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26. 使役者



一週間前ーー。


《グランレギオン》邸ーー。


コンコンコンッーーと、三回のノックに、一人の少女が返事をする。


「どうぞーー」


「失礼します。セリス様!!」


甲冑を着た伝来の男は、青いドレスを着た幼い少女の前に跪く。


《セリス・アリスティア・グランレギオン》ーー。


先の舞踏会の一件で、クロノやアメリアと仲良くなった少女で、聖天大使の守護者である〝四大英星〟の一人ーー《カイザー・レ・アルア・グランレギオン》の娘だ。


「どうかしましたか?」


セリスの柔らかい声に、緊張した面持ちで伝来が答える。


「はっーー!たった今、城主様がセリス様に伝言をーー〝夜道は護衛の数を増やして、城内の灯りを灯して警戒しろ〟ーーだそうです!!」


「父上が……一体何故?」


ふとーー、顎に手を当てて考え込むセリスに、伝言係は続けた。


「何でも隣国、《インクリア》で《使役》スキルを所持した男が脱走したそうです」


「っーー!!《使役》ですかーー?……厄介な事になりましたねーー」


セリスは夜空を見上げながら、窓際に手を置く。


「《使役》スキルは〝第一級〟危険スキルにも記載されています。……もし、私達のいる《イーストランド》までその男が入国すれば……《使役》された人々が増殖し続け、やがては内政までその魔の手が迫る事になりかねませんねーー国王の護衛は大丈夫ですか?」


セリスの言葉に、伝来は頷いて答える。


「すでに、詳細は軍の上層部全員に通達されています。各国の首相にも通達しており、〝聖天大使〟様にもこの一件は耳に入れてあるとーー」


「聖天大使様まで……そうですか。なら父上は、現在も変わらず魔大陸に睨みをきかせているのですねーー」


「はは!そのようですーー」


(《使役》スキルーー。大事にならなければ良いですが。……およそ二百年前にも、《使役》スキルを使った大規模な事件が勃発。隣国の乗っ取り事案が発生した挙句にその末に……戦争まで発展した訳ですし……せめてこの城の守護だけでも、私が何とかしないといけませんねーー)


セリスは窓の外から城下を眺めて、胸に残る不安と対峙する。


「今すぐに兵の全てに通達してください。屋敷にいる全員に〝使役紋〟の有無のチェックを。もし仮に〝使役紋〟があった者がいれば、地下牢に連れて行って尋問を行ってくださいーー」


「ははっ!!」


伝来の男が、急足で部屋を立ち去るーー。


(《インクリア》ーー。そういえばあの子は……アメリア様とシユウ様は大丈夫でしょうか?)


…………………。


「シェリカ……?」


明らかに雰囲気の違うシェリカの態度に、困惑するクロノだったがーーその異変に気がつくのにはそう時間がかからなかったーー。


「まさかーー」


嫌な予感がするーー。


その直感で見たシェリカのステータスには、《使役状態》の文字がーー。


おそらくーー額にあるおかしな紋章ーー。あれが〝使役紋〟なのだろう。


《状態異常耐性》はあくまで身体の異常を無効化する能力だ。〝精神〟への影響は防ぐ事ができない。


「……シェリカ、とりあえずここを出よう。あいつらがいつくるかもわかんないしーー」


しかしクロノの手を、シェリカは弾き飛ばす。


「触らないでください!!」


パシィンッーーと、クロノの手を弾き飛ばすシェリカ。


今までの慕う様子は……今のシェリカからは微塵も感じられなかったーー。


「あなたは……私のーー〝私達〟の敵です!」


シェリカの意思は固い。


いや、シェリカではない〝誰か〟の意思なのだろうがーー。


それでも、クロノは引き下がらなかったーー。


「……シェリカ、言いたい事はわかる。……今の君には、俺が敵に見えているんだろう。……でもそれは、誰かに操られているだけでーー」


その言葉を遮るように、シェリカは言い放つ。


「違いますよクロノさん……わたしは、〝あの方〟達とは関係ないーーずっと、あなたの事が許せなかったんです!!」


「…………シェリカ?」


シェリカは感情をむき出しにしたまま、桃紫色の瞳をクロノへと向ける。


「あなたはいつもいつも……わたしの期待に応えてくれない。わたしの頑張りを認めてくれない、わたしの傍にいてくれない、ずっとそんなあなたがもどかしかったーー。……他のみんなには向けているような愛情を……わたしには向けてくれなかったーー今だってそう。……あなたにとって私はーーただの〝部外者〟でしかない!!」


「シェリカ……そんな事ーー」


ふとどこか、胸が痛む。


何故だろうーー操られているだけなのに、シェリカの言葉が的外れだとも思えないのはーー。


それ故に、否定の言葉が出てこない。


「プルシュスカさんにも、エリスフィールさんにも、エドワードさんにもアーモンドさんにも……あなたはまるで家族のように親しげにしている……。従者だから?家族だから?……わたしにはあの屋敷以外にも……帰るところがあるからですか?だからーー」


シェリカは震えながらーークロノに語りかける。


「あなたはいつもそうですーー。人をたぶらかして、おちょくって、人の気なんて知りもしないでーー自分は人のために何かやっていると思い込んでいる、領主なんて器じゃない……ただの偽善者ですーーっ!!」


ハッ、とした表情で青ざめるシェリカ。


そこまで言ってポロポロッーー、とシェリカの瞳から涙が溢れ出た。


「あ、れ……何で……涙が?出て……っーー!!わ、私……わたしーー」


「シェリカッ!」


正気に戻った様子のシェリカが、ひどく困惑したように頭を抱えてうずくまる。


「ク、クロノさん……ごめんなさい。そんなつもりじゃーーごめんなさい……ごめんなさい。」


精神を蝕まれているように抵抗するシェリカを見つめながら、クロノはひどく怒りが込み上げる。


何でこの子にまでこんな事をしたーー。


シェリカが何か悪い事でもしたのかーー?


こんなに自分の意志を捻じ曲げられて、苦しめられて、嫌がっているのに俺の心配までして……。


(間違っているーーこんなの、人間のやる事じゃないーー)


ふつふつと、クロノの中で黒い怒りが湧き上がってくる。


心の中で〝誰か〟が、語りかけるように怒りを掻き立てる。


怒れーー、


怒れーーー、


怒れーーーー、


傷つける者を許すな。


奪う者を許すな。


虐げる者を許すな。


絶望する事を許すな。


支配される事を許すな。


恐れる事を許すな。


愛する者を失う苦しみを……世界を弄ぶ悪虐を……差別し、排斥し、弱者を追い出す世の摂理を許すなーー。


「…………シェリカ」


クロノの声が聞こえていないのか、怯えたようにシェリカはうずくまって両の足を抱き抱える。


「シェリカーー」


「っーー!!」


見上げるとそこには、クロノの姿がーー。


「クロノさん……わたしーー」


どう謝罪すればいいのか?


取り返しのつかない事を言ってしまったーー。


世界で一番嫌われたく無い人に……嫌われてしまったーー。


そんな後悔の念が、シェリカを苛む。


それを諭すようにクロノはーー、静かに語りかける。


「シェリカ……大丈夫だ。ゆっくり落ち着いてーー」


「っーー!!……クロノさん……私ーー」


涙で溢れるシェリカの顔を、両手で優しく抱き留める。


「大丈夫……怒ってないよ?シェリカはいい子なのは知っているから。……優しい事も、人を傷つける事を言わないのも、誰かを守るために怒れる事も、大切な人には本音をいつも言っている事も、全部知ってるからーー」


「クロノさん……クロノさん……ごめんなさいーー」


クロノの胸に、そのままうずくまるシェリカ。


懺悔するように、甘える子供のように、思い切り涙を流しながら叫ぶ。


「クロノさんーーごめんなさい!ごめんなさい!……わたし……自分が、自分じゃないみたいで……こんな事、思ってないのに……ひ、ひうっ……うぐっーー」


初めて見るシェリカが大泣きする姿を、目を伏せて、黙って背中をさすって、宥めるクロノ。


「大丈夫だーー大丈夫だから。……ちゃんとシェリカの事、見てるからーー」


「クロノさん……う、うう…………うわあああああっーー」


静かな地下牢に、シェリカの悲痛な叫びがこだまする。


(こんな事ーー絶対に許していいはずがない。《使役者》ーーお前だけは、絶対に許さないぞ!!)


そうーークロノが覚悟を決めた時。


不意に入口のドアが開かれる。


「っーー!!誰だ!?」


ゆっくりとーー中に入ってきたのは、司祭の服を着た、メガネをかけた中年の男に、取り巻きのものが五人程。


その内の二人は緑の服を着ており、他の三人は赤い服を着ていた。


(何だこの妙な気配の違いーー等級の違いか?)


その集団の中心にいた司祭の男は、穏やかな様子でクロノに声をかけた。


「いやはやーーよくここがわかりましたな……《エンドラ領》の領主ーークロノ・ゼルディウス・エルロード様ーー。お初にお目にかかります」


静かな顔で、クロノは立ち上がる。


「何者だ?」


司祭の男はクロノに一礼して、一言。


「私はアーガス。《アーガス・フォルモンド》と言います。以後ーーお見知り置きくださいませ」


ひどく冷静な様子の男を前に、クロノは疑問をぶつけかける。


「お前は……カイルの従者!?ここに何しに来たーー?」


その問いに、笑って答えるアーガスは。


「もちろんーーお二方を〝お救い〟しに来たのですよーー」


怪しいーー。


その直感を信じたクロノは、ステータスチェックを行う。


そしてそれは、確信を得るに繋がったーー。


「そうか……お前が《使役者》かーー」


クロノの問いに、目を丸くして驚くアーガス。


「っ!!何故それを……一体どうやって?……まさかあなたもーー《鑑定》スキルを!?」


クロノの問いかけに驚いた表情を見せるアーガス。


しかしその問いをクロノはバッサリと切り捨てるように答えたーー。


「……どうでもいいだろうそんな事。お前が()なら、俺はそれを叩き潰すだけだーー」


拳を握りしめて、怒りを掻き立てる。


全身が震えるように、クロノはアーガスを睨みつけた。


「なんとも威勢の良い……面白い。では、見せてもらいましょうかなーー?」


アーガスは傍にいた護衛のうちの二人を、クロノへと差し向ける。


「あなたのお力ーー拝見させて頂きましょうか!」


使役されたーー緑の服の二人の男が、クロノに襲いかかる。


「〝《未来眼》〟!!」


咄嗟に発動した《未来眼》。クロノの左目に、敵の動きの未来が投影される。


一人はクロノの右肩を狙った剣の大振り、もう一人の男はクロノが交わしたところを待ち伏せて横腹を切り裂く。


「未来が見えれば、お前達の動きに何の価値も無い……」


クロノは一人目の剣をパリィして弾き飛ばす。


そのまま左足で手元を蹴り、剣を手放させる事に成功ーー。


そのまま懐に入って足払いをし、左足のローキック。


すかさず襲いかかったーーもう一人の男の攻撃を、宙を捻って回転力を利用して、顔面に右足の蹴りをかます。


後頭部を地面に叩きつけられた男は気絶。司祭の男の護衛二人は、地に顔を伏せて倒れ落ちた。


「もっとマシな手駒はいないのか?」


先程の怒り故か、クロノはずいぶんと荒々しく問いかける。


手加減はしているが……相手の怪我具合を心配できるほど、今のクロノに余裕は無かったーー。


その様子を感心したように見つめるアーガス。


「まさか……ここまでとは驚きです。……子供と侮った私の不手際……と言ったところでしょうか?これは失礼しましたーーでは、今度はもっとマシなのを用意しましょう。」


パチンッーーと指を弾くアーガス。


すると残りの赤い服の三人が、クロノを取り囲むように構える。


しばらく様子を見るように、両者動きはしないーー。


「なるほど、不用意に突っ込んで来ない辺りはさっきより戦えそうだなーー」


クロノは手元で短剣をくるくると遊ばせながら、不敵に構える。


しかしーー、その表情に油断は無かったーー。


「…………クロノさん」


全神経に集中をし、一瞬の隙を伺うクロノ。


目の閉じーー、先に勝負を仕掛ける。


「〝《隠密》〟!!」


ふら、と姿が消え去るクロノ。


その様子に、アーガスはまたもや驚いた。


「なんとーー《鑑定》スキルと《隠密》……本来あり得ぬ二種類のジョブスキルを一体どうやってーー!?」


現実にはクロノのスキルチェック等は〝神気〟による効力のもので、《鑑定》スキルではないが……アーガスは自分が〝使役者〟だとバレたのはそのせいだと思い込んでいるらしい。


「攻めて来ないのは良い判断だったがーー慎重すぎるのはただの臆病だぜ?」


スパッ、スパッ、スパッーーと三連撃。


致命傷を避けたが、それでも狙った箇所は急所に位置する。


瞬く間の出来事で、司祭の手下三人も呆気なくやられた。


「お前の手駒はこれで終わりかーー?」


ヒョイッ、と短剣を振り回して脅しかけるクロノに……冷や汗をかくアーガスだった。


「…………なるほど。さすがは〝厄災〟の子ですね。《ランスロット家》の方々が恐れていた通りのお方だーー」


アーガスの発言に違和感を覚えたクロノ。


ずっと疑問に思っていた事を、問いかける。


「あんた、カイルと手を組んでたんだろ?……何であんたみたいな《使役》スキルなんて強力な力を持つ奴が、あいつの言いなりになってるんだーー?」


その発言は意外だったのか、面白おかしそうにくくく、と笑い込むアーガス。


「言いなり?言いなりですと?……バカなーー、まだわからないのですか?」


「……何だと?」


眉の端を凹ませて、睨みつけるクロノ。


「シェリカ様は間違いなくこの世を変える手腕を持つお方。しかしそれは十年以上先の事。……何故私が、あんな〝小僧〟の為に……わざわざシェリカ様の誘拐を手助けしたと思っているのですか?」


今まで感じていた違和感の正体。


〝トンビ〟とあだ名のつくほど、父親譲りの金と権力でモノを言わせるカイルが、妙に大胆な誘拐事件を仕掛けた訳。


何よりーー〝使役者〟程の男がわざわざカイルの手下になってシェリカを誘拐する理由。


まさかーー


「カイルも……お前が操っていたのか?」


クロノの問いかけに、司祭の男は高らかに笑って答える。


「そうですよ!そうとも……彼は私の良い隠れ蓑になってくださいました……。国の命令で人を従わせるのはもううんざりでしてねーー!……何故!人を従える力のある私が……国の命令に従わなければならないのか!!……何故!従う価値も無い、三流貴族の下等息子の言う事を聞かねばならないのか!!何故!偉大なる力を持った私が……国の牢獄などつまらぬところで幽閉されなければならないのか!!!……私にはこの世の全てを統べる力がある!なら、それを効果的に使わねば道理に反するでしょう!!それが、私の使命であり、生まれた理由であり、大義なのですから!!」


「…………狂ってるな、お前ーー」


そう呟いて、クロノは再び短剣を構える。


「さぁ……あなたにも〝祝福〟を授けてあげましょうーー辺境の地の〝黒領主〟様ーー。」


パチンッーー、と司祭が指を弾く。


すると入口のドアの外から、ゾロゾロと新たな刺客が入り込んできた。


和装の(ふすま)を壊し破って現れる数十人規模の一団が、司祭の後ろに構える。


「さぁ、あなたたちーーやってしまいなさい」


司祭の合図で、男達は一斉にクロノに襲いかかったーー。


(敵の数は相当いるが……一人一人はそう強くない。動きをよく観察しろ!)


訓練の合間に、エドワードに言われた事を思い出す。


敵の数は二十人前後。


狭い立地という事もあって、大きな動きを取れないでいる。


「……シェリカ!少し離れてて!!」


「ク、クロノさんーー」


シェリカの心配をよそに、クロノは向かってきた敵を蹴り飛ばす。


(あんなクロノさんの目……見た事ない。きっと、今までもそんなーー生と死の境を乗り越えて来たんだーー)


一人一人、着実に片付けていくクロノ。


その様子をただ眺めている事しかできないシェリカは、自身に施された〝使役紋〟のある額に手を据えながら、静かに問いかける。


「私に……何ができるんだろうーーううっ!!」


再び、〝使役紋〟が輝き出してシェリカの意思を乗っ取ろうとする。


「さぁ……シェリカ様。こちらへーー」


アーガスが、シェリカに向かって手をこまねく。


「い、嫌…………やめ、てーー」


言葉に反して、体はアーガスの元へと歩み寄っていく。


「安心してください。あとで、あなたのお友達も一緒に連れて行きましょう。クロノ様もシェリカ様同様ーーとても優秀な方ですから。何より……〝厄災〟という素晴らしい力を持っておられる!!……そうですねぇーー将来はあなたの専属の剣士なんていかがですか?〝鑑定聖女〟と〝黒の騎士〟ーーなかなか良い構図とは思いませんか?」


「う、ぅぅぅ……あああっ!!」


使役紋による強制力で、身体中に電流が流れるように苦しむシェリカ。


「シェリカ!!」


その様子を叫ぶ事しか出来ないクロノは、次々と敵を気絶させていく。


(どうするーーこのままじゃまたシェリカが連れて行かれる!!このまま手加減していたら、いくら時間があっても足りない!……何よりこいつらは使役紋に操られて倒れても倒れても立ち上がる……このままじゃあーー)


ふとーーそこで、クロノの頭の中に声が響く。


殺せーーと。


手加減は無用だーー救いたい者があるなら、殺さなければ救えないーーと。


「っーー!!駄目だ、この人達は操られている……だからーー殺せない!!」


蹴りを一つ入れ、息を整えるクロノ。


朝から探し回って道中敵と幾度も遭遇し、ようやく見つけたかと思いきやシェリカは使役状態にある。


そのままこの大人数と連戦を重ねたクロノの体は、いくら効果的に動ける《未来眼》の力が補助しても、限界に達していたーー。


「はぁ……はぁーーまずい!このままじゃーーっ!!」


一瞬、油断したクロノの背後に、一人の男が詰め寄る。


「っ!!しまっーー」


しかし、クロノはその気配に気づかない。クロノは、男に後頭部を鷲掴みにされてそのままーー地べたへと顔面を叩きつけられた。


「っーー!!クロノさんーー!!」


そのまま大勢の使役された者達によって、完全にクロノは拘束された。


アーガスに腕を掴まれたまま、シェリカは身を乗り出して心配そうにクロノの方を見つめていたーー。


(私が……私がクロノさんの足を引っ張ったからーー)


「クロノさん……クロノさん!クロノさん!クロノさんーー」


拘束されたシェリカは、何度も何度もクロノの名を叫ぶ。


悲痛に顔を歪ませながら、ポロポローーと涙を溢しながら。


瞳に、いつもの慕っている眼差しで見つめながらーー。


額から血を垂れ流したクロノは、声を振り絞りながらシェリカの方を向く。


「……シェ、シェリ……カ」


「ぅっーークロノさん…………」


ボロボロッーー、とシェリカは泣きじゃくりながらクロノの名前を呼ぶ。


「うっ、うっ、ごめんなさい……わたし……何もできないーー私なんかじゃあ、肝心な時何も……何もクロノさんの役に立てないーー」


「そんな事……無い、シェリカーー」


視界が歪むクロノ。


???「私……また、失敗しちゃってーー迷惑かけて、ごめんなさい……マスター」


(謝る事なんて……何も無いーーよ。〝エル〟は何も悪く無いからーー)


ふとーー、見慣れぬ記憶を思い出す。


「あれ、エルってーー誰だったっけ?」


意識が朦朧とする中、クロノはそう呟いた。


目の前にアーガスが男が跪く。


「さぁーー、私の〝祝福〟を受けなさい……。新しい〝我が子〟よ。〝偉大なる厄災の子〟よーー」


「っーー!!嫌、やめて!!」


シェリカの悲痛な思いは届かず、アーガスはクロノに〝使役紋〟を施していく。


「カイル様の言う通りーー今宵を境に、世界は大きく生まれ変わるでしょう!ただし、あの方の為ではなく、〝我々〟を祝福する為にーー」


「嫌っ!嫌ぁぁぁぁぁ!!クロノさぁん!!嫌あああああ!!」


「シェ、リ……カーー」


目の前が真っ暗になって、クロノの意識は闇へと溶けていったーー。



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