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第67話 オフのトレーニング

 ほとんどの野球部がオフを過ごす中、夜月(やつき)は約束された佐倉や赤津木(あかつき)との自主練に参加する。


他にも常海大(じょうかいだい)相模(さがみ)有原(ありはら)東雲(しののめ)も参加し、とても充実したオフのトレーニングになりそうだ。


 集合場所である東光学園の第一野球場グラウンドに集まる。


 今日は日曜で硬式野球部の活動がたまたまオフで、それも全員都合がつく日がちょうど今日だった。


「えっと……赤津木くんははじめましてだよね?」


「ああ、有原だっけ? 足の速い選手だと聞いたよ。まあ俺の投球はそう打てないと思うけどね」


「返り討ちにするから覚悟しな?」


「東雲か、お前の打力は知ってる。でも勝つのは俺だし」


「まあまあ。それよりも早くトレーニングやろうぜ!」


「佐倉の言う通りだな。じゃあ最初のトレーニングは……」


「ブルペンで投げ込み!」


「ウエイトトレーニング!」


「千本ノック!」


「走り込みしかない」


「まずはキャッチボール」


「……。」


 全員やりたいメニューがバラバラで、夜月は『一体どうすればいいんだ』と一瞬考えた。


 すると夜月以外の4人はジッとお互いを(にら)み合い、『絶対にこの練習は(ゆず)れない』と言わんばかりの空気だった。


 夜月は石黒監督の今までの指導法のノウハウを活かし、全員にメニューを発表する。


「まずは走り込みをするが、ペースの速さよりも体を温めてから少し速めに走るようにしよう。次にキャッチボールは捕ったらすぐに投げるように意識、赤津木はキャッチャー経験が少しだけある俺がブルペンで受ける。千本ノックだと打つ方がしんどいから個人ノックにしておこう。ウエイトトレーニングは最後にして、重さよりもフォームを意識しよう。最後にティーバッティングとキャッチボールして終わりだ。どうだ?」


「おお! いいじゃんか!」


「へえー、夜月ってあの監督の影響受けてんじゃん」


「いいと思う!」


「悪くないな」


「まずは走り込むぞ。タイムのノルマはなしにしてケガなくバテずにいくぞ」


 夜月が仕切ると他のみんなも何だか同世代の監督に会ったみたいな気分になり、夜月の指導力に感心しながら走り込む。


 赤津木はさすがのスタミナで、先発完投を何度も成し遂げただけのことはあった。


 佐倉はパワーヒッターだからかすぐにバテ気味になるが、夜月が佐倉に陸上部のマラソンランナーに教わった長距離走の呼吸法を伝授(でんじゅ)し、あえて息を吐いてから勝手に息を吸うのを取り入れた力まない呼吸を教えた。


 赤津木も有原も東雲もそれを聞いていたのか、なるほど……と耳を傾ける。


 次のキャッチボールはピッチャーが出来る東雲と有原、甲子園でエースとして輝いた赤津木が投げ込み、ストレートの質を磨いた。


 赤津木の相手は夜月で、球速154キロの投球を(おく)さず捕ったことに赤津木は驚いた。


「おおっ……!」


「何だ? 俺が何かしたか?」


「いや、お前って外野が本職なのによく俺の球が捕れるなーって……」


「他のキャッチャー陣が忙しい時にブルペンキャッチャーをやってたからな。あの抑えの斉藤先輩の相手してたら慣れちまった」


「あのチリチリソフトモヒカンの先輩か! あの人のトルネード投法は何度打席に立っても慣れないぜ」


「だろうな。おまけにナックルも投げれるから緩急があって怖いぞ」


「ひえー……」


 キャッチボールは有原と東雲は佐倉が受け、有原は球速もコントロールもそれなりだがこれといった得意な変化球はなかった。


 東雲はスタミナもコントロールも球速もあるバランスタイプで、投げれる変化球は少ないものの変化量は凄かった。


 夜月と佐倉もマウンドで投げてみるも、佐倉は送球に難があるのか上へと投球が飛んでいく。


 夜月もマウンドに慣れてないからかショートバウンドが多く、変化球もカーブとスプリット、スライダー、シュートが投げれるが変化が不安定だった。


 次の個人ノックでは赤津木が打つことになり、サードに東雲、ファーストに佐倉、ショートに有原、そしてライトに夜月が着く。


 東雲と有原はファースト送球を、佐倉はバント処理やサード送球、夜月はライトゴロ狙いや三塁送球、バックホームをして捕球以外にもバウンド合わせ、強くて低い送球を強く意識して守備に取り組んだ。


 次はベースランニングだが……


「ベーランやだー!」


「俺ピッチャーだしあんま全力出したくねー!」


「あのなあ……ベースランニングしないと守備の選手と接触して最悪脳震盪(のうしんとう)を起こしたり、足を踏まれて出血で死ぬぜ? ベーランをちゃんとしねえとマジで怖いからな? それと単打だったのに足が速いと一気に二塁まで行って長打に出来るぞ。点を取りたくないのか?」


「取りたい!」


「もちろん!」


「ならベーランをしっかりやって走塁(そうるい)技術やスプリントの走りをしなきゃな」


「夜月くん、スプリントの走りって何かな?」


「ああ、さっきドリルでのお前らのダッシュをこっそり見たんだが……残念ながらお前ら全員()()()()()()()()だわ」


「ランニングタイプ?」


「何で?俺たち全力疾走(しっそう)しただけだけど?」


「その全力疾走のフォームが長距離を走る時と変わんないって言ってるんだ。その走りで短距離だとせっかくのパワーがロスして無駄な力みになるんだ。ちょっとビデオ見せるから見ろ」


 夜月が前の陸上部との合同練習に撮影した動画を見せ、野球部と陸上部短距離のフォームを比較する。


 赤津木と佐倉はまったくわからなかったが、足が自慢の有原は陸上部のフォームの違いに気付く。


「この人たち……(もも)をスゴく上げてるし、足の着地時間が極端(きょくたん)に短い。それに腕も前や後ろにめっちゃ大きく振ってる。何でこんなフォームになるんだろう?」


「それは……」


「それは筋肉自慢の俺に説明させてくれ!街雄(まちお)監督が言うには……『ハムストリングスや大殿筋(だいでんきん)だけでなく、この股関節らへんの筋肉こと腸腰筋(ちょうようきん)が強くて柔らかい』からなんだ。蹴る時にも使う筋肉で、陸上選手はみんなそれが発達してるんだよ。だから俺たち青葉(あおば)学院も腸腰筋を鍛えてるんだ」


「へえー……」


「佐倉くんって筋肉にだけは詳しいんだな。てっきり脳筋(のうきん)かと思ってたよ」


「東雲ー!」


 そんなやり取りがありながらみんなでスプリントの走りを意識してベースランニングする。


 いつもと違う筋肉を使ったからか、赤津木と東雲、有原はお尻が痛いと言う。


 佐倉は多少実戦は出来るものの、意識して走ったことがないせいかバテるのがやっぱり早い。


 夜月も普段同じ寮で陸上部短距離の阿部と走り込んでるとはいえ、ベーラン感覚では100メートルと違うのか疲れはじめた。


 次のウエイトトレーニングでは佐倉が重さにとらわれ過ぎないように重さを確認しながら全員を見守る。


 同時にマシンでの正しいフォームを教え、ケガしにくい強固な筋肉を作り上げる。


 ベンチプレスやスクワット、デッドリフトの正しいやり方を伝授してから全員筋力が上がり、いかに『力ずくだけでやってきたか』を痛感した。


 ウエイトだけでなくストレッチや体幹トレーニング、ボクシングを使ったスパーリングをして連動性や体幹力を身につける。


 最後のティーバッティングでは……


「これでいいな……。どーも! 東光学園硬式野球部の夜月晃一郎です! これからこの名門チームの選手たちと一緒にティーバッティングをやっていこうと思います!」


「ねえ、おまえ何やってるの? アイドル気取りなら帰るぞ」


「え? 赤津木くん知らないの? これこの学校では当たり前で、動画配信する事でファンを獲得するんだよ?」


「同時に俺たちの分まで知名度を上げて、常海大相模や金浜(かなはま)、青葉学院のアピールもするんだ。俺たち常海大相模は何度もコラボしてるからわかる」


「へえー……プロ意識が高いじゃんか」


「では紹介します。金浜高校のエースの赤津木暁良(あかつきあきら)と、青葉学院の佐倉響介(さくらきょうすけ)、常海大相模の有原翼(ありはらつばさ)東雲龍弥(しののめりょうや)です」


「えーっと……どーも!」


「おっす!」


「はーい!」


「こんにちは……」


「これから彼らのバッティングを見せてもらいます。俺がトスを上げますので、みんなはいつも通りのバッティングをしてください」


 こうして夜月のペースで配信しながらティーバッティングをし、赤津木は一発はあるがミートバッティングは得意じゃないのか空振りが目立った。


 東雲と有原はコンパクトに振っていて、確実にバットにミートしていった。


 佐倉は安定感に欠けるものの、大きな一発があって一度ネットを倒すほどのパワーを見せた。


 夜月はロビンに教わったことを思い出し、みんなのフォームを見て……


「なるほど。もうわかりました」


「え? 何がわかったんだよ?」


「みなさんのいいところと悪いところです。これから一人一人に言うからな」


 こうして覚醒の(きざ)しがある夜月によるバッティング講座が行われた。


 赤津木はパワーはあるものの、踏み込むときに顔の位置がずれる事、フルスイングする時に脇が開いてしまいバットが遠回りしている事だったので、テニスボールを(わき)(はさ)んでティーをした。


 顔がブレないようにアゴを肩に乗せ、振る時にもう片方の肩に移すイメージでやると赤津木の打撃は覚醒した。


 有原は足の左右のバランスが均等(きんとう)で、顔の位置も下半身主導もバッチリだった。


 代わりに少しホームベース側に踏み込む癖があるので、オープンスタンスにしてもらうことでボールがよく見えるようにした。


 東雲も同じく安定感があり、有原と同じ自分よりもバッティングが上手いと評したが、打つポイントが身体に近すぎるのでもう少し前で打つ意識を持たせ、ゾーンバッティングを伝授。


 佐倉はホームランを狙いすぎてアッパースイングが極端だったので、アッパースイングのままにしつつすくい上げすぎないような中田がよくやってるVの字打法を教えた。


 最初はダウン、打つ時まではレベル、そしてフォロースルーはアッパーとすることで佐倉らしい一発が安定してきた。


 そして自分自身は……また大振り癖がついたかと客観視し、赤津木と同じボールを挟んで打った。


 それとピッチャーのタイミングに最近合ってないなと痛感もしてたので、赤津木にピッチャーのフォームをしてもらってタイミングを計った。


 こうして自主練は終わり、グラウンド整備や片づけをして最後の配信の挨拶を済ませ、それぞれの家に解散する。


「今日は自主練ありがとな。おかげでお前らのいいところを見れた気がするよ」


「大エースの俺の実力を見れたんだから感謝してくれよな!」


「俺ももっと筋肉だけじゃなく、野球の基礎を学ぶぞ!」


「夜月くんの指導力は参考になったよ! 走りも取り入れてみるね!」


「これでライバル全員が強化されたな。春は負けないから」


「ああ。じゃあ……また夏に会おうぜ!」


 つづく!

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