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呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜  作者: シャイ
第一章

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第十一話 追放Side③ 崩壊 —後編—

「お、おい、高志たかし! どういうつもりだ⁉」


 愛理あいりに手を払われて呆然としていたしげるは、我に返ると高志に詰め寄った。


「あんなに言う必要なかっただろう⁉ なぜわざわざ愛理を怒らせた⁉」

「怒らせたわけじゃない。俺はメンバーの勘違いを訂正しただけだ。あんなゴミが戦力になるなんて勘違いさせたままなのは、愛理にとってもパーティにとっても良くないからな」

「だからって――」


 なおも詰め寄ろうとした茂は、目の前に剣の切っ先を突きつけられて言葉を止めた。


「今回の失態の元凶が、それ以上口を開くな」

「なっ……⁉」

「お前は【索敵さくてき】も作戦の立案も、パーティの頭脳がやるべき仕事を一つもまともにできなかった。挙句、最後は意地を張ってほのかを殺しかけた。今回のお前は空也以下のゴミだ。だから愛理もあんな勘違いをした。これ以上俺を失望させるな」

「高志、貴様――」


 茂は 怒りに任せて反論しようとし、本能的な危険を察知して口を閉じた。

 反抗的な態度を取れば、目の前の男は躊躇ちゅうちょなく自分を斬る——。


 茂にそう確信させるほど、高志の瞳は冷えきっていた。


「ほら、愛理の元にでも行ったらどうだ? うまく懐に入り込めば身体でも許してくれるかもしれないぞ? ――こんな風にな」

「んっ……」


 高志がほのかの胸に爪を当て、その口内を舌で蹂躙じゅうりんした。それに答えるように、ほのかが甘い吐息を洩らす。


 その見せつけるような行為に、愛理を手に入れられないことを馬鹿にされているような気がして――実際、高志にもそういう意図はあっただろう――、茂はいたたまれなくなって駆け出した。


「ちくしょう……!」


 こうなったら、意地でも愛理を自分のモノにしてやる――。


 覚悟を決めて、茂は愛理が向かったであろう宿へと駆け出した。


「今日は俺らんとこ来んなよ? これから忙しくするからさっ」


 背中からそんな言葉が聞こえたが、茂は振り返らなかった。




◇ ◇ ◇




 茂は愛理の部屋の前に立っていた。

 深呼吸をし、頭の中で最後のシミュレーションを行う。


 これはチャンスだ、と茂はほくそ笑んだ。傷心している女ほど落としやすいものはない。


 なるべく穏やかな表情を心がけ、茂は扉をノックした。


「……はい」


 愛理が顔を覗かせる。


「よう愛理。心配になって様子を見に来たんだ。大丈夫か?」


 愛理を気遣いつつ、茂は部屋の中に入ろうとした。

 しかし、そのデリカシーの欠片もない行為——茂にその自覚はないが——は、部屋の主によって制された。


「愛理?」

「……放っておいて」

「っ——!」


 自分を部屋に入れまいとする態度と冷たい声に狼狽ろうばいするが、愛理も混乱しているのだろう、と茂は切り替えた。


「……それでも、愛理が心配なんだよ」

「気持ちはありがたく受け取っておくけど、今は放っておいて」

「でも、お前が一人で落ち込んでいたら悪い虫が寄ってくるぞ? ギルド内でも噂になっていたし、仮にも恋人である俺は——」

「そんなこと、どうでも良い」

「なっ……⁉︎」


 茂は絶句した。

 その愛理の声は、温厚な彼女が出したものとは思えないほど冷たかった。


「空也を大切に想っていない人たちと話すことなんかないし、そんな人と偽であれ恋人でいたくない」

「なっ、何を言っている⁉︎ あいつは略奪りゃくだつ愛をしようとしたやつだぞ⁉︎」

「そんなの、関係ないよ」

「……はっ? ど、どういうことだ?」


 茂には、愛理が何を言っているのか理解できなかった。


「空也がもし本当に略奪愛を働いたのだとしても、私の空也に対する想いは変わらない。この二年間、毎日のように彼が与えてくれた楽しさや優しさを、忘れたりはしない」

「なっ、なっ……!」


 それは、まぎれもない空也への愛情だった。

 愛理の真っ直ぐな言葉と瞳は、いくら茂でも他に解釈のしようがなかった。


 そして、愛理を手に入れるために空也を追放した茂が、その愛理が空也のことを好きであるという事実を受け入れられるはずもなかった。


「なぜだ⁉︎ あんなやつのどこが良いというのだ⁉︎ 空也なんて、毎日愛理に付きまとっていただけではないか!」

「空也が私に付き纏っていた?」

「ああ! 毎日ギルドに一緒に来ていたのも、よくお茶をしていたのも全部空也からの誘いを断れなかったのだろう⁉︎」

「何でそんな勘違いをしたのか知らないけど、そのどっちも、というより大体は私が空也を誘っていたんだよ。だから、付き纏っていたのはどちらかというと私のほう」

「な、に……?」


(愛理が空也を誘っていた? そんな馬鹿な!)


 茂の脳内は、まさに混沌こんとんとしていた。

 もはや茂に、愛理のことを考える余裕などなかった。


 だからこそ、それが現状で一番相応(ふさわ)しくない、一番口にしてはいけない言葉だと気づくことができなかった。


「あんなやつのどこが良いんだ! 魔力も少ない、たいして役にも立たないただのお荷物じゃないか! あんなやつより俺のほうが——っ⁉︎」


 茂は息を呑んだ。


「あ、愛理——」


 愛理は茂に向けて右の手のひらを突き出し、【魔弾マギア・スフェラ】を生成していた。


「それ以上空也のことを侮辱ぶじょくするなら、今の私は何をするかわからないよ」

「……くそっ!」


 そのプレッシャーに耐えきれず、茂は逃げるようにその場を離れた。




 茂の後ろ姿を見送ることもなく扉を閉めた愛理は、自嘲じちょうの笑みを漏らした。


「格好悪い……」




◇ ◇ ◇




「くそっ、なんなんだ!」


 宿の中では何とか平静を保っていた茂は、外に出るや壁を殴って怒りを発散させた。


(何だ、愛理のあの態度は⁉︎ 何で空也なんだ⁉︎ あの高志の態度は何だ⁉ 何で俺らがあんな雑魚倒せねえんだ! 空也が戦力? ふざけんな! あいつはただのゴミだ!)


 一度解放した怒りは静まることを知らず、茂は地団駄じだんだを踏んで髪をぐしゃぐしゃにした。わめき散らさなかっただけまだマジだっただろう。


「おい、どうしたよ茂?」

「あっ?」


 声をかけられたので振り返ってみれば、そこには意地の悪そうな笑みを浮かべた四人組の少女が立っていた。


「……ちっ、お前らか」


 茂は思い切り眉をしかめた。【陰影スキア】というC級の冒険者パーティだが、最初からどうにもりの合わない奴らだったからだ。


「おいおい。そんな顔すんなよ?」


 リーダーの宇田うだ春奈はるなが肩をすくめた。そのままの姿勢で彼女は、


「いくら愛理が手に入らないからってさぁ」


 と、ため息混じりに続けた。


「はっ? 何を言って――」

「だってお前、愛理を自分のモノにしたいから空也を追放したんだろ? そんで偽の恋人になって、それで満足ってわけ?」

「っ!」


 図星を差されて、茂は返答に詰まった。


「嘘⁉ 本当に?」

「だっさ……ないわー」


 他のメンバーが嘲笑ちょうしょうを浮かべる。


 なぜだ。

 茂の脳内では疑問符が飛び回っていた。

 なぜ目の前の女はそのことを知っている。まさか誰かが——、


「誰からも何も聞いてねえよ」


 茂の思考を見抜いたかのように、春奈は鼻で笑った。


「空也が略奪愛なんてするはずがないことも、愛理がお前になびくはずがないってのも、二人を少しでも知っていれば当たり前のようにわかるさ。大方、空也がいなくなった隙を狙って付け入ろうとしたんだろ? 愛理、空也に結構熱上げていたもんなぁ」

「なっ⁉」

「ま、愛理の気持ちもわかるよね。空也ってひ弱そうだけど顔も整っているし、気遣いもできて頭も良いから」

「ね。個人戦闘力は低いけど、自分のやるべきことを最大限やろうとする姿は好感持てたなぁ。少なくとも、ブレーンを自称しちゃうわりにはスッカスカの脳みそのどっかの誰かさんよりはよほど、ね」

「てめえら……!」


 少し前までの茂なら、春奈たちの言葉など鼻で笑っていただろう。自分が空也に負けるはずがないと思っていたからだ。


 しかし、愛理の本音を聞いてしまった今の茂には、彼女たちの空也贔屓(びいき)は効果絶大だった。


「愛理じゃなくても、まともな感性のある人だったら、確実に茂なんかよりは空也を選ぶよねー」

「——良い加減にしろよ!」


 他の誰ならいざ知らず、好意を寄せていた愛理によってプライドをズタズタにされていた茂に、そんな挑発に耐える余裕があるはずもなかった。


 茂は、右の拳で春奈に殴りかかった。


 しかし、気がついたときには、茂は地面に尻餅をついていた。

 頬に残る衝撃に、逆に自分が殴られたのだと理解する。


「良い加減自覚しろよ」


 頭上からあざけりの声が響いてくる。


「空也を追放した結果、【流星メテオロ】はC級にすら勝てず、お前は愛理に拒絶された。要はその程度だってことだ」

「そろそろ地に足つけなよ。それでやっと、空也と同格になれるかもよ?」

「いやぁ、まだまだでしょ」

「道のりは遠いだろうけど、応援しているよ!」


 最後まで茂を笑いものにしつつ、【陰影】はその場を去っていった。




◇ ◇ ◇




「……ちくしょう!」


 茂は悔しさのあまり、思いきり唇を噛んだ。


「くそがっ! くそがぁっ!」


 手に血がにじむのも構わずに地面を殴るが、茂はその途中ではたと手を止めた。


「……そうだ」


 狂気の笑みとともに呟く。


「こうなったのも全部、空也と愛理のせいだ」


 愛理への恋愛感情は、確かに茂の中に存在していた。しかし、あくまで茂の中で一番重要なのは彼の自尊心だ。

 それをメッタメタにされた今、茂の中に残るのは、その直接の原因となった空也と愛理への理不尽な憎悪だけとなった。


 特にその二人への憎悪が膨らんだのは、それだけ空也と愛理が茂の中で大きな存在だった——好悪は別として——ということだろう。


「……にくいか?」


 茂の背後から声が響いた。


「誰だっ?」

「その者たちが憎いか?」


 そこにいたのは、フードを深く被り、ローブで全身を包んだ人物だった。

 その声は男か女かわからないが、フードから覗く吸い込まれるようなピンクの瞳と脳内に直接響くようなその声に、茂は気がつけば頷いていた。


「ああ、憎いさ! あいつらが憎い!」

「……ならばこれを使え。使い方は紙に書いてある。必ずや、お前の復讐を助けてくれるだろう」


 茂に箱を手渡し、その人物は闇に紛れた。


 箱を開けると、中には筆と二枚の紙が入っていた。一枚は説明書で、一枚には幾何学的な模様が描かれている。


「……へへっ」


 それらは見るからに怪しい代物だったが、茂には自分の望みを叶えてくれる希望の道具に見えた。


「これを使えば、あいつらに復讐ふくしゅうできる……!」




 愛理は宿に閉じこもり、茂は狂気の笑顔を浮かべ、高志とほのかはひたすら情事にふける。


 空也を追放してから数日で、【流星】は早くも崩壊しようとしていた。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!


「面白いな!」

「続きが気になるな!」


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