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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
28/175

第26話 投手の層

 6回の表になり、川崎総合は三番の城ケ崎(じょうがさき)の打席になる。


 城ケ崎は左利きで、右へ左へといろんな方向に打てる器用なバッターで、天童がやや苦手としている巧打タイプだ。


 天童はいつもの自信ありげなリードも少しだけ陰りはじめる。


「フルカウントならくさい球でちょっと様子見するか?いや、でもここでボールになったら諸星さんだし、ここで抑えておかないといけないんだよな……。だったらカットボールで打ち取らせましょう」


「こういうバッター相手だといつもの天童らしさがなくなるんだな。カットボールならいけると踏んだんだろう。俺もそう思うぞっ!」


「ストレート来た! そこだっ! あっ……」


「セカンド!」


「これ届かない……!」


「ライトカバー入れ!」


「これは間に合わないな……!」


「よっしゃー! ナイスバッティング!」


「ポテンヒットですけどねw」


「城ケ崎さんは左利きで左打ちだから詰まらされたかな?」


「痛かったぁ~……! でも打ててよかった!」


「四番、ファースト、諸星くん」


 川崎総合の特徴は連打力で、諸星(もろぼし)までランナーを溜めて一気に点を取るビッグベースボールだ。


 武内監督はアメリカで修行をして帰ってきたベテラン監督で、見た目通りパワーで押す指導者だが、川崎総合の今のメンバーは小柄で細いメンバーが多くてなかなか出来なかった。


 しかし逆を言えばパワーヒッターが上手く入ればスモールベースボールでランナーを溜め、ここぞという時にビッグベースボールが出来るのだ。


 バランスの良さは東光学園に似ていて、ある意味では好ゲームとなりそうだ。


 カウントはワンストライクのスリーボールで、天童のキャッチングの甘さから際どい球はボールに取られ、このカウントだ。


「菊池、小野の球数は?」


「63球ですね。打たれたりフォアボールにされたりとちょっと多い印象です」


「だが一年を出さないと経験値とならない。すまないが耐えてくれ……」


「あの、諸星さんの打席が終わったら俺が伝令行っていいですか?」


夜月(やつき)? よくわからんがいいぞ」


「ありがとうございます」


「このバッターは威圧感あるな……。ロビン先輩や中田先輩に負けない威圧感じゃん……。だがビビったら負けだ。インコースに真っ直ぐでいきましょう」


「わかった。それっ!」


「ひかるんパワー全開っ! そーれっ!」


「なっ……! センター!レフト! 追ってくれっ!」


「めっちゃ伸びるな……!」


「これは追っても無駄だな……」


「入ったー! これが川崎総合の四番、公立の星の諸星ひかるのバッティングです! 諸星がガッツポーズを大きく取りました!」


「ナイスバッティング諸星くん!」


「ハピハピだぜ!」


「やったぁー!」


「すみません、タイムをお願いします」


「タイム!」


「夜月……?」


「何だよ夜月。打たれたのはたまたまだって。そう警戒するなよ」


「天童、お前はキャッチングする時に少しだけ()()()()()()()()()んだ。捕る瞬間に無駄に動いているから審判はボール球に見えるんだと俺は思うんだ。この際だから捕る時にピタッと止めて捕ってみてくれ」


「マジか……」


「どうやら夜月はお前の悪い癖を見抜いたようだ。だから俺も『ストライクなのにボール取られる』と思ったんだ。天童、夜月の言う通りにしてみてくれ」


「う、うっす! けど俺にそんな弱点があったとはなあ……。ショックだけど夜月の言うことが本当なら、すんませんでした小野先輩」


「気にするな。お前はやれる事を精一杯やればいい。それだけだ。切り替えていけばいい」


「はい!」


 天童の弱点が露呈(ろてい)したものの、夜月は天童の弱点をハッキリと言った事で天童はキャッチングの際にビタ止めを意識してみた。


 するとさっきまでの際どい球のボールカウントが嘘のように減り、穴沢と新田、三村を簡単に三振に抑えた。


 6回のウラになり、川崎総合は島村を交代した。


「県立川崎総合のピッチャーの交代をお知らせいたします。島村くんに代わりまして、高垣楓太(たかがきそうた)くん。背番号1」


「ここに来てエースを投入したか」


「何でエースを今まで出さなかったんだ?」


「あおいが言ってましたが、川崎総合の武内監督も『下の世代を育てる事に長けていて、選手の個性を重視している』そうです。それにエースは先発させずに温存させ、後半で一気にスパートをかけるそうです」


「じゃあ俺たちは負けるって思われてるのか……ナメやがって!」


「次は新田だったな。高垣はフォークが持ち味だから気を付けろ」


「わかった!」


 七番の新田はフォークに踊らされないようにフォークだけは捨てると決意し、バッターボックスに入っていった。


 名将キャッチャーのもう一人の新田はフォークを連発することなく、ストレートとカーブをランダムに要求して緩急自在なピッチングをさせた。


 それが功を成してすぐに追い込むと、フォークのサインを出して三振を奪おうとした。


 しかし新田はあらかじめフォークは捨てると決めていたので、フォークの落差が激しすぎてボールになる。


「まさか彼はフォークを最初から捨ててるのかな? だったら同じカーブでもパワーカーブでストレートと思わせて空振りも悪くないかな」


「『カーブの株が上がる』……ふふっ。わかりました、それでいきましょう。それっ!」


「ストレート……違う、スライダーかな? いや、微妙に山なりでカーブだが速い……! くっ……!」


「サード!」


「オーライ! それっ!」


「アウト!」


「あー……!」


「ワンアウトー!」


「清原、あいつはフォークだけでなく数種類のカーブを手に入れたようだ。去年は高垣を攻略出来たが、今年は簡単にはいかないな」


「うっす! 任せてください! さあ来い!」


「やっぱり彼はとび職みたいだなあ。一人だけ高校生じゃないみたいだよ。彼は全力でフルスイングするので三振を狙いやすいけど、当たればあのロビンくん並みの飛距離を出すから警戒だね。真っ直ぐのアウトコースで外れてもいいからそれでいこう」


「オッケー。それっ!」


「うぐっ……!」


「ボール!」


「くそっ! あの人ふわふわしてるくせに球速いな……!」


「清原! 人を見た目で判断するな!」


「お前はただでさえ見た目で判断されるんだから他の人にまでやっちゃダメだぞ!」


「うるせーぞ同級生たち! 見た目は関係ないだろ! さあ来い!」


「いじられてもめげないところ、相当な心の強さだね。簡単に翻弄されてはくれないかもしれないから、ちょっと仕掛けるね」


「インコースに『シュートを……シュッと』!」


「インコース……おらぁっ!」


「えっ……? 詰まったのにあんなに飛ぶの……!? センター!」


「こんなの捕れないにゃ……!」


「抜けたー! 一年の清原がフルスイングで前川を抜いた! 清原は一気に二塁まで走った! セーフだ! ツーベースヒット!」


「ナイスバッティング清原!」


「いいね! でも足おっそw!」


「オッサン無理すんなよー?」


「誰がオッサンじゃ! けどよっしゃー!」


「九番、レフト、尾崎くん」


「俺も続くか。ここに入学予定の弟も応援に()()()()しな」


「ふーん、これが東光学園か。兄貴の言う通り、面白い学校じゃん」


「あの子、尾崎くんを見てニヤニヤしているんだけど……?」


「でも尾崎くんに少し似てない?」


「兄貴って言ったけど兄弟かな?」


 チアリーディング部の噂話なんてスルーするこの中学生は一体何者なのか、それは後にわかるだろうが、今打席に立っている『尾崎哲人(おざきてつと)の弟』なのは間違いなさそうだ。


 チア部たちは噂話を一旦後にして応援の続きをする。


 尾崎の弟は構わず試合の様子を見るだけで、応援する事はなかった。


 一方こちらは試合の様子、尾崎はツーストライク、ツーボールとなった。


 一度送りバントをしようとするも、さっきはフォークだったので見逃して何とかこのカウントにしてみせた。


 石黒監督はバントと盗塁のサインが独特で、一回目でそのサインを出して選手自身の好きなタイミングでやってもよいという意味だ。


 ただバレたらマズいのでフェイクで何度もサインを送っている。


 スクイズやエンドランはやる時にはそのサインを出すが、基本的に選手自身がさりげないクセを利用したサインで行うので、ほぼほぼ(おとり)と言ってもいい。


 バントのサインが出た尾崎は、ツーシームを上手くバントしてツーアウトのランナー三塁になった。


「ここでスクイズは使えないな。なら塁に出ればまだチャンスは続きそうだし、いっちょ塁に出るとするか」


「彼にフォークは通用しなさそうだね。ホセくんは選球眼がこの夏でだんだん磨かれてきてるから、シュートとカーブでちょっと揺さぶろうか」


「『参政(さんせい)に賛成』……なんちゃって。ふふっ、それっ!」


「ボール!」


「ホセくんナイス選球眼!」


「あいつ、投げるときに何かぶつぶつ言ってるな?」


「え? わかるの?」


「俺の視力は2,0もあるんだ。そう簡単に誤魔化(ごまか)せねえよ」


「彼はたまに投げるときにダジャレを言うんだ。やめてと言っても、それがパワーを出すんだって」


「なるほどな。そういうのもまた個性的で俺は好きだぜ。だが悪いな、攻略させてもらうぜ」


「負けないよ。高垣くん、彼にダジャレを言う癖が読まれたみたい。インハイのストレートで手を出してもらおっか」


「『インハイをインハイでゲームセットを取る』ってカッコいいかも……ふふっ。何て言ってる場合じゃないかな、それっ!」


「よっと!そらっ!」


「バットを急に短く持ち替えた……!? レフト!」


「そんな急に動けって言われても無理だって……」


「ああ……!」


「ホセがレフトオーバーを打った! 三塁ランナーの清原はホームイン! 双葉の動きの鈍さが仇となってしまった! ホセは一気に二塁へ走る! ツーベースヒット!」


「よっしゃー!」


「ナイスバッティングホセ!」


「いいねホセくん!」


「このままうちの流れにいこうぜ!」


「天童、守備の事は打席で取り返せばいいから、そんな気負いすぎる……」


「松井先輩は相変わらず心配性っすね。俺なら平気っすよ。そんなの分かってますから。それよか松井先輩は肩を温めてください」


「あ、ああ!」


 天童がフォアボールを選んで東光学園の流れになるも、渡辺がダブルプレーを取られてしまう。


 東光学園が4点で川崎総合が2点。


 今は勝っているが勢いに乗ると面倒くさいのがこの川崎総合だ。


 7回のラッキーセブンで公立の意地をここで見せるのか――


 つづく!

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