凶悪なドラゴン…という勘違い
俺は当てもなく森を突き進んだ。
人のいるところはダメだ。
ある程度走ったところに綺麗な小川が流れていたので顔を洗い頭を確かめると既に頭はきちんとそこにあった。
そう言えばいつの間にか目が両目とも見えている。
くそっ!なんだよ!どうゆう事だよコスプレ女神!なんでこんな身体に!
と思った瞬間俺が、俺自身が望んだ体だと思い出した。
そう言えば、何しても死なない身体…そんな事言った気がする。
俺はため息を吐きその場に寝転んだ。
くそっ!だったら傷つかない身体という条件を付ければよかった…いや?それもなんだかおかしいか。
「なんだよ…クソみたいな設定だな」
そうひとりごちで眠りにつく。
だいぶ眠かった。
ああ…コレが夢だったらな。
ズン…スズスン…。
いくらか寝た後、地響きのような物を感じ目を覚ます。
ズズズン…。
なんだ?
俺は周りを見渡した。
もう夕方になろうというところだったのか、あたりが赤く染まっている。
ズン…スズスン…バキバキバキ。
どんどん地響きが大きくなり木々が倒されたり折られたらする音まで聞こえ始めた。
まるで戦車でも走っているかのようだ。
なんだ?何が起きているんだ?
ズズズン。
ひときわ大きな地響きとともにしばし静寂が訪れる。
俺の耳には小川が流れる音しかしない。
俺は立ち上がり地響きのした方向へ足を向ける。
俺は不死だ。
ちょっとやそっとのことは怖くない…というより単なる怖いもの見たさというやつである。
茂みをかき分けながらなるべく音を立てないように進む。
何かがいる。
とてつもなく大きな…そんな予感があった。
だけと、どれだけ茂みをかき分けても目の前には何も現れない。
俺は目の前にあった壁にもたれて座り込んだ。
「さっきの地響きは、なんだったんだ?」
「あぁ、僕の足音です」
「なぁんだ、お前の足し音が…ん?」
俺は辺りを見渡す。
今俺は誰と会話してたんだ?
辺りを見渡す。
実はこの世界に来てからこんな事は多々あった。
言葉が不自由なくして欲しいと頼んだが、虫や鳥なんかとも会話できたりする。
ただ、相手の知能指数によって会話が成り立ったり成り立たなかったりするが…。
先日の夜なんて最悪だった。
夜中に小さな声でコソコソと話し声が聞こえると思ったら窓にびっしりと明かりにつられた蛾のようなものが張り付き「中に入れてくれー」「助けてくれー」「水をくれー」と呪怨のように一晩囁かれ続けたのだ。
完全ホラーだったし、こちらがいくら消えろと訴えても知能が低すぎて自身の欲求しか喋らないのである。
あれは本当に参った。
今回は、会話が少しは成り立ったっているから鳥か何かかもしれない。
「お前の足音がこんなするわけないだろ」
俺は苦笑いを浮かべた。
ぬっと何かが目の前に現れる。
「そんな事ないですよ?」
人間の身体ほどある凶暴な笑みを浮かべた肉食の恐竜の顔…そんな感じのものが…。
ちょろろっと尿が漏れた。
「あっ…ああっ…」
逃げ出そうにも足腰が立たない。
「ひいっ!」
無情にも気を失う事は出来ない。
俺は、ぎゅっと目を瞑る。
「人間と話が出来るなんて僕初めてです」
「ひいっ!た…食べないでくれ!」
「食べませんよ?僕、光合成しかしませんもん」
「こ…光合成?」
再び目を開けると確かにそいつの身体は緑色だ。
ん?俺が背もたれにしてたのって…背筋がゾッとする。
よくよくみると二階…いや、三階建ての一軒家くらいあるドラゴンがニヤッと笑っている。
口は明らかな肉食獣の牙だし、何となく生臭い息が顔にかかった。
「うひぃ!嘘だ!そんな凶暴な牙してそんな嘘つくな!」
「本当ですって。
まぁ、食べようと思えば食べれますけど…お兄さんおしっこ臭いですし」
そりゃそうだ。
お前のせいでちびったのだから。
いや…ちびったレベルではないが。
「お…お前か!?最近国中で騒がれているドラゴンってやつは!」
「ああ、たまに僕のこと見に来る人はいますねぇ」
「何が目的だ!」
「目的も何も…僕なんにもしませんよ?
たまに痛いことしてくる人間を追い払ったりしますが」
ふと悲しそうな顔になるドラゴン。
「僕親元を離れて住むところを探してるだけなんです。
人間はお兄さんと違って言葉も通じないし、凶暴で怖いから近づくなんて自分からしませんよ」
なるほど…確かにこいつは見た目より大人しそうな話し方をするし今回の場合も俺が勝手に見に来ただけで、こいつの方から近づいて来たわけではない。
「もしかして…たんなる勘違いなのか?」
「何がです?」
「凶暴なドラゴンが暴れてて仕方ないから討伐してくれとここの国の王に言われたんだ」
「そんなぁ。僕何もしてないのに…」
「見た目がそれなら勘違いもされるさ」
くすんくすんとドラゴンが泣き始めた。
参ったなぁ。
あの王の言う事も聞きたくないし、こいつを倒せる気がしないし、何よりこいつをどうにかするのは理不尽だ。
だが、もう十分ここの国では話題になり過ぎて今更こいつは安全だと言っても信じてはもらえないだろう。
現に先発の討伐隊はこいつにみなやられている。
「よし!俺がお前の新しい住まいを探してやるよ」
「ええっ!」
「ここの国ではお前は人を殺し過ぎているから、、新しい土地でお前は安全だとわかってもらう場所を探してやろう!」
「ありがとうございます!って…人間僕殺したんですか!?あんな程度で人間死んじゃうんですね…ちょっと追い払っただけなのに」
さらっと怖い事を言う。
「人間は、脆いからな!だから、俺の言う事を聞いて決して暴れるんじゃないぞ!」
「はい!」
なんだ、中々話せばいい奴じゃないか。
俺は内心ホッとした。
よろしくお願いします