60話 命なき者の願い
産まれなければよかった。
そう、何度思った事があっただろうか?もう数え切れないほど、自分自身を恨み‥今も呪い続けている。
それでも、この体は生命活動を維持し続けて…どうにも死ねない。
一度、毎日あいつらから出される食事を食べるのをやめてみたときがあったが…辛くて苦しくて、こんなに傷い思いをしてまで死にたくはない…その一心で、俺はあいつらから出された食べ物を食べ続けるようになっていた。
でもやっぱり、死にたいと願う気持ちは変わる事がない…それどころか、願いの炎はますます勢いを増していく。
継ぎ接ぎだらけの心を平穏に保たないと…自分が自分じゃなくなる気がしたから、あいつらの目を掻い潜って、今も尚精神安定剤を使い続けてる。
『辛いな…苦しいな…いっそ、魔族を辞めて仕舞えば…こんな傷み、なくなるんだろうか?』
あのクソじじいに頼んで、一度俺を魔族以外の何かに変えてくれないか?と頼んだこともったっけな‥。
あの時は悲惨だった。顔の原型がなくなるんじゃないかってくらい、クソじじいに殴られまくって…あんなに殴られる事、もうこの先一生ないんじゃないかな?
「はぁはぁ…148、今度そんな事言ったら、お前は焼却炉送りにする。いいな?」
「………俺を…すて…どする…?」
「聞こえない、もっとハッキリと喋れ!そんなことも出来ないほど粗雑に作った覚えはないぞ?!」
「……。」
何も答えない…いや、答えられない俺をみてさらに機嫌を悪くしたのか、あいつはもっと殴ってきやがった。
…その頃からか、俺は痛覚がない。『痛み』というものを感じ取れなくなってしまったんだ‥。
生き物として大切なものをなくしてしまった時は、胸が張り裂ける様な思いがしたさ。
…でも、それと同時に都合がいいとも思った。
どれだけ叩かれようと、殴られようと、その行為のせいで襲ってくる痛みを感じずに済むから。
「……それでも、この『傷み』はなんなんだろうな‥。」
誰も俺の事を見てくれない。みんな俺と話したがらない。誰も俺を…
「どうして産まれなければいけなかったんだ?」
苦しい…
胸の内に溜まり続ける暗闇を晴らしたくて、ライリーは自分の生まれ故郷へと続く階段を降りていく。
一段一段、下へ降りて行くに連れて、ライリーの中で懐かしい気持ちが蘇ってくる。
(懐かしい気持ち…なんて、兄貴と過ごした事なんてただの一度もないのにな‥。)
重圧な扉の前で、複雑に絡み合った結界を一つ一つ、丁寧に解いていく。
全ての結界が解き終わり、ライリーはその奥に待ち構えている兄の元へ駆け寄っていく。
「ああ…!兄貴…兄さん…兄さん!」
ライリーは兄の体…いや、『彼が兄と呼ぶ魔族の体が保管されている水槽』の前で崩れ落ち、両手で顔を覆う様にして泣き出す。
「あなたはずっと前に『死んでしまった』!だから俺が『産まれてしまった』!」
ライリーの過去編です。
この後の話で、ライリーの言っている『兄』の存在だとか、どうして兄が死んだらライリーが生まれるのか、とか色々解明させてきます。




