第93話 横浜向学館、再び
悲願校でもある横浜向学館は、東光学園に勝とうとして必死に練習してきた強豪校だ。
この実力なのでいつ甲子園に行ってもおかしくないとも言われているので、このままの勢いで行けば甲子園初出場も夢じゃないと言われている。
そんな横浜向学館との試合のスターティングメンバーは……
先攻・東光学園
一番 セカンド 山田圭太 二年 背番号4
二番 ショート 木村拓也 二年 背番号6
三番 ファースト 夜月晃一郎 二年 背番号8
四番 レフト 朴正周 一年 背番号7
五番 センター 木下泰志 一年 背番号23
六番 サード 松田篤信 二年 背番号5
七番 ライト 尾崎哲也 一年 背番号9
八番 キャッチャー 津田俊光 一年 背番号2
九番 ピッチャー 園田夏樹 二年 背番号1
後攻・横浜向学館
一番 セカンド 降幡佐衣 一年 背番号4
二番 ショート 伊波杏介 一年 背番号6
三番 ファースト 小林愛斗 二年 背番号3
四番 ライト 小宮雄一 二年 背番号9
五番 センター 斉藤夏希 二年 背番号8
六番 サード 楠木友則 一年 背番号5
七番 レフト 鬼頭明李 二年 背番号7
八番 キャッチャー 小倉唯太 一年 背番号2
九番 ピッチャー 石原夏緒 二年 背番号1
――となった。
一年生があまりにも台頭しているので新戦力としても期待できるからか、今秋季大会でも優勝候補と言われている。
石黒監督は横浜向学館のデータをあおいに託し、東光学園からの攻撃になる。
ピッチャーの石原は能力的には大して凄くはないが、それも全国レベルの平均値を越えているほどの実力者で何でも器用にこなす選手だ。
どこかに突出はしていないがバランスがとくによく、キャッチャーの小倉とは少年野球時代からバッテリーを組んでいる先輩後輩コンビだ。
山田と木村はその二人の阿吽の呼吸にやられてしまう。
そこでチャンスに強いがランナーがいないと打てないと思われている夜月が打席に立つ。
「来い!」
「この人はランナーがいないと打てないとよく言われてるけど、この人の勝負強さは本物で追い込まれるとどこに打つかわからないんです。夏緒さんほどの実力ならあえてそっちの方向へ打たせることも出来ますが……」
「心配しないで。俺には秘策のあの変化球があるから。それは……これだっ!」
「うぐっ……ナックルか! くっ……!」
「打たせた! ファースト!」
「オッケー! それっ!」
「アウト!」
「やられた……あのピッチャー強打者だと思われたらナックルを投げてくるぞ」
「マジっすか。夜月先輩認められたんですね」
「朴も気を付けろよ」
「はい」
守備に着くと園田はもちろん安定したピッチングで三者凡退に抑え切る。
しかし津田の単純なリードで園田は少し投げづらそうだったのが見えた。
園田は榊や川口みたいに本能で投げず、ちゃんと考えて投げるクールタイプなのでキャッチャーが迷いなくサインを出すと考える余裕がなくなってしまう。
だからといって考えすぎてバッターに考える時間を与えるのも嫌がっているので津田のテンポの速さは園田にとって扱いづらいけどそこは投げやすくはあった。
2回の表では朴がシングルヒット、木下も送りバントに成功と幸先がよくなってきたはずだった。
なんと送りバントのはずがサードの楠木が悪送球でハーフバウンドになってしまい、ファーストの小林が身体を引いて捕ろうとしたため木下と接触。
木下は小林に体当たりする形になったが、走塁妨害で何と一気にランナーが二塁と三塁でチャンスになる。
熱血男の松田が犠牲フライを放って朴を返すと先制点を取る。
「っしゃー!」
「ナイス犠牲フライっす松田先輩!」
「本当はヒット打ちたかったけどな!」
しかしチャンスを掴むも後続の尾崎と津田が凡退。
2回のウラでは園田の本格的なピッチングでランナーを出すもゲッツーで抑え込んで崩れる事がなくチェンジする。
3回と4回、5回と6回では毎回ランナーを両校とも出すもなかなか得点に結びつく事がなかった。
7回の表では園田の代打で清原が打席に立ち、何とソロホームランを放って2対0に。
7回のウラで代打の清原からピッチャーを交代。
センターの木下がピッチャー、ファーストの夜月がキャッチャー、さらにファーストには野村悠樹、センターに坂本大輝が入る。
夜月にとって公式戦初のキャッチャーで、ついに天童と一緒に病院で勉強したキャッチャーの実戦だ。
相手バッターは四番の小宮で、ホームランは打てないが美しいバットコントロールで安打を稼ぐバッターだ。
すると……
「木下の球質的にはストレートはあんまり伸びがないし、正直ピッチャーとしては心許ないだろう。ただコントロールとピンチへの強さ、さらに変化球のキレは本物でストレートの弱さをカバーできるからな。ここはやはり……お前の力を活かさせてもらうぞ」
「兄貴のリードは最初は単純だったけど、天童先輩に教わってからサイン出すのが早いのに考え抜いたリードするようになったなあ。外してもいいからアウトコースにスライダーを要求通りに投げるっと!」
「これは外れるな……」
「ストライク!」
「え……?」
「嘘でしょ……?」
「どう見てもギリギリボールだろ……!」
「はっはっは! 夜月ー、まさかビタ止めで審判にストライクアピールするとはなあ! それに……ミットの捕球音があまりにも大きく響いてるな。さては吹奏楽部にいる滝川留美って子に音の仕組みを教わったか?」
そう、夜月は純子プロデュースでキャッチャーコースも教わっていた。
夜月は単純なのに考え込むクセが身についていて、どうすれば難しい仕事を簡単にこなすかを徹底的に叩き込んだ。
滝川留美という麻美の先輩を紹介され、音の鳴る仕組みを勉強してミットの捕球音の鳴らし方を学んだ。
それは芯で捕るだけでなく、ボールを迎えに行って勢いを殺すのではなく、あえて待つことで勢いのあるボールを受け止めるというやり方だ。
おまけに際どいものは全部ビタ止めして露骨に動かさないので審判からも好印象を持たれる。
そのキャッチングを活かして特徴があまりない木下でさえ三者凡退で抑え切った。
8回の表、四番の朴がここに来て打撃が覚醒の兆しを見せる。
「ファール!」
「この子、何回ファール打って粘るんだ……?」
「なかなか前に飛ばねえな。もし大振りが原因で振り遅れた上に下半身が使えてないならいっそ……よし!」
「バットを短く持った……? 朴のパワーならそんな事しなくても飛ぶのに。もし自分の弱点に気付いたならマズい……際どい球攻めで逃げ目にしましょう」
「短く持つという事は大振りを避けるという意味。朴ほどの強打者がコンパクトなスイングしたら危険だし、その方がいいかも! あ……」
「失投……!?」
「もらった! と思い込んだら詰まるから……そらあっ!」
「うわっ!」
朴のコンパクトなスイングによって弾丸のようなライナー性の打球で、そのままレフト方向へ大きく飛んでいった。
その結果はレフトもジャンプしても届かないくらいの距離になり、そのままスタンドの中に入っていった。
結果はソロホームランで3対0になる。
しかし8回のウラ、木下と夜月の実戦経験のなさが露呈し始めた。
木下は投げ慣れてないのでスタミナが切れはじめてボールが浮く。
夜月もピッチャーが疲れて来た時のリードがまだ完成されておらず、どうすればいいかを考え込んで不安にさせてしまった。
その結果……
「選手の交代だ! 木下がベンチに、ピッチャーに松坂梅太郎! キャッチャーの夜月がファーストに! ファーストの野村は下がってキャッチャーに吉永裕介!」
木下が降板して松坂が登板、ファーストに野村から夜月へ、そして松坂の長年の相棒の吉永とバッテリーを組む。
二人は中学で一緒だったがよく喧嘩をする仲で、野球になると無言のコミュニケーションが取れるほどの黄金バッテリーだ。
松坂はスタミナはあるものの消費が激しく先発するには心許ないが、自慢の速球と切れのある変化球で中継ぎとして充分な速球派ピッチャーになる。
ただし荒れ球で弱い打者には手を抜いてしまう力配分、そして強打者にはスタミナを考慮しないで全開で投げるので燃費がよろしくない。
吉永はそれを把握して短期決戦で済ませ、性格を把握しているからこそ痴話喧嘩しつつも松坂を楽にさせた。
9回の表の攻撃には坂本のセーフティバント、吉永の送りバント、山田と木村のフォアボールで満塁となる。
ここでチャンスに強い夜月に回ると、スリーボールとツーストライクのフルカウントに持ち込むと二球ファールで粘る。
10球目を石原が投げた瞬間……
カキーン!
「マズい……このままでは抜ける! センター!」
「オーライ! うっ……追いつけるか……!? いけそうだ……くっ!」
「うおー! 抜けたぞ! 山田走れ!」
「オッケー!」
「ナイスバッティング夜月!」
「おっしゃー!」
5対0を迎えた直後の9回ウラ、ここで松坂の荒れ球が災いして伊波と小林の二者連続フォアボール、次の打者の小宮にツーベースタイムリーで5対1に、次に斉藤のスリーベースタイムリーヒットで5対3になってピンチが続く。
ここでピッチャーを交代して松坂からまさかの田村孝典に交代する。
田村のピッチングは他の投手陣に比べたら相当劣るが、炎上防止のストッパーでもありユーティリティープレイヤーでもあるので何をやってもそつなくこなす。
その結果、斉藤相手にまさかの牽制でワンアウト。
楠木を三振にしてツーアウト、そして……
カコン!
「ピッチャー!」
「オーライ!」
パシッ!
「アウト! ゲームセット! 整列! 東光学園と横浜向学館の試合は5対3で東光学園の勝利です。では……礼っ!」
「「あざっしたー!」」
「「ありがとうございました!」」
試合は東光学園の勝利に終わり、次の3回戦の相手は県立海老名西高校と因縁の川崎国際の勝者だ。
ピッチャーの植木が完璧なピッチングで抑え込み、県立海老名西をノーヒットノーランに抑え込んでコールド勝利。
次の相手は夜月にとって天敵の川崎国際が相手となる。
つづく!




