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呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜  作者: シャイ
第四章

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第八十三話 わがまま

「非戦闘員の皆さん、命を()ける覚悟はありますか?」


 空也(くうや)の目は、真っ直ぐにメイドや庭師などの非戦闘員を見ていた。


「えっと、空也君……それは、どういうことでしょうか?」


 皐月(さつき)が困惑気味に尋ねた。


「現在、九条(くじょう)家は危機的状況に追い込まれています。このままでは魔物たちに屋敷を破壊され、その後にどんな惨状が待っているかもわかりません。それを防ぐためには、非戦闘員の皆さんの力が不可欠なんです」


 覚悟を決めた表情で語る空也を見て、沙希(さき)はピンときた。

 空也は、あの技(・・・)を使う気だ——【ファング・ハント】を使役していたローブ男を倒すために使った、彼が公言するのを避けていた技を。


「……何か、考えがおありなのですね?」

「はい」


 空也は皐月を正面から見て、深く頷いた。彼は視線を非戦闘員に移した。


「まず、一般には術式が公開されていない【天命の恵(セオス・ハリ)】という技を使って、非戦闘員の皆さんから半強制的に魔力を分けてもらいます。その際には細心の注意を払いますが、【無能力者(アヴィナモス)】である非戦闘員の皆さんにとって魔力は生命力そのものです。僕の手違いで魔力を吸い過ぎれば、最悪死にます」


 誰かが息を呑んだ。

 しかし、空也は言葉を止めなかった。


「そして、集めた魔力で闇属性魔法【分解(サナトス)】を発動し、九条家(ここ)に向かってきているすべての魔物を消し去ります」

「闇属性魔法……⁉︎」


 皐月が目を見開いた。

 沙希はこれまで闇属性魔法というものを知らなかったが、彼女には何か心当たりがあるようだ。


「すべて消し去るって……そんなことが可能なのかっ?」

「可能です」


 護衛隊隊員から放たれた懐疑(かいぎ)的な声に、空也は躊躇(ためら)いなく頷いた。そこから感じられるのは、自分への絶対の信頼だ。


「【天命の恵】も【分解】も、私はこの目で見ています」


 沙希は横から付け加えた。


 皐月が顎に手を当てる。

 彼女が考え込んでいたのは、ほんの数秒だった。


「皆さん」


 皐月が非戦闘員に向き直った。


「私は空也君を信じています。どうか、彼の考えに協力してください」


 皐月が深く腰を曲げた。


 その場に、声にならないざわめきが広まった。

 皐月は普段から誰に対しても丁寧な態度で接しているが、それでも貴族の次期当主が家臣に頭を下げるというのは異例のことだったからだ。


「私からもお願いします」


 その声は、非戦闘員の集団のさらに後ろから響いた。


「奥様……⁉︎」


 そこでは美穂が、彼女の娘と同様に深く頭を下げていた。


「ただ守られているだけの私がおこがましいけど……それでも皆、この家を守るため、力を貸して」


 美穂の声は、わずかに震えていた。


「顔をお上げください、美穂様、皐月様」


 優しい声がした。

 その声の主は、非戦闘員の集団の中心にいる、九条家執事長の佐々木(ささき)だった。


 彼は、柔らかい笑みを浮かべて続けた。


「我々とて九条家の一員。その危機のために命を懸けられるのならば本望です。そして、空也君はすでに一度、我々を救っている。何を疑うことがありましょうか」

「佐々木さん……」


 皐月が(かす)れた声を出した。美穂も、目を(うる)ませて口元を押さえている。

 他の者たちからも次々と、「そうですよー」「私たちだって一緒に戦いたいんです」「というか戦わせてください!」という賛同の声が上がった。


 それらが本心からの言葉であることは、全員の穏やかな表情を見れば明らかだった。


「皆……!」


 皐月の目から(しずく)がこぼれ落ち、その頬を濡らした。

 それを拭うこともせず、彼女は言った。


「——ありがとう」




◇ ◇ ◇




 感極まった様子の皐月だったが、彼女はすぐに冷静さを取り戻した。

 隊員の一人に医務室にいる医療隊全員呼んでくるよう言ってから、彼女は「さて」と、全員に向き直った。


「これからの方針を説明いたします。まずは空也君に【天命の恵】をしてもらい、魔力分けた人からあの扉を通ってどんどん地下に逃げましょう。地下は厳しい環境ですが、屋敷が崩れても安全なのはあそこだけですから」


 皐月が部屋の奥にある、地面に取り付けられた扉を指差した。扉の取手には【魔法展開補助装置(キクロス)】が付けられている。


 その扉について、空也は皐月から聞いたことがあった。

 なんでも、【魔法展開補助装置】に魔力を流すと扉が開き、一度閉めると一週間は開くことのできない構造になっているようで——百年以上前の九条家当主が作ったもので、仕組みは誰も知らないそうだ——、その先の地下道が九条家の最終逃走経路だと、皐月は言っていた。


 ちなみに地下にはある程度の食料は備蓄してあるものの、どこから地上に出れるのかは伝わっていないらしい。


「地下への避難が自力で難しそうなら、護衛隊の人が手伝ってください。【天命の恵】が終わったら扉を閉め、護衛隊と医療隊の皆さんは野中隊長たちと合流していただきます」

「了解!」


 各々が敬礼をした。


「沙希」

「はい」

「魔力枯渇症になったばかりの貴女も、今は魔法を使ってはいけないのだから、戦闘には参加せずに地下に逃げて」


 魔力枯渇症になった者がその直後に魔法を使えば、冗談抜きで命に関わる事態に発展しかねない。

 故に、皐月のその判断は特別扱いでもなんでもなく、魔法的な観点からも正しいものだったが——、


「申し訳ありませんが、それはできません」


 空也の近くに立っていた九条家護衛隊副隊長の少女は、コンマ数秒の躊躇いすらなく首を横に振った。


「なっ……!」


 皐月が絶句した。


「私も、護衛隊の皆さんと一緒に戦います」

「な、何を言っているのっ? 貴女が今魔法を使えば、死ぬ可能性だってあるのよ⁉︎」

「わかっています。ですが、それはこの場の全員に言えることです」


 沙希が周囲を見回した。


「なぜか魔物が人を襲わないおかげで、現在までには死傷者はほとんど出ていません。ですが、安田(やすだ)さんのように突然反撃される場合もあるでしょうし、もし九条家の屋敷(ここ)を狙うのが最優先事項だとしたら、それが達成されたときに魔物が人を襲い出すかもしれない。誰しもに命の危険はあるんです。隊員が命を懸けているのに、副隊長が死ぬのを恐れて逃げるなんてあり得ない」

「沙希……」


 強い口調で言い切った沙希からは、絶対に引かないという意志が感じられた。


「……わかりました」


 皐月はため息を吐いた。

 その顔には苦笑が浮かんでいる。仕方ないなあ、という言葉が聞こえそうな表情だ。


「ただし、貴女の役目は空也君の護衛です。彼の魔法発動を阻害するものが現れたときのみ、魔法の使用を許可します。それ以外では、いかなる状況でも魔法の使用は許しません」

「わかりました」


 沙希はコクリと頷いた。


 皐月が空也に視線を向けた。

 空也はそれに頷いて見せてから、周囲に呼びかけた。


「それじゃあ、非戦闘員の皆さんは僕の周りに集まってください」


 しかしそのとき、予想外の出来事が起こった。

 誰も集まらなかったのではない。むしろ、集まりすぎたのだ。


「奥様、皐月様っ? 何を……⁉︎」


 佐々木が困惑の声を上げた。

 そう。佐々木やメイド、庭師たちだけではなく、皐月と美穂まで空也の前にやってきていたのだ。おそらくは、空也に魔力を分けるために。


「私たちだって非戦闘員ですから」


 当然だろうという顔をして、九条家母娘は空也の前に立った。


「な、何を馬鹿なことをおっしゃっているのですか!」


 佐々木が慌てた様子で二人と空也の間に入った。


「お二人は非戦闘員ではなく、保護対象です。さ、早く地下へお逃げください」

「馬鹿なことを言うな、はこちらの言葉ですよ、佐々木。人には命を懸けろと言っておいて、自分だけ万全な状態で逃げるなど、人間のクズがやることです」


 美穂が、貴族夫人らしからぬ言葉違いで否定した。


「お二人のような立場なら別ですっ。それが九条家のためになるのですし、疲弊(ひへい)した状態で過酷な環境である地下に逃げるなど——」

「佐々木さん」


 珍しく熱く語る佐々木を、皐月が静かな口調で(さえぎ)った。


「貴方のおっしゃることが正論だということは承知していますし、自分が甘いことを申していることもわかっています。ですが、私は九条家の強みは優秀な人材が多いことではなく、上下の強い信頼関係だと思っています。私はそれを壊したくありません。本当は地下に逃げるというだけでも心苦しいのに、もしここで何の貢献もせずに逃げてしまったら、どんな結末になろうと私は自分を一生許せなくなってしまいます。だから、申し訳ありません。私たちも協力させてください」

「皐月様……」


 堂々とした皐月の言葉に、佐々木は咄嗟に言葉が見つからないようだった。


「よく言ったわ、皐月」


 美穂がその頭を撫でた。彼女は空也に視線を向けた。


「それに空也君としても、多少は魔力が多い私たちがいたほうがより楽になるでしょう?」

「それはまあ、そうですね」


【天命の恵】、そして【分解】の下準備を進めつつ、空也は頷いた。

 現在の状況を考えると【分解】は数キロ単位で発動させる必要があるため、異界で太一(たいち)百合(ゆり)を殺すために使ったときよりも膨大な魔力が必要となる。


 魔法的な観点で言えば、他の非戦闘員と違って【無能力者】ではない二人が魔力を分けてくれるなら、空也としてはありがたかった。


 皐月と美穂、そして佐々木が視線を交差させる。

 数秒の後、折れたのは執事長だった。


「……わかりました」


 その顔には、呆れも混じった苦笑が浮かんでいた。

 その表情は、ちょうど先程、皐月が沙希に対して浮かべたものとそっくりだった。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 美穂と皐月がニッコリと笑った。


「沙希もそのご主人様たちも、九条家は皆わがままだね」


 空也は沙希に耳打ちした。


「たしかに。けど一番わがままなのは、ほぼ初対面の人もいる中で自分に命を預けろなんて言っちゃう空也だと思う」

「それは間違いない」


 空也と沙希は、小さく笑い合った。

 口元に笑みを残したまま、沙希が空也の目を見た。


「——信じてる」

「任せて」


 短いやり取りの後、沙希は空也から離れた。

 入れ替わりで、皐月が空也の前に立った。


 それでは、と彼女は言った。


「お願いします、空也君」

「了解」


 空也は【天命の恵】を発動させた。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!


「面白いな!」

「続きが気になるな!」


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