アジールの意地、イリックの欲
平坦に近い草原が西から南にかけて広がっている。
北には高い岩山がそびえ立っており、北西へずっと連なっている。
吹く風はどこか柔らかく、往来する人々の髪や衣服をやさしく撫でる。それらが運ぶ雲が緑色の地面に影を落とすが、空から雨粒が降るような天気では決してない。
東にはこの大陸最大の国が存在するため、ここを歩く人間もそれ相応に多い。
そんな場所の少しはずれで、二人は互いの武器を握り締めて相対する。
真紅のコートを羽織る少年は左半身を半歩下げて立っており、右手の木刀は空を目掛けてグンと伸びている。
白い鎧をまとう女性は左手にボロボロながらもスチール製の盾を持っており、右手の木刀だけが装備としては貧弱だ。
「では、どうぞ」
どこか余裕ぶるその男はイリック。日課としている鍛錬の幕開けであり、もちろん相手はパーティの盾役、アジールだ。
上半身の鎧はミスリル製だ。銀に近い白い鎧だが、あちこちがオレンジ色に染めあげられており、高級感は凄まじい。
対照的に下半身は扇情的だ。膝近くまで届くシルバープレートグリーヴを履いているが、その上はミニスカートなため、黒いハイニーソとの間に作られる肌色の領域が男達に変な感情を抱かせる。
それはイリックも同様だ。これから戦いが始まるのだが、ついチラチラと視線を泳がせてしまう。
イリックがむっつりスケベというよりは、アジール相手に本気を出す必要がなく、それゆえの慢心なだけかもしれない。
「行くよ」
アジールの透き通った声が草原を駆ける。それに追いつけと言わんばかりに、白い鎧や盾の重量を感じさせない速さでいっきに直進する。
確かに速い。速いが、イリックは太ももの揺れを堪能しながらも、あっさりと剣撃を受け止める。
アジールは縦、横、と木刀を振りぬく。それらはやはりあっさりと受け止められ、イリックの反撃を予見し一旦離れる。
(手加減してもらってるのに、全然勝てない)
それでもアジールは諦めない。いつも負けっぱなしだが、たまには勝ちたいと思ってしまう。それがたまたま今日であり、どうすれば達成できるか、イリックを見据えながら深く考える。
(その目で直視されるとドキドキしちゃう)
一方、イリックはまだまだ余裕だ。模擬戦の最中にも関わらず、アジールの魔眼に見惚れることすらできてしまう。
ここはロロ平原。サウノ商業国の西に位置する広大な土地であり、かつてはいくつもの村が存在した。
今では全てサウノ商業国に飲み込まれてしまったが、あちこちの残骸がその名残を今に伝えている。
風が吹き荒れる場所ではないのだが、それでも気まぐれな存在はどこにでもおり、アジールのミニスカートをふわっとたなびかせる程度には元気な風もいたりする。
イリックは目を見開く。見えそうで見えない。それがもどかしく、そしてエロい。
アジールは動じない。下着を見られたからと言って慌てるような性格をしていない。
しかし、今の風がアジールに叡智をもたらす。
ドスン。
盾を捨て、右手で木刀を構えながらアジールが歩みを進める。
(盾を? 攻撃に専念するってことか?)
珍しいその行動に一瞬キョトンとするも、イリックは剣先をアジールに向け、迎撃の構えをとる。
二人の距離がゆっくりと縮まる。どちらかが駆ければ一瞬で決着がつく距離だが、それでもなお、アジールは足を速めない。
やがて、大きく一歩を踏み込めば木刀が届く位置まで接近する。互いにまだ木刀を振ろうとはせず、相手の出かたをうかがう。
両者は相手の目をじっと見る。
そんな中、先に動いたのはアジールだった。
ちらり。ミニスカートの前部分を左手でつまみ、すっと持ち上げる。もちろん、中身を見せるつもりはない。それでもギリギリの線をせめる。
当然、イリックは目が釘付けになる。
自らスカートを持ち上げる女性の姿など、男には最終奥義でしかないのだから。
「とぉ」
「ぐはっ!」
木刀でおもいっきり脇腹を殴られた。普通に痛かった。
「ブイ」
「え、そういうのありなの?」
男の弱点を責められ、イリックは成す術なく崩れ落ちる。キュアを唱えたいくらいには激痛だ。




