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呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜  作者: シャイ
第一章

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第十話 追放Side② 崩壊 —前編—

愛理あいり

「今いくね」


 しげるが扉をノックしながら声をかければ、その部屋の主である少女はすぐに荷物を持って出てきた。


 愛理と偽恋人になってから数日。茂は毎日彼女を部屋まで迎えに行っていた。


 茂が空也くうやに唯一劣っているとすれば、それは愛理と過ごした時間だけだと茂は思っていた。空也が愛理を強引に誘い、優しい彼女は断り切れなかったのだろうが、これからは空也の邪魔は入らない。

 存分に二人きりで話すことができれば愛理は落とせるだろう、と茂は根拠のない自信を抱いていた。


「お待たせー」

「ああ」


 愛理と並んで外へ出る。


 一緒に向かっているとはいえ、これまではただ話をしているだけだったが、茂はそろそろ関係を進めようと考えていた。

 この数日で、愛理が茂に好意を抱いていることを茂は確信していた。一緒にギルドへ向かうことも拒まなかったし、その道中でも会話は途切れることはなかったからだ。


 空也と愛理は、二人でいても常に会話をしていたわけではなく、むしろ無言の時間も少なくなかった。それを、愛理は空也よりも自分とのほうが相性が良いからだ、と茂は考えていた。


「——で、あいつは頭部が一番の弱点なんじゃないか、と俺は考えた」

「そうなんだ。するどいね」

「そうでもないさ。こんなのはちょっと観察していれば誰でも気づく。他にも——」


 口は動かしつつも、茂は揺れる愛理の左手にチラチラと視線を向けていた。

 そして絶好のタイミングを見極め、茂はその手を掴んだ。


「な、何?」


 愛理が動揺した声を上げる。

 茂はその耳元に口を寄せた。


「昨日、俺らが本当は付き合ってないんじゃないか、なんて話している奴らがいてな。まあ十中八九(ねた)みだろうが、これくらいはしておいたほうがバレないだろう」

「まあ……そうだけど」


 愛理は視線を逸らした。周囲から「ね、相田あいだくんが何かささやいていたよっ」、「白井しらいさん、恥ずかしがっていない?」というひそひそ声が聞こえてきて、愛理はうつむいてしまった。恥ずかしいのだろう。

 この機を逃すわけにはいかないと、茂は愛理の指に手を絡ませた。いわゆる恋人繋ぎにしたのだ。


「ちょっとっ……?」

「恥ずかしいとは思うが、我慢しろ。これくらいは見せつけてやらないと」


 愛理は何か言おうと口を開いたが、結局言葉は発せられなかった。

 そして、無言で歩き出す。


 少しやりすぎたか、と茂は内心で反省した。おそらく男性経験の少ない愛理には、いきなり大衆の前で恋人繋ぎをするのはハードルが高かったのかもしれない——。


(やれやれ、これは意外と攻略に時間がかかるかもな。まあ、構わないが)


 少し前を歩く愛理を微笑ましいものでも愛でるような目で見ていた茂は、愛理が密かに漏らしたため息に気づかなかった。




◇ ◇ ◇




 ——冒険者ギルドにて。


「そろそろCランクの依頼も受けるか」

「ああ。問題ない」


 高志たかしの提案に、茂は即座に頷いた。ほのかも当然という顔をしている。

 しかし、愛理だけは否定的な態度を示した。


「……危険じゃない?」

「いや」


 愛理の懸念けねんを、茂は即座に否定した。


「今の俺たちなら問題はないさ」

「うんうん、この一週間で四人の連携にも慣れてきたしねー」

「……うん」


 茂とほのかの言葉に、愛理が曖昧に頷いた。


「愛理は心配性だな」


 茂は笑った。


「だが、心配するな。ほのかの言ったように、この一週間で俺たちの連携はある程度仕上がった。魔物の討伐速度もどんどん早くなっている。まあ、疲労は空也がいたときよりも多少溜まりやすくなっているが、それは道中に魔物と遭遇そうぐうしやすくなった、というのが大きい。【索敵さくてき】に関してだけは(・・・)、さすがの俺も空也に及ばないからな」


 しかし、空也は【索敵】だけの男。作戦立案や状況判断は茂のほうが明らかに優秀だ——。


 心の中で空也を見下していた茂は、自分が知らずのうちに発言でも空也を見下していること、それに対して愛理が不愉快そうな表情を浮かべたことに気がついていなかった。


「……まあ、それは確かに」

「そうだろう? それに——」


 納得し切れていない様子の愛理に、茂は眼鏡を押し上げながら自信たっぷりに告げた。


「俺が完璧な作戦を立てる。皆はそれを実行してくれれば良いさ」

「……うん。頼りにしている」

「よしっ」


 愛理からの激励——と勝手に解釈した——を受けて、茂は大きく頷いた。

 茂は自分が高揚しているのを感じた。空也は常に「完璧な作戦なんて存在しない」と予防線を張っていたが、それは単に空也に自信がなかっただけのこと。


 自分の作戦を完璧だと言い切れる自分こそパーティの頭脳だと、このときの茂は本気で思っていた。




◇ ◇ ◇




 完璧だと豪語した茂の作戦は、確かに十分に通用していた——Dランク以下の魔物には。


「くそっ!」


 茂は舌打ちをした。


 討伐対象であるCランクの【スネーク・テイル】——動きは鈍いが、吐き出す毒と固い尻尾による攻撃が特徴の蛇のような魔物——は、以前にも倒したことがあった。


 そのときにはそこまで苦戦せずに倒せていたというのに、今回は苦戦を強いられていた。

 というのも、なぜか(・・・)前衛のほのかと高志の調子が急に悪くなったのだ。


「ほのか、もっと距離を詰めろ! 高志ももっと積極的にいくんだ!」


 茂は()段通りの働きをしない(・・・・・・・・・・)仲間にげきを飛ばした。

 なぜ二人が普段通りに働けないのか、なぜ突然調子を落としたのか、などと考えもせず。


「無理だよっ、相手のほうがリーチ長いもん!」

「ああ。それに毒もある。間合いに踏み込むのはリスクが高すぎる」

「なっ……何を臆病風おくびょうかぜに吹かれている⁉︎ 前はもっと積極的に攻めていただろう⁉︎」

「そ、それは……」


 ほのかが言葉を詰まらせた。


「皆っ」


 後方から愛理の声。


「撤退しよう!」

「……はっ?」


 その予想だにしていない言葉に、茂の思考が停止する。


「……お、おい、待て愛理っ。なぜそうなる⁉︎」

「だって、このままじゃ勝てないよ! 再度挑戦するにしても、ちゃんと作戦をり直そう!」

「俺の作戦は完璧だ! あいつらの動きが鈍いせいで——」

「鈍くなるのは当然だよっ」


 愛理にさえぎられ、茂は言葉を詰まらせた。


「……と、当然ってどういうことだ⁉︎」

「これまでは空也が次の攻撃とかやるべきことをその都度教えてくれていた。それがなくなったんだから、二人がいつもより踏み込めなくなるのは仕方のないことだよっ」

「なっ——!」


 茂は絶句した。

 愛理の言い方では、まるで茂が空也より劣っているようではないか。


 この時点で、茂の中でわずかに残っていた冷静さは消え去った。


「愛理は、空也に比べて俺のサポートが足りていないって言いたいのか⁉︎」

「えっ? 別に茂個人がどうこうじゃなくて、パーティとして——」

「うるせえ!」


 茂の怒鳴り声に、今度は愛理が絶句した。


「俺の作戦は完璧だ! おい、ほのかっ、高志っ、お前らも俺のサポートが足りないと思うか⁉︎」

「えっ⁉︎ いや、別にそういうわけじゃ……」

「なら、今から俺の指示に従え!」


 もう茂には、目の前の敵を倒すことしか考えられなくなっていた。


(要は次の攻撃を予測してやれば良いのだろう? 【索敵】などなくとも、知能の低い魔物の攻撃を予測することなど容易たやすい)


「これまでの傾向から考えて、そのクソ蛇は毒がかわされるとすぐに尻尾で攻撃をしてくる習性がある。高志がおとりになって毒を吐かせ、尻尾で攻撃をさせたところで、ほのかが尻尾を攻撃するんだ! 尻尾と毒、どちらかを潰せば勝ちは確定だ!」

「待って! そんな決め打ちじゃリスクが高すぎるよっ! 空也は【索敵】が上手かったからできただけで——」

「良いから愛理はサポートだ! 俺が読み間違えるはずがないだろう!」


 茂は愛理を怒鳴りつけた。

 愛理は空也のことを過大評価しすぎている。ここで茂が空也に勝っていることを証明し、その誤解を解いてやる必要がある。


「ほのか、高志!」

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「ああ!」

「よしっ、ほのか」

「う、うんっ」


 前衛の二人が頷き合い、同時に動き出す。

 愛理も説得を諦めたようで、サポートの体制に入った。


 これで良いのだ、と茂は口元を緩めた、

 この作戦が成功すれば、愛理も自らの勘違いに気がつくだろう。


 高志が突っ込んでいく。それを牽制するように、スネーク・テイルが毒を吐いた。


「ほのかっ」

「うん!」


 高志とは別方向に待機していたほのかが、至近距離から魔法を展開した。


「……あれ?」


 ほのかの口から間抜けな声が漏れる。

 茂の読みでは、ほのかには尻尾による攻撃が来るはずだった。


 しかし実際には、スネーク・テイルは尻尾をぴくりとも動かさず、高志に向けていた口をそのままほのかに向けた。


「——危ない!」


 愛理の悲鳴に近い叫び声と同時に、スネーク・テイルの口から毒が発射された。

 攻撃魔法を展開していたほのかは、それを避けることも防ぐこともできなかった。


 しかし、毒が彼女に届く直前、彼女を結界が覆った。愛理の【魔の結界(マギア・カリマ)】だ。


「撤退しようっ」

「う、うん!」

「ああ」


 スネーク・テイルに【魔弾マギア・スフェラ】を浴びせ、愛理が距離をとる。ほのかと高志もすぐにそれに賛同した。


「……くそがっ!」


 パーティメンバーが誰も戦わないという状況では、茂も逃げを選択するしかなかった。




◇ ◇ ◇




 スネーク・テイルの動きは素早くないため、撤退戦はそこまで難しいものではなかった。


 しかし、その道中の雰囲気は最悪と言って良かった。

 ほとんど会話もない。あったとすれば、ほのかが「助けてくれてありがとう」と愛理にお礼を言い、愛理がそれに答えたくらいだ。


「……ねえ」


 魔物の出現しない街中に戻ったところで、愛理は自身の前を歩いていたパーティメンバーに声をかけた。三人が黙って振り向く。


「今は、皆無事に生きて帰って来れたことを喜ぼうよ」


 愛理は静かに語り始めた。


「私たちは空也の貢献度を過小評価していたんだよ。彼の【索敵】や臨機応変な指示は、私たちの大きな助けになっていた。Dランク以下が相手ならいざ知らず、Cランクが相手なら力の配分や温存も考えないといけない。本来は自分で考えないといけないことを、私たちは空也に頼りすぎていたんだよ」


 茂とほのかが唇を噛み、悔しそうな表情を見せた。


 それを見て愛理は悲しい気持ちになるが、今はそれを指摘している場合ではない。

 自分の個人的な感情は後回しにしよう、と愛理は思っていた——思わぬ横槍が入るまでは。


「じゃあ愛理は、俺たちは空也がいないせいでやられたと言いたいのか?」


 その声に目を向ければ、高志が冷たい瞳で愛理を見ていた。

 そのただならぬ雰囲気に気圧けおされつつも、愛理は頷いた。


「……うん、そういうこと。高志も感じていたでしょ?」

「ハッ。お前、マジで言ってんのかよ?」

「えっ?」


 愛理の問いかけは、半ば同意を確信していたものだった。

 だからこそ、それを鼻で笑った高志の態度に間抜けな声が出た。


「……何が言いたいの?」

「マジでわからねえのか?」


 高志が頬を吊り上げた。


「あんなゴミがいなくなっただけで俺らが弱くなるはずがねえ。そう言ってんだよ!」

「高志⁉」


 茂が驚愕きょうがくの声を上げる中、愛理は絶句していた。

 高志の「あんなゴミ」が指し示すのは、何をどう考えても空也しかあり得ない。


「おい、何言っている?」

「はっ、茂。お前だって俺と同意見だろうがよ。あのゴミは確かに【索敵】は多少使えたかもしれねえが、戦闘自体ではまるでゴミ。あいつがいなくなったのに、俺らが弱くなるなんざあり得ねえだろ! あいつの予測がなければ動きが鈍くなるのも当然? 冗談きついな。今日は戦い方が変わって以来初めてのCランクだったから、ちょっとうまくいかなかっただけだ。この俺が、あんなゴミに助けられていたなんてあり得ねえからな!」


 愛理は急速に心が冷えていくのを感じた。

 情緒不安定にまくし立てる高志だけではない。茂もほのかも、高志の豹変ひょうへんに驚愕の表情こそ浮かべてはいるが、それだけだ。


 その指し示すところは一つ。彼らは、皆一様に空也をお荷物としてわずらわしく思っていたのだ。


 思えば、そんな兆候はこれまでに何度もあった。空也がいなくなる前にも、いなくなった後のごく最近にも。

 知らなかったわけではない。愛理が見て見ぬふりをしていただけだったのだ。


 ああ、駄目かもしれない——。

 愛理はメンバーに背を向けて歩き出した。


「お、おいっ」

「付いてこないで」


 その腕を掴もうとする茂の手を、愛理は冷たく払った。


 とにかく今は、一人になりたかった。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!


「面白いな!」

「続きが気になるな!」


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