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追放された魔王の娘の下剋上  作者: ルナねこ族
第三章  ライリー編
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73話  原罪としての素質



(っ…。)



わかっていた事だが…いざ大火を渡すとなると…リリはどうしても、躊躇してしまう。


1人の魔族の命を助けるためだけに、大勢の命を犠牲にしてしまった。…生贄のようなものだ。


それがどうしても、リリの良心を苛んでくる。心臓がギュウギュウと、物凄い力で抑え込められているような感覚と、サァ…と血の気がひいていくような感覚。


生きた心地がしない…まさか、もう自分の体は声の主に乗っ取られてしまっているのではないかと、そう勘違いしてしまいそうになる。


『自分の意思でやったんじゃない。これは全部、声の主が悪いのだ。』…もしも、魔界全土が壊された後で、自分の意識がちゃんと戻ってしまって…色々な魔族に恨まれたとしたら、リリはそう言ってしまいそうで…どうしても、自分の浅ましさを直視せざるを得なかった。



『さぁて…やっとこの窮屈な場から逃れる事ができるな…。』



歓喜とも、興奮とも取れる…そんな嬉しそうな声が聞こえた、次の瞬間。



「っ?!」



リリの体に、衝撃が走った。


ドクリ…と、大きな脈を打つ心臓。走ってもいないと言うのに、やけに呼吸がしにくい…。そう思っていられたのも、わずか数秒だけだった。



「ぅえ…はっ…あ…が…!」



唐突にリリに襲い掛かる吐き気、それと同時に、心臓を針で突かれているかのような不快感。…気持ちが悪い。吐いてしまいそうだ…!痛い痛い…胸を張りで突くのはやめて!


そう、叫びたくなった。でも…



(今…私が…叫んだら…アン…ゲリカに迷惑…が…!)



顔面蒼白で、付きっきりでライリーの看病をし続けていたアンゲリカ、彼女の顔色にはいまだ、疲労の色が濃く残っている。


そんな彼女の目の前で、もしリリまで具合が悪そうにしていたら…間違いなく、アンゲリカは自分の体調の事など無視して、リリの看病に当たってしまうだろう。



「かはっ…おぇ…うぅ…。」



しかし…リリには、他人の事を気にしている余裕など、正直に言ってなかった。


吐き気はどんどんと勢いを増し、今まさに、胃の中にあるもの全て、吐き出してしまいたいほどには強くなっていたし、最初は張りで突かれている程度の痛みだったが…だんだんと、その強さが増している。


今はまだ、なんとか声を押し殺せる程度だが…これ以上ひどくなったら、多分…リリは大声を上げて痛みに泣き喚いてしまうかもしれない。




「ぅぁ…あ”ぁ”…!」


「?!リリ?!どうしたの?しっかりして頂戴!」



ついに、鋭利な刃物で心臓を突き刺すかのような‥そんな痛みが、全身に走り始める。痛みに耐えきれなくて、リリは無我夢中で喉元を押さえ、呼吸の経路を確保しようと顔を上に突き上げるが…痛みはさらに、ひどくなるばかりで、一向に改善されない。



「う”ぁ”…!あ”ぁ”ぁ”…い”や”ぁ”ぁ”ぁ”!!」


「ライリーに続いてリリまで…!一体どうしてなの?!」



悲痛な声をあげながらも、リリの手首をぎゅっと掴んで喉元から離すアンゲリカ。…突然雄叫びを上げ、助けを求めるかのように泣き叫ばれてしまえば、動揺せざるを得ないだろう。


しかし、アンゲリカの悲鳴もリリには届かず、リリは足をジタバタ動かし、痛みから解放されようともがく。


唸り声を上げ続け、顔を天井に向けたままの体制で、リリは声を紡ぎ出そうとするが…



「あ”か”…あ”ぁ!!」



意味不明な音となり、誰にもリリの気持ちは届かず消えていった。



『ふむ…なかなか粘り強い精神力だ。…それほどまでに、実の父からの所業が憎いのか‥。』



一方、リリにこの壮絶な痛みを与えた張本人は…嗤っていた(わらっていた)


まさか、ここまでの激痛を与えても、すぐには体から退いてくれない…その精神力に、感嘆とも、呆れとも言えない、複雑な感情がこみ上げてきていた。



『実に滑稽な事だ。自らの父に捨てられ、使いっ走りとして散々利用された挙句に、激痛を味わいながらこの世から消えていくのだから。』



今までのリリの人生を想像しながら、声の主はクツクツ…と、忍び笑いを漏らす。…まるでそれが、可哀想な生き物に送る、同情の念…そんなようなものが、声の主の笑いには含まれていた。


彼にとっては、リリは理解し難い生き物かもしれない。だって、そんなにも自分の父親が憎いのならば、殺してしまえばいいと、そう感じるのだ。


難しい事ではあるだろうが…そこは、暗殺者でもなんでも雇えばいい。他にも、暗殺以外の方法で、そいつの地位を陥れる事だってできただろうに…何故、そこまで無茶な事をし続けるのか?



『まぁ…私には一生理解のできない事だろうが…お前は中々に面白味のある奴だった。』



声の主は、この世から消えて無くなってしまうリリのために、手向けの言葉を添えると…一気に、リリを殺しにかかった。



「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!」


「リリ!リリ!しっかりして!!死んじゃだめ!!」



しかし…不思議な事に、リリは死ななかった。


自らの依代とするために必要不可欠な、『ある魔法をかけて殺そうとした』のだが…何故だか、リリは今もなお生き続けている。


リリからしたら、まさに『生き地獄』と称するのがふさわしいくらいには、悲惨な目に遭っているだろうが‥。



『…死なないな。まさか…まだ此奴に…原罪としての素質が足りていないのだろうか‥。』




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