの人の良い噂、聞かないわよ」

「そんなの普通の事だろ? 良いにしろ悪いにしろ、噂なんてされないのが普通じゃん」

「普通……ね。私には、あの人の目が普通には見えなかったけど」

「そんなことない」

「ふーん」


 それからしばらく、無言で歩いた。

 図書室での先輩の声、言葉、姿、全てを思い出してながら。

 見慣れない横道に入り、少ししたところで委員長は立ち止まった。


「じゃあ、私の家ここだから」


 そこは特に特徴もない普通の一軒家で、窓からは灯りが漏れていた。


「送ってくれてありがとね」

「別に良いよ、お礼なんて。今日は迷惑かけちゃったし」

「気にしなくて良いわ。だけど、一つだけ約束してくれる?」


 委員長はメガネをくいっと上げて、こう続けた。


「明日、先輩としりとりをするけど、橘くんは邪魔しないでね」

「は? 何でそうなるんだよ」

「約束ね。じゃあ、またね」


 一方的に言いつけて、委員長は玄関に入り、僕はどうしようもなく、ただ立ち尽くすばかりだった。




* * * * * *




 昨晩は中々寝付けなかった。

 でも、今日一日授業に集中出来なかったのは、それが原因じゃない。

 帰りのホームルームが終わり、鞄も持たずに立ち上がった委員長を、僕は見逃さなかった。


「おい、どこ行くんだよ」


 教室を出た委員長の腕を掴むと、彼女は僕をキッと睨み、腕を振り解いた。


「トイレだけど。橘くんも一緒に来たいの?」

「ああ、行くよ」

「変態」


 なんと言われようが、委員長を止めなければと思った。

 もし本当に昨日の出来事が現実で、篠宮先輩にそんな力があるのなら、必ずどちらかが傷つく事になる。

 怪我どころか、死んでしまう可能性すらあるんだ。


「なぁ委員長」

「なに?」

「先輩は、俺を殺そうとしたのかな?」

「そうかもね。今までは怪我人に留めてたのに、スナイパーなんて殺す気満々だもん。嫌われてたんじゃない?」

「マジか……」

「良いから邪魔しないで」


 委員長はそう言い残して、女子トイレに入った。

 流石にそこまではついて行けないので、トイレの外で待つ事にした。


『バイバイ、橘くん』


 昨日、気を失う直前に聞こえた先輩の声。

 一度も自己紹介をしたことはないが、貸出カードで僕の名前を知ってくれていたのだろう。

 あの時、先輩の声は明るかった。

 僕を殺せたから嬉しかったのか、僕が死んでないことが分かっていて安心したのか、全く理解できない。

 委員長は先輩の目が普通じゃないと言ったが、綺麗な目だと思う僕がおかしいのか?

 恋愛フィルター的な物がかかっているのだろうか?

 なんにせよ、片恋相手と友達が殺し合う事になるかもしれない。

 それだけは食い止めなければ。

 などと考えていると、よく知る甲高い声が聞こえてきた。


「おっ、橘じゃん。女子便の前で何してんの〜?」

「うっす。委員長のこと待ってんのよ」


 彼女、クラスメイトの佐伯杏樹は、自他共に認める陽キャであり、学校で唯一金髪を許されている日本とイギリス人のハーフだ。

 とはいえ、ハーフらしいのは見た目だけで、趣味嗜好は生粋の日本人である。


「え!? 橘といいんちょって付き合ってんの!?」

「違うわ。野暮用だよ野暮用」

「じゃあなに? 告白?」

「違うって分かって言ってんだろ」

「バレた? ホントに橘はさぁ、本ばっか読んでてつまらん男よ」

「うっせ」


 こいつは何でもかんでも恋愛話に持っていこうとする。

 良い友人だが、そういうところは面倒くさくて、恋愛相談もしにくいから篠宮先輩への気持ちは隠し通している。


「てかお前は早く部活行けよ」

「今日の部活は全面中止って、さっきホームルームで言われたばっかじゃん」

「そうだっけ?」

「センセの話は聞いとけ副長〜」


 委員長の動向と、先輩のことが気になってそれどころじゃなかった。


「最近この辺で不審者が出るって噂あるし、多分それ関係じゃない?」

「佐伯も知ってるのか」

「都市伝説みたいになってるよ。『しりとり女』ってさ。超怖いよね〜」

「しりとり女……」


 先輩にそんな渾名を付けるな。

 もうちょっと可愛い名前にしろ。

 しりとりお嬢様とか。


「ってか、いいんちょ遅くない?」

「そういえばそうだな」

「早く帰れって言われたし、声かけてこよっか?」

「おお、サンキュー」


 委員長とは一年以上の付き合いだから分かるが、彼女はやると言ったらやる。

 だから今日は無理矢理にでも連れて帰って、先輩との命をかけたしりとり対決は止めなければならない。

 そもそも、しりとり対決なんて、いつまでやっても決着はつかないだろう。

 それともどちらかの体力が無くなるまで、延々と言葉を交わし合うつもりだろうか。


「橘ぁ〜」

「お、委員長は?」


 女子トイレから出てきた佐伯は、不思議そうな顔をしていた。


「いいんちょというか、誰も居ないけど」

「は? いやでも、確かに委員長は……」


 まさか、いやまさかだ。

 慌てて女子トイレの扉を開くと、全ての個室の扉は開いていた。


「ちょ、ちょっと橘!」


 そして正面に見える窓もまた、開ききっていた。


「嘘だろ……ここ2階だぞ」

「っていうか女子便なんですけど!」


 窓の下には植木があり、何かがそこへ落ちたかのように、一部が乱れていた。


「……佐伯、お前は早く帰れ」

「えっ? なにっ? どゆこと?」

「野暮用!」

「ちょっ、橘ぁ〜!?」


 僕としたことが忘れていた。

 委員長はあんな見た目だが、学年でもトップクラスに運動神経が良くて、去年の体育祭では馬鹿みたいに大活躍していた。

 その上、その辺の男より度胸と行動力がある。

 2階から飛び降りてもおかしくはなかったんだ。


「クソ……どこ行った」


 先輩の教室なら4階か?

 いや、委員長のことだから、先に帰られる事を考えて、事前に呼び出してる可能性が高い。

 それに生徒が大勢いる教室でしりとりバトルをするとは思えない。

 トイレもいつ誰が来るかわからないし……なら図書室か?

 いや、部活も中止なのたがら、図書室も閉まっているかもしれない。

 それにこの時間は司書のおじさんが居るはずだ。

 体育館裏は道路から丸見えで人目につく、屋上の鍵は生徒会が管理していて入れない、空き教室や音楽室なんかも普段は鍵が掛かってるから使えない。

 なら校外か?

 だとすると、もうどうしようもないぞ。

 他に無いか?

 人目につかず、誰でも入れる場所……。


「あった、あそこか……?」


 自習室。

 あそこなら常に解錠されているし、今日は利用者も居ないだろう。

 それに自習室が教室と同じ造りなら、扉には内鍵がついているから、人目を気にする必要はない。

 閉められていたらどうしようもないが、急がなければ。


「ハァ……ハァ……」


 僕は校舎内である事を忘れ、気づけば全力で駆け出していた。

 自習室があるのは特別教室棟の1階だ。

 委員長の脚力なら、とっくに到着しているだろう。

 僕は連絡通路を駆け抜けて、段飛ばしで階段を駆け降りる。

 勢いが止まらず転びかけながらも、自習室へと到着した。

 息を整えるように深呼吸して扉に手をかけると、鍵は閉まっておらず、扉は開いた。

 問題は、ここに委員長が居るかどうかだが。


「……橘くん」


 予想は当たり、お下げ頭の眼鏡女子がそこに居た。

 彼女は自習室の真ん中あたりの席につき、驚いたような顔でこちらを見ていた。

 だが、篠宮先輩の姿は無い。

 ひとまず安心して歩み寄ると、彼女は態とらしくため息をついた。


「邪魔しないでって言ってるのに」

「いいやするね。滅茶苦茶お邪魔してやる」

「……なんで?」

「危ないからに決まってるだろうが。正直僕はまだ半信半疑だ。しりとりで負けるとりんごが飛んでくるとか、フランスパンが守ってくれたとか。でも、もし本当なら、委員長も死ぬかもしれないんだぞ?」

「……ふふっ」


 必死に止める僕の言葉に、彼女は不敵な笑みを浮かべる。

 そして何がおかしいのか、彼女は口元を隠してるクスクスと笑い出した。


「何がおかしいんだよ」

「ごめんなさい、橘くんってあんまり私に興味がない物だと思っていたから、ちょっと意外だっただけ」

「誰でも心配するだろ、こんな訳のわからないことで、死んじまっても良いのかよ?」

「大丈夫。多少怪我はするかもしれないけど、私も篠宮先輩も死なないから」

「そんな保証はないだろ? 大体、先輩がそんな力を持ってるなんて証拠も無いんだからさ」


 そう言うと委員長は音もなく立ち上がり、僕の襟首を掴むと、勢いよく顔を近づけた。


「いいから、この後何があっても黙って座ってなさい。じゃなければ出てって」

「あ……あの……」


 委員長にガンを飛ばされている。

 だが怖いという感情以上にドギマギしてしまう。

 文字通り吐息がかかる距離で女子の顔を見ることなど、今まで一度も無かったのだから。


「そこに座って、しりとりが終わるまで邪魔しないで。良い?」


 思わず何度も頷くと、委員長は手を離してくれた。

 そして言われるがまま、委員長の隣の席に着くと、彼女はまた溜息をついた。


「橘くんは、言葉って何だと思う?」

「……そう聞かれるとよく分かんないな。考えたこともないよ」


 それに今は、色々とドキドキしてしまってそんな事を考えていられない。


「ゆぬめ。って言葉は知ってる?」

「ゆぬめ……? いや、初めて聞いた」

「でしょうね。今適当に、無さそうな言葉を言っただけだもん」

「なんだそれ」

「でももし、私が何かしらの意味づけをして、それを橘くんに教えたら、それはもう言葉だと思わない?」

「つまり、何が言いたいんだ?」

「しりとりなんてゲームは、最初から破綻してるってことよ」

「それは、ルール次第だろ」

「そうね」


 何が言いたいのかイマイチ分からないが、つまりは返す言葉が無くなっても、適当な五十音を並べて言葉だと言い張れば、勝てはしなくても負けもしない、ということか?


「……来たみたい」


 委員長が不意に放ったその一言で、緊張感が走る。

 耳を澄ますと、階段を降りる足音が聞こえていた。


「私が本当のしりとりを見せてあげる」

「始まる前に、先輩と話はさせてくれ」

「うん、分かった」


 足音は徐々に大きくなり、やがて扉の曇りガラス越しに人影が見えた。

 そのシルエットだけで僕には分かる。

 紛れもなく、篠宮先輩だ。

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