第98話 修学旅行・1日目
11月の文化祭を終え、ついに修学旅行のシーズンに入る。
修学旅行では学年の人数が多いので北海道、沖縄、京都、そして小笠原諸島の4コースに分かれている。
クラスごとに行き先が変わるので夜月は京都に決まった。
すると夜月は決められた班に合流するのだが……
「あれ? 晃ちゃんもA班?」
「まさか瑞樹もA班だとはな。しかも瑞樹だけじゃないとはな……」
「だな」
「そうね」
「よろしくお願い致します」
「あわわ……こんな大スターたちと一緒でいいのかな……!」
「奥原さんも充分大スターだと思うよ?」
「は、林田くんにそう言われると嬉しい……」
「お! じゃあ池上荘全員が同じ班ってこと!? やったー! あたしもこれでやりやすいよ!」
「クリスも嬉しい! 慣れてる人たちと回れるの嬉しいもん!」
「喜ぶのはまあいいとしてよ、班長をここで決めねえとな」
「全員部長や主将だからね。私的に適任だと思うのはやっぱり……」
「え? 私?」
「生徒会長になった有希歩しかいないと思う」
「長田しか適任がいないな」
「ん、京都? そういや大和って京都出身だったな」
「はい、京都出身ですが……」
「だったら大和さんの方がいいと思うわ。大和さんなら京都の事よく知ってるし、いいと思うの」
「確かにそうだな! 夜月よく覚えてたな!」
「自己紹介の時に言ってたろ」
「覚えてくださったのですね、嬉しいですわ……」
「はーい! 各班で班長が決まったら私の所に来てね!」
「長谷川先生が呼んでるわ。じゃあ大和、頼んだぞ」
「はい、不束者ですがよろしくお願いします(このメンバーにしたのも、わたくしが先生にお願いしたからですわ……。これで実家にもご紹介が出来ますわ……♪)」
こうして池上荘メンバーこと京都コースA班の班長が決まり、京都出身でよく知り尽くしている優子が適任となり班長となった。
教育実習生の理英先生に班のメンバー提出票を出し、これで修学旅行のメンバーは決まる。
修学旅行は3泊4日で1日目は各班で決められた旅館で泊まり、2日目以降は民泊する事になる。
しかもA班の民泊先は……
「そういや大和の家って茶道の家元だったな。10人以上も泊まれるほど広いのか?」
「ええ、お弟子さんたちも住み込みで勤務なされてますわ。ですので民泊も大人数でも問題ございませんわ」
「大和さんってまさか……!?」
「はい、わたくしの実家が皆さんをおもてなししたいという事で是非民泊に来てくれと言いましたわ」
「めっちゃお嬢様なんだろ? 緊張するわ……」
「……っ!?」
「阿部も緊張しているな。声に出さずとも顔でわかるぞ」
「民泊のルールなのですが、決して祖父の部屋には入らないようにお願い致しますわ。祖父は忙しい方でして、あまり他人を部屋に入れたがらないのですわ。孫娘のわたくしでさえ簡単には入れさせてもらえませんから」
「じゃあルールに従った方がいいね」
「イエス」
「そうと決まれば粗相のないようにしましょう。いくら大和さんのご実家とはいえ泊めてもらうんだもの」
「そうだな」
大和家のルールを教えられた各班員はルールに従う事を決意し、修学旅行に向けて準備を進めた。
寮長は『寮からしばらくいなくなると寂しいが無事に帰って来てくれればそれでいい』と言い、修学旅行を新横浜駅まで見送った。
新幹線では男子たちがはしゃいだりゲームしたりし、女子たちが恋バナやメイクなどしてリラックスしていた。
そんな中でも有希歩や優子はさすがの行儀のよさで、二人とも日本でも有数の金持ちの家なんだと育ちのよさがわかった。
京都駅に着き、A班は早速京都タワーに登って展望台へ行く。
「うひょー! これが京都の街並みかー!」
「すごい! これがニッポンの街並み! クリスはここに憧れてたんだよ!」
「おお……! やっぱり高層ビルはねえけど綺麗な街並みだな……!」
「昔は左翼活動家によってこの街は荒廃しかけましたが、市民と実家の健闘もあって今や反日的な人は京都から去りました。まさかその反動で川崎市に集まるとは思いませんでしたが……」
「優子? 何か知ってるの?」
「何でもありませんわ高坂さん! それよりも綺麗な街並みをご覧になりましょう!」
「大和……?」
夜月とあおいが優子の不審な動きに何か察したのか、優子をしばらく観察する事になった。
家に民泊が決まったと知った瞬間から挙動が少しだけおかしく、家に何か秘密があるのではと考えた。
優子は『今はそれよりも修学旅行を楽しまないとせっかくの旅行が台無しになる』と思い、一旦その考えを捨てて楽しんだ。
次に伏見稲荷大社に向かい、千本鳥居をくぐり抜いて達成感を味わうと同時に神様に感謝を込めてお祈りした。
しかし京都には何やら耳の一部が尖ってたり、体が大きかったりするので不審に思って見てみると、伏見稲荷大社にいた巫女さんが夜月たちに声をかける。
「京都の人間で耳が大きかったり髪の色が奇抜だったりして驚いた?」
「はい。わたくしは京都が地元ですが、そのような人間はいなかったような……?」
「ここ京都でははるか昔に人間と妖怪が争って焦土と化した中で、一人の人間が人間の姿を捨ててまで争いの原因となった悪魔と戦い、平和と和解をもたらして以降は妖怪もこの京都に共生するという伝統があるんだよ。ここにいる変わった姿の人間はみんな妖怪が人間になりきって同化しているんだ。もしよかったら人妖神社に行ってみてね?」
「人妖神社……?」
「大和さん、何か知ってるかい?」
「はじめて聞きました……」
「あー、大和さんのお嬢さんかな? 大和さんところは宇治市だから知らなくても無理はないか。スピリチュアルパワーが京都で隠れて最も強く、そして妖怪のご加護で未来を創り上げたい人がよく通うところなんだよ。成功者は人妖神社をみんな知ってるし、妖怪を信じて今も道徳と武士道を重んじている人が多いんだ。平安館の関係者では人妖神社は常識らしいよ」
「へえ……」
「なあ、だったらその人妖神社に行ってみようぜ!」
「河西に賛成だな」
「俺も」
(コクコク)
「クリスもニッポンの妖怪が見たい!」
「あたしも賛成!」
「なら決まりだな」
「ええ、人妖神社に行きましょう」
巫女や通りすがりのおじさんから情報をもらって人妖神社に向かう。
場所は京都市役所から徒歩で10分ほどで、後ろには竹林が多くそびえ立っているとの情報を頼りに向かった。
人妖神社に着くと、そこには妖怪らしき人間姿の大勢の人々が賑わっていた。
しかも参拝客の中には数々の経営者や政治家、さらに大金持ちまでいていかにこの神社に大きなスピリチュアルパワーが宿ってるかがわかった。
すると夜月は突然神社の本堂へゆっくり向かっていき、何か独り言をつぶやき始める。
「夜月? どこに行くんだよ?」
「何だろう……? はじめて行ったはずなのに懐かしく思える……! 何でこの道を知ってるんだろうか……?」
「晃ちゃん! 晃ちゃんっ!!」
「はっ……!」
「どうしたの? 何か辛いこと思い出した?」
「いや……そんなことはない。ただ……ここが懐かしく思えただけさ。でもこの神社に行った記憶がないんだよな……」
「そうなんだ……」
「おーい! それよりも参拝しようぜ! 早くおみくじとかもしたいからよ!」
「あ、ああ! ありがとな瑞樹、おかげで正気になれたよ。さあ清めの水をつけるぞ」
「う、うん!」
こうして参拝を終えてみんなでお祈りし、妖怪たちとの絆を深めるためにも感謝の心を込めた。
人妖神社のパワーを思いきり浴びたA班メンバーは、参拝後に何故かパワーが漲り何でもできる気がしていた。
夜月は甲子園出場、河西は最強のエースストライカー、郷田は日本軍入隊、黒崎はかつての舎弟たちの健康、林田は平和な学園生活、阿部はシャイな自分を治したいという願いを込めた。
瑞樹はインターハイ出場、あおいは甲子園出場、クリスは良好な日米関係、有希歩は学園の発展、つばさはソフトボールの全国出場、麻美はもっとトランペットが上手くなりたい、優子は地元京都の平和、そしてさやかは今度こそ漫画家デビューを願った。
もう夕方になり人妖神社を出ようとした瞬間、夜月は走ってきた小さな女の子にぶつかってしまう。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
「夜月くん! 大丈夫?」
「ああ、それよりも小さな女の子が……って、巫女服?」
「いたた……ごめんなさい! 私が前を向いてなかったばっかりに……!」
「ちょっと! まだ幼い女の子じゃん! もう巫女として働いてるの偉いじゃん!」
「中村さん、まだ神社の中だから行儀が悪いわよ?」
「ごめん……」
「それよりも俺も痛かったが大丈夫か? まさか迷子じゃないだろうな?」
「えっと……迷子ではないです。ただ悪魔に憑りつかれた人が暴れてるって聞いて急いでて……」
「暴れてる人……?」
「どけよコラア!」
「きゃっ!?」
「遠藤!」
「ひったくりよ!」
突然麻美にぶつかった上に邪魔だと言わんばかりにひったくり犯に突き飛ばされる。
麻美は尻もちをついて倒れるも、どうやら大したケガはなかったようだ。
巫女の女の子はその犯人を捜していたがまだ幼いので追いつく事が出来ず、大人の人でさえ追いつけないのでもう犯人は遠くへ逃げた。
しかし阿部の姿もいないのでもしやと思って行方を追ったら……
「逃がさない……!」
「くそっ! 足が速すぎる! 迂回しなきゃな……うわっ!?」
「走る相手には石を投げて牽制しなきゃな……」
「こいつあんな距離から石を……!こうなったらこっちに……うおっ!?」
「悪いな、ここからは通行止めなんだわ」
「もう自棄だ! お前ら殺してやる!」
「阿部逃げろ! あいつナイフ持ってるぞ!」
ガシッ!
「いたたたたたた!」
「郷田!」
「おい、お前いい加減にしろよ?」
「離せよ……くそがっ!」
「くっ……!」
「へへ、これで逃げきれ……うっ!」
「悪いがテメーはもう終わりだ! 警察の世話になってしっかり反省しろ!」
「ぎゃああああああーっ……!」
阿部が犯人を追いかけ、追い付けても振り払われることをわかってた夜月が遠距離から石を投げて牽制し、迂回しようとしたところに郷田が道を塞いで押さえつけ、殴られて郷田が手を離したところでナイフを振り回そうとしたところに黒崎が喧嘩殺法で押さえつけた。
林田は警察に連絡と捕まえた場所を知らせ、女子たちは麻美を守るために壁になった。
しばらくして警察が駆けつけ、ひったくり犯はこうして現行犯逮捕された。
「犯人逮捕のご協力ありがとうございました! あの……皆さんのお名前を聞かせてくれませんか?」
「えっと俺たちは……」
「神奈川県にある東光学園の生徒です。僕たちもたまたまそこを通りかかっただけでして、修学旅行を楽しんでいましたが彼らのおかげで捕まえる事が出来ました。でも感謝されるほどの事はしていませんし、当たり前のことをしただけですのでお礼なんて大丈夫です。では……」
「ああ……名前を聞いて感謝状を渡そうと思ったのに……」
「あのっ!」
「さっきの巫女の子か?」
「先ほどはありがとうございました! 犯人を逮捕してからすぐにこの人妖神社で悪魔祓いをします!」
「わかった、それとさっきはぶつかってごめんな。君の名前は?」
「私は人妖神社の直系の一人娘の……春日はなです」
「春日はな……覚えておくよ。君は将来立派な神主になるだろうよ。こんなにオドオドしてて小さいながら正義感と勇気のある子なんだからな。立派な神主になれよ、じゃあな」
「はいっ! ありがとうございました!」
夜月たちはひったくり犯を捕まえた上に警察に感謝され、そして人妖神社直系の子の春日はなにも出会った。
後にこの『春日はな』は京都を救う偉大な魔法少女になるのは別のお話(詳しくは妖魔使い月光花を読んでね!)。
こうしてドタバタな修学旅行1日目が終わり、夜月たちは無事に旅館に泊まる事が出来た。
男子と女子はさすがに別室だが、覗きが発生する事もなく平和に終わったのでみんな疲れたのかグッスリ眠った。
そして2日目が訪れた。
つづく!




