現在
卒業から、九ヶ月が経った。
もうすぐ一年になる。
寮での独り暮らしにもすっかり慣れた。
初めは、自分で料理を作るということなども戸惑ってしまったけど、今は何とかやっている。
寝起きも自分で。
遅刻は自己責任。
適当に服を選んで着て、自転車に飛び乗る。
学校に着いてから、新しく出来た友達と喋る。
ルルーほども心を開けなくても、他のクラスメートとそうであったほども軽薄な繋がりではない。
同じ夢を持つ人だから。
私は、その人たちの願いが、努力が、周りを変えていくのを何度も見た。
その人たちの奏でる音を耳にした。
同じ、音楽で夢を叶えようとする人たちに出会って、私は改めて感じた。
魔法はみんなが持っているのだ、と。
それが文字通りの魔力かもしれないし、音楽かもしれない。絵心でもいいし、女子力やコミュ力でもいい。
他の人を魅了し、時に奇跡を起こしうるもの。
人を助け、自身を助ける。
自分と誰かを結びつける。
時として、自分を狂わせ自分を追いかけ回すこともあるかもしれないけれど。
でも、持っていること、それを自覚することで、私が私で居られる。
夢、とは違う。
能力、といっても足りない。
願望?
アイデンティティー?
いや、近いけれど、どこかが違う。
もっと、不思議な力。
だからそれを私は魔法と呼びたいのだ。
それぞれ、持っている魔法は違うけど、みんなが持っている。
たまたま、私のそれが先祖から授かった文字通りの魔法なだけで。
私は、ごく普通なのだ。
それを意識した時、私は気づいた。
もう、私に自分の殻など要らないのだと。
尤も、魔法のことを口に出すのにはあまりに勇気がいり、同級生にはほとんど言っていないが。
この学校になって、高校よりも学びが専門的になった。
音楽理論、コンピューター工学、心理学、などなど。
今はまだ、座学が中心だが、より狭くて深い授業になった。
理論を知ることは、根っこを捕まえること。
それが楽しいのだと教えてくれたのも、魔法だった。
休憩時間。
スマホをチェックする。
ルルーからのメールを受信していた。
そのまま、他愛もない会話を続けてしまう。
彼女もまた、新たな学びと新たな仲間と共に、大学生活を送っている。
数ヶ月前も、こんな感じでやりとりが続いていった末、夏休みの帰省で絶対会おうね、と約束した。
もちろん、その時にもかなり長い間喋った。
どこがかはわからないが、どこかしらあの時より大人っぽかった。
それを言うと、「ななみこそ!」と言われたが。
そういえば、出会ったのは去年だった。
そんな感じがしない。
離れていても、こうしてまた繋がっていられる。
変わったのは物理的な距離だけだ。
その日の授業を済ませ、サークルに向かう。
なんと、非公式ではあるが魔法使いが集まるサークルがあるのだ。
表向きはマジックサークルということになっているが、公式の手品サークルとは別。
ビラが魔導書の言語で書かれており、普通の人から見ればこの上なく怪しげな集まりだ。
しかし、読める人が読めば、とても明るい言葉であふれていたのだ。
メンバーは、まさに十人十色。
それは性格などの話だけではない。
得意な魔法も人それぞれ。
さらには、目の色も、文字通りの十人十色なのだ。
否。訂正する。
先輩方の中には、珍しいオッドアイの人も居た。
つまり、十人いれば十色以上あるという訳だ。
そして、そのサークルでも魔法の勉強が出来る。
時に試合もして、切磋琢磨する……のだが、レベルが高すぎる。
まぁ、仮にそうでなかったとしても――
家、正確には寮に帰る。
本棚には、実家から持ち出したものが幾らかある。
その一つは、中級魔導書だ。読みきれていないところをなくすように、引き続き、解読を続けている。
最近、ようやく、呪文の文法を理解出来るようになってきた。
この学校で学んだ後で魔導書を読んで、初めて知る。この解読には、ある程度、高校を出て初めて学ぶような知識が必要だったのだ。
新たなことが出来るようになると嬉しい。
魔法、それは、私の成長の軌跡なのだ。
――私は、学び続ける。
私には、やはり、音楽の夢がある。
今はそのために学んでいる。
いつか、私には音楽があるって言えるくらい、いいものを創れるようになりたい。
だけど、それと同じくらい。
私には魔法がある、と胸を張って言えるように。
未来のまだ見ぬ私の子孫たちにも受け継がれていくように。
今日もまた、腕を磨いていく。
もっと、もっと強くなりたいから。
皆さま、ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
私のはじめての連載は、これにて完結です!!
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