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第53話 紅葉学院

 千葉の名門校の紅葉(あかば)学院は吹奏楽(すいそうがく)部が常に全国レベルで、あの麻美(あさみ)東関東(ひがしかんとう)大会で因縁(いんねん)のある学校だ。


 麻美は応援として気合いが入り、トランペットソロの練習を念入りにしてきた。


 そして試合前の池上荘での夜月と麻美の会話が――


~回想~


夜月(やつき)くん、少しだけいいかな?」


「何だ? 学年のマドンナが俺に用なんて珍しいな」


「マドンナだって男の子に用がある時もあるんだよ? それよりも関東大会の決勝まで行ったんだね、おめでとう。相手はあの紅葉学院でしょ?」


「ああ。そういや吹奏楽の東関東大会で遠藤が破れたとこの一つだったな。やっぱり悔しかったか?」


「すごく悔しかった……。一年でここまで行けたのは上出来(じょうでき)だとみんなは言うけど、やっぱり全国に行きたかったんだ。夜月くんには私たち吹奏楽部の分まで紅葉学院に勝利して、甲子園という全国大会でいっぱい演奏させてね。はい、これ差し入れのお(いも)だよ」


「そういや焼き芋が好きって言ってたな。たまにはおやつも悪くないな」


「でしょ? これが勝利の()()()()()。お芋パワーで勝って、甲子園に一緒に行こうね」


「ああ」


土浦(つちうら)スタジアム~


「あいつの分まで試合に勝たなきゃな。ブラスバンドもマーチング部も含めて気合い入ってるし」


「なあ夜月ー、何だかブラスバンドが気合い入ってないか?」


「そうだな、山田は気付かないだろうが吹奏楽部やマーチング部にとって紅葉学院は因縁の相手らしい」


「あー、そういや全国大会の普門館(ふもんかん)まであと一歩だったって言ってたなー。だから気合いが入ってるのかー」


「そうだな。俺たちはブラスバンドに大きな期待をされてるんだ。みっともない真似は出来ねえぞ」


「だな! オイラも頑張るぞ!」


今日の試合のスタメンはこれだ。



 先攻・紅葉学院


 一番 ライト 由比ヶ浜勇気(ゆいがはまゆうき) 二年 背番号9


 二番 ショート 新垣綾世(あらがきあやせ) 一年 背番号6


 三番 サード 田村真奈都(たむらまなと) 二年 背番号5


 四番 ピッチャー 高坂桐人(こうさかきりと) 一年 背番号1


 五番 ファースト 槙島真織(まきしままおり) 一年 背番号3


 六番 キャッチャー 五更塁(ごこうるい) 一年 背番号2


 七番 レフト 小日向優太(こひなたゆうた) 二年 背番号7


 八番 セカンド 宇佐美七緒(うさみななお) 一年 背番号4


 九番 センター 雪ノ下雪斗(ゆきのしたゆきと) 二年 背番号8



 後攻・東光学園


 一番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年 背番号8


 二番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年 背番号6


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年 背番号2


 四番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 五番 ライト 本田(ほんだ)アレックス 二年 背番号9


 六番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 一年 背番号3


 七番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 一年 背番号14


 八番 レフト 田村孝典(たむらたかのり) 一年 背番号13


 九番 ピッチャー 松井政樹(まついまさき) 二年 背番号1



  ――となった。


 初回の1回の表は松井が安定したピッチングで三者凡退に抑える。


 1回のウラでは夜月が選球眼でフォアボールで出塁、二番の志村が送りバントのはずだったが、まさかのサードバントを高坂が血迷ったのか拾いに行き、田村真奈都と接触してエラーで出塁。


 そこからか高坂はピッチングが荒れかける。


 三番の天童にはフォアボールで出塁と安定しないピッチングに(ごう)を煮やした五更がタイムを取る。


「タイム」


「タイム!」


「お前わかってるの? お前が荒れたら他のみんなまで()()()()()プレーしにくいんだけど?」


「うっさいな! 誰のおかげでここまで来たと思ってんだ!」


「お前が一人で投げ抜いてここまで来たのはみんな知ってる。だからこそ引っ張っていることを自覚しないと、このまま荒れてチームのみんなまで巻き込んでモチベを下げるんだけど? お前が頑張ったからここまで来れたのは認める。だからこそここであんたがやられたら誰があの名門に太刀打(たちう)ちできるの?」


「言ってくれるじゃないか……! 次からは絶対に抑えるし、チームプレーも心がければいいんでしょ?」


「なんだ、わかってるじゃないか。だったら最初からそうすればいいの」


「塁のくせに生意気なんだから!」


「夜月、相手のバッテリー大丈夫か?」


「松田、高坂も言ってたが、『ああやって喧嘩しながらも上手く相手を抑えてきたんだから、その喧嘩の後からが怖い相手』なんだよ。中田先輩もプライド高いから抑えられてイラつかなければいいけど……」


 夜月の不安は的中し、中田は三振で抑えられ自分の時から調子を取り戻した高坂に苛立ちを感じ、後続の本田や清原も手も足も出なかった。


 2回の表では高坂にツーベース、槙島によるホームランで2点を取られる。


 松井は毎試合のように先制をくらうが、最後に逆転してもらえる勝ち運の強い投手だ。


 現に4回のウラでは清原がツーベース、山田のヒットエンドランで1点タイムリーを放った。


 5回のウラにも天童、中田、本田の連打で同点に追いつく。


 7回の表になり、東光学園のベンチはまだ松井に登板させた。


「松井さん、まだ投げれますか?」


「まだ投げれるよ。球数もそこまで多くないし、何とか抑えの道下にまで繋ぎたいからね」


「マイナス思考の松井さんがここまで強気になるとは思いませんでしたよ。このまま一緒に抑えていきましょう」


「ああ!」


「由比ヶ浜、一番バッターとして出塁率は悪くないが、塁に出たらそろそろ盗塁をしてもいいぞ。もうピッチャーのクセは見抜いたろ?」


「はい!」


「なら行ってこい」


「よーし! 来い!」


「由比ヶ浜さんは初打席の時は抑えられたが、その後は全部打たれている。ムービングボールが得意だからちょっと控えめにしましょう。スライダーやストレートを中心にした方が安全かもです」


「スライダーはどんな角度でもいいんだな?じゃあ縦のスライダーでいくよっ!」


「曲がった……? いや、落ちるっ!?」


「ストライク!」


「ナイスボール! 縦に落とすなんて聞いてないですけどねw」


「スライダーを数種類投げられるんだ。ということは内側に来る変化球はないのかも」


「スライダーが数種類あると思わせることに成功させたな。だがスライダーだけじゃないのが松井さんなのよ。サウスポーらしくスクリューボールで詰まってもらうか」


「そうしよう。それっ!」


「嘘……? 内側に……くっ!」


「サード!」


「おっしゃあー! うらあっ!」


「アウト!」


「残念……!」


「ワンアウトー!」


「綾世、あの人スライダーを数種類だけじゃなく内側に来るのも覚えてたよ!」


「わかりました。任せてください」


 その後は新垣にセーフティバントを許すも、後続の田村真奈都がゲッツーでスリーアウトになる。


 2対2で迎えた7回のウラ、一番の夜月の番だ。


「高坂は同い年でエースになったのか。意識してしまうが、それよりも『遠藤のために勝つ』って決めたから、あんま意識しすぎないようにしなきゃな。さあ来い!」


「この人は凡打の時も多いけど、当たれば長打になる面倒くさい人だ。ランナーがいないとただの木偶(でく)の棒だしさっさと抑えるよ」


「こいつならランナーさえいなければ木偶の棒だし、俺が抑えればこっちのものだよっ!」


「うおっ!?」


「ストライク!」


「思ったより伸びてくるな。けどちょっと浮いてきたかな……」


「もう球が浮いてきたの……? 初っ(ぱな)から飛ばし過ぎだっての……。少し力配分が酷いからカーブで抜いてもらうよ」


「絶対嫌! こいつにカーブは見切られてる気がするし!」


「はあ……だったらチェンジアップにしよう」


「チェンジアップならあいつも意識してないだろう。これでタイミングずれて、自分のバッティングを見失いなっ!」


「ちょっと、またそうやってナメてかかると……!」


「止まって見えるぞ! おらあっ!」


 夜月の放った打球はセンターを越え、一気に長打コースとなった。


 だが雪ノ下が追いついたところでグローブに触れ、落としたもののそこまで離れなかったので一塁で一旦止まる。


 するともう二塁に送球していて、進塁は無理と判断した一塁コーチの松田は制止させる。


 志村はゲッツーに抑えられるも天童が返り討ちと言わんばかりにスリーベースを放つ。


 そしてこの男、中田が四番の意地を見せつけた。


「元不良だか何だか知らないけど、この俺に勝とうなんて100年早いんだよっ!」


「よし! いい真っ直ぐだ!これなら途中で浮いてきて空振る……」


「もらったあーっ!!」


 カキーン!


 中田は変化球や緩急が苦手だが、速い真っ直ぐにはめっぽう強く、高坂にとって最悪の相性となってしまった。


 中田の打球はレフト方向へ大きく飛んでいき、そのままスタンドへ吸い込まれるように入った。


「おっしゃあーっ!!」


「キャプテンナイスバッティングっす!」


「よし! これで吹奏楽部の借りは返したな!」


「いいぞ中田! あのブラスバンドの中を投げるの怖かったからよく勝ち越し打ってくれたよ!」


「松井はビビりすぎなんだよ!あの天童を見てみろよ! あいつあんな美爆音(びばくおん)なのに堂々としてたぞ!」


「いやー、正直あのブラスバンドは松井さんじゃなくてもきつかったっすよ」


「俺は平気だったぞ?」


「嘘だな。中田が一番近くで聴いてたから守備の時に一番うろたえてただろ」


「余計な事を言うな田中!」


「ははは!」


 中田がうろたえるのも無理はなかった。


 紅葉学院の応援は吹奏楽の美爆音だけでなく、それも応援歌は全部『学校のオリジナル曲で統一されてる』から途絶(とだ)える事のない応援で相手にプレッシャーを与えてるのだ。


それもどれもキャッチーなフレーズで、吹奏楽の名門なだけあって音の響きもよかった。


 千葉県では習志野(ならしの)音楽大学付属、船橋(ふなばし)市立西船橋(にしふなばし)総合、千葉県立幕張(まくはり)中)、(かしわ)市立柏南(かしわみなみ)という吹奏楽の激戦区にいるので『そりゃあ強いわ』と夜月は納得した。


 おまけにどれも野球も強くて応援が盛んなのも頷けた。


 それでも東光学園はあの勝ち越しホームランを機に松井は1点も失点することなく、9回のマウンドも投げ抜く。


 四番の高坂をセンターフライに打ち取り、五番の槙島も三振、残るはツーストライクの六番バッター五更となった。


「来い!」


「ここを抑えないと松井さんはメンタルがつぶれるが、あまりプレッシャーをかけずに済むにはやはり……打たせて味方に守備で援護をしてもらうことが一番だな。本当は三振を狙いたいが、三振を狙えるような球速は持ってないし、ムービングで締めくくりましょう」


「わかった。ここで勝てば春の選抜だけでなく神宮大会に出られるんだ……。ここで決めてやるっ!」


「ストレート! これならいける! ふんっ!」


「なっ……!」


「センター! いや、ライトか!? 頼む!」


「オッケー! 俺が行くぞ!」


「いや! 俺が行きます!」


「夜月! じゃあ頼んだ! 俺の足じゃ届かない!」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 パシッ! ズザーッ!


 夜月は右中間(うちゅうかん)ギリギリのところで飛び込み、打球をノーバウンドでグローブに当てた。


 そこまではいいがダイビングしたので、審判がグローブに入ってるかを確認しに行く。


 すると夜月はニヤリと微笑み、ボールを捕ったグローブを高々と掲げて審判にアピ―ルした。


 その結果は……


「アウト! ゲームセット!」


「っしゃあーっ!!」


「負けた……! 甲子園には出れるけど悔しい……!」


「整列! これより4対2で紅葉学院と東光学園の試合は、東光学園の勝利です! 両校とも……礼っ!」


「「ありがとうございました!」」


「「っしたー……!」」


 こうして東光学園は秋季関東大会を制し、春の選抜を確実とした。


 同時に関東大会覇者として明治神宮大会への出場権を得る。


 石黒監督は明治神宮大会のメンバー発表では、メンバーも背番号も全く変わらずだった。


 中田はまた明治神宮大会の抽選会に行き、最初の相手は九州大会覇者の琉球(りゅうきゅう)高校となった。


つづく!

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