壱捌壱、『火忍』参
胸に突き刺さる秘宝——勇者の剣。
僕の拳はギリギリ当たらなかったみたいだ。
胸から四肢に向けてひび割れていく体。
僕の終わりが近づいていくのが分かる。
◆◆
ここは……。
真っ白に見える不思議な空間。ここは透明な梔子を神に捧げた時に訪れた不思議な空間。
そして、そこには僕の他にもう一人来客がいた。
——ハロミトだ。
「ここは……どこっすか?」
困惑しているハロミト。
一方で僕は困惑しずにいられた。すぐにこの状況が分かったからだ。
「ここは……魂の空間だよ。」
石像の僕はここにはいない。本当の僕がそこにいる。そういう意味ではハロミトとの初対面と言える。
身構えるハロミトに「大丈夫。君に危害を加えるつもりはないからさ」と言って警戒を解かせた。
「ここはね、"光り輝く玉"『天使の勇気』によって作られた魂の空間なんだ。天使の勇気は人々に意思を与えるだけではなくて、異空間に関与することができる力を持っていたんだよ。」
と言ったけど、ハロミトは「なるほど」と言いながら理解していないようだった。
「簡潔に言うと、僕の中にある力によって僕と君の意識が別の空間に飛ばされたんだ。」
「まぁ、ちょっとは理解したかもっす。」
ここは特別な場所。
人々の意識が集まってくる場所。その意識から僕の仲間の石像が破壊された瞬間をダイジェストで確認することができた。
その時に、ハロミト達の意識も僕の脳裏に流れてきた。
だからこそ、「君達がこの世界の希望となるような気がするんだ」と思うことができた。
彼と対面し合う。
「これから魔王が封印から目覚める。君達は魔王を倒す気があるんだよね?」
「もちろんっす。」
「魔王を倒せば、この世界は滅びるかも知れない。」
「えっ——?」
驚く表情が見えた。
「けど、君の大切なジュリネさんは魔王を倒さないと元の世界には戻れない。君はどうしたい? 迷っていたら、魔王に世界を滅ぼされてしまう。だから、その覚悟を聞きたいんだ。」
「俺は……それでも魔王を倒したいっす。世界が滅ぶんなら、その滅ぶ原因を魔王を倒してから排除すればいいだけっすから。」
「そうか……。君に覚悟があるなら、僕はそれを認めるだけ。それに、そのジュリネさんという存在は"りりりりり"さんや孝太郎のように向こうの世界の住人。そう、この世界におけるイレギュラー。もしかしたら何とかなるかも知れないしね……。」
僕は右手を前に出して手を開いた。
そこから眩い光り輝く玉が抜け出していく。
「これは"りりりりり"さんがこの世界に託した"光り輝く玉"。」
本来なら、僕は魔王を封印し、生き残っていたグリゴリを倒した後に石化して死んでいたはずだった。
本来なら、ここに意識があってはいけない。
そんな人間がこの世界の命運を握るような"光り輝く玉"を所持し続けてはいけない。
「きっと君なら、この世界を救うために動くことができると思うんだ。」
光り輝く玉はゆっくりと浮き始めた。
「この世界をよろしく頼むよ。」
光り輝く玉がハロミトの体の中へ入っていった。
ハロミトに不思議な力が引き継がれていく。
それと同時に、僕の体が少しずつ消えていく。
「"りりりりり"さんが僕らに託してくれたように。僕もまた次の希望に託す番。」
「本当に託す先、俺でいいんすか?」
「うん。きっと君なら大丈夫。迷わずに進めばいいんだよ。」
ハロミトに力が移った。
「後は頼みましたよ——。」
"りりりりり"さんやエポンさん、ネヌ達が待っている場所——僕はそこへと足を踏み入れていった。
この世界に"さよなら"を告げ——。
希望を託した後に——。
◆◆
END.
ここから先は僕が完全にいなくなった後の世界でのお話——。
◆◆
僕の石像の体は破壊された。
そして、僕が持っていた"光り輝く玉"『天使の勇気』はハロミトに継承された。
彼らの僕との戦いは終わりを告げた。
悪のギルド——アンチギルド。
そのギルマスであるヘイムを倒したジュリネがハロミト達の元にやって来た。
一件落着のはずの雰囲気を消し去る不穏な風。
【知らしめる】——告知
その時、発動されたとある者による能力。
この世界の人や魔族全員に向けて脳内に直接、無理やり伝える言葉。
「魔王が復活した……?」
魔王シェムハザが封印から解かれたのだ。
その事実が世界に駆け巡る。
ハロミトやジュリネ達の戦いは終わっていなかった。
魔王シェムハザが動き出す。
魔王は遠く離れた都に向けて進み出した。
これを受けて、国はすぐさま戒厳令と『主忍』の出動を出す。
その最中、アンチギルドの幹部ジェノムが魔族四天王の機械を連れて都を襲撃した。
目的はもちろん、魔王のために——。
都は瞬く間に混乱へ。
◆
とある場所で、未来を見た占い師が言う。
「魔王を超越した神——ヤルダバオトが、この世界を封印する。人も魔族も動けなくなったこの世界にその神だけが自由に動ける。そして、その神は人間を滅ぼしにくる。」
そんな恐ろしいことを言う占い師は続けて、
「もしそれを止めたければ、魔王を完全に倒しきるしかない。絶対に、魔王や勇者の"力"をヤルダバオトとなる魔族に与えてはいけない。」
最終決戦へのカウントダウンが始まっている。
怪しい風がこの世界に吹きさらしていた。
魔王の足音が都へと近づいていく。




