13話 再度の婚約破棄?!
~ クローヴィア視点 ~
「ネル、本当にごめんなさい」
「え?……え?!」
「ネルに……他に好きな人が居たなんて……知らなかったのよ。すぐに婚約破棄しましょ。大丈夫よ。その好きな方に、これは契約婚約だったと伝えるわ。それでも信じてもらえないなら、陛下や王妃様にご助力いただいて……。あっ、惚れ薬は完成しているの?非人道的だけど、まずネルの気持ちを」
「ちょっと待って!!」
軽いパニック状態で話していた私の口を、ネルが手で塞いできた。
「婚約破棄はしない」
何故?
わからなくて、頭をかしげてしまう。
「もう……鈍いな……」
ボソボソ言っているので聞こえない。
ゆっくりとネルが手を離した。
「ヴィアは……婚約破棄したいの?誰か好きなヤツがいるの?」
「好きな人?はいないけど、ネルの事が大切だから……私のせいでネルが我慢するのは、嫌よ……」
なんだろう…。
胸がキューとなる。
「大切って……どんな意味で?」
「?ん~……幸せを願っちゃう感じ、かな?」
「なんで疑問系なんだよ……。たく」
ネルがおもむろに薬品棚から、小さな小瓶を取り出した。
「惚れ薬って、ヴィアはどう思う?」
「う~ん……、一種の魅了魔法みたいなもの?なのかな。でも魅了魔法は常に魔力を放出しなくちゃいけないし、魔力がなくなると解けちゃうから燃費が悪い魔法よね。広範囲魔法だから、特定の一人を惚れさせるのは」
「違う違う!魔法分析してほしいんじゃなくて……その……私が……ヴィアに使ったら……幻滅する?」
「?あぁ!治験したいってこと?別にいいよ。ネルの役に立てるなら。そうよね、好きな子に新薬は試せないものね」
ネルが肩を落としてため息をついた。
「私の事、嫌い?」
「?好きよ」
ネルが小瓶を見せて来た。
スッゴい睨まれているようだ。
「この惚れ薬、自分の唾液と相手の唾液を混ぜて飲ませる必要があるんだ。だから、口移しで相手に飲ませるのが効率的だ」
「なるほど。唾液で自分と相手の情報を混ぜて、特定の状況下を作って作用するのね。うん、それなら一人に限定した魅了魔法の」
一人情報を整理していると
「いいの?」
とネルに声をかけられた。
治験して良いかと聞いているのだろう。
ネルの為なら断らないわ。
「いいわよ」
「……ヴィアは……誰とでもキス……できるの」
「?治験でしょ」
「じゃ、私以外の研究員、男と、治験の為とはいえ、口移しの液体を、飲めるのか……」
治験に協力すると言っているのに、なんで不機嫌になるのかしら。
でも、ネル以外にされる……。
考えただけで虫酸が走ったわ!
「ネルだったら出来ると思う。他はちょっと……考えたけど無理ね。ほら、鳥肌立っちゃった」
「それって……」
ネルがおもむろに近づいてきた。
「私の事が好きなの?」
「うん、好きよ」
「それは男として?」
「え?う~ん……」
悩んでいると、ネルの顔が近づいてきた。
近づくと、髪の隙間から瞳が見えるんだ。
なんて、思わず観察してしまった。
唇が軽く当たる。
「こう言う時は、『目をつぶる』と恋愛小説には書いてあったぞ。色気ゼロの鈍感女」
「なっ!」
また軽く唇を当ててくる。
「私の事、男として好き?」
「……嫌い。他に好きな人が居るのに……女なら誰でも良いとか、最低でしょ」
ネルが盛大なため息をついて、私にもたれ掛かってきた。
重いんですけど……。
「愚鈍、鈍感、研究オタク……。はぁ~……。あのな~、私が、好きでもない女にキスするヤツに見えるのか?」
「実際にしてるじゃない」
「はぁ~……そうじゃなくて……。あぁ、もう!!」
ネルが突然頭をかきむしった。その拍子に前髪が乱れて、瞳が見える。
「いいか、一回しか言わないからな!一言一句漏らさず聞けよ!いいな!わかったら返事!!」
「はいっ!」
両肩をネルが掴んでくる。
いつもは隠れてる瞳と目が合う。
「私が好きなのは、ヴィアだけだ!あんなクズ男と婚約する前からずっと好きだった。タイミングを見計っていたら、……出遅れて、あんな男に……。とにかく、私が好きなのはヴィアだけ。わかったか?」
あまりの捲し立てに、ちょっと引いてしまう。
「わかったんなら、私と結婚する!いいな!返事!」
「はいっ!」
押し負けるように返事をしてしまった。
見つめ合っていると、笑いが込み上げてくる。
「ヴィアはどうなの?私とのキス、嫌じゃないんだろう?」
「嫌……では……なかった、わ」
自分で考えてみて、何だか不思議な気分だ。
「じゃ、ヴィアからキスして」
「え?!」
何を言い出すんだ、この男!
「実験だよ。鈍感女が自分の気持ちを知るまでの研究。第一アプローチとして、私からのキスは嫌じゃなかった。第二アプローチとして、ヴィアからキスをしてみて、その感情を観察してみて。ほら」
ほらっ、じゃないんだけど……。
やらないと終わらせないって意地悪な顔してる。いや、あれは私が困ってる姿を楽しんでる顔だ。魔法省で意味がわからない絡み方をして来た時の顔ね。
「目を……瞑って」
恋愛小説では上目遣いで懇願すると、男心に何かしらの干渉が起こると書いてあった。
どうかしら?
ん、ネルの顔が少し赤いけど、険しい顔になった。ちょっと面白い。
顔を近づけると、険しい顔のまま、ゆっくりと目を瞑っていく。
あと少しで唇が触れる瞬間。
「ぷっ……」
私が吹き出してしまった。
ダメだ、堪えられなかった。
顔を背けてしまう。
「ヴィ~ア~……」
低~いネルの声がした。
本能的に距離を取ろうとしたら、一足先に腰を抱えられてしまった。
顎をとられ、顔を上げさせられた瞬間、ネルが唇を押し当ててきた。いや、何かヌルッとした。
え?!唇を舐められた?!
唇を頑なに閉じる私の背中を、ネルが触れるか触れないかの距離で撫で上げた。
「ひぁ!」
こそばゆくて、思わず口を開けると、ネルの舌が入ってきた。
止めてほしくて胸を叩くが、びくともしない。
どうやって呼吸すればいいの?
苦しい……。
口の中でネルの舌が動いているが、よくわからない。酸素が足らなくて、頭がボーっとする。
「キスの時は……鼻で、息を……しろよ」
ネルも息が上がっている。
「私をからかった罰。結婚したら、覚えてろよ」
いつにもまして妖艶な微笑みに、背筋が凍りました。




