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厄災の黒領主 〜追い出され貴族は辺境の地で領主になる〜  作者: 三ケ猫のしっぽ
シーズン1 『厄災の晩餐会編』・『厄災の旅路編』
9/73

09. 月夜

『あらすじ』


アメリアを止めたシユウは、そのままキースへと殴りかかる。彼女の味わった痛み、怒り、苦しみ、その全てを代弁させるかのようにーー。気づけば会場内は静まり返り、ただただシユウに対して恐怖で支配されていた。自分が〝化け物〟だと悟ったシユウはーーそのままパーティー会場を後にするのだったーー。


  ーー回想・十分前ーー


  アメリアとキース。公爵家と侯爵家の嫡子が引き起こした騒動の噂は瞬く間に会場全体に広がりーー主催者である《アルメテウス・レウス・ランスロット》まで聞き及んでいた。


  「……父上、例の〝暴れ公女〟とキース様が揉めているようですが……いかがいたしましょうか?」


  ランスロット家・嫡男ーー第一子、《グルーヴィス・リュードル・ランスロット》が状況の報告に、父親の元へと訪れる。

  主催者の嫡子という事で政治方面やら軍事方面やらといつも以上に引っ張りダコである彼もまたーー、この騒動に頭を悩ませていた……。


  「〝暴れ公女〟かーー。全く……アメリア嬢にも困った者だ。……ランハムの娘だから雑な扱いをする訳にもいかん。だがそれ以上にやはり、あいつの方が手に余るな……。やはり災いをもたらす〝痣持ち〟などこの会場に連れてくるべきでは無かったのだーー。その旨は奴の〝執事〟でもあるアーモンドに伝えたはずだがーー」


  不機嫌な顔で、目の前の実の息子を見下ろしながらそう呟く。まるで、『お前の監督責任でもあるぞ』とでも言いたげにーー。


  「申し訳ありませんーー父上。今すぐに私の命でアメリア嬢とシユウには退場させますのでーー」


  「……お兄様、お待ちを。」


  二人の会話に割って入る者が一人ーー《ランスロット家》の第二子ーーエレミアである。


  「アメリア公女はキース公爵と〝元許嫁〟という関係にございます。……それを我が家が仲裁に入るというのはいくら主催者の立場と言えど、《カルメイア家》に歯が立つのでは……?どうかここは一つ、当人達での解決を様子見たいと思うのですがーーいかがでしょうか?」


  エレミアのもっともな意見に、二人の間に一瞬再考の意が浮かぶ。


  「しかし、放っておいて万が一があれば、それこそ主催者である《ランスロット家》の責任問題が問われるぞ。……ただでさえ、この数十年〝十二爵家〟の内でずっと最下位である我が家にこれ以上泥を塗るとなればーー。それに、少なくとも他の貴族家からは多少の疑心が生まれるーー大丈夫なのか?」


  グルーヴィスの問いかけに、エレミアは頷く。


  「大丈夫ですよーーきっと〝あの子〟なら何とかしますーー」



  ……………………。



  暗い灯籠の消えかかった廊下を、一人ポツリと歩く。


  冬の季節らしく窓には霜がかかっており、その向こう側には闇夜を悠々と照らす白光りする月が姿を見せていたーー。


  「ボクもーー月になりたいな…………」


  シユウには夢があった。痣持ち、厄災、不貞の子ーーそんな扱いを受けた彼が夢見た理想ーーそれは〝この世を照らす存在になる〟事だ。


  「みんないつも争い事ばっかり……。戦争、政治、出世争い。……恋愛もそうだ。……みんないつも、〝何か〟を取り合ってる。領土、地位、お金、名誉、玉座さえもーー」


  シユウはふと、「未来眼」で見た時の風景を思い返していたーー。

  何故キースはアメリアに急に言い寄っていたのかをーー。思い出した。……それは、シェリカだ。


シェリカはまだ六歳だが、ああ見えても貴族家からは一目置かれている少女だ。

  侯爵家の出であり、気立てが良く、頭も回って人の心が読める。

  ……何より時折り見せる魔性の色気は、同年代に留まらず時に大人さえドキッとさせる。


  そんなシェリカを想って婚姻を申し出た貴族は一人や二人では無い……。

  キースも同様だったのだ。彼も公爵家で、十二歳にしては整った顔をしておりーー大人子供問わず、その爽やかな笑顔の虜になってしまう女子群は多いという。


  そんな勝算を持ってかどうかは知らないが……アメリアに言い寄ったのはシェリカと婚姻関係になるつもりだったのだろうーー。


  「まーー、ボクも一方的に婚姻破棄しちゃったんだし……、アイツの事言えないな…………」


  同じ公爵家をあれだけ殴りつけたんだ。ただでさえお家問題なのに、やったのがボクなんだからタダじゃ済まないだろう。

  それに……普通なら守ってくれる筈の家族もボクなら良い〝厄災払い〟ができると思うはずだ……。


  (……下手すりゃ処刑されるのはアメリアじゃなくてボクになるかもねーー。まあ、後悔はしてないケドーー)


  これから先どうなるかはわからない。「未来眼」は自分には使えないからーー。

  やれるだけの事はやったんだ、あとは全部、〝天〟に任せようーー。


  「こんばんはーー今夜は一段と、月が綺麗ですねーー」


  ふとーー、目の前に黄金の髪をした……赤子を抱いた女性が現れる。

  年は三十代にしてはやけに若々しく、十代でも通りそうな程に肌は透き通っている。


  それよりーーボクのよく見知った顔だ。


  「っーー!?母様ーー!!」


「こんばんはシユウちゃん。こんな夜更けに一人で歩いてどうしたの?」



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