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呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜  作者: シャイ
第四章

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第八十八話 九条家攻防戦① —危うい均衡—

 敵の最前線はやはりというべきか、足の速い【ファング・ハント】と【スペックル・スティンガー】だった。

 優作(ゆうさく)はほくそ笑んだ。魔物の死体が沼の中に積み重なっていない今なら、誘導してやれば魔物は確実に沼の中に飛び込んでくる。機動力さえ封じてしまえば、それらを倒すことはたやすい。


 実際その読み通り、攻撃部隊の攻撃魔法や誘導部隊の障壁に誘導される形で沼の中に飛び込んできたそれらは、沼に足を取られて格好の餌食となった。


 しかし、順調なのはそこまでだった。

 魔物の適応速度が、優作たちの読みを遥かに上回ったのだ。


「なっ……⁉︎」


 即座に仲間の死体を足場として使い始めたファング・ハントとスペックル・スティンガーに、優作は開いた口が塞がらなかった。

 嘘だろ⁉︎ 状況判断が早すぎる——!


 衝撃を受けたのは優作だけではなかったようで、魔法による攻撃の圧が弱まった。

 優作はハッと我に帰り、即座に周囲に呼びかけた。


「こいつら、すぐに対応したぞ! 気をつけろ!」

「お、おう!」


 再びその場に魔法が飛び交い始めた。ファング・ハントとスペックル・ステインがーが次々と倒されていく。


 いくら対応力があると言っても、足場は限られている。

 その速度にさえ慣れてしまえば、それらを倒すことはそんなに難しいことではなかった。


 しかし、問題はそこではなかった。


 それら二種に気を取られているうちに、他の魔物たちに続々と沼への侵入を許してしまったのだ。

 その中には極端に防御の固いものや魔物の死体を足場に使うものまで現れ、対処は困難を極めた。八城(やしろ)を中心とした防御部隊の障壁がなければ、とっくに突破されていただろう。


「余力を残すことは考えるな! すべての攻撃に全力を注げ!」


 周囲を激励しつつ、優作は【風の咆哮アネモス・ヴリヒスモス】を放った。


「敵は左翼に集まっています! 中央、右翼の人たちは援護してください!」


 ヒナの大声が聞こえた。


「了解!」


 優作は【風の咆哮】の発射方向を、中央から左翼寄りに切り替えた。


「助かります、隊長!」


 左翼のリーダーである寺内(てらうち)が片手を上げて感謝の意を示した。

 それに対して優作も同じ動作で応えた、そのとき——、


「うっ……!」


 優作の頭に、鈍くも鋭い痛みが走った。




◇ ◇ ◇




 これは結構持ち堪えられるのではないか——。


 仲間の奮闘する姿に、和人は期待感を抱き始めていた。

 ヒナを筆頭にした索敵要員の的確な指示もあり、最初の数十秒を除いて、魔物たちは最後の砦である防衛部隊の障壁までほとんど到達できていない。


「なあヒナ。これなら——」


 いけるよな。

 そうヒナに同意を求めようとして、和人は言葉を詰まらせた。

 隣に立つ幼馴染が、とても厳しい表情を浮かべていたからだ。


「……もしかして今、まずい状況なのか?」

「うん」


 ヒナが顎を引いた。


「俺には結構うまくいっているように見えるが……」

「今はね。けど、魔物の量に対して皆の魔力残量が少なすぎる。特に野中(のなか)隊長や寺内さんたち、初期から戦っている人たちは、魔力枯渇症の初期症状である頭痛を感じ始めていてもおかしくないよ。このままじゃ——」


 突如としてヒナは言葉を止め、ただでさえ丸いその瞳をさらに見開いた。


「ヒナ? どうし——」

「右翼! 障壁を強化しろ!」


 その叫び声はヒナの左から発せられた。増田(ますだ)だった。


「魔物が——」


 彼の言葉が終わらないうちに、

 魔物をカイス沼に誘導するための障壁が破られ、魔物の一団がそこから飛び出した。


 その先頭はファング・ハントだった。

 それらは地面に着地するや否や、九条(くじょう)家の屋敷を目指して走り始めた。


 しかし、それらの前に突如として透明な壁が出現した。【魔の障壁(マギア・トイコス)】だ。障壁は魔物たちの数ミリ先に正確に生成されていたため、さすがのファング・ハントもそれを避けることは叶わなかった。


「ナイスです、八城(やしろ)さん!」


 すかさず江坂(えさか)を中心とした右翼の攻撃部隊が魔法を放った。

 障壁に頭から衝突して動きの鈍っていた魔物たちは、集中攻撃をまともに喰らって次々と倒れていった。


 しかし、それは最悪の事態を回避したに過ぎなかった。

 右翼の乱れは全体に波及し、流れが一気に魔物側に傾いたのが、側から見ている和人にもわかった。 


「和人」

「ああ」


 名前呼ばれただけで、和人はヒナの言いたいこと察した。戦場に目を向けたまま、和人は口を開いた。


「今のうちに、索敵要員の皆さんは逃げてください!」

「し、しかし——」

「早く!」


 後ろを振り返り、和人は叫んだ。

 今はまだ魔物の意識がこっちに向いていないし、向く可能性も低いだろうが、誘導ルート外への脱出なんてイレギュラーが起こったのだ。何が起こってもおかしくはない。


「りょ、了解!」

「後は頼んだぞ、ヒナ、和人!」

「気をつけろよ!」


 各々が激励の言葉を飛ばしつつ、彼らはその場を駆け出した。

 幸い、魔物が彼らを追うことはなかった。


 しかし、それは不幸の中のちょっとした幸運に過ぎなかった。




◇ ◇ ◇




「右翼、少し前に出過ぎです! 中央っ、もう少し右翼をサポートしてください!」


 ヒナは脳がはち切れんばかりの大声で指示を出した。

 そしてその指示通り、いや、指示以上の動きを戦場の皆が見せたことにより、人間側が少し持ち直したかに見えた。


 しかし、その均衡はすぐに崩れた。

 再び障壁が突破されたわけではないが、事態はそれよりも深刻だった。


 ついに、魔力が枯渇する者が現れ始めたのだ。

 その場にうずくまったり倒れ込んだりする彼らは、魔物の侵攻方向にいたわけではないので踏み潰されることはなかったが、その影響はすぐに現れた。


 一人でも魔法師が減れば、その分だけ他の魔法師への負担が大きくなる。

 そうなれば、魔力枯渇症になる者が増えるのは必至だった。


 落ち着け、落ち着け——!


 ヒナは深呼吸をして何とか冷静さを保ち、【索敵(さくてき)】で現状を把握し、思考を巡らせた。

 しかし何の解決策も浮かばないまま、ついにそれは起こってしまった。


 多くの魔物が一斉に八城たちの作った最後の砦である障壁に突進した結果、障壁の一部が破られたのだ。一体の魔物が飛び出す。


「やばっ……!」


 その個体は迷わず突き進んだ。その視線の先にいるのは、地面に手をついた空也(くうや)と自然体でその前に立つ沙希(さき)


「沙希!」


 ヒナは、自然体のまま動かない親友の名を叫んだ。

 その次の瞬間——、


 後方から飛来した複数の魔法が、その魔物の身体を八つ裂きにした。


「あっ……」

「落ち着け、ヒナ」


 不意に、右肩が暖かくなった。和人の手が触れているのだ。


 その手がポンポン、とリズミカルに振動を伝えてくる。

 ヒナは、少しずつ動悸が収まっていくのを感じた。


「障壁が破られたからって、まだ負けたわけじゃねえ。ウチの護衛隊や冒険者たちがそんなやわじゃねえのは、お前も良く知ってんだろ」

「……そうだね」


 ヒナは深呼吸をして頷いた。

 和人がわずかに相好を崩して続けた。


「お前のやるべきことは【索敵】で全体を把握して指示を出すことだ。皆、お前を頼りにしてんだからよ」

「うん、ありがとう、和人」


 ヒナは自らの頬を叩いた。

 そうだ。今この場には、全力で戦っている頼もしい仲間がたくさんいる。自分は彼らを信じて指示を出せば良い。


 ヒナは一度目を閉じ、【索敵】で現在の状況を把握した。

 そして理解する。やはり、出し惜しみをしている場合ではないと。


「——和人」




◇ ◇ ◇




「和人」

「あっ?」


 先程までとは打って変わった幼馴染の静かな声に、和人は視線を前に固定したまま返事をした。

 ヒナのほうに目を向けなかったのは、クサイ台詞を言ってしまった後の気恥ずかしさゆえだったが、次の彼女の言葉でそんなものは消し飛んだ。


「私の護衛はもう良いから、沙希の援護に向かって」

「……はっ?」


 和人は、自分が何を言われたのか理解できなかった。


「お前、何言って——」

「いつか必ず、この危うい均衡は崩れる」


 ヒナのその言葉に、その目に迷いはなかった。


「……皆が魔物に負けるってことか?」

「そう」


 和人の苛立ちを含んだ声にも動じず、彼女は淡々と頷いた。


「どんなに皆が頑張っても、それだけで勝てるほど戦力差は小さくない。見て」


 ヒナが、今この瞬間も必死に戦っている者たちを手で示した。


「今も皆の魔力は減り続けているけど、魔物と魔力枯渇症患者は増えるばかり。遅かれ早かれ再び突破されるし、毎回さっきみたいに対応できるわけじゃない。必ず沙希が戦わなくちゃいけない時が来る。けど、沙希がどこまで持つのかわからない。沙希が危うくなってから慌てて援護するくらいなら、最初から二人で戦ったほうがお互いの負担も少ないでしょ?」

「でも、そしたらお前が——」

「私より空也さんが優先だよ。私がやられても勝ちの目はあるけど、空也さんがやられたらその時点で負けだもん」


 和人は何も言えなかった。

 目の前の少女は、普段はドジで抜けているところも多いが、決して馬鹿ではない。むしろ状況判断能力はものすごく高いし、そうでなければいくら【索敵】能力が高くても正確な指示など出せない。


 そのことを、和人は反論できない悔しさとともに再認識していた。


「行って、和人。九条家を守るのが護衛隊の役目でしょ?」

「……わかった。ただ、一つだけ約束だ」

「約束?」


 小首をかしげる幼馴染に、和人は拳を突き出した。


「……ぜってえ死ぬなよ」

「お互いにね」


 にっこり笑って、ヒナが自らの拳を和人のそれに重ねた。

 和人は一つ頷き、沙希の元へ向かった。


 ——それから程なくして、防御部隊は二度目の突破を許した。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!


「面白いな!」

「続きが気になるな!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石に魔物の数が多すぎると思われます。危険で手強いのがそんなに居たのに今まで放置されていたのか?対応が追いついていなかったのか?の疑問が流石に湧きます。その辺の疑問も後々解明されると思…
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