34話 隠された地下室
その場の勢いに任せて飛び出したはいいものの、特にこれと言って何をしようと考えていたわけでもない。
ただ単に、その場にいるのが耐えきれなくなっただけ。
居た堪れない気持ちになると同時に、リリは後悔していた。
「喧嘩してる場合ではありませんのに‥。」
残す所あと1日しかなく、打つ手立てが全くと言っていいほどない状況下で、些細な事で仲間割れするのは愚者のやる事だ。
しかし…リリは完璧超人でもないし、そんなものになれやしない。
神でもない限り過ちを犯してしまうのは、不完全な生き物にとっての性でしかない。
だが、もっと上手くやれたはずだ。
沈んだ心はちっとも晴れず、むしろ自責の念がまして行くばかり。
こんな状態で部屋に戻ったとしても、またライリーに当たってしまう。
かと言って、今日は考える事をやめて寝つこうとしても…きっと眠れやしないだろう。
布団の中で自分を責める言葉を考え続けてしまうかも知れないし…何より、アンゲリカ説得のチャンスは明日しかないのだ。
不安で押しつぶされて翌日を迎える事となるのは目に見えている。
どうしようか悩んでいる内に、リリはいつの間にか自分の部屋から遠く離れていた。
どこまできてしまったのかしら…?
周りを見渡していると…一室だけ、ほんの少しだけ扉のドアが空いている部屋があった。
まるでリリを誘おうとするかの様に開いている扉を少し眺めるリリ。
しかし、部屋からは一筋の明かりも漏れてなく、空室なのだろうと思いその場から立ち去ろうとしたのだが…
微かに…微かに、誰かの声が聞こえてくる気がするのだ。
こんな時間に、誰がなんの用でこの部屋を使っているのだろうか?
…明かりもつけずに、何ができると言うのだろう?
怪しい気配の漂う部屋へ、リリは足を踏み入れた。
リリが部屋の中に入り数歩足を進めた時、入って来た扉が『ギギィー…。』と錆びた音を立ててしまった。
『バタン』と扉の閉まる音に驚いて、リリは後ろを向くが…すぐに前を向き、奥へと進んでいく。
部屋の中は予想通り暗く、すぐ目の前のものしか見えない。
く、暗いわね……わぁ?!
壁伝いに部屋の中を散策していると、リリは何かに引っかかって転んでしまった。
「いてて……あれ?」
自分のすぐ足元を見てみると…暗いながらも、そこにハッチの様なものが有るのが分かった。
なんでこんな所にハッチが…?
リリはハッチの取手の部分を掴んで、上に引き上げる。
するとそこには…
「地下室?でも…確か初日の屋敷案内の時に地下室は無いって‥。」
考えなくてもすぐわかる。
エグモント卿はなんらかの理由で地下室がある事を隠していたのだ。
何か隠しておきたい物があるのは察せるが…それが何か大切な資料なのか、はたまた重要な機械なのか。
ハッチがあった事実だけでは、一体何を隠しているのかまではわかりませんわね‥。
あくまでも憶測の範囲なので、もしかしたらやましいことはないのかも知れないが‥。
ただの食糧庫…だったとしたら別に隠す理由がありませんわね‥。
十中八九、リリの予測は当たっているだろう。
部屋の暗さ故に視界が心許ないが…せっかく見つけたのだ。
最悪、何もなかったとしてもエグモント卿が魔王の娘に隠し事をしていた事だけでも脅す材料としては十分だ。
脅すなどという手はあまり使いたくないが…これも、7つの原罪を止めるための過程だと思えば仕方がない。
何かをなすためには、なんらかの犠牲がついてくる物だと割り切って、リリは梯子を降り、ハッチの下へと進んでいく。
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降り始めて数分。
梯子は思っていたよりも長く続いており、ようやく一番下までついた。
降りた先は一本道になっており、そこまで遠くない位置に扉がついていた。
なるべく足音を立てない様に歩きながら扉の所まで歩いて行き、ゆっくりとした動作で扉を開ける。
扉は目立った音を立てず、片目で部屋を覗けるくらいの隙間まで開いた。
しかし…リリは見たくもない光景を目撃する事となった。
扉を開けた先では…
「や、やめて…!」
「いいからこい!この日のために…この日のために今までお前を生かしてやったんだ!!」
掠れた声を張り上げる様に言葉を吐き出しながら、アンゲリカは自分の腕を掴んでいる手を必死になって振り払おうとしているが、掴んでいる手の力は緩む気配を見せない。
相手の力が強いのか、それともアンゲリカが疲れ果てて上手く力を入れられないのか。
対するアンゲリカを捕まえている方…エグモント卿は、鬼の様な恐ろしい形相でアンゲリカを睨みつけ、怒声をあたり一面に響かせていた。
そんな光景を見てしまったリリは…
「ッ〜!!!」
声にならない悲鳴をあげる。
しかし…本来ならこの状況下で音を立てるべきではなかった。
慌てて口を押さえて声を殺そうとするものの…もう遅い。
「っ!誰だ!」
すでに、リリの声はエグモント卿の耳に届いてしまっている。
誤魔化しは通用しない。
かと言って急いでハッチを登ったとしても、怪しんだエグモント卿がすぐ見つけてしまうだろう。
それ以前に、リリは恐怖で腰が抜けてしまった。
そして……この状況を作り出した張本人が扉を開け、座り込んでしまったリリを見つけてしまう。
「チッ……よりにもよってこいつに見つかったか‥。」
エグモント卿は一つ舌打ちをして、ほんの少しの間だけ考え込むが…すぐに結論を出す。
「‥…まあいい。どうせ消すつもりだったし、今消した所で問題ないだろう。」




