12話 パーティーの終わりに
~ クローヴィア視点 ~
大魔法成功祝賀会と言う名の断罪パーティーは、人々の冷や汗と共に終了した。
不正を行っていた貴族たちは、軒並み城で監禁され、刑罰が決まるまで軟禁状態となった。
降格処分に強制世代交代、賠償金請求、鉱山での重労働、国外追放など、罪の重さに応じて決まるようだ。
あ~、元婚約者のポンコツ君とバカ女の実家に『陛下直筆の結婚承諾書』を送ることになった。
なんと3ヵ月後には強制結婚するそうだ。
御愁傷様。
どうか末長く幸せに……。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
ここはパーティー前に支度をした部屋で、今夜は城にお泊まりする事になった。
時刻も夜で、すでに寝巻きだ。
「ヴィア、私だ」
ネルか。
婚約者ではあるが、夜中の訪問はマナー違反だ。このまま寝ている事にして、やり過ごすことも出来たが、興奮して寝れないのが現状だ。
「どうしたの?」
ドアに近づき、扉越しに返答する。
「すまん、寝てたか?」
「大丈夫。起きてたよ。何かあった?」
「ん……。大丈夫かと……思ってだな。その、パーティー終わりに、……話していた、だろ?」
いつも余裕綽々としているネルなのに、どもっているなんて、珍しい。
パーティー終わりか……。
「あぁ、トーマスの事ね」
ブリュッセル侯爵家が降格し、子爵家になる。新たな当主として15歳のトーマスが就任するのだ。
彼とはお母様の事件以降、何かと連絡を取り合っていた。
『いつか必ず、ブリュッセル家として伯爵婦人の墓前で謝罪させてほしい』
彼が貴族学園入学の為、王都に来たときに、真剣な顔で告げた言葉だ。
パーティー会場から退出したとき、廊下でトーマスと侯爵婦人が待っていたのだ。
「約束を覚えていますか?」
「えぇ」
「折を見て、フォーリー伯爵領に伺います。もし、お時間を頂けるなら、見届けて頂けないでしょうか。伯爵とアランドロと共に」
当主としてケジメをつけたい。と目が言っている。
「もちろん。日程が決まったら連絡を頂戴ね」
「はい!」
そんなやり取りをしたわ。
「約束ってなに……」
あぁ、ネルに言ってなかったわ。
「昔の約束なんだけど、『いつか必ず、ブリュッセル家として伯爵婦人の墓前で謝罪させてほしい』って言われてたのよ。当主になったことで、その約束を果たしたいってことよ」
「そっ、そうか。そうか……。なんだ……」
ネルの様子がおかしいので、ドアをそっと開けてみた。
ドアの隙間から見ると、髪で目元が隠れているが、ネルの顔は真っ赤になっているのがわかる。
「ネル、大丈夫?」
「……大丈夫じゃない」
そっぽを向きながら、消え入りそうな呟やきだ。ちょっと可愛い。
「……散歩しないか?」
こんな夜に?
まぁ、部屋に居ても寝れそうもないし、少し夜風に当たるのもいいかな。
「いいよ」
薄いブランケットを掛けて、私は部屋を後にした。
×××
夜の庭園は誰も居なかった。
等間隔にランプが灯っていて、昼間とは違う美しさがあった。
私とネルが婚約したのは、私が婚約破棄された日だった。
あのレストランで酷く汚れてしまった私を、迎えに来てくれたのだ。レストランの関係者が魔法省に連絡してくれたそうだ。
大体の出来事は伝えられていたようで、絶対零度の怒りが、移動中の馬車内に広がった。
そこで今回の計画の概要を決めた。
本来『大魔法聖域結界』はコッソリと行う予定だった。身の安全を守るために、私が発動させたとは発表しないはずだった。
だが、
『君をバカにしていた奴らや、クズ男と腐れビッチに吠え面をかかせてやろう』とネルに言われ、今回のように大々的に御披露目をしたのだ。
また、
『君の安全は私が守る。そのためにも私と結婚しよう。そうすれば一生君を守ることができるだろ』
と、計画の一環でネルと婚約したのだ。
「あら?あそこに温室があるわ」
「あぁ、あそこは薬草を育てるのに使われている。陛下に万が一があった時用だけどな。私が時折管理している。行ってみるか?」
「是非」
温室と言うよりは外の研究室みたいな作りだ。
プランターや小さな花壇などで計算されて育てられている。整理整頓された空間だわ。
ネルの性格がよく出てると、思わず笑いそうになる。
「なに?」
ちょっと不機嫌になるネル。
「ネルらしい空間だなって思ったの。キッチリと隙がない作りなんて、特にね」
「そっ、そうか。散らかってると、何かと面倒だからな」
機嫌は直ったようね。
「ここは陛下も利用しているんだ。あの人、薬草マニアなんだよ。時間が出来るとここで薬品研究してる」
「陛下が?」
「ちなみにマリアンヌもな」
国王夫妻の共通の趣味らしい。
陛下は回復ポーションや魔力ポーションの研究が大好きで、王妃様は化粧品の研究が好きらしい。
三人で議論しあったりするようだ。
そう語るネルの顔は優しく笑っていた。
「私は惚れ薬の研究をして……。あっ、いや、何でもない!忘れてくれ……」
「惚れ薬?」
そんな薬もあるのかと思っていて、不意に気がついた。
「ネルは……好きな人がいるの?」
「え?!……う……ん。まぁ、いないことは……ない」
ネルの頬が少し赤くなっているのを見て、私は自分の失態に気がついた。
私はとんでもない事をしてしまった……。
ネルには想い人がいたのに、計画のためとはいえ、その気持ちを踏みにじってしまったのだ。
「ヴィア?」
「ネル……婚約破棄して」