10. 母
「こんばんはーー今夜は月が綺麗ですね」
ふとーー、目の前に黄金の髪をした……赤子を抱いた女性が現れる。
年は三十代にしてはやけに若々しく、十代でも通りそうな程に肌は透き通っている。
それよりーーボクのよく見知った顔だ。
「っーー!?母様ーー!!」
「こんばんはシユウちゃん。こんな夜更けにどうしたの?」
《ミーリア・ミレイア・ランスロット》。ボクの母親である。
月明かりが照らす中、まるで天女のように優しく微笑みながら、母様はボクへと歩み寄った。
「久しぶり……シユウちゃん。元気にしてた?アーモンドもまだ生きてる?」
「……生きてるって母様……。はい、息災ですよ。ボクも元気です」
母様は冗談めかしてふふふっ、と笑う。気さくな顔をしているけど、自分が幼少の頃から仕えてくれていたアーモンドの事は家族同然に気に留めるのだろうーー。
「そっか……。はは、元気ならよかった〜!それより〜……ねぇねぇシユウちゃん。……この子…………抱っこしてみてくれる?」
「…………この子ってまさかーー」
《ランスロット家》第七子ーーエクセラ。つまり……ボクの妹だ。
母様がボクに向かってその子を差し出すと、エクセラは赤子にもかかわらずボクに向かって手を差し伸べる。
「あぁ〜うぅー。あ〜あ〜……あう?」
何か……この世で初めて見るモノを見つけたように、ぎゅっと目を凝らした表情でエクセラは固まる。
「…………母様?」
無言でニコッ、と微笑みながら答える母様。おずおず、とーー〝本当にボクが抱いていいのか?〟と、そんな事を思いながらも……母様から赤子を抱き取る。
「あぁ〜うぅ〜…………うっ?ーーきゃっ!」
ボクが抱っこした直後ーー不思議そうな顔をして笑うエクセラ。赤子の言葉だ。
何を思って喋った言葉じゃ無いのはわかるーーでも……ボクの心を溶かすには十分な笑顔だったーー。
「あれ、……何でだろうーー?すみません母様…………涙が……涙が出てしまいます…………おかしいですね。…………ひっく」
溢れてくる涙を拭き取りながら、自分の幼さを痛感する。少し……今日は疲れた。
そうして少しまぶたを閉じているとふとーー、全身を温かい抱擁感が包み込んだ。
「…………母様?」
「シユウ…………私の可愛い坊や。よく聞いてください。……あなたにはこれから先、辛い事がたくさんあると思いますーー。人から嫌われたり、妬まれたり、疎まれたり、一人ぼっちになって辛い時があると思います。……それでも、前を向いてください。一人に…………なろうとしないでください。……あなたの傍にはきっとーーあなたを思う人がいます。……あなたの事を、自分のように感じてくれる人がいます。……あなたの事を、愛してくれる人がいます。……血のつながりだけが、家族だけが、尊い絆の形ではありません。……あなたを愛してくれる人はきっと、あなたを想い、あなたを慕い、あなたの事が大好きなはずですーー。……あなたは痣持ちでも、忌み子でも、ましてや不貞の子でもありませんーー。…………あなたは私の大事な子どもーー。大事な息子ーー〝シユウ・ヴィ・ランスロット〟なのですからーー」
ぽろぽろ、と涙が滴り落ちる。
「シユウ…………この子を……エクセラを、お願いしますねーー」
「………母様。何でそんな事をーー?」
まぶたを開き、母様の顔を再び見てーー悟った。
母様の手が、ーーとっくに冷え切っていた事にーー。
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