21.発見
それからも、色々と試した。
指魔法だけでなく、杖魔法も、自分の思い通りにコントロールが効くようになった。
もっとも、初級の範囲内で、であるが。
「だいぶ、杖が上手く使えるようになったわねー! やっぱり、若いと覚えがいいわ!」
「ありがとう! ……呪文も、言葉だけは覚えてるから、やってみたいな」
「いいわよ……じゃあ、水の矢を作る魔法は?」
本に書いてあった通り、言葉を唱える。
目の前に、文字列が浮かび、それをそのまま読み上げるみたい。
どんなにその文字列を覚えていても、日本語ではないから、口が慣れない。
舌が回らず、何度か噛みそうになった。
唱え終わったが、糸のような水が一筋生まれただけだった。
「うひー、難しい……」
「もっと、お腹に力を入れて!」
「ええー、呟くだけで精一杯だよ……」
「心を込めて、力を入れないと発動しないのが、呪文なの!」
「そう頭ではわかってるけど……まあ、がんばろ……」
「慣れれば早いわよ。特に、あなたまだ若いから」
「うん……ところで、呪文魔法って、矢とか壁とか盾とか、そういう系が多い気がするんだけど……」
「呪文は、早く繰り出せるから……昔は、戦いで使ったらしいわよ」
「戦い……?」
「そう。昔むかし、おおむかし、から始まる絵本に、あったでしょう?」
「ああー、後継者争い、みたいな?」
それにしても、それが今も使えるって、怖いな。
まあ、護身術として、役立ちそうだ。
いくつかの呪文を思い浮かべて、カ行など言いづらい音の少ないものを選ぶ。
かつ、力を入れて発声しやすいもの。
光の盾や壁が、一番やりやすいかな。
目の前を、光るものが守ってくれる。
それを思い浮かべながら、言葉を唱える。
が、それをすると、呪文をどこまで言ったかわからなくなってしまった。
もう一度、言い直す。
なるべく、集中しながら。
さっきほども、噛まない。
詠唱が終わり、目の前の光景に意識を移すと、そこには、明るい壁があった。
触ってみれば、たしかに、そこには物体のようなものがあった。
「おおおー!」
光は物質でないといえど、魔法により生まれたそれは、ちゃんと壁として機能するらしい。
叩けば、音が鳴った。
呪文は、どうやら、完全に唱える回数が多いものほど、顕著なまでに、上達するらしい。
たしかに、一回唱えた光の壁と、初めて唱える光の盾とでは、言いやすさ、生じたものの持続時間がかなり違った。
ただし、同じくらい練習して、同じくらい詠唱に集中して、同じように唱えた場合、盾と壁では盾の方が防御力が大きく、壁の方が防御範囲が大きいらしい。
それは、火、木や水の盾や壁でも言える。
また、攻撃に使う矢と弾丸も、矢はより鋭く、弾丸はより強い、と聞いた。
そういう説明も聞きつつ、だいたい全部の魔法を、満遍なく練習していく。
初級編の呪文魔法を、だいたい全部、スムーズかつ始めよりは強力に、繰り出せるようになった。
「凄いわ! やっぱり、若い子は物覚えが良いのねえ!」
「自分でもびっくりだよー!」
そして、少し苦手だった、水の弾丸を出した……出そうとした。
しかし、言い終わる前に、顔に水滴を感じる。
「あれ?」
ぽっ、ぽっ、と、感じたそれは、みるみる増えていく。
空が、いつしか暗くなっていた。
「あ、やばい。そろそろ帰った方がいいかな」
「そうね。」
二人して、家に走る。
玄関に着き、外を見ると、豪雨が始まった。
「ふう、間に合ってよかったわね。」
「そうだね……」
部屋に戻る。
祖母が、改めて魔道書を手に取った。
「あら?」
裏表紙を、手で撫でて、何かに気づいたような顔をした。
「どうしたの?」
「ああ、いや……なんでもないわ」
でも、私は、祖母の顔が少し曇った、ような気がした。




