第66話 初詣
夜月は年始に実家に帰省する事になり、久しぶりに成長した妹の姿を見るのが楽しみだった。
まだ6歳と幼稚園の年長とはいえ、兄から離れて寂しいのではないかと不安もあった中での帰省なので緊張しながら実家に戻る。
武蔵溝ノ口駅に着いて川崎市営バスに乗り換え実家まで乗る。
実家に着くと、何だか懐かしい気持ちになりどうやって声をかけようか迷った。
一応勝手に上がったみたいになるのもまずいので、インターホンを鳴らして家族に声をかける。
ピンポーン
「はい?」
「夜月晃一郎だ。今帰ったとこだ」
「おかえりなさい、寒いから早く入りなさい」
「ああ、ただいま」
「おかえりなさい!」
「待たせてごめんな暁子。お兄ちゃんは野球頑張ったぞ」
「うん! 秋の大会カッコよかったよ!」
「ありがとう。それで父さんと母さんの再就職先は見つかったのか?」
「それが川崎市から監視されて再就職どころかアルバイトすら雇ってもらえないのよ。あの悪政から早く解放されてくれないとうちらだけじゃなく市民全員が困ると思うんだけどね」
「民主党か。あそこって元々『日本革命隊』といって、テロリスト認定されて公安に監視されてなかったか?」
「ところが気に入らないものを買収した新聞社や週刊誌などを利用してヘイトスピーチを行い、逆らったら徹底的に潰す事で逆らわないようにし、市民たちを脅迫して市長や市議会を牛耳ったのよ。晃一郎やおじいちゃんがそれに気付いてくれたから今もこうやって活動を行えるから感謝してるわ」
「けど俺がそれに気付いたせいで父さんも母さんも職を失い、今もこの家は監視されているんだろ? 正直言って申し訳がねえよ……」
「いいのよ。それよりも学校は上手くいってるの?」
「ああ、まあな。部活も学校も悪くないぞ。ただ……市議会は東光学園を川崎市から追い出したいらしい。同級生から聞いた話だがな」
「なるほどね」
「あの民主党は敵だとわかったら何をしてもいいって思ってるし、このままだと日本は……いや、世界中に支部があるから世界はまた西暦のように無法地帯になる」
「そうならないためにも高校を卒業して、晃一郎が何かをきっかけに世の中が変わるといいわね」
「そうだな。暁子、難しい話してごめんな」
「いいの。私も民主党きらーい。自分勝手で他人の事を一切考えないもん」
「そうだな。さてと……暁子、溝の口神社で初詣に行くか?」
「うん!行く行くー!」
妹の暁子は夜月と離れてから精神的に成長し、寂しさはあったものの野球で活躍する兄を見て野球がしたいと言うようになったのだ。
教育ママで失業前まで銀行員をしていた母の恵美と難しい話をしながらも現状を報告し、学校でうまくいってることも話した。
こうして夜月は溝の口神社で初詣に行き、暁子と手を繋いでお参りをした。
おみくじでは小吉と普通の結果だったが、今年は何かいい事が起きそうな気がしていた。
おみくじを結び終えると、いつもの見慣れた人が晴れ着を着ていて、目線を追うと気付いたのか近づいてきた。
「晃ちゃん! 来てたんだ!」
「瑞樹か、その格好は……?」
「これね、お母さんがせっかく初詣に行くんだからこれを着ていきなさいって。暁子ちゃんも久しぶり」
「瑞樹お姉ちゃん久しぶり! すっごく綺麗だよ!」
「えへへ…ありがとう! 今お参り終わったところ?」
「ああ、終わったところだ。瑞樹はこれからか?」
「これからおみくじを引こうとしたところなんだ。晃ちゃんはどうだった?」
「俺は小吉だったよ。暁子も同じだ」
「じゃあ引いてくるから待ってて!」
晴れ着姿の幼なじみに少しドキッとした夜月は、暁子に『付き合えばいいのに』とからかわれる。
しかしコミケで告白されて付き合えるまで待ってる以上はそんな事は出来ないのだ。
おまけに推しと付き合えるのだから、簡単に裏切るわけにはいかない。
瑞樹がおみくじを引き終えると、ちょっとガッカリした態度で結んでくる。
夜月は恐る恐る結果を聞いてくる。
「瑞樹、結果はどうだった?」
「大凶だった……! とくに恋愛は最悪……!」
「そうか。何て書いてあった?」
「気持ちに気付いたときには手遅れだって。どういう意味なんだろうな……」
「まさか好きな人がいるとか?」
「それがわかんないんだよ。一緒にいると楽しいって気分になるのはわかるけど、それが誰の事なのか……」
「まあ、応援しているぞ」
「ありがとう」
「不安ならお祓いに行ってきたらどうだ? 俺も一応行こうと思うんだ」
「その方がいいかも。すみません、お祓いの希望なんですが……」
「はい。お二人とも厄年ではないので厄除けではないですが何を希望しますか?」
「俺は……病気にならないやつを」
「私は恋愛成就かな」
「暁子は?」
「お兄ちゃんたちが幸せになれるのがいい!」
「君、暁子ちゃんっていうんだ。他の人の幸せを願えるなんて偉いね! せっかくだから暁子ちゃんは見学なんてどうかな?」
「いいの? やったー!」
暁子はお祓いの見学をすることになり、夜月と瑞樹はお祓いをすることになった。
神道の伝統的な行事に緊張したが、巫女が緊張しなくて大丈夫だよと励まし、二人は少し落ち着く事に成功した。
お祓いを終えると二人は気持ちが少しだけ楽になり、今年もまた乗り越えられそうな気がした。
年始は3日まで実家にお互いいる事になり、部活の成果をそれぞれ話す。
「俺は高野連次第だけど春の甲子園には確実に出られると思う。まあ先輩たちが偉大だから出れるのであって俺の力ではないと思うが。天童も田中先輩と石田先輩の台頭で成長もしているし、いいところまでいけたらいいかなって思う。瑞樹は?」
「私は冬は完全にオフシーズンだから基礎練習が多くなるかな。でも全国大会手前まで行ったし、今年こそはインターハイで全国に出ると決めたから頑張るよ! 晃ちゃんは先に全国に行って羨ましいなあ」
「最初に全国に行ったのは陸上部の阿部だけどな」
「そう言えばそうだったね」
「俺や郷田たちは団体競技だから、個人成績が良くてもチーム力で勝たないと全国に行けないんだ。その分チームのためにってプレッシャーはあるんだよ。瑞樹はメドレーリレーでもない限り個人の戦いなんだろ?」
「うん。全部自己責任だからある意味プレッシャーだけどね」
「実力勝負も大変だもんな。個人には個人の、団体には団体の大変さがあるものだな」
「そうだね。晃ちゃん、春の甲子園で優勝して! そして……最高の幼なじみがいるって自慢させてね!」
「ああ、わかった!」
こうして二人の冬休みは終わり、池上荘に戻る。
暁子は寂しそうだったが入学時ほど駄々をこねる事がなく、小学校に入学してすぐに野球をやると張り切っていた。
夜月は暁子に寂しくないようにプリプリプディンのお土産と、自分のサインが書かれた野球ボールを手渡す。
ちなみに夜月にはもう一人4つ下の弟の陽平がいるが、小学生ハンドボール日本代表の強化合宿のために不在である。
最近背が伸び始めて成長痛に悩んでいるうえに声変わりも始まって戸惑っているとか。
こうして冬休みを終えまた学校生活が始まった。
つづく!




