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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第23話 新興勢力

 3回の表では東光学園の我那覇が三振、ホセがセンターフライ、田中がファーストゴロに打ち取られる。


 3回のウラでは矢吹(やぶき)四条(しじょう)を打ち取り、萩原のセーフティバントの奇襲にもロビンが対応して三者凡退にしてみせた。


 4回の表では渡辺がツーベースの後にロビンが特大のホームランを放ち先制する。


 それ以降はヒットが出るも、なかなかお互いに点を取れない展開が続いた。


 だがしかし8回のウラに動きが出始めた。


「ツーアウト満塁か……。ここで嫌なバッターの萩原か」


「俺、こいつを抑えられるのかな……?」


「心配すんな、お前にはこんなに頼もしいバックがいるじゃないか。お前は不安だろうけどバッターを打ち取って球数を減らせばいいんだよ」


「田中……ああ!」


「監督ぅ……!」


「ここは好きに打っていいよ。うちはまだ0点だからね」


「はい……!」


「プレイ!」


「萩原は本当に厄介(やっかい)な奴だから早く打ち取って、うちの流れに持っていきたいものだな。こいつはここのところまぐれなヒットしか出てないしムービングで行くぞ」


「そうしよう。それっ!」


「真っ直ぐ……!?」


「ファールボール!」


「痛い……!」


「あっぶね~……詰まってファールだからよかったが、こいつだんだんムービングに合わせてきたか。スライダーでちょっと空振ってカウント取ってもらおう」


「うん……それっ!」


「スライダー……落ちたっ……!?」


「ストライク!」


「ふぅ……」


「松井のスライダーは3種類あってな、縦に落ちるのと横に曲がるの、そしてカットボールみたいに小さくて速いのだ。こいつはスライダーについていけてないし、スライダーで行こう。好きなスライダーでもいいぞ」


「じゃあ速くて小さいので……行くよ!」


「バカ! ストレートと変わらないスピードはダメだ……!」


「来た……えいっ!」


「クソッ! レフトー!」


「間に合わ……ないか!」


「抜けたー! ここで二塁ランナーも一気にホームイン! 一塁ランナーも三塁を回った! レフトの尾崎のレーザービームも(むな)しくホームイン!一気に逆転だーっ!」


「やっちまった……!」


「タイム!」


 田中は一度松井の精神状態を落ち着かせるためにタイムを取ってマウンドに歩み寄る。


 松井は少しだけパニック状態になって呼吸も荒くなる。


 自分の小さいスライダーが甘かったことを自責(じせき)していたので、田中は足で松井のお尻を軽く蹴る。


「痛っ!?」


「甘く入ったことは水に流してやるけど、それを引きずりすぎて全部背負い込む事はないんだよ。萩原は元々お前の投球リズムが合っていたし、いつ攻略されてもおかしくなかったからな。でも後続は思ったより続いていないし、菊地さんもお前のムービングについていけてない。ここからが正念場(しょうねんば)だ、いくぞ!」


「あ、ああ!」


 田中の一声で松井は呼吸も安定し、精神的に落ち着く事も出来た。


 そこからは落ち着いて如月を打ち取ってチェンジ。


 9回の表、ここで点を取れなければ東光学園の夏が終わる。


 そうはいくまいと一番バッターのホセがバットを入念に振る。


 意気込みが空回りしていたホセに、石黒監督はホセのほっぺを指でつつく。


「はっはっは! ホセくーん、そんな硬い表情しやがってー、いつものフランクなオーラはどこに行ったんだい?」


「ボス……」


「君がチームのために頑張るのはとてもいい事だ。前まで自己中心的なプレーしか出来なかったのに、チームを意識して貢献しようなんて、君は心も成長したな。だが一人で全部やって仲間を信頼しないのはちょっと違うぞ? それとも一番バッターの仕事をしていない事を気にしているのか?」


「それはあるかもな。思ったより塁に出れてないしな」


「だったらどんな形でもいい。ブサイクでも塁に出れば文句はない。文句言う奴がいたら俺が文句言ってやるさ。フォアボールでも構わない。あ、デッドボールだったらちゃんとコールドスプレーしてくれよ?」


「わかった……ボスの期待に応えてみせるぜ! さあ来い!」


「ここまで彼を打ち取っていますが、フォアボールで出塁されたのを含めると、相当塁に出られてます。選球眼もこの夏で強化されました。際どいところを投げていきましょう」


「四条先輩のリードは適格だし、ここはそうだよね!」


「まだだ……」


「ボール!」


「ふぅ……」


「落ち着いていますね……。彼は一体何を……? インコースで詰まってもらいましょう」


「スライダーですね。それっ!」


「Te escapas con una pelota cambiante? (変化球で逃げるのか?)Bueno, soy libre de hacerlo también.(まあいいさ、俺は自由にやらせてもらうぜ)」


「セーフティバント……! サード!」


「くっ……! 間に合った!」


「待ってください! 投げないでください!」


「それっ! あ……」


「あらあら……! 菊地さんらしくない……」


「行けホセ! 一気にツーベースだ!」


「Bien!(よし!)」


 ホセの奇襲のセーフティバントで菊地が焦って送球エラーをし、ファーストの三浦の頭上を大きく超えてしまった。


 その勢いに乗ってホセは俊足を生かして二塁まで走っていった。


 田中は打っていいのサインを出されたが、自分は『打つのが苦手だ』という意識もあったのか送りバントをした。


 ホセは一気に三塁へ行き、ついにチャンス到来だ。


 渡辺が打席に入ろうとすると、石黒監督が動き出した。


「タイムを取ってくれ。夜月(やつき)、準備はもう出来ているな?」


「はい!」


「じゃあ行って来い!」


「はい!」


「夜月くん、頼んだよ」


「任せてください。タイム!渡辺に代わり、代田夜月です」


「了解。代打、夜月!」


「お! 夜月じゃん!」


「夜月ー!」


「ねえ、なんで彼を応援しているのかしら……?」


「あいつ『暴力事件を起こした奴』なんだろ……?」


「そんな奴をよく受け入れられたな……」


「野球部を(けが)さないでくれよな……」


「……っ!」


「遠藤さん……?」


 突然大きなトランペットのチューニングの音が鳴り響き、悪評でざわついた生徒たちは一気に静まり、その方向へと目を向ける。


 そこには麻美(あさみ)一生懸命(いっしょうけんめい)応援歌を演奏している姿があった。


 吹奏楽部員たちは一年の熱い気持ちに応えるべく、麻美に続いて演奏をし始めた。


 この『エンターテイナー』という曲は、またもや二年の滝川留美が作曲した()()()()の応援歌で、代打という面白い戦略で球場を盛り上げる大事な役割の男を表現したアメコミヒーローみたいな応援歌だ。


 夜月は悪評など聴こえるわけもなく、麻美の音に気付いて集中する。


「まずいですね……このチャンスで彼に来られたら面倒です。彼を抑えて私たちの勝利にしましょう。幸い送りバントでワンアウトを取っています。ツーアウトに追い込んでロビンさんを抑えれば勝利できます。落ち着いていきましょう」


「四条先輩がここまで警戒するなんて、よほどチャンスに強い人なんだろうなあ。同じ一年だし負けたくないなあ。サインは……ストレート、それっ!」


「ボール!」


「俺はインコースが苦手だから……ホームベースから離れれば打てる可能性があるんだよな。黒田先輩(いわ)く、俺は腕が長めな上に大振りだからそうなるんだと言ってたな。ならば……」


「ホームベースから離れた……? 彼はインコースが苦手でしょうか? それならインコースのストレートで行きましょう」


「オッケー。それっ!」


「ストライク!」


「へえ……」


「もう一度インコース……しかも身体に向かって投げ、スライダーでのけぞってストライクゾーンを取りましょう」


「四条先輩、無茶な事を言うなあ……。俺でいけるかわからないけど、やってみるよ!」


「え……? 変化球が甘い……!?」


「スライダー……だが甘い!」


「打ったー! 夜月が前進守備のライトの頭上を抜いた! ホセはホームイン! 夜月、代打での同点タイムリーヒット!」


「よし! 大島、代走で行ってくれ」


「はい! タイム! 夜月に代わって代走大島です」


「了解! 代走大島!」


 足が速いだけでなく走塁技術も経験もある大島が代走になり、一気に駆け抜けて点をもっと取りに行く戦法だ。


 次のバッターはロビンで、ここで一発が出れば逆転となる。


もちろん結果は……


「それっ!」


「もらったよ!それっ!」


「あ……!」


「入ったー! これが高校最強の黒船(くろふね)スラッガー、ロビン・マーガレットだー!」


「うおー! ロビンナイスバッティング!」


「さすが最強バッターだな!」


「ロビン先輩ナイスバッティングです!」


「カーブをねらったんですか?」


「うーん、本当はアウトコースならどれでもよかったんだ。だからカーブがアウトコースに来てくれてよかったよ」


 流れが東光学園に回り、ここから一気に逆転で空気が変わった。


 夜月が同点にしてロビンがホームランで逆転したショックなのか、天海(あまみ)はここでノックアウトした。


 それでもバックの守備に助けられて何とか抑えきる。


 だが東光学園の切り札がここで登場した。


「ピッチャーは松井くんに代わりまして、斉藤くん。ピッチャー、斉藤くん。背番号10」


「きゃー! 斉藤くーん!」


「おー! 斉藤が来たぞ!」


「これは勝ったぞ!」


「斉藤先輩、調子はどうですか?」


「ああ、いつも通り最高だぜ。毎試合登板しているが、この空気は最高だな」


「相変わらず暑苦しいですね……。少しだけクールになってくださいよ」


「それはムリだな。今から三者連続三振を狙えると思うと熱くなるに決まってるだろ?」


「まったくあなたって人は……。とにかく力でねじ伏せましょう」


「おう!」


 三番の三浦を三振に取るが、四番の菊地にはホームランを打たれる。


 だが五番の星井と六番の我那覇を三振に抑え勝利する。


「では5対3で、鷺沼学園と東光学園の試合は、東光学園の勝利です。両校とも、礼!」


「ありがとうございました!」


「っしたー!」


「おめでとう、東光学園。必ず優勝して甲子園に行ってください」


「うん、もちろんだよ」


 鷺沼学園主将の秋月が渡辺と握手を交わす。


 エースの天海も同じ一年の夜月と握手を交わし、次はリベンジを誓うと約束をした。


 ちなみに翌日にはセルフチューブで新入生の人気投票では、夜月は0票という屈辱的な結果になったのはヒミツ。


 天童と山田、園田が圧倒的で、次に(さかき)と木村が人気だったが、夜月は不人気なのを少し気にしていたのか、また居残り練習をしていた。


つづく!

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