第8話 ~お転婆女王様の冒険~
「おはようございます、ハルマ様」
「おお、来て下さいましたか」
ある日の昼前。
セプトリア王都の中心にそびえるセプトリア城、その門前にて待っていたハルマに、ユースが第一声に挨拶を発する。
迎えるハルマは、言葉どおり予定よりも少し早く訪れてくれたユース達を、朗らかな笑顔で歓迎する。
「武装しておいで下さいと申しましたが、あまり防具は増えないんですな」
「はい。俺……私達はいつも、こんな感じなので」
「俺、でいいですぞ?」
「う……じゃ、じゃあその、俺達は……はい、別に」
よそ様向けの丁寧な言葉遣いはまだまだ慣れない。
後ろでアルミナが声を出さずに笑っている気配がぷんぷんするし、ハルマに笑顔で挨拶していたユースの表情にも苦い色が混じる。言葉も何だか、しどろもどろ。
ユース達は今日、頼みたいことがあるから武装してきて欲しいと言われていたので、そこそこ装備は増えている。
ユースは腰を守る鋼の草摺と篭手を身に付け、金属ブーツも戦場用のもの。
最大の変化は左腕に装備した盾だ。上は相変わらずノースリーブの黒いシャツ一枚だが、元々戦場では鎧を身につけない彼なのでこれはこれでいい。
シリカも草摺とブーツ、篭手を装備しているところまでは同じで、胸元を覆う軽鎧を装備している。こちらも戦人らしい格好にはなっているが、軽装には違いない。
ハルマが二人を見て抱いた感想がそうだったのは、もっと慎重さを窺える装備を想定していたのと、イメージが不一致だったからである。
「その箱は?」
「銃です。私の武器ですよ~」
アルミナなんて、普段着のままで防具の一つもつけていない。桐の四角い箱を抱えているが、ハルマに聞かれて中身を言うとおり、それが彼女の愛用の武器である。
別に箱に入れて持ち歩く習慣がついているわけではないのだが、仮にもこの後女王様のようなお偉い様と謁見するにあたって、武器を裸で持ち歩くのは良くないと判断してのことだろう。誰に言われるでもなく、自分でそう判断して銃を箱に入れてくるぐらいには、アルミナはそういうところに気を配れる頭をしているようだ。
「では、参りましょうか。何度も来られておるでしょうが、今日もご案内致しましょう」
そのまま、城門をくぐって城の奥へ。そのまま、謁見の間まで進んでいく。
大きくない城だから、ハルマを先頭にして歩く時間もそう長くない。その程度の距離を"ご案内"するハルマは、道すがらにユース達との会話で、ある程度の説明をしてくれる。
「武装して頂いたのは、皆様にナナリー様の護衛を依頼したいからです。今日から少々、ナナリー様が城を離れ、遠出されますのでな」
「護衛、ですか……? 女王様の……」
「ナナリー様の希望による人選でしてな。気重に感じるかもしれませぬが、まあ聞いて頂きたい」
ユースの声と表情に緊張の色が濃く現れる。
ナナリー女王、つまりこの国において、最も、決して間違いの起こってはならない人物。その人物の安全を守る護衛を任されるというのは、相当に重要な仕事であろうと若いユースにも理解できる。
ユースの後ろ手アルミナも、少し目を見開いてシリカの方を見ているぐらいだ。マジですか今の話、と。
「海を隔てた異国、魔法都市ダニームのことはご存知ですな? エレム王国とも縁が深いでしょうし」
「はい、それは勿論」
「ナナリー様は、魔法都市ダニームに住まわれる賢者様と友人関係にあり、しばしば足を運ばれては、公務として賢者様に会いに行かれる。ダニームの賢者様と言えば、一国の都相当のあの都市の中枢を担うお方ですし、単なるお戯れではなく政治的な対談として赴かれるというわけです」
「……賢者様のご友人ですか」
ユースの顔色がさらに曇った。何か、嫌なことを思い出した顔である。今は関係のない話だが。
「今日、ナナリー様はセプトリア王国を発たれ、魔法都市ダニームに赴かれる……というのが、表向きの話」
「え?」
「皆の者にはナナリー様が城を離れる理由をそう説明しているが、実のところはそうではない。まあ、有り体に言えば、お忍びで遊びに行かれるだけというのが本当のところなのですよ」
「お忍び……」
「もの凄く俗な言い方をしちゃうと、ピクニックってことですか?」
「そんな感じですな。ナナリー様も最近は激務に追われてお疲れでしょうし、たまには、ね」
幼い見た目の女王様である一方、仕事も出来るそうだし時々威風も醸し出すお方だが、ナナリーってそういう一面もあるらしい。たまには、あるいは稀には仕事を丸々放り投げて、遊びに行くこともあると。
それって、子供みたいな風貌の女王様の見た目のイメージそのまんま。
「あまりこのことをおおっぴらに話すと、少々ナナリー女王様に対する心象にも響きますのでな。皆の者にはお忍び外出であることは伏せ、あくまで仕事で出て行かれると説明しているのです。ですから、このことはどうか、今後も含めて皆には秘密でよろしくお願いしたい」
「はあ……」
「日は跨ぎますが、そう長くない旅路のお供をお願いするだけですよ。ナナリー様も、ユースどのらとお話しする時間を増やして、親睦を深めたいというのが主な目的の人選のようですしね。あまりそう重く受け止めて頂く必要はないと思われます」
微笑みかけるハルマの表情に、少々肩の力を抜かせて貰いながら、ユースは謁見の間へと歩いていく。その後ろではアルミナが、そんな重要な仕事私達に務まるのかな、とアルミナがシリカをちらちらと不安げに見ていたりも。
シリカは黙ってアルミナに、笑顔を返すのみだ。何があっても、私がなんとかしてみせると表情のみで物語るシリカの態度は、アルミナにとっては最も頼もしく、安心できるもの。
ほんの少し前までは、ユースもシリカのこの頼もしさに身を寄せていたのだ。
師の手を離れ、独り立ちを促されている若獅子は、これまで頼っていた人を振り返らないことを求められる。後ろのシリカを一瞥したい想いを封じ、前のみ向いて歩いていくユースの背中には、シリカも微笑み静かにうなずきたい心地だった。
シリカに見えない角度で、ちょっと不安げな顔が消しきれていなかったユースだが、それはまあご愛嬌ということで。
この後ナナリーならびにニトロと顔を合わせたが、たいした話はしていない。ハルマが先んじて話してくれたことを、改めてナナリーの口から聞いただけであった。
「お兄様方が、ナナリー様の護衛に付かれる騎士様方かい?」
「あ、はい。エレム王国騎士団騎士、ユーステット=クロニクスです」
謁見を終えたユース達は、王都の北東の馬車小屋を訪れていた。
ナナリーらと共に乗る馬車二台がすでに手配されており、その御者にユースはご挨拶だ。こちらの御者様は、どうやら本日の女王様の旅先事情も聞き及んでいるご様子。
女王様が乗る馬車にしては、随分と庶民的で小奇麗さに欠ける馬車。雨を避ける幌こそあれど、それもどことなくぼろっちい。
お忍び外出用の馬車だから、敢えてこういう馬車を手配しているのだろう。露骨に王族乗りの馬車だとわかるようにしていては、行く先は公に語る方向と違うのだし、全然お忍びにならないのだから。
「ナナリー様はまだ……っと、来られたようですな」
御者にシリカとアルミナも名乗り、御者も名乗ったところで、待ち時間を繋ぐ世間話でも、と口を回そうとしていた御者だが、どうやらその必要はなかったようだ。
ユース達を見つけて、大きく手を振りながらぱたぱたと駆け寄ってくる幼女が約一名。本当、見た目は全くもって、そうとしか形容しようがない。
「すまんのう、騎士様達や。お待たせしましたぞ」
「いえ、そんな。俺達も今来たばかりですし」
デートの待ち合わせ第一声みたいな会話である。
女王ナナリーに一礼する御者、ナナリーについてきたニトロの姿、これを併せて始めて、ああこの人そういえば女王様なんだなって再認識する心地。
何せナナリー、普段の王族ドレスではなく、そんじょそこらの町娘が着ているような衣服、靴、髪型すらも金髪をツインテール仕様。女王ナナリーの顔を知らなければ、どこにでもいる女の子だとしか思うまい姿である。ちっこ過ぎる女王様、お忍び外出するにあたり、庶民的な格好を徹底するだけで、王族オーラは消せるらしい。
「あまりはしたない走り方をされるものではありませんよ。貴女には、もっと王族としての自覚をですね……」
「むぅ~、ニトロはうるさいのう」
「まあまあ、ニトロ様。ナナリー様も、せっかくお召し物で庶民紛れを為されているというのに、しゃなしゃなお歩きになっていては変装の効果が薄れますし」
「わかっていますよ、それにしたってです」
ちびっこくても女王様、庶民たる御者はナナリーの行動には肯定的、だって相手はこの国で一番偉い人ですから。
それで肯定して貰えてるだけですよ、とナナリーをじろりと見るニトロだが、口うるさいニトロからぷいっと顔を逸らしたナナリーは、とてとてユースの方へと駆け寄っていく。
「っわ……!?」
「ユースどの~、ニトロがいじめるのじゃ~」
ぴょこんとユースの胸元に飛びついてしがみつくナナリーに、びっくりしながらも落とさないよう反射的に手を回すユースだから、抱っこしてあげる形になってしまった。ユースの肩元に頬をすり寄せるナナリーの、幼いふにふにボディの感触を前身いっぱいに押し付けられるユースは、さっそく落ち着きを失っている。
「っ、ナナリー様!」
「ふ~んだ、今日から妾はユースどのの子になるのじゃ。な、ユースどの、妾をニトロから守……」
「や、あのあのあの、ナナリー女王様、これは流石に……」
「ユースっ! いつまで触ってるっ! ナナリー様から離れろっ!」
さあニトロが怒った。駆け寄ったニトロがナナリーの体をぐいっと持ち、引っ張り、ユースから引き剥がそうとする。ユースにぎゅうっとしがみついたナナリーはそう簡単に剥がれない。ユースもどうしたらいいのか困る。
とりあえず、女王様に自分が触れるなんてダメだと意識づけてはいるユースだが、自分の首の周りに腕を回して離れまいとするナナリーを、突き放す手を使うのも難しい。乱暴なことは出来ないのだもの。めちゃくちゃ怒っていらっしゃるニトロを前に気まずいが、出来ることは特に何もありません。
「痛い痛い、ニトロ乱暴じゃぞっ! もっと優しく……」
「いいから離れて下さいっ! なんてはしたないっ!」
困るユースとわめくナナリー、怒髪天のニトロの三人を眺め、シリカも御者も苦笑い。
アルミナが、ナナリー女王様っていつもあんな感じなんですかと御者に尋ねれば、いつものことだよと返されてしまう始末。人は見かけで判断するものではないとよく言うが、ナナリーの性格的な面に関しては、見た目と中身はだいたい同じと思っていいのかもしれない。
「――あ、ハルマ様。お待ち下さい」
「ん……おお、イリス様。どうされましたか?」
「ナナリー様を探しているのですが、謁見の間にもいらっしゃらなくて……もしや、もう出発されてしまいましたか?」
女王不在のセプトリア城を歩くハルマを、後ろから一人の少女が呼び止めた。振り返ったハルマは、自分よりも半分ほどの年頃の少女に、やや深めの会釈を見せている。
腰まで届くオレンジの巻き毛癖のある髪が特徴の彼女は、お姫様を思わせる小奇麗なドレスに身を纏いながら、上手に早足でハルマに近付いてきた。年の程は17歳、見た目どおりの顔立ちと身体で、同じ年ながら幼子の体つきのナナリー女王とは大違い。特殊なのはあの女王様の方だが。
「そうですね、予定よりは少し早く出発されましたので。……もしや、それを?」
「はい……お弁当をお渡ししたかったのですが……」
可憐かつ気品に満ちた顔立ちの彼女、イリスが目に見えてしょんぼりとする。
上品な布に包まれた弁当箱は、重箱になっているのが外観からもわかり、体と胃袋の小さなナナリー女王一人向けのものではないだろう。気合の入った量を窺える弁当包みを前にして、ハルマも彼女が如何に頑張ったかが想像できるというものだ。
「渡す相手が見当たりませんでしたら、私に頂けませんか?」
「あ……は、はい、よろしければ……拙作ですが、その……」
あてを失った弁当を勿体ないとし、ハルマがそれを求めると、イリスは急に頬を染め、弁当包みをおずおずと差し出す。微笑むハルマの顔を直視できず、伏せた目をしぱしぱとまばたきする表情は、恐らく色恋話の好きなアルミナ辺りが見たら、何かを察するであろう顔色である。
「ニトロどのには秘密ですよ? 妬かれますからな」
「は、はいっ……絶対、内緒ですね」
くふっと笑うハルマの顔をちらりと見上げ、イリスもなんだか嬉しそうに笑う。この人と、二人だけの秘密を共有できるということ自体が、イリスにとってはこんな顔をせずにいられないことのようだ。
「あ、あのっ……ハルマ様、王様代理、頑張って下さいね?」
「ええ、ありがたいお言葉、恐縮です。こちらも、ならびに」
受け取ったお弁当を見せ示し、それに対する礼も同時に述べたハルマは改めて一礼すると、イリスに背を向け歩いていく。見送るイリスは、しばらくその場を動かず、ぽーっとした顔のままハルマに目線を釘付けにしていた。
ハルマが向かったのは謁見の間。無人のそこへと足を踏み入れ、扉を閉じると、玉座に向かって歩いていく。
そして、玉座の前まで辿り着いたところで、くるりと振り返って謁見の間全体を見渡す。
ここには誰もいない。ハルマが何をしたとしても、誰も彼の行動を目にすることのない状況であることを確認する。
「…………いつ見ても、美しい玉座だな」
誰にも見られていないことを確かめたハルマは、玉座の肘掛けにそっと手を触れる。
ナナリー女王がいつも座っている玉座だ。ナナリー以外の者は、本来何人たりとも触れることの許されない、セプトリア王国の王のみが腰掛けられる由緒正しき頂である。
ナナリーが国を離れている今、彼女に代わって政の中枢を任せられるハルマとて、決してその例外ではない。この玉座に座ることは勿論、触れることだって本来は許されてはいないのだ。
「ふふ」
ハルマは小さく笑みを浮かべていた。今は亡きナナリーの父、先代国王の顔を思い浮かべながら、高い天井の遥かその上、天を仰ぐように上方を見上げてだ。
「ニトロ~、退屈なのじゃ~……」
「じゃあ寝ればいいじゃないですか。言っておきますが、外出は一切認めませんよ」
「外には行かぬ、ユースどのやシリカどのの部屋にじゃな……」
「だから、それがダメだって言ってるんですよっ」
真昼時にセプトリアの王都を出発したナナリーを乗せたこの馬車は、ややゆったりした進行で東寄りに北上し、小さな村に到着していた。シェデムの村という場所らしい。
着いたら着いたでさっさと宿、夕食を済ませてはい就寝時間、という流れ。男のユースが一室、女のシリカとアルミナが一室、その二室に挟まれた一室に、ナナリーとニトロが泊まる形まで速やかに至った。
「昼の貴女の行動は見過ごせません。女王たるお方が、あんなに男に気安く体を触れさせるなんて言語道断です。意味がわからないとは言わせませんよ」
「あ、あれはじゃな、冗談みたいなもので……」
「冗談で女王様があんなことをするなら一層ふしだらです」
「むぁ~、つまらぬのじゃ~! 遠足の夜と言えば、連れと同じ部屋に言って夜話じゃろ~! ユースどのとアルミナどのの関係だとか、色々聞いてみたいこともあるのに~!」
「あの二人は付き合ってるわけじゃないってもう聞いたでしょ。何聞くんですか」
「いやいや、それは照れ隠しであって実はきっと……」
「どうでもいいです、勝手な推測は下世話ですよ」
「なぁ~、頼むニトロ、行かせて……」
「ダメです。ああ、勝手に抜け出したりしたら遠足は中止ですからね。わかってますよね?」
言うこと聞かないなら遠出もおしまい、帰りますよと脅す文句まで付く。衛兵のニトロだが、殆ど妹を躾ける兄の姿と見て違和感ない。
「貴女があんな軽率な行動さえ起こさなければ、今夜ぐらいは少々自由にされても目を瞑ろうとは思っていたんですけどね。自業自得だと思って下さい」
「うぅ~……いじわるなこと言いおって……」
「意地悪してませんよ、元からそのつもりでしたから。貴女もあの三人とお話したくて、こういう人選にしたんでしょ? わかってますよ。本来女王様の遠出なんて、もう少し隊を組んで護送を万全にするのが当然のところですからね」
あなたのせいです、残念ですねとナナリーをへこませるようなことを言うニトロだが、この五人での旅を選んだナナリーの意図は、彼もわかっていたわけだ。あの三人とお喋りする時間も、ナナリーが望むなら容認しようと思っていたのは本当である。
女王ナナリーの言動には厳しいニトロだが、はなから何もかにも厳しくするほど鬼じゃない。
「わかってくれておるなら……」
「公務を離れて遊びに行く都合に、兵を多数割けないという配慮もわからぬではありません。異国からの方々とお話する機会を設けると同時に、要する人員も削減するというのも結構です。少数で貴女を護衛するという多大なリスクは見過ごしたくありませんでしたが、あなたが望んだことですし、真意を無碍にするつもりはなかったんですよ、本当にね」
「あの、ニトロ……」
「駄目ですよ。貴女があんなはしたない行動を取るようでしたら、わがままを聞き入れ続けるのも考えものです。遊びたいなら最低限、女王としての振る舞いを果たしてからにして下さい」
たたみかけるようにナナリーに頑とした態度を突きつけ、いくらごねても許しませんというのを、はっきりとニトロが表明する。流石にそろそろナナリーも、これ以上何を言っても無駄だというのを受け入れざるを得ない。
「……くすん」
「泣いてもダメですよ。っていうか嘘泣きでしょ、余計タチ悪……」
「やきもち焼きめ。どーせ妾がユースどのに抱きついたことを妬いとるだけ……あっ」
せめてもの反撃をしようとしたナナリーだが、やばいと思って途中で言葉を止めた。ニトロからむわりと発される不機嫌オーラが、躾役のそれではなく、素の感情的なそれに変わったからだ。
「帰りますか?」
「や、あの、ごめん、その……怒らんでくれ?」
「本当、帰ります?」
「冗談、冗談じゃ! すまぬ、すまぬって!」
据わった目と声で恫喝まがいの言葉を発するニトロに、あわあわしながらナナリーは抱きつく。
この怒り方はマジである。今のうちに謝っておかないと、本当に帰りましょうねモードになる。
「な? な? 妾よい子にするぞ? 明日からじゃけど……なっ? なっ?」
「あーもう、離れて下さい」
甘えん坊の女王様を、ニトロも参る顔で、手つきは優しく突き放す。主従関係にある割には、日常的には殆どニトロがイニシアチブを握りっぱなしで、衛兵に頭の上がらない女王様の姿ばかりが目立つ。普段、いつもこう。
こういう二人の姿を異国の者が見たら、こんな女王様でこの国は大丈夫なのかなって思いそうなところである。