20話 疑心暗鬼
その後もアンゲリカの話は続き、リリは動揺しながらも彼女の話を急いでメモに書き留め続けた。
「まさかこんな所で7つの原罪についての情報が入るとはな〜。」
「……。」
「…まぁ、ゆっくりしてる暇はなさそうだけどな。…とりあえず、今日の放課後アルフに説明しにいくぞ。」
「分かりましたわ。放課後は音楽室に行けばよくて?」
「用事とかあったら無理して来なくても良いが、なるべくきて欲しいな。」
「用事とかは特にありませんけど…もしかしたら、少し遅れてしまうかもしれませんわ。そこの所だけ配慮して頂ければ幸いね。」
「オーケー。」
今は4時間目、まだ後2時間分も授業を受けないといけないというのに、リリの心の中には暗い影が落ちていた。
ーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーー
残り2時間分の授業を受け、帰りのホームルームが終わった。
ライリーはこの後すぐに第一音楽室へ向かうらしいが、リリは一旦部屋に帰る事にしたので、二人は教室で別れた。
寮室へ帰る道中、リリは考えを巡らせていた。
破られた結界…すでに一匹逃げている…もしかして、本当にゴマちゃんが…?
アンゲリカの話が本当ならば、厄災の獣たち…7つの原罪の内の一人はすでに現世にいるという事になる。
加えて、アルフたちと共に初めて調査をした日。
あの日検証するはずだった噂は、学園内にある7つの原罪が封印された祠。
その祠はリリがゴマちゃんとあった場所。ゴマちゃんが封印されていた場所であった。
これらの情報から考えるに、ゴマちゃんが7つの原罪である可能性が高い。
信じたくないけど…安易にゴマちゃんのことを信じてしまった場合のリスクも大きいわ。
感情的に動くのではなく、理性的な判断を下さなければいけない。
でなければ、将来リリが魔王に就任したら家臣に裏切られる可能性もゼロじゃないのだ。
そう考えると、『お気に入りだから』または『友達だから』などと言った情で動くのはナンセンスなのだ。
「ただいま帰りましたわ‥。」
「帰ったか。…どうした?」
「へ?」
普段通りの挨拶をしただけに過ぎないのに、今日に限ってゴマちゃんはリリを心配する声をかけてくる。
一体どうしたのだろう?という思いよりも先に、何だ?といった思いが浮かび上がり、素っ頓狂な声が出てしまった。
いけないいけない…ちゃんと気を引き締めないと…!
以前のリリならば、部屋の中でくらいは気を抜いた自然体でいれたのだが…今はゴマちゃんに隠し事をしている身、いつボロを出してしまうかわかったものではないのだ。
「いやなに、少し思い詰めた顔をしていたものだからな。何かあったのではないかと思ってな。」
「い、いえ!別に、何もありませんでしてよ。」
ヤバイ!思い詰めてたのが顔に出てしまっていたのね?!
あ〜!声が裏返ってしまったわ!これじゃあ疑ってくれって言ってるみたいなものじゃないの!私のバカバカ!
なるべく平静を保とうと努力しているのに、その全く逆の事が起こってしまう。
ゴマちゃんの目が一瞬細められたのをリリは見た。
明らかに疑る視線を向けてきている事が理解できたが、一瞬の出来事なのでほとんどの人は気づかないのだろう。
しかし、将来ゴマちゃんや自身の父と同じ立場にと育てられてきた甲斐あってか、リリは見抜いていた。
うーん…今すぐ逃げ出したくなってきましたわ…。
どうにも居た堪れない気持ちになり、リリは…
「そ、そう言えば、この後第一音楽室に行って話し合いをする予定でしたわ。ではまた後で、帰ってきたら今日の調査結果を教えますわ。」
相手に反論の隙を与えぬ様、早口で捲し立ててから、通学用のバックをサッと机の脇に掛けて、部屋を出ていった。
ーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーー
部屋から出たリリはすぐさま第一音楽室へ赴いた。
5階まで上がり、扉を開くと…
「おや?リリ様でしたか。」
「丁度アルフに説明し終わった所だ。」
すでにアルフとライリーがいた。
どうやら二人はリリの事を待っていたらしい。
「来て頂いて早速で悪いのですが、今後の方針が決まりましたので、その報告をしたいのです。…お時間はよろしいでしょうか?」
「ええ。続けて頂戴。」
「では…、僕たちはここ数週間、7つの原罪に関する資料を探したり、噂を聞きつけ実際にその場に赴く事をやっていきましたが…流石にそれでは限度があります。」
そもそも、皆有していられる時間は限りあるものだ。
だというのに、愚直に噂を聞きつけ結局は何の成果も得られずに時間を無駄に浪費し続ける。
このままでは正解になどたどり着けるはずもない。
「そこで、7つの原罪についての資料を保管しているレオンハルト家長女のアンゲリカさんを、こちらに引き入れようと思うのです。」
ーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーー
リリが部屋を飛び出した直後。
ゴマちゃんは怪しんでいた。
数週間前から、分かりにくいがリリは挙動不審…というより、ゴマちゃんに対し何らかの隠し事をしているであろうことは予想がついていた。
「何故我に隠し事をするのか…それも気になるが…。」
フーっと、長く息を吐き出してから一言だけ
「霧に隠された様に思い出せぬ…。一体我は何を忘れている?」




