雲の上から
この遺跡には自分しかいない。邪魔者は消し去ったからだ。
円形のここは巨大な都市のようであり、中央に存在する一際大きな遺跡を含め、あちこちが緑に覆われている。
平たい床も、ところどころが崩れている壁も、用途のわからない建築物達も、紫色をわずかに宿した灰色をしている。
女はそれらに興味なく、今は正面だけを見据える。
ここには自分しかいない。この遺跡を独占するため、立ちはだかり住居人達を排除したからだ。
辿り着いて先ず驚いたことは、こんな場所があったということだろうか。
次いで、遺跡の大きさとこれが維持できているという事実に面食らう。
樹木が点々と生え、草や花が茂っていることはどうでもいい。そんなものを美しいと思う心は持ち合わせていないのだから。
これは自分だけのものだ。自分だけのおもちゃだ。
モンスターが生息しているとは思わなかった。だからと言って怯みはしない。襲われたとしても返り討ちにすればいいのであって、そもそもこれらがどうすればこちらに襲いかかってくるのかは既に把握済みだ。気をつける必要すらない。邪魔ならいっそ殲滅してしまえばいい。
だからといってそんなことはしない。これらはこの遺跡のために用意された防衛機能であり、言わば遺跡の一部と言っても過言ではない。
何をしよう。もちろんそんなことは決めている。
それでも確認しなければならない。どうやらそれだけの場所ではないようだから。
中央に位置するでっぱりのような宮殿の解明はまだ済んでいない。中は複雑な作りになっており、探索だけでも苦労させられる。
外周に存在する要塞のような場所の内部も手つかずのままだ。
やることは山ほどある。じっくり調べればいい。時間はいくらでもあるのだから。
ここは私だけの場所。邪魔者は許さない。
「どうやって来たの?」
「おまえと同じ方法に決まってるだろ」
この男を招いたつもりはない。
「しかし、すごい場所だな。景色も絶景だったし。おまえを倒したら、みんなを案内しないとな。ところで、ここで何を企んでる?」
ぺらぺらとよくしゃべる。うるさいし、むかつく。
その後も独り言のように何かを話し続ける。だけど私は聞く耳持たない。どうせ死んでもらう。そんな相手と言葉を交えるつもりはない。
この男とは何度目の遭遇だろう。面倒だし、興味もないからいちいち数えていない。
「悪いんだけど最後に一つだけ教えてくれ。なんでそこまで人間を殺したがる?」
うるさい。
「そうかい。まぁ、いいや。んじゃ、ここからは黙って戦おう」
あんたが一方的に殺されるだけでしょ。バカな男……。
見上げれば雲一つない空が青々と広がっている。その色は普段よりもどこか濃く、頭上の太陽もいくらか強く輝いている。
わずかに揺れる長い髪が視界を邪魔する。赤い色は血のようで好きだ。
こいつとの因縁ともこれでお終い。
なぜこんなことになったのか、興味がないから思い出すこともできないし、どうでもいい。
「コネクト」
「コネクト」
そして、戦いが始まる。
◆
「こんな夢見たわよ」
「かっこいい!」
灰色のツインテールを揺らし、シャルロットはテーブルに肘をついて頬を支える。
ネッテは今の話に誰よりも食いつく。何がそうさせるのか、他の面々は理解できない。
今日もギルド会館は賑わっている。
半分を成す食堂側はそれこそ大賑わいだ。
周りの冒険者達に負けじと、一同はわーわーと騒ぐ。
「ふ~ん」
イリックは背もたれに体を預ける。夢の話をされたところで、しかも登場人物の片割れがどうやら自分らしくても、やはりそれは夢でしかなく、これっぽっちも興味が湧かない。その上、ネッテの興奮がより一層自分を冷めさせる。
「イリック。この子の言うことを軽く流してると痛い目見るわよ。予知夢くらいはやってのけそうだし」
「まっさか~」
ロニアの助言をイリックは鼻で笑う。シャルロットが絡むと、この少年はとことん冷めた態度をとってしまう。
ネッテに近い背丈。
生意気な性格。
人を小バカにした態度。
それらが本能的に腹立たしい。シャルロットのことが嫌いなわけではないが、決して好きにはなれないと自覚している。
「会ったついでに教えてあげただけだもの。何て言われようとどうってことないわ」
シャルロットは冷静だ。素っ頓狂な話題だと重々承知しているからなのだが、器量の小さな女ではないと自負しているからでもある。
「チ~ビ」
「なんですって!」
そして、喧嘩が始まる。
冷静だからと言って、怒らないわけではない。




