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呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜  作者: シャイ
第二章

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第二十六話 国防軍の対立

 危なかった——。


 ミサの目の前では、二つの【魔の結界(マギア・カリマ)】が煙で満たされていた。

 シュウとミキが爆発することを本能的に察したミサは、爆発の直前に二人を結界で覆ったのだ。半ば無意識の行為だったが、だからこそ間に合ったのだろう。


 しかし、ミサに自分の無事を喜んでいる暇はなかった。

 屋敷が爆発していないことに若干の期待を覚えつつ、【索敵(さくてき)】を強化する。


「おい、貴様! 今のはなんだ⁉︎」


 渡会(わたらい)の怒鳴り声は雑音として処理して、ミサは【索敵】に集中した。そして息を吐く。


「良かったー……」


 空也(くうや)たち主要メンバーはほぼダメージを受けていない。ミサの【索敵】では非戦闘員の無事までは大雑把にしかわからないが、空也や沙希たちの動きを見るに、損害はなさそうだ。


「おい!」

「……何ですか?」


 分析を終えて、ミサはようやく渡会に視線を戻した。


「今のは何だと聞いているんだ!」

「わかりません」

「わからない……? シラを切るな! わからないならどうやって防いだと言うのだ⁉︎」

「冒険者の勘です。彼らの様子は魔物が自爆するときに良く似ていた。だから咄嗟に結界で覆ったまでです」

「何だと……?」


 ミサの簡潔な説明に、渡会は言葉を詰まらせた。いちゃもんをつけたくても、冒険者としての経験と言われてしまえば、さすがの彼も反論は難しいようだ。

 ミサはどうさざ波を立てないように立ち回ろうか、と考えを巡らせたが、答えが出る前に事態は進展した。


「【光の女王】」


 一人の女がミサの隣に降り立つ。その顔にミサは見覚えがあった。と言うのも、その人物は裁判のときに玲良(れいら)の護衛として控えていたからだ。


「あなたは……」

「国防軍第三隊所属、速水(はやみ)(りん)です。つい今しがた、爆発の予兆のような光が発せられていましたが……」


 凛の視線が、もうもうと煙を上げ続ける二つの結界を見た。


瀬川(せがわ)君の言う通り、九条(くじょう)家が襲撃されていました。光はおそらく、その襲撃者たちが爆発した際のものでしょう。それが自爆なのか、はたまた別の何かなのかはわかりませんが」

「なるほど。屋敷内はどうですか?」

「瀬川君を中心に殲滅(せんめつ)したはずです。今、お仲間が向かっているのでしょう?」

「ええ」

「では、私たちも向かいましょう」


 凛とミサは会話の流れでそのまま屋敷へ向かおうとしたが、さすがにそれは強引すぎる手だった。


「待ちたまえ!」


 その声の主は言うまでもなく渡会だ。


「なぜ遅れてやってきた第三隊がしゃしゃり出ている? この件は、真っ先に駆けつけた我々国防軍第一隊が処理する。そちらは屋敷周辺の見回りでもしていたまえ」


 渡会の言葉は「彼にしては珍しく」、そして「失礼極まりないが」という注釈はつくものの、(おおむ)ね筋の通った意見だった。

 しかし、今回に関しては手札に差がありすぎた。


「渡会さん。我々は今、玲良様のご命令で動いています」

「っ!」


 渡会は息を呑んだ。畳みかけるように凛が続ける。


「真っ先に駆けつけてくださったことには感謝しています。ただ、この場はお引きください」

「……チッ」


 渡会は舌打ちをして、背を向けた。


「撤収だ」


 彼に続いて、その部下も(きびす)を返す。その中で、宮城(みやぎ)だけが唯一頭を下げてから立ち去った。


「行きましょう」

「はい」


 凛とミサは、今度こそ屋敷に向かって歩き出した。




「これは……?」

「……どういう状況?」


 屋敷内のすべての人間が集結しているホールまで辿り着いた二人は、口をポカンと開けたまま固まった。


 二人の視界に映ったのは、部屋の中央手前に作られた大きな【魔の結界】と、その前で険しい表情を浮かべる凛と同じく国防軍の格好をした男——國塚(くにづか)祐馬(ゆうま)

 そして、障壁の奥で幼いメイドを抱えている空也の姿だった。




◇ ◇ ◇




 結界を張ったのは空也だが、そこにはもちろん理由があった。


「瀬川空也、無駄な抵抗はやめて大人しく捕まりなさい」


 入室早々、祐馬は魔法を展開しながら圧をかけてきた。

 その圧は空也にとっては吹いて飛ぶようなものだったが、仲間から複数人死者が出るほどの戦闘を終えたばかりの非戦闘員、それも幼い女の子にとっては恐怖を(あお)るものだった。


「ひっ……!」


 萌波(もなみ)が空也の脚にしがみつく。その眼には、ありありと怯えの色が浮かんでいた。

 そしてそれは——萌波ほど顕著(けんちょ)ではないにしろ——八城(やしろ)の結界内にいた他の非戦闘員も同様だった。


 その空気の読めなさに辟易しつつも、相手と自分の立場を考慮して、空也はまずは対話を試みた。


「抵抗はしません。ただ、少し待ってください」

「なぜ? 逃げる算段でもつけるつもりですか?」

「逃げるつもりならこんなところにいませんよ……状況を見てください」


 空也は視線を他の九条家の面々に向けた。恐怖、怯え、不審……その中に、祐馬に対して好意的な目線は一つもなかった。

 圧を出しながら、九条家の助太刀をした空也をいきなり捕らえようとするのだから、この反応は当然と言えば当然のものだった。


 祐馬は一瞬怯んだが、まるでそれを誤魔化すかのように、大きな一歩を踏み出した。


 それに対して口を開こうという佐々木(ささき)を制し、空也は【魔の結界】を展開した。


 ——ゴンッ!

 固いもの同士がぶつかる音。祐馬が頭をその結界にぶつけたのだ。


 結界の外側で、祐馬が額に手を当ててうずくまりながら何かを叫んでいるのが見える。空也は結界に遮音効果を付加しておいたので、その声は聞こえないが。


「もう大丈夫だよ」


 空也は自分を不安そうに見上げる萌波の頭を撫でた。


「本当に?」

「本当に、だよ。それに、あの人も別に悪い人じゃないんだ。むしろ、国を守っている偉い人なんだよ」

「でも、空也さまのこと捕まえるって……」

「大丈夫。少しお話しするだけだから。萌波ちゃんが心配するようなことは何もないよ」

「……嘘じゃない?」

「嘘じゃないよ」


 段々と緊張が緩んできている萌波にホッとしつつ、空也は自分の行為がやりすぎだったことに今更ながら気がついた。


 今の空也の行動は九条家に影響を及ぼす可能性が高い。

 融通の利かない祐馬への苛立ちに、空也の中にくすぶっていた王宮の人間への不審感や憎悪があいまって、そんな単純なことにも空也は気づいてなかったのだ。


「申し訳ありません。軽率な行動でした」

「いえ、むしろ痛快でございますな」


 しかし、そんな空也のミスを、佐々木は一笑に付した。


「あの者のこちらへの対応は適切ではなかった。それなら、こちらが多少荒々しい手段を取ったところで文句は言われますまい」

「ですが——」

「それに、あちらをご覧ください」


 佐々木が手のひらで示した先では、


「奥様もあのご様子ですから」


 八城の隣にいる美穂(みほ)が、空也に向けて親指を立てていた。


「はあ……」


 空也はなんだか毒気を抜かれてしまった。そして同時に思う。九条家は、本当に影響力を持った存在なのだと。


「それに、王宮からのお出迎えは彼だけではないでしょう?」

「はい。今、片桐(かたぎり)さんとともにこちらに向かってきています」


 空也が扉に目を向ければ、ちょうどその二人が部屋に入ってきた。


 ミサと国防軍の服を着た女は、祐馬と【魔の結界】、そして空也を見てしばし茫然としていたが、すぐに立ち直った女が祐馬に話しかけた。

 二、三言を交わした後、女はおもむろに悠馬の頭を叩いた。


 女の指示で祐馬が数歩下がるのを見届けて、空也は結界を解いた。


「国防軍第三隊所属の速水凛です。先程は部下が失礼をいたしました」




◇ ◇ ◇




 凛と美穂、佐々木を中心とした話し合いは、スムーズに進行した。


 結論としては、王宮に残っている九条家護衛隊と交換という形で、ミサと空也、そして佐々木が王宮へ行くという方向で話が落ち着いた。

 ミサと空也は王宮を抜け出した実行犯であり、佐々木は九条家で起こったことを説明する役だ。


 現在は、祐馬がこの場での決定を玲良まで伝えに行っている。

 彼がいなくなったことで、九条家の面々から緊張が薄れた。事実、萌波などには笑顔が戻っているし、他の者たちも萌波ほどではないにしろ、肩の力を抜いていた。


 しかし、そんな中でも一人だけ、全く表情の変わらない者がいた。

 否、その表現は正確ではない。


 その少女は、表情という表情を浮かべていなかった。


 数日しか一緒にいないが、彼女は感情の起伏が小さいだけで無感情なわけではないことは、空也にもわかった。無表情に見えて、しっかりと感情は浮かび上がっている。


 が、今の彼女は、本当に何の感情も抱いていない人形のようだった。

 それが、その表情が、記憶の中にある負の感情を押し殺している人たちとそっくりで、空也は声をかけずにはいられなかった。


「——沙希(さき)さん」

 最後まで読んでいただきありがとうございます!


「面白いな!」

「続きが気になるな!」


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