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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第9話 合宿開始

 体育祭を終えた東光(とうこう)学園に、いつもの日常が戻ってくる。


 部活動対抗リレーで陸上部に敵わなかった部活ばかりで、部費が少しだけオフになるチャンスを逃してどこも悔しそうだった。


 だが硬式野球部はそれでもめげずに動画配信や投稿を続け、確かなファン獲得の活動を続けている。


 そんな時だった――


「ついにやるんですか?」


「うん。石黒さんから聞いた話では、いつもより早く合宿をするみたいなんだ。最初にキャプテンである渡辺くんに伝えてほしいと言われたんだ」


「そうなんですね。わかりました、放課後に全員集めて連絡します。合宿の日程は?」


「7日間と言っていたよ。ということは……あそこを使うんだね」


「はい。合宿専用の寮をお借りします」


「そこの寮を真っ先に使うのはいつも硬式野球部だね。他は秋か冬だからね。じゃあ理事長に申請しておくね」


「ありがとうございます」


 渡辺と会話しているのは来年で退職するの80歳の硬式野球部顧問の教員・野村龍児(のむらりゅうじ)先生だ。


 この学校では教員の仕事の負担を減らすために、各部活の事務関係を主とするもので、顧問といっても直接指導するわけではない。


 中には教員自らが監督やコーチをする人もいるが、硬式野球部は教員の負担を気遣ってあえて事務仕事のみにさせている。


 そんな野村先生が石黒監督に言われたことを渡辺に伝え、ついに合宿シーズンに入る。


 放課後になった夜月たちはすぐに第一野球場に向かう。


 そこに着いて部室で着替えて早々集合がかけられる。


「みんな集まったね。これから監督が来るけど、先に連絡事項があります。まずは二、三年なら分かると思うけど、ついに夏の大会前の合宿の時期が来ました。寮に住んでいる部員は合宿専用寮への移動を、実家から通いの部員はご両親に報告をしてください」


「はい!」


「おいーっす!連絡は済んだかー?」


「監督!おはようございます!」


「おはようございます!」


「おー!合宿の連絡は届いたようだな!さて、合宿開始という事はだな……夏の大会のメンバーを発表しなければならない。西暦時代ではベンチ収容人数が十八人と狂った少なさだが、主催する会社が変わって新暦(しんれき)という事で過去の反省を踏まえてベンチ収容人数が変わったと高校野球史であったな。だから今回も二十六人ベンチに入れる。ただ合宿前にたくさん練習試合を重ねたが……なかなかの勝率で誰を入れればいいか迷ったよ!だけどこれから発表するから聞き漏れのないようにな!ではいくぞ!」


「……。」



「背番号1番……三年、小野裕也(おのゆうや)!」


「はい!」


「背番号2番……一年、天童明(てんどうあきら)!」


「はい!」


「背番号3番……三年、ロビン・マーガレット!」


「はい!」


「背番号4番……三年、我那覇涼太(がなはりょうた)!」


「はい!」


「背番号5番……二年、中田丈(なかたじょう)!」


「うっす!」


「背番号6番……二年、志村匠(しむらたくみ)!」


「はい!」


「背番号7番……三年、尾崎哲人(おざきてつと)!」


「はい!」


「背番号8番……三年、ホセ・アントニオ!」


「おうよ!」


「背番号9番……三年、渡辺曜一(わたなべよういち)!」


「はい!」


「背番号10番……三年、斉藤敦(さいとうあつし)!」


「よっしゃあ!」


「背番号11番……二年、松井政樹(まついまさき)!」


「は、はい!」


「背番号12番……二年、田中一樹(たなかいつき)!」


「はい!」


「背番号13番……一年、清原和也(きよはらかずや)!」


「うっす!」


「背番号14番……二年、岡裕太(おかゆうた)!」


「はい!」


「背番号15番……三年、中村鋼兵(なかむらこうへい)!」


「ほい!」


「背番号16番……三年、島田正道(しまだまさみち)!」


「はい!」


「背番号17番……三年、中島雄太郎(なかじまゆうたろう)!」


「はい!」


「背番号18番……三年、大島秋人(おおしまあきと)!」


「はい!」


「背番号19番……二年、三田宏和(みたひろかず)!」


「はい!」


「背番号20番……一年、川口尚輝(かわぐちなおき)!」


「はい!」


「背番号21番……一年、園田夏樹(そのだなつき)!」


「はい!」


「背番号22番……三年、福田俊樹(ふくだとしき)!」


「はい!」


「背番号23番……二年、本田(ほんだ)アレックス!」


「うい!」


「背番号24番……三年、新田彰(にったあきら)!」


「はい!」


「背番号25……三年、山岡正人(やまおかまさと)!」


「はい!」


「そして最後の背番号26番は……一年、夜月晃一郎(やつきこういちろう)!」


「は、はい!」


「ベンチ入りできなかった三年がいないのは、俺が監督就任して一度もない。だが三年だからって思い出作りのためにベンチ入りさせたわけじゃないぞ。夏のメンバーを中心に合宿を行う。選ばれなかったメンバーは手伝い……なんてことしたら差が出るから一緒に練習に参加してくれ。じゃないとせっかくの少人数部員の意味がないからな。じゃあ合宿は来週からだ、寮に住んでいる部員たちの寮長さんには全員話をつけている。じゃあ各自、自主練だ!」


「はい!」


「あ、そうだ。晃一郎、ちょっと来てくれるかな?」


「ロビン先輩?」


「君のことが気になっていたから一緒に自主練したいんだ。よかったらどうかな?」


「う、うす!」


「山田、お前には俺の走りの極意(ごくい)を教えてやる。一緒に付き合え」


「ホセ先輩なら百人力ですね!」


「天童、少しいいか?お前はリードが甘いから俺がお前を正捕手(せいほしゅ)として育てる」


「た、田中先輩容赦(ようしゃ)ないからなぁ……w」


「投手陣はブルペンで会おう」


「田中ぁ、少しは優しくしてやれよ?一年坊主がビビっちまうぜ」


「斉藤先輩の熱さの方がビビりそうですよ?」


「相変わらず返しがクールだなぁ……」


 こうしてベンチ入りした一年生は先輩たちに声をかけられて自主練に入る。


 清原みたいな完全パワー派は中田の引っ張り打法に、田中率いるバッテリー陣は小野や斉藤も一緒にブルペンへ、俊足派の一年はホセのところへ行った。


 だが夜月は何故かロビンに気に入られてしまい、一緒に自主練する事になった。


 ロビンと夜月が向かった場所は――


「ここって……室内練習場ですか?」


「うん。晃一郎はちょっと打ち気が強い傾向(けいこう)があるからね。だから打つときに体が突っ込んじゃって、目線がブレたり力が入らなかったりするんだ。そこで僕がアメリカで学んだことを教えるよ」


「まさかチームの四番バッターの先輩に教わるなんて思いませんでした。じゃあお願いします」


「うんうん、君のストイックなところ……クリスから()()()()()だね」


「えっ?クリス……さんを知ってるんですか?」


「チアリーディング部のクリス・マーガレットでしょ?あの子は僕の()なんだ」


「マジっすか……!」


「あれ?マーガレットって名字で気付かなかったかな?まぁいっか、クリスから話は聞いているよ。自分だけでなくて、他の寮生の自主練にも付き合ってるんだね」


「まぁ、付き合わせちまってるのでそのくらいは……」


「ふふっ、君の事をますます気に入ったよ。それじゃあ早速……ちょっとここでジッとしててね」


「は、はぁ……」


 ロビンは何やら少し慌てて何かを準備し始めている。


 突然室内練習場を出ると、一人の女子を連れて戻ってきた。


 その子は上原春香(うえはらはるか)、二年生の硬式野球部のマネージャーだ。


 彼女は選手の身体の状態を見極める事に長けていて、将来は看護師として患者(かんじゃ)を間接的に助けたいと思っている女の子だ。


 上原は兄が医者を目指していて、いずれは開業してそこで看護師をやるらしい。


 夜月は上原に挨拶をする。


「えーっと、おはようございます」


「おはようございます。この子が夜月晃一郎くんですか?彼と私を連れて何をやるんですか?」


「君は持ってきたビデオカメラで撮影をしててね。たまに僕が君に出番を振るけど、その時は本音で意見を言ってね」


「わかりました。それじゃあ撮影を始めますね。5、4、3、2、1……スタート」


「Hello everyone。ロビン・マーガレットです。最近横浜工業との練習試合でホームランを放った悲劇のスラッガー、夜月晃一郎くんの弱点がわかったので、今から矯正(きょうせい)していこうと思います。実は僕もアメリカにいた時に同じ弱点を持っててね、その経験を(もと)にした指導で彼がどこまで変わるかを実証します」


「は?練習なのに何セルフチューバーみたいなことしてるんスか?俺は練習をですね……」


「うーん、彼はまだ一年で理解していないみたいですが、一応彼に説明しておくね。この部ではファンを獲得するのに定期的に動画撮影をしているんだ。今回は配信で君の成長ぶりを見てもらうんだ。ビックリさせてごめんね」


「ああ、そうやって記録する事で過去と比べるんですね。理解しました、じゃあよろしくお願いします」


「ふふっ、君は相変わらずクールでリアクションが薄いね。じゃあ早速、彼のバッティングを見てみましょう。その前に晃一郎、素振りしてみてくれるかな?」


「はぁ……わかりました。じゃあここでいいかな……ふんっ!」


「うん、なるほど」


「えっ?もうわかったんスか?」


「一振りでもうわかっちゃった。じゃあ今度はティーバッティングとマシンバッティングで」


「うす……」


 夜月はロビンに言われるがままバッティングをしていた。


 しかし夜月はさっきの素振りとは別人のようなスイングをしてしまい、ボールが思ったように飛ばなかった。


 おまけに凡打ばかりで空振りこそ少ないものの、ファールやボテボテなど無様(ぶざま)なものだった。


 ロビンは『やっぱりね』と言わんばかりに(うなず)き、夜月に近づく。


「君はやっぱり早打ちなのと、打ち気が強すぎてボールが待てずに体ごと打ちに行っちゃって突っ込んでるんだ。今ので実感したかな?」


「そう言われてもなぁ……」


「マネージャーの上原さんはどう見えた?」


「えっと……確かに突っ込んでいます」


「マジか……」


「そこでアメリカでやってきた矯正法をやっていくね。晃一郎、君は左打ちだから右足に軟式ボールを乗せてティーバッティングをしよう」


「うす」


 ロビンの指示通りに夜月は動き、言われた通りのティーバッティングをした。


 すると夜月の体重移動がおかしく、前傾姿勢(ぜんけいしせい)で打ちに行ってしまい右ひざが前に曲がっていた。


 おまけに体重移動が前になる事でボールが転がり、足元がふらついて派手に転んだ。


「これを毎日僕と自主練して記録を付けよう。前に突っ込みすぎて、君の持ち前のパワーが殺されているんだ。とにかく今日はこの練習に慣れてみよう。慣れてきて完璧になったら、次のステップに行こうね。でも絶対に慌てないでね。君は焦りすぎて先を急ぐ傾向があるからなかなか器用に出来ないんだ。継続して慣れる事が一番の近道だよ。『寄り道、脇道(わきみち)、回り道。でもそれらも全て道』だってクリスが好きなアニメでも言ってたんだ。どんなに遠回りでも進んでいけばいずれゴールに行けるって思う。だから晃一郎も出来ると思う。僕を信じてね」


「ロビン先輩がそうおっしゃるなら……。それにアメリカって本場だから理論もわかってるんだよなぁ……。ロビン先輩、しばらくご指導をお願いします」


 こうしてロビンと夜月、そして撮影係のマネージャー上原の三人四脚のバッティング練習が始まった。


 ロビンはクリスが夜月の話をしていてずっと気にかけていて、自分と同じ悩みがある事に心配な反面、期待も大きかった。


 そんなロビンは夜月のストイックさと周りを見て衝突しながらも正直に入れる姿勢を見て、夜月は将来最強のバッターになると予感もしている。


 夜月は必死に食らいつき、自主練後は合宿に備えて寮を一時的に出ていくことを寮長に伝え、合宿の準備を進めた。


つづく!

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