第52話 花咲学苑
埼玉の名門校である花咲学苑との試合に備えた東光学園は、柊兄弟の鉄壁な二遊間を突破すべく、なるべく低くて速いライナーを飛ばす練習をする。
清原と中田はアッパースイングがクセになってるため、どうしても外野まで大きく運んでしまうが、二遊間を抜くにはちょうどよかった。
夜月も一発が大きいが、脇役に徹して塁に出る事を意識してからか出塁率も大幅に上がっている。
問題は小柄な山田と田中だ。
この二人はライナーを飛ばそうも、パワーがないためか勢いに欠けてしまう。
そのために流し打ちや引っ張りを意識してもらう。
一方こちらは花咲学苑、泉たちはなにやら楽しそうな雰囲気だ。
「ふぅ~……今日も疲れた~……!」
「相変わらず体力はあるのに疲れたふりして休憩しようとするのは上手いな」
「え~……そんなんじゃないよ~。だってあんまり遅くなるとアニメが見れないじゃん」
「またお前はそうやって……。東光学園は一筋縄ではいかない相手なんだぞ。ちょっとは自覚を……」
「まあまあ兄さん、幸太くんだってわかってるはずだよ」
「その通りですよ。じゃなきゃあんなに投手陣の研究を徹夜でやるなんてしませんから」
「瑛人、美幸まで……。はあ……まああんまり遅くならないようにな」
「は~い。そういやふと疑問に思ったけどさ、チョココロネってどっちが頭なのかな?」
「そういや気にしたことなかったな……」
「僕は大きい方かな。巻貝みたいで」
「俺は小さい方かなー、イモムシみたいで」
「例えがおかしい!」
「僕は考えたことありませんね……。でも美味しいからどちらが頭でもいいんじゃないですか?」
「そうだねー、あんまその議論すると戦争が起きそうだし」
「それもそうだな。じゃあ上がるぞ!」
「はーい」
花咲学苑は『厳しく楽しく全力で!』がスローガンで、選手のメンタルやコンディション重視の名門だ。
ケガを未然に防ぐことが多いと有名で、いまだ30年間もケガ人を出したことがないという記録もある。
もちろんデッドボールや相手との接触プレーは除くが、少なくともケガで入院している部員はゼロ人だ。
そんな学校を相手に、秋季関東大会の準決勝が行われる。
今日のスターティングメンバーはこれだ。
先攻・花咲学苑
一番 センター 泉幸太 二年 背番号8
二番 セカンド 柊瑛人 二年 背番号4
三番 ショート 柊瑛太 二年 背番号6
四番 キャッチャー 高良美幸 二年 背番号2
五番 ピッチャー 日下部美佐男 二年 背番号1
六番 ライト 峰岸文乃 二年 背番号9
七番 レフト 野原慎之助 一年 背番号7
八番 サード 桐ケ谷和好 一年 背番号5
九番 ファースト 結城明日馬 二年 背番号3
後攻・東光学園
一番 ショート 志村匠 二年 背番号6
二番 セカンド 岡裕太 二年 背番号4
三番 ファースト 夜月晃一郎 一年 背番号8
四番 サード 中田丈 二年 背番号5
五番 ライト 本田アレックス 二年 背番号9
六番 センター 高田光夫 一年 背番号19
七番 レフト 田村孝典 一年 背番号13
八番 キャッチャー 天童明 一年 背番号2
九番 ピッチャー 榊大輔 一年 背番号17
――となった。
榊が久しぶりの先発で石田によって調整を済ませる。
すると榊は絶好調となり、天童もこれなら三振取れると確信した。
ただし天童は田中はおろか石田よりもリードが甘い傾向があるので、そこは気をつけるように石黒監督は喝を入れた。
整列を済ませ、東光ナインはそれぞれの守備に着く。
一番は小さなスラッガー泉だ。
「よーし、来い!」
「小さいやつだな……山田よりも小さいかもしれないな。となるとホームランは打てないだろうし、そんな打てる感じはしなさそうだ。ストレート一本でも抑えられるかもしれん」
「それはないな。ピッチャーからすればこの独特な雰囲気のバッターは何を仕掛けるか怖いからな。でもまあ初球だったら……いいだろうなっ!」
「真っ直ぐ……それっ!」
「初球いきなり!?」
「ファースト!」
「うおっ!?」
「よく弾いた! 前に落ちてるぞ!」
「おっと! ここだな!」
「あーマジかー……!」
「アウト!」
「ファーストの彼、なかなか反射神経いいね」
「そうだね、バットコントロールがいい幸太くんでさえ抑えられるんだもん」
「悔しいけど彼は将来大きくなりそうだよ。瑛人くん頑張ってねー」
柊瑛人は双子の弟で、鉄壁の守備だけでなくバントやエンドランの名手だ。
今回は残念ながらランナーがいないので活躍の場はなかったが、それでも巧みなバットコントロールがあるのは確かで、サード強襲ゴロでレフト前に運ばれた。
三番の柊瑛太は双子の兄で、バットコントロール以外にもパワーもあるリードオフマンだ。
おまけに守備力も弟ほどじゃないが非常に高く、引退した我那覇や現役の岡や山田を越えるほどの守備力だ。
しかし一発がある分、少し大振りなところもあり榊のストレートでダブルプレーに打ち取った。
後攻の一番バッターは志村で、こちらも『バットコントロールなら負けない』と対抗心を燃やしていた。
「来い!」
「志村さんは幸太さん並みにバットコントロールが優れていると聞きました。広角打法が持ち味でどんなコースでも逆らわずに打つことが出来ます。いっそのこと小さな変化球で芯から外して守備範囲内のところに打ち取るのもいいかもしれません」
「なーんか勝負から逃げてるみたいだ。でも仕方ないなあ、東光学園は個性派揃いの面倒くさい相手だもんねっ!」
「真っ直ぐ……! そこだっ! あれ……?」
「ファースト!」
「オーライ!」
「アウト!」
「今のはまさか……カットボールか!」
「ドヤア!」
「むむ……! あのドヤ顔はなんかムッとするなあ……」
泉のドヤ顔で東光学園ナインは挑発された気分になり、思うようにバッティングが出来ないでいた。
そんな中でマイペースな本田は2回のウラで軽々とツーベースヒットを放つ。
後続は続かなかったがドヤ顔につられないのは本田だけではなかった。
田村もマイペースかつルーティーンがあるタイプで、そのルーティーンさえ崩さなければなんとでもなる選手だ。
そのためかシングルヒットで出塁、天童も自信家で負けず嫌いだが自分のすべきことに集中していたせいかドヤ顔を気にすることなく伸び伸びとプレーできた。
その結果足を活かしてスリーベースヒットとなり、タイムリーを放って1点を追加した。
ところが7回の表になると、榊がここで崩れてしまう。
「それっ!」
「しまった! センター! バックホームだ!」
「思ったよりも浅い……! それっ!」
「2点目っ!」
三塁ランナーの泉が還り、二塁ランナーだった柊瑛人もホームに戻る。
柊瑛太は三塁ランナーとなり、打った高良はツーベース。
2対1となり、榊はここで降板した。
次のピッチャーは園田で、幼なじみである榊の無念をここで晴らす。
日下部、峰岸、野原を三振に取り攻守交代。
7回のウラで園田がセーフティバントを成功させ、志村と岡が連続安打を放った。
三番の夜月は……
「だあっ!」
「おっと……!」
「フォアボール!」
「あー入らなくなってきたー!」
「これで同点だ!」
「夜月ナイス選球眼!」
「日下部さんは後半になると荒れ球になる傾向があるって高坂が言ってたんでつい」
「何だ? あの可愛い幼なじみだけでなくマネージャーも口説いたか?」
「そんなんじゃないです!」
「二股はよろしくないぞー?」
「監督まで何なんですか!?」
「ヴァ~……どうしたらいいんだぁ~……!」
「日下部さん、少しだけですが疲れてくると目線が上にブレています。少し目線を重視して、踏み込みをあえて小さくしてみてはどうでしょうか?」
「うう~……やってみる……」
その後は少しパニックになった日下部の隙をついた中田がツーベースを放って4対2となる。
しかし日下部は踏み込みを浅くしたのをものにしたのか、後続の本田、高田、田村を三振に取る。
8回の表になると園田は降板し道下の出番になる。
本来は9回の予定だったが、小柄な選手が多く一発が少ない花咲学苑なら速球がなくても抑えられると踏んだのだ。
実際に8回の表では三者凡退に抑え切った。
8回のウラでは天童がソロホームランで5点目、道下もバッティングは悪くなくショートの内野安打、志村と岡は凡打でアウトだがゲッツーは避けられた。
ツーアウト、ランナー一塁で夜月の出番だ。
「よし! 来い!」
「日下部さんは三振が多い分、球数も増えてきていますね……。ここはカットボールを活かして打ち取らせた方がいいと思います」
「三振を取りたいけど、ここまで疲れたらワガママ言えないよね。美幸のリードはよく当たるから……信じるしかないなっ!」
「カットボールか? ストレート……どっちだ?」
「ストライク!」
「あっぶねー……! 真っ直ぐ狙いだから振ったら凡打だったわ……!」
「いい調子です。次はカーブで緩急つけてリズムを崩しましょう」
「オッケー。それっ!」
「うぐ……!」
「ストライク!」
「ナイスボールです!」
「カーブ投げるなんて聞いてないぞ……!」
「いい感じです。きっと今のカーブで頭が混乱しているはずです。ストレートと見せかけてスプリットでいきましょう」
「あんま自信ないけど、いくしかないか! それっ!」
「速い……これは真っ直ぐだ!え……落ちた……うぐっ!」
「嘘っ!? あれで強い当たり打つの!?」
「よし! これで抜け……」
「させないよっ! 兄さん!」
「ナイスボール!」
「アウト!」
「もう一球! それっ!」
「ナイスボール!」
「アウト! ダブルプレー!」
「何だ……? あの動きは……!?」
「これが柊兄弟の『鉄壁の二遊間』か……!」
夜月の強い打球はセンター前ヒットと思われたが、まさかの柊瑛太が飛び込みキャッチでファインプレー。
その後はグラブトスで柊瑛人に渡し、トスされたボールを素手で捕ってその後は華麗なるジャンピング送球でダブルプレーに打ち取った。
あまりにも華麗すぎるプレーに球場の観客は拍手し、夜月でさえもナイスプレーと声をかけた。
その二人による超ファインプレーに勢いに乗りたい花咲学苑は最後の攻撃に入る。
9回のウラも道下が登板し、柊兄弟を凡打に抑える。
残るは四番の高良だ。
「参ります!」
「道下さんのピッチングだと一発がある高良さんとの相性は悪いはずだ。ここはいったん外して様子を見ましょう」
「わかった。それっ!」
「ん? 思ったよりストライク気味……?」
「ストライク!」
「ナイスボール! カウント取れてラッキーでした! まさか道下さん……!」
「ちょっと欲張っちゃったかな……? 天童くんには悪いことしちゃったな」
「あまのじゃくですね、彼」
「え? まあ、そうっすね」
「彼が抑えピッチャーなのが惜しいくらいです。私でも打てるかどうかわかりませんが、打たせてもらいますよ」
「臨むところっす。高良さんは道下さんとの勝負に自信があるようだ。いっそのこと松井さんに教わったあれをやりましょう」
「ムービングボール……わかった。やってみるよっ!」
「ストレート……しかも甘めですね! それっ! あれ……?」
「よっしゃ! 抑えた!」
「キャッチャー! 後ろだ!」
「よっと!」
「アウト! ゲームセット! これより、花咲学苑と東光学園の試合は、5対2で東光学園の勝利です! では……礼っ!」
「「ありがとうございました!」」
「「ありがとうございました!」」
「泉さん、あなたの足の速さはファーストからだと怖かったっす」
「うーん、君とは何か同じ波長を感じるなぁ~……」
「波長ですか……?」
「今度のオフさ、コミケに一緒に行かない?作新大宇都宮の歳納くんも一緒なんだけどどうかな?」
「すみません……青葉学院の佐倉や金浜の赤津木とオフトレーニングの約束をしているのでそれは出来ません」
「残念……でも連絡先交換しよう! 君とはオタクのオーラを感じるもん!」
「はは、歳納さんにも試合後に言われましたよ。また今度です」
こうしてまた夜月はオタク趣味でもないのにオタク系の球児に声をかけられる。
実際オタク系の趣味は同じ寮の林田がそういう趣味を持っていて、それに何度か付き合った結果少しだけ詳しくなった。
もちろん夜月だけでなく黒崎や河西、郷田、阿部も同じで林田のオタトークに付き合った結果、少しだけ詳しくなった。
こうして決勝の相手は千葉の紅葉学院となり、新聞の記事では吹奏楽の応援合戦となるだろうと予測されていた。
つづく!




