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第73話 聖英学園

 準決勝の相手は東京覇者の聖英(せいえい)学園となった。


聖英会(せいえいかい)という宗教団体(しゅうきょうだんたい)が母体にあり、神道だけでなくキリストやイスラム、仏教やヒンドゥー教の教えを取り入れて現代風にアレンジされた新興(しんこう)宗教で、『宗教的教えを受け継ぎつつ現代を生きやすくする』を教訓にしているところだ。


会長兼教祖の人は『自分を崇拝(すうはい)せよ』と言う人ではなく、むしろ『自分もまた(しゅ)によって創られたただの人間にすぎないから私を崇拝なんかしなくていい』と言う人間性から愛される教祖がいる。


 そのためか人間性に優れた生徒や信者が多いこの学校との試合のスタメンがこちらだ。


 先攻・聖英学園


 一番 ショート 倉持友一(くらもちゆういち) 一年 番号6


 二番 セカンド 小湊陽介(こみなとようすけ) 二年 背番号4


 三番 センター 伊佐敷潤(いさしきじゅん) 二年 背番号8


 四番 ファースト 結城哲郎(ゆうきてつろう) 二年 背番号3


 五番 サード 増子徹(ますことおる) 二年 背番号5


 六番 キャッチャー 滝川(たきがわ)クリスティアーノ李央(りおう) 二年 背番号2


 七番 ライト 白洲三郎(しらすさぶろう) 一年 背番号9


 八番 レフト 坂井一郎(さかいいちろう) 二年 背番号7


 九番 ピッチャー 丹波光太郎(たんばこうたろう) 二年 背番号1



 後攻・東光学園


 一番 ショート 志村匠 二年 背番号6


 二番 セカンド 岡裕太 二年 背番号4


 三番 キャッチャー 天童明 一年 背番号2


 四番 サード 中田丈 二年 背番号5


 五番 ファースト 清原和也 一年 背番号3


 六番 センター 夜月晃一郎 一年 背番号8


 七番 ライト 本田アレックス 二年 背番号9


 八番 レフト 三田宏和 二年 背番号7


 九番 ピッチャー 松井政樹 二年 背番号1


 ――となった。


 今回はレギュラー全員で挑み、確実に決勝に進もうという作戦だ。


 神宮大会では平安館に敗れて当たらなかったが、今回が公式戦で初勝負となった。


 青と黄色がスクールカラーで、試合前に黙祷(もくとう)を捧げるのがチームの特徴だ。


 1回の攻撃の前に黙祷を捧げ、一番の倉持が打席に入る。


「っしゃー! 来い!」


「聖英会は『学校に入るのに入信を強制しない』と聞くが、こいつが信仰しているとは思えないんだよな。なんかヤンチャなやつって感じがするし。多分早打ちする傾向がありそうだし勝負を決めましょう」


「相変わらず自信満々だなあ……。でもそれが君らしいけどね。手始めに真っ直ぐでいこうかな!」


 スパーン!


「ボール!」


「マジか、今日の審判はインコースに厳しめなんだな。覚えておこう」


「へえ、少しシュート回転してんのか。ならこれでいいか……」


高坂(こうさか)の情報では『こいつは俊足で盗塁されたら厄介』と聞いた。関川ほどではないにしろ、塁に出てほしくないから引っ張りには気を付けましょう」


「足が速いのに右打ちなんて、関川もそうだけど何だかもったいない気がするよ。だからこそ……流し打ちしてもらうよ!」


「やっぱりシュート回転した! そこだ!」


「しまった! サード」


「クッソ……! ボテボテとか嫌いなんだけど! おらぁっ!」


「っしゃー!」


「セーフ!」


「ハハハ! 俺の勝ちだな!」


「悪い清原! ちょっと浮いちまった!」


「平気っすよ! それより嫌いと言ったのによく捕りましたね!」


「ああ!」


「切り替えていきましょう! 盗塁されたら俺に任せてください! さてと……」


「倉持が出塁したおかげで俺も犠打かエンドランかで選択肢が増えたわけだ。これなら相手を揺さぶる事が出来るかもな。来い!」


「この小湊さんは正直、何を考えてるかわからないんだよな。あの笑顔は俺としても怖いし腹の奥が見えないから消極的(しょうきょくてき)になっちまう。倉持対策に軽くウエストしましょう」


「わかった……それっ!」


「高めか……」


 パシッ!


「ストライク!」


「ふーん……今のストライクなんだ」


「ナイスボールです! 振らなかったという事は様子を見ている可能性があります。もう一度真っ直ぐでいきましょう。ムービングでも構いませんよ」


「俺に選択肢を入れてくれてありがたいよ。変化球が多いからいっそまとめてしまえって言われるとこっちも覚えやすいし、俺にも自由があるからキャッチャー一人に責任を押し付けなくて済むんだよね。そういうキャッチャーに……もっと早く出会いたかった!」


「ストレート……ふんっ!」


「走れ!」


「走ったぞ!」


「ストライク!」


「もらったぜ!」


「させるかっ!それっ!」


 ズザーッ!


 倉持がすかさず盗塁を仕掛け、天童は自慢の強肩(きょうけん)で刺しに行く。


 夜月が後ろからカバーに行き、セカンドの岡が二塁ベースで天童の牽制(けんせい)を捕る。


 結果は――


「アウト!」


「げっ! これじゃあ陽介さんにお仕置きされるー!」


「うーん、空振りのし方がちょっと紛らわしかったかな……。後で倉持に謝っておこう」


 その後は三球三振に抑え、三番の伊佐敷もレフト方向にあわやホームランだった打球を三田がファインプレーで抑える。


 攻撃では志村と岡が丹波のスライダーに手も足も出なかった。


 天童がツーベースを放つも、中田がキャッチャーフライに終わる。


 2回には結城のツーベース、増子が三振も滝川がタイムリーでいきなり先制された。


 その後は松井もメンタルが少しブレてきたものの、天童が打たれる前にタイムを取って一呼吸置き、後続を二者連続で打ち取る。


 その後は3回でも倉持のセーフティバントで揺さぶりをかけられ、小湊のバントエンドランで清原がまさかの後逸(こういつ)でエラー、ランナーが一塁三塁で伊佐敷の引っ張りでレフト線へのタイムリーツーベースで3対0になる。


 四番の結城の威圧感で松井は負けてしまい、ついにど真ん中へ失投してしまった。


 その瞬間……


 カキーン!


 結城の放ったライナー性の打球はそのままバックスクリーンへ運ばれ、ダメ押しの5対0になった。


 3回の表でまさかのエースがノックアウトし、急遽園田にピッチャー交代をする。


「すみませんでした……! 本当に……すみませんでした……!」


「松井、君が謝るのは打たれたことなんかじゃないぞ。マウンドに立ったらどんなに威圧感があっても、エースたるもの絶対強気は無理でも、今の自分に出来る事は何でもやるって気迫(きはく)を見せなきゃダメだぞ。怖がって自分の武器を忘れちゃあせっかくの君のいいところが台無しだぞ。まあすぐ直せとは言わん。この悔しさをバネに一緒に這い上がっていこう」


「はい……頑張ります……!」


「松井、監督の言う通り失敗してもへこたれずにどう這い上がるかでエースの品格が問われる。俺もキャッチャーとして付き合うから一緒に頑張ろうぜ」


「田中……ありがとう……!」


「ったく、慎重で打たせて取るお前がまさか結城ってやつに気迫で負けるとはな……。あいつは相当バットを振り込んでいるな。天童も怖かったはずなのによく堂々としてられるよな」


「そうだね……」


 こうして松井が降板した後は園田が安定したピッチングを見せ、先発型とは思えない緊急登板でのリリーフもいいピッチングをしていた。


 その後は6回のウラに夜月のデッドボールで出塁後、中田がツーベースを放って一気にチャンスとなった。


 ところが初球で清原が大振りしすぎてしまい、キャッチャーの頭にバットが当たってしまった。


「守備妨害!アウト!」


「うぐ……!」


「おいー! 何やってんだー!」


「す、すんませんっ!」


「き、気にするな……。ヘルメットがあってよかったと言うべきだったな……」


「本当にすんませんっ!!」


「清原くんだっけ? 君はドアスイング気味だからもう少しコンパクトに振ると、君の持ち味だろうパワーがより活かされると思うよ」


「うぐ……! 審判にまで言われるなんて……!」


「清原、君はファースト交代だ。次からはベンチに下がってもらう」


「はい……!」


 松井だけじゃない、清原も丹波の放つ投手的威圧感に押されてしまい、東光学園の全選手が調子を落としてしまっている。


 現に聖英学園のバッターは早打ちとまでいかないが、積極的にフルスイングをして気て、バッテリーだけでなく野手もまたプレッシャーを感じていた。


 清原はかなりの打ちたがりで、聖英学園のバッターに悪い刺激を受けたのか自分もとでしゃばる真似をして大振りしてしまった。


 その後は中田も牽制に引っかかり、一気に東光学園のムードが悪くなる。


 しかし園田は熱血だがクールで、持ち前のマイペースさでピッチングに悪影響は出なかった。


 守備もファーストの清原から田村に交代し、守備をより固める作戦に出た。


 7回の表には増子によるスリーランホームランで点差を付けられ、既に8対0となった。


 そんな悪い流れのまま迎えた9回のウラ、ここで純子プロデュースを長く受けた夜月が覚醒し始める。


「来い!」


「ランナーがいない状態だと夜月はあまりいい打率ではないが、意外性を持っているのも事実だ。夜月で抑えても中田や本田も控えている。インコース攻めでいくぞ」


「そうだな。こいつを抑えれば流れが向こうに行くことはない……うしっ!」


「うおっ!?」


 パーン!


「ボール!」


「あっぶねー……!」


「少し抜けてきたぞ! 俺のミットに集中してくれ! 丹波のスタミナも連投が続いてここで限界が近づいたか。ならば……あえてカウントを稼ぎに行って早打ちしてもらうぞ」


「ツーシームで微妙に外か。やってやる!うしっ!」


「ピッチャーの放る球は大体アウトコースが多く、インコースを投げれる強気なピッチャーはいいピッチャーだと聞く。もし今のでインコースが怖いと思ったのなら……ここだっ!」


 カキーン!


 夜月は純子プロデュースでたくさん野球の戦術や戦略の本を読み込みしていて、その読み込みの効果が出たのか外に微妙に動いたツーシームを芯で当てる事が出来た。


 夜月の持ち前のパワーや、身体の解剖学(かいぼうがく)を理解した無駄のない動きで、さらに左打ちにとってアウトコースになった投球に逆らわずに流し打ちでレフトまで大きく飛んだ。


 坂井は諦めずに後ろへ追うも……


「入ったー! 夜月!起死回生(きしかいせい)のホームランだー! ここで一矢報(いっしむく)いる事が出来た! 中田だけだと思うな! 夜月晃一郎の覚醒だー!」


「よっしゃー!」


「ナイスバッティング夜月!」


「お前フラれてから随分吹っ切れたな!」


「まあいろいろあったんですけどね。でもホームランを甲子園で打ててよかった! 後はお願いします!」


「おう! 任せろ!」


 しかし反撃もここまで、中田はセンターの伊佐敷のダイビングキャッチでワンアウト、田村は三振でツーアウト、本田はセンターオーバーを放つも、二塁を狙ったところに伊佐敷のレーザービームの餌食(えじき)に遭い……


「アウト! ゲームセット!」


「よっしゃー!」


「では聖英学園と東光学園の試合は、10対1で聖英学園の勝利です! では両校とも……礼っ!」


「「ありがとうございました……!」」


「「あざっしたーっ!」」


 大差をつけられてしまい、東光学園は準決勝で敗退となった。


 松井と清原にとっては辛い出来事となり、自分たちのプレッシャーへの弱さを痛感した。


 天童も自分が強気で攻めすぎて無意識に投手に負担をかけてたことを反省、中田や本田も我こそはと力みすぎたことを課題とした。


 しかし夜月がここに来てようやく覚醒の兆しを見せ、同学年でも遅い覚醒となった。


 つづく!

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