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第92話 日ノ本大学湘南、再び

 秋季大会の県大会の一回戦でいきなり日ノ本(ひのもと)大学湘南(しょうなん)高校と当たり、夜月(やつき)のくじ運の悪さをチームに嘆かれる。


 あおいも予想外のくじ運にため息がつくなど、夜月にとって最悪の結果となってしまった。


 それでもここを勝ち切れば自身にも繋がる一勝となり、強豪との試合もかかってこいというポジティブシンキングへと変わった。


 今回の試合のスターティングメンバーは……




 先攻・日ノ本大学湘南


 一番 ピッチャー 涼宮晴人(すずみやはると) 二年 背番号1


 二番 サード 谷口実(たにぐちみのる) 二年 背番号5


 三番 センター 長門勇樹(ながとゆうき) 二年 背番号8


 四番 セカンド 須藤清(すどうきよし) 二年 背番号4


 五番 キャッチャー 古泉一輝(こいずみかずき) 二年 背番号2


 六番 ファースト 朝倉涼(あさくらりょう) 二年 背番号3


 七番 ライト 国木田亮介(くにきだりょうすけ) 二年 背番号9


 八番 レフト 新川健介(あらかわけんすけ) 一年 背番号7


 九番 ショート 九曜雫(くようしずく) 二年 背番号6




 後攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 二年 背番号4


 二番 ショート 木村拓也(きむらたくや) 二年 背番号6


 三番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 二年 背番号8


 四番 レフト 朴正周(パクセイシュウ) 一年 背番号7


 五番 ファースト 野村悠樹(のむらゆうき) 一年 背番号13


 六番 サード 松田篤信(まつだあつのぶ) 二年 背番号5


 七番 ライト 尾崎哲也(おざきてつや) 一年 背番号9


 八番 キャッチャー 津田俊光(つだとしみつ) 一年 背番号2


 九番 ピッチャー 楊瞬麗(ヨウシュンレイ) 一年 背番号11




 ――となった。


 相手先発の涼宮は球速だけでなく、前回の夏の反省点であった変化球の取得が成功し、今ではスライダー、カットボール、カーブ、シュートくらいは投げれるようになった。


 さらにささやき戦術が出来る長門が二番手キャッチャーも務めるなどこのチームはユーティリティに溢れるメンバーとなった。


 整列を終えて試合が開始され、一番バッターの涼宮が打席に入る。


「来いよ!」


「スッゲエ自信に溢れたフォームだなー。けど(シュン)のコントロールでちょっと翻弄(ほんろう)してみたいからいきなりど真ん中で攻めちゃう?」


「ど真ん中はさすがに甘すぎます。いくら津田くんの強気でもそれは違うかと」


「わざと首を振らせたんだよ。ストレートには変わらないけど低めに放ってくれ」


「それなら大丈夫です。それっ!」


「ストレート……甘いっ! うっ……!」


「ストライク!」


「軽く沈んだ……?」


「ナイスボールだぞ舜! その通りさ、何せ今のはストレートじゃなくて『チェンジアップ』だからさ。あんな球は緩急さえしっかりすればなんとでもなるスローボールだからな。ちょっと沈み気味なスローボールでいいんだよ。もう一回行くぞ」


「チェンジアップはただの遅いストレートではなく、ゆっくり見えないように沈んでいく緩急の基本です。涼宮さんみたいにストレートに強い人には緩急でいじらせていただきますよっ!」


「あーもう! また遅い球ーっ!」


「ストライク!」


「いいぞ舜! もうスローボールが目に焼き付いてるだろうからストレートでビックリさせてやろうぜ」


「そんな単純な……けどはずれても構わないのならいっそここに……っと!」


「急にストレート……!? でもこれならボー……」


「ストライク! バッターアウト!」


「はあっ!? 何で!?」


「ギリギリストライクゾーンだよ」


「ミットの位置からして本当だ……チクショー!」


 涼宮は楊のコントロールのよさと変幻自在な緩急に踊らされ、一番のスラッガーを封じる事が出来た。


 谷口と長門も簡単に打ちとって東光学園の攻撃。


 ベンチで清原が出番なくて若干不機嫌なのは秘密だが山田のセーフティバント、木村のバントヒット、夜月のフォアボールで一気に満塁になる。


 朴はバットを握るとまた熱血モードになり、豪快なフルスイングを決めていった結果……


 カキーン!


「ゲッ! 嘘でしょ!?」


「ライト追ってください!」


「これは大きすぎる……!」


 カコーン!


 朴のフルスイングがライトに大きく当たり、そのままスタンドを越えて満塁ホームランとなった。


 涼宮は打たれ込むとイライラしやすい性格だったが、須藤による短気対策で『甘く入ったお前が悪い』と言い、涼宮も頭が冷えて冷静になった。


 野村と松田、尾崎を簡単に三球三振に抑え込み、須藤は『やれば出来るじゃないか』と褒めた事でギアが上がっていった。


 2回の攻撃で須藤の打席になると、無気力なオーラで津田にとってやりにくいバッターとなる。


「キヨ! お前が打たないと始まらないぞ! 四番バッターでしょ!」


「涼宮の強制政権で決まった四番に何を求めてるんだ……? まあいいや、来いよ!」


「この人は何を考えてるのかわかんねー……。バントで来るのか、やっぱり打ってくるのか……どうリードしたらいいのか分かんないからストレートでいいや」


「津田くんは分からないと少し投げやりなんですよね。でも構えてるコースがかなり際どいのは僕の制球力を信頼しているからこそです。期待に応えて差し上げましょう!」


「ストレート……ふんっ! うぐ……」


「サードォーッ!」


「おーし! そらっ!」


「ナイスボールです!」


「アウト!」


「あいつとんでもないピッチャーだな……」


「そうですね。涼宮くんにもあのコントロールは欲しいところですね」


「球速が大したことがないから余計に打ちづらいぞ。それに……投げる直前まで手が隠れてるからどこで投げてくるかわからんぞ」


「タイミングが取りづらいのですね。わかりました、打ってみせましょう」


 そう言って古泉は本当に二遊間(にゆうかん)を抜けるセンター前ヒットを放つ。


 しかし後続が続かずに朝倉がダブルプレーで国木田がファーストフライに終わる。


 2回のウラ攻撃も涼宮の速いストレートにようやく手にしたデータのない変化球で三振の山を築いていった。


 しかし涼宮の変化球取得したてというハンデが出てしまうのは8回のウラからだった……。


「聞いてくれ、あいつの癖がようやくわかったぞ」


「何? それは本当か?」


「マジっすか先輩!」


「今試合に出てるメンバーは全員ベンチ裏に来い」


 夜月は涼宮を観察していく内に癖がわかり、それが相手に悟られないように口を隠すようにしてベンチ裏に下がっていった。


 石黒監督も念のためにベンチ裏に下がり、夜月はすべて説明した。


 すると不思議なことに、先頭バッターの夜月がいきなりライトオーバーのツーベース、朴もタイムリーに続き野村や松田も変化球を簡単にとらえていった。


 尾崎や津田はシングルヒットに収まるが、楊でさえヒットを放つようになり涼宮はイライラが募ってきた。


 すると須藤は満塁のところで一番バッターの山田になった瞬間にタイムを取った。


「まずいぞ、今さっきやっと気付いたんだが、お前は変化球を覚えたてだから投げる前に握りを確認する癖を見抜かれたようだ」


「そんな……! じゃあどうすればいいんだよ!」


「ここは俺に任せてくれないか? エースで主将のプライドがあって完投したいのはわかる。だがここで意地張って投げ続けたらプライドの高いお前は、いずれ気が散ってキレてしまう。そうなるとお前は試合に出れなくなる可能性だってあるからな」


「うぐ……! そういう事ならマウンド譲ってやるよ。でも打たれたりフォアボールになったら殺すからな!」


「はいはい。じゃあ尻拭(しりぬぐ)いといきますか」


「それじゃあキャッチャーも交代しますね。すみません、ピッチャーの涼宮くんがセカンド、セカンドの須藤くんがピッチャー、キャッチャーの古泉がセンター、センターの長門くんがキャッチャーになります」


「わかった。伝えておきますね」


 こうして日ノ本大湘南は選手の交代をし、セカンドで無気力な須藤がピッチャーになった。


山なりなボールだが、これは相手を油断させるためのフェイクで、スタミナがあまりないので温存という意味も込めてあえて手を抜いている。


 しかし手を抜いてるのがバレたら困るので、感情突起(とっき)が激しい涼宮に一芝居(ひとしばい)打ってもらった。


「キヨ! お前偉そうな口してその程度のピッチングか! だったら俺と代われ!」


(つーん)


 須藤はあえて涼宮の罵声を無視してマウンドに立つ。


 そして山田がこれは打てると確信したのか自信が湧いてきた。


 ところが……


 スパーン!


「え……?」


「ストライク!」


「嘘だろ……?」


「あいつ送球の時よりも速いぞ……!」


「どういうことだ……?」


「須藤清……思い出したよ! あの人は確か『中学で日本代表のメンバーの一人』だった須藤清くんだよ! 最初に試合したときにセカンドだったから気付かなかったけど、無気力なオーラから放つ速球によるギャップで打ちづらいことでも有名だよ!」


「えっ……?」


「じゃああいつは何でセカンドに……?」


「マジかよ……オイラから本気とか冗談じゃないぞー!」


「彼は中学最後の試合、右肘を痛めてピッチャーをやめた。一番得意な変化球も封印した。でも野球はやめたくないからって野手にコンバートした。普段はやる気がなくて無気力だけど、本気を出せばこのくらいは余裕。でもこの試合で投げるのは最後かもしれない……」


「そうなのか……長門がそう言うならそうなんだろうな。そうとなったら全力で戦うぞ! 来いキヨ!」


「やれやれ……もう完治しているのにイップスなのかマウンドが怖いな。けどチームのためだ……ここで抑え切るぞ!」


「うぐ……!」


「ストライク!」


 須藤の珍しい気迫のこもったピッチングで山田と木村は三振、一巡(いちじゅん)した夜月はキャッチャーフライに終わって5点で止まった。


 9回の表で日ノ本大湘南の攻撃から東光学園はピッチャーを交代。


 抑えピッチャーに鈴木翼(すずきつばさ)が就任し、鈴木の特徴は楊に負けない制球力でサウスポーなので余計に打ちづらいピッチャーだ。


 スタミナがないので中継ぎや抑えという役割になる。


 二番の谷口はあっさり三振、三番の長門はレフトオーバーの打球も朴の俊足に取られてツーアウトになる。


 しかし四番の須藤は右肘を軽く押さえながら打席に立ち、ツーストライクツーボールで鈴木の放った投球にフルスイングし……


 カキーン!


 須藤の打球はセンターまで大きく飛び、そのままスタンドインして意地のソロホームランとなった。


 しかし反撃もここまで、五番の古泉が山田のファインプレーからの送球が困難と判断して木村にトス、そこからファーストの野村へ送球して二遊間による超ファインプレーに(はば)まれて試合終了。


「日ノ本大学湘南と東光学園の試合は、5対1で東光学園の勝利です! では……礼っ!」


「「あざっしたー!」」


「「ありがとうございました!」」


 こうして初戦を勝ち抜き、次の試合は横浜向学館(こうがっかん)と県立小田原北(おだわらきた)高校の勝者だが、悲願校でもある横浜向学館が小田原北を相手にコールド勝利して次の相手が決まる。


 悲願校だがいつ甲子園に行ってもおかしくない横浜向学館を相手に次の駒へ進めるのか……?


 つづく!

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