37話 本音
あの騒動から一晩たち、リリたちは今宿にいた。
流石に崩壊した屋敷の中で眠ることは無理だし、原罪リリたちが通っている学園の学生寮に戻ろうにも、馬車を使って一週間かかる。
今すぐに馬車を用意することもできないし、そもそもリリとアンゲリカ、ゴマちゃんたちの3人はひどく疲れていたため、今すぐに休養を取りたいと言う諸々の事情を考慮した上、魔王の娘としての権力を使用する事で宿の中でも一番広い部屋を2つ用意してもらった。
流石に4つ用意することは叶わなかったらしく、二つの部屋はそれぞれリリとアンゲリカ、それとゴマちゃん、ライリーとアルフの2つに分かれて泊まることとなった。
現在時刻は朝の6時。
リリは布団から立ち上がり、そぉっとカーテンの隙間から外の景色を眺める。
約やの出来事が夢だったのかと思うほど、外はシン…と静まりかえり、空は澄んだ水色をしていて、まだ日が高く登っていないからだろう、太陽が地上を弱々しい光で照らし出していた。
少し奥の方には崩れたレオンハルト邸がある。
あれじゃあ、レオンハルト邸にあった資料も無事じゃ済まないわね‥。
当初の目的であるアンゲリカ懐柔はうまくいったものの、このまま手ぶらで帰れば間違いなくリリの命は助からない。
朝から憂鬱な気分になり、この後家に帰らなければならないのが億劫になってくる。
どこか遠くへ逃げ出してしまおうかしら‥…まぁ、そんな事をした所でいずれ蜜かてtしまうのでしょうけど‥。
逃げても無意味だ。
どうせすぐ見つかる。うまく逃げ果せたとしても、魔族でもありゴマちゃんに関するいろいろな事情を知ってしまったリリは他国…多種族が納める国へ逃亡することもできない。
結局の所、リリは家に帰るしかないのだ。
もう諦めた。どうあがいても無駄なのだから、抵抗する意志すら感じれない。
はぁ…っと、苛立ちや鬱憤の感情をのせたため息を吐き出す。
「大丈夫?…何かあったの?」
「…いいえ。大丈夫ですわ。」
いつから起きていたのか、アンゲリカがリリの背後からりりを心配する声を投げかけて来た。
リリは吐き出したくなる様な感情を全て胸の内に止め、アンゲリカを心配させぬ様に糸声かけておくが…
「嘘ね、私にはわかるわ。」
「嘘ではありませんわ。…だって、相談した所でどうにもならないんですもの…言っても言わなくても同じ‥。」
アンゲリカへの返答後、アンゲリカに聞こえないくらいの小さな声で本音を呟く。
心からの本心とは言い難いが、確かにリリが口に出した言葉はリリの胸の内に止めておいた言葉の一片だった。
だが、リリが聞かれていないと思っていたことは全てアンゲリカに聞こえていた。
「……きっと大丈夫とか、なんとかなるとか、そんな綺麗事を吐くつもりはないけど…話してみたら?きっと少しはスッキリするし、心の整理ができると思うわ。」
アンゲリカの優しく、本当にリリの事を思いやってくれているのだとわかる言葉を聞き、リリは静かに涙を流した。
学園に通ってくる前、リリが魔王城で軟禁まがいな状態にあった頃。
リリは常日頃自分の魔力量の少なさや、出来の悪さに苦しんでいた。
しかし、従者たちは薄っぺらな『きっと何とかなります。』とか『あなた様なら確実にできる事でしょう。』とか、何の確信も無い癖に威勢だけは一丁前な言葉ばかりだった。
挙句、実際にリリが挑戦し、いつまでたっても習得できないと知ると『落ちこぼれ』だとか『所詮は小賢しいだけのガキだ』とか、そんな悪口ばかり。
「…怖いの。」
「うん。」
リリはポツリ、本音を口に出す。
諦めてるなんて嘘だ。本当はもっと生きていたい。
自分が生きている意味を持っているだとか、そんな不確かな事を言うわけじゃ無いけど…せっかく自分なりに目標ができたのだ。
今までの何の目標も将来の夢もなかった頃とは違う。
そこには確かに、自分なりに成し遂げたいことがあるのだ。
「昔はお父様に認めてもらおうと頑張ったし、努力だってしたわ。けど…お父様は私のことが嫌いみたいなの…。」
「うん。」
何も口を挟まず、ただただリリの本音を受け止めてくれるアンゲリカは、もしかしたらリリの事を『面倒くさいやつだ。』と感じているかもしれない。
でも、それでもよかった。
偽りでも、一時的でもリリの事を思いやってくれた暖かさが確かに存在しているから。
それだけで心が軽くなる気がしたのだ。
「それに…私、このまま家に帰ったら死んでしまうわ…何にもできないまま、きっと誰にも覚えていてもらえない…そんなのいや…。」
「……。」
アンゲリカはリリの『このままでは死んでしまう。』と言う発言を聞いた時、少し目を見開いていた。
大方、一般的な魔王のイメージと真逆だったから驚いているのだろう。
世間一般の今代魔王のイメージは『優しい』『寛容』『朗らか』と、まさに聖人君主の様な魔族像だ。
おおよそ魔族の長とは思えないと言われているらしい。
…まあ、実際はそんな完璧超人で性格の良い魔族ではないが‥。
アンゲリカはリリの本音を聞き終えると、少し考えるそぶりを見せた。
そして徐に口を開き
「大丈夫、私に任せて頂戴。」
にっこりとリリを安心させる様にアンゲリカは綺麗な笑みを浮かべた。
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