第80話 ~公開処刑~
中央広場に立ち寄ったユース達。
王都を進む馬車がすれ違うことも多いこの場所は、かなりの面積を確保してあり、広場という言葉の使い方がよく似合っている。
詰めれば何百人も入れそうなこの広場を、既に何人ものセプトリア兵が占拠するかのように、往来する人々の流れをさばいている光景は、ユース達にとって予想通りのものだ。
「ちょっとすいません。何かあったんですか?」
「いやぁ、知らねぇけど……
なんでも王女様が来られるらしくて、兵士様らがこう、な」
「そうなんですか。
ナナリー様の外出にしては、妙に手が込んでますね」
「そうだなぁ。
あの方は、こんなふうに大挙引き連れてじゃなく、よく城下には遊びに来られていたんだが」
この後ここで、何が行なわれるのかは知っているチータだが、そ知らぬ顔で手近な一般人に声をかけ、事情を把握するふりをする。
いちいち芝居がかったことをする必要はさほどないのだが、ニトロの処刑のことなど知らされていない
体ではあるし、装う態度としてはこんなものでいい。
一応、自分達を視界内に入れられる場所に兵士様もたくさんいるわけで、過剰に知っている姿をわざわざひけらかすメリットもないのだから。
「えっと……な、何の用事なんだろうな。
ナナリー様が城下に来られるとこ見るの、俺は何気に初めてな気がするよ」
「そうか、お前は朝方に城へ会いに行くのが殆どで、外出されるナナリー様を見たことはなかったか。
あの方は、けっこう昼過ぎに城下に顔出しして庶民とお話されてるよ。
アルミナ辺りなんか、結構な頻度で目撃してるそうだしな」
「ふーん……」
チータの態度から、とりあえず何が起こるのかは知らんふりしとけと察したユースは、一応合わせて話が見えていないふりをする。演技はちょっとヘタクソだが。
チータも饒舌に話して話の流れを繋ぎ、あまりその下手さが表面化しないようにフォローしておく。
なるべく万全に。失敗できないのだから、チータも立ち回りが入念だ。
今、通行人から聞けた話もしっかり頭に入れておいて、これは使える、なんて思ったりもしているのだ。
「すいません、これはいったい何事でしょうか?」
「あ……チータどのにユースどの。
その……何から話せばいいのやら、なんですが……」
続いてチータは、広場の人々の動きを制する兵士の一人に話しかける。
いかにも気まずそうな兵士である。ユースやチータが、ニトロと親しいことは周知の事実だ。
「……実はこの後、ニトロがここで、処刑されることになっておりまして」
「はぁ?」
冷静沈着な表情が常のチータにしては、大袈裟すぎるほど大きめに声を発し、その表情も険しくする。
初耳という体裁なので、ここはびっくりしておかねばならないのである。知ってるからそこまで驚かない、ではおかしい。
それを示すためにチータは、ちょっとオーバーリアクションを取って見せたのだが、ちらりとユースを見たチータの目には、一気に表情が強張ったユースが映っている。
伝わったか、と一瞬チータも思ったが、厳密には違う。
何回聞いてもユースには衝撃的すぎて、自然にそういう顔になったらしい。気遣い無用であった。
「……ニトロが処刑って、どういうことですか?」
「え、あ、いや……我々も詳しいことは……
なにぶん、ナナリー様の決定でしかなく……」
あり得ないことを聞かされたユースの眼光が鋭くて、兵士がちょっとびびってしまう始末。
へえ、お前そういう気迫も出せるんじゃないかと、チータは内心で驚かされることになった。
童顔で、人を怖がらせるような顔なんて絶対できないタイプかと思ったら、案外怒らせたら大人も怯ませる顔にもなるんだなぁ、と。チータはユースとの付き合いが長すぎて、あんまりそれがわからなったのである。
「すいません、それはいつ決まったんですか?
ここで公開処刑と洒落込むおつもりのようですが、民衆はそれを知っているんですか?」
「いや、今朝突然ナナリー様が決定されまして……
なぜそのようなことをされるのかも、これから民衆の前で説明されるらしく……」
「そうですか……
まあ、何かあったんだと思うほかありませんね」
「おい、チータ」
「とりあえず落ち着け。気持ちはわかるが、感情的になってはいけない」
えらく素っ気無く、兵士の説明に納得するような言葉を発したチータに、聞くのはそれだけなのかとユースが声をかけてくる。
チータからすれば都合がよかった。ちょっと冷静さを欠いてそうに見えるユースの姿は、この後の立ち回りを隠すにあたってかえって都合がよい。
「あの、お二人とも……
お気持ちはわかりますが、あまり出過ぎたことはされぬことをお願いしたいのですが……」
「ああ、存じてますよ。
たかが一介の駐留騎士が、一国の女王様のご意向に口を挟むつもりはありませんから。
どうぞ、お仕事にお戻り下さい」
訓練場帰りということで、木剣とはいえ武器を持っているユース、杖を手にしているチータの姿を見て、友人の処刑に納得いかぬ二人が、過激な行動に出やしないかとは、兵士も少々思っていたらしい。
そう思われていることはわかっているから、チータは関わる気がないと明言しておきたかったのだ。関わる気満々でここに来ているのだが、過剰に警戒されると動きづらくなるかもしれない。
それによって劇的な効果は見込めないにせよ、無いよりはあった方がいい。
「チータ……」
「ナナリー様がご説明されるというのなら、それも聞かずに妙なこと考えるのは言語道断だ。
騎士だからって、あまり自分の立場を驕りたかぶるなよ」
とりあえず、どこで誰が自分達の会話を聞いているかわからないので、チータはユースを諌めるふり。
もちろん、立場なんぞ関係なく、今日はニトロを助けに来ると決めて来ている二人なので、それが演技なのはユースにもわかる。
チータの言葉に納得したふりをして、ユースはおとなしくしておくのみ。
「しかし、ニトロが処刑とはなぁ。
あいつ何をしでかし……ん、あれか?」
「ん……?」
そうこうしているうちに、やがて今回の異変の最大の被害者が、この広場へと引き連れられてきた。
時間をかけてここまで連行されてきた友人の姿には、ユースも息が詰まるような想いである。ひどい光景だ。
三頭の馬に牽引されてきた、車輪備えの断頭台。世間一般に知られるギロチンとは違い、綱を切れば落ちる斜め刃は無く、罪人の首を固定する木の輪と、その下に血を受け止める壷を構えた、古いタイプの断頭台だ。
そこに、既にニトロは首を固定され、顔を上げることも出来ない姿勢にされている。
両膝をつき、台の上に腹と胸を置く形で、膝から胸への線が90度の形に体を折り、首を断頭台の輪に捕えられて身動きが取れない、そんな姿勢だ。
何せニトロの両手は腰の後ろに縄で縛られており、体も台に縛り付けられて、口には猿ぐつわすら。
誰かが彼の首を切り落とすまで、ニトロは逃げることも出来ない体勢である。
石畳の上を断頭台が進むたび、揺れる震動がニトロの膝や膝を下から叩き上げ、その都度ニトロは体を揺らし、猿ぐつわの奥から苦しそうな声を漏らしている。
城からここまで、それなりに距離があるはずなのだ。ここまで連行されるだけでも、膝の骨と胸の奥が何度も苦しめられたはずである。
夏の炎天下、そんな格好で身動きひとつ取れないニトロは汗だくで、体力だって消耗しているだろう。
あれが死刑囚の扱いだ。これから死ぬ者に、一切の手心など加えられない。
むごい光景をここまで晒してきたニトロが広場を訪れるとともに、民衆からどよめく声が上がるのは、極めて自然なことである。
「…………」
ユースが静かな怒りを隠しきれない目でニトロを見つめるので、チータはユースを横から肘で小突いて、少しは冷静になれよと示唆する。
が、通じない。やや高台気味の断頭台に捕えられたニトロを、遠目から見上げる形のユースは、顎も下げないし目のきつさも改まらない。チータの小さな気遣いも無視する形に近い。
気持ちはよくわかるので、チータもあまりこれ以上、無理な感情のコントロールはユースに強いないが。
親しくなれた友人が、あんな様でこれから処刑されようとしている姿を見て、冷静でいられる方がちょっとおかしいぐらいなのだから。
大丈夫かこいつ、と、チータも一瞬懸念しかけたが、ユースは一度だけちらりとチータに目を合わせ、改めてニトロを見上げる目線に戻した。
これがユースなりの、落ち着いてるよ、合図を無視して行動なんてしないよ、というサインなのはチータにも伝わる。
冷静な状態とは程遠いが、都合の悪い感情の高ぶり方ではないと知り、チータもひとまず安心する。
むしろ行動に支障ない程度に感情的なら、行動力に拍車がかかりそうなので良い傾向ですらあるか、とも。
「さて、あれがナナリー様かな」
「…………」
ニトロを捕えたままの断頭台が広場の中心に留まり、間もなくしてそれに続く形で、広場に趣が少々華々しい馬車が入ってくる。
中におわすのが貴人であるとわかりやすい。
そしてチータの見立てどおり、停車した馬車からはナナリーが降りてきて、そのままつかつかと断頭台の方へと歩いていく。
無表情に近い顔で、備え付けの階段を上っていくナナリーは、断頭台の上に立ち、ニトロを見下ろす形になる。
疲弊した顔を下を向けたままだったニトロも、彼女の影で人の気配を知ったか、目の前で自分を見下ろす形のナナリーを見上げた。
「ニトロ……」
「ふっ、ぐうっ……! ふぐううっ……!」
頭に血が昇る。その顔、たまらなく憎らしい。
ナナリーがニトロを見下ろすその顔は、冷淡なようでいて寂しさを含むような、そんな表情だ。
まるで、女王として罪人を断じるにあたって、努めて冷徹であろうとする一方、それがかつての婚約者であることに、哀しみを隠しきれないような表情。そんな顔をナナリーは作っている。
こいつはナナリーではないのだ。ニトロは知っている。
悪意に満ちた斬首刑を執行しつつ、それによって胸を痛める悲劇の女王を演じる、そんなベリリアルの真意がニトロにだけわかるのだ。
猿ぐつわに塞がれて言葉を発せない口、それでも大きな声を発そうとして、罵倒せずにはいられない。
「――皆の者! この日中に突然の大事、深く詫びる!
だが、これは必要なことじゃ! これより、セプトリア王国王室が犯した失態を禊ぐため、しばしの時と場を借り受けたい!」
「うぐっ、くふっ……! うううっ……!」
ナナリーはニトロに背を向けて、民衆に向けて胸を張ると、大きく手を振り注目を集めて声を発す。
広場に集っている民衆は、兵の主導により離れた場所からナナリーとニトロを見上げる形で、女王様の言葉を拝聴するかの如く黙り込む。
静寂に包まれた広場には、ニトロの塞がれた叫び声が虚しく響いている。
「先日、病床の妾に毒を持った不届き者がいた!
それはこのニトロの妹イリスであり、このニトロもまた、その愚妹に加担した身!
すなわち、兄妹揃ってセプトリア王国女王の暗殺を企てた身であり、この罪は死罪で以ってしか償えぬ!」
「……厳戒態勢だねぇ」
ナナリーの宣言の冒頭、毒という単語を含む文節が出た時点から、徐々に民衆からはどよめきが上がっている。
それが自分の声をかき消すほど大きくなった頃合いに、チータはひっそりとユースに伝えるかの如く、小声で呟いた。
情報交換の意図ではなく、場の異常性に対する単なる感想のようなものだが。
断頭台周囲を、セプトリア兵で分厚い陣形を作って囲み。
民衆、すなわちそれに含まれるユースとチータもそこから遠ざけ。
今の宣言をする中でもナナリーは目線を移ろわせ、ユースとチータを見つけた時、一瞬目線が止まり。
今でも少し目線を移ろわせ気味で、民衆を見渡すふりをしながらも、何かを探すような目の動き。
チータは確信できる。あれは邪魔者を警戒する目だ。
ユースとチータは確認した、後はシリカやアルミナやルザニアを探しているのだろう。
女王に逆らえぬセプトリア王国の身内は言いくるめられるのであろうが、強くてどんな行動に出るか、ナナリー目線で不確定要素のあるエレム王国騎士団を、かなり警戒している態度である。
「よって妾はこのニトロを、皆の前にて裁くことを決めた!
このセプトリア"王国"にて、王の命を脅かさんとする者の罪深さを知らしめることが目的の一つ!
そして同時に、このような男を妾のそばに迎え、仕えさせていた妾の失態を戒めることも目的の一つ!
かような一件が生じたことには、妾にも責任の一端があることを認め、それを妾の治める国の下に過ごす皆に謝罪すると共に、妾のこの手で謀反者を断罪する!」
「これは僕の価値観から言っても確定だな。
ユース、そろそろだぞ」
「……ああ」
自分のやっていることに正義があると信念を持っているなら、あんなふうにユース達を警戒する必要が無い。
ナナリー目線の万が一、ユース達がこの公開処刑に異を唱えてきても、きちんとこの刑の正当性を説明すればいいだけの話である。
あんな風に、自分が今からやることを遮られることを露骨に嫌がる素振りを見せるのは、今からやることにやましさを感じていて、とにかく執行できれば逃げ切り勝ちだという挙動に他ならない。
感情を重視してニトロの処刑を止めようとするユース達とは違い、チータはせめてナナリーの行動に、正当性があるかを確かめてから行動したいというのが本音だった。
そんな暇はもう残されていなかったから、集団に従って迅速行動に合わせた、というのが本懐である。
しかし、これを見てしまえばもう迷いは無い。確定ではないにせよ、今のナナリーの行動は臭すぎる。
「皆の者、見届けて欲しい!
これより妾は生涯を共にと誓ったはずの男と決別し、悪しき流れに呑まれつつあった王室の病巣を排除し、泰平なるセプトリア王国の未来へと繋げていく!
この日に立ち会った皆の者には、妾の誓いを胸に刻んで貰いたい!」
「うぐっ、ううっ……! くふっ、うぐうっ……!」
縛られた手首を上下させ、台座に縛り付けて固定された胸元を揺すり、首を振ってがたがたと断頭台を揺さぶろうとするニトロの目には、既に涙が溜まっている。
悔しくてたまらないのだ。こんな死に方、死んでも死にきれない。
誰よりもこの国が大好きな自信だってあるのに、女王暗殺の罪を着せられて、セプトリア王国の裏切り者だと吹聴されて。
彼女が二十歳になるまでは、女性として触れることは絶対にすまいとしていたナナリーの体、その手によって今から殺されるなんて。
それも悲劇の女王を演じ、民衆から同情を集めようとする、糞食らえのベリリアルの演技のだしにまでされて。
何より民衆に言うだけ言って、振り返ったナナリーがニトロを見下す目は、大罪人を裁くための冷徹な瞳。
最も敬愛し、女性としても最も愛した人の、こんな冷たい目が自分の見る最後の光景なんて、ニトロの悔しさと哀しさは大粒の涙を流すに充分すぎた。
無念の涙を流す男の表情も、今の民衆には、罪を暴かれて死を怯える情けない男にしか見えないのだろうか。
「……ニトロ、残念じゃ。
今まで、よう仕えてくれたとは伝えよう」
「うっ、ぐっ……ううっ……」
もう、叫ぶ気力も削がれた。
涙と口の中のもので濡れた猿ぐつわからは、ニトロの無念の声しか溢れない。
そんなニトロの目の前で、ナナリーは断頭台の横に据え置かれた、斬首用の剣を手に握る。
冷たい鋼色の刃が夏の日に光ったことが、民衆を、周囲のセプトリア兵をも静かにさせ、広場は完全なる静寂に包まれる。
今一度、ナナリーは広く広場を見渡した。必要のない挙動だった。
最後にもう一度だけ、邪魔者が入らぬかの確認だろう。
手の届かない位置にユース達がいることを確かめ、シリカやアルミナやルザニアも視界内にいないことを確認したナナリーが、少し肩の力を抜いたことをチータは見逃さない。
ナナリーがニトロの方を向いた瞬間に、チータはこつんと小さく杖で地面を叩いた。
ユースに対する合図だ。間もなく参じる。
それを聞き受けてユースが腰を少し沈めたのと同時、ナナリーが両手で握った剣を大きく振り上げる。
「さらばじゃ、ニトロ……!」
ニトロがぐっと目を閉じて顔を伏せたその瞬間、ナナリーの口の端が僅かに上がった。
これを振り下ろした瞬間に、憎き仇ヘンリーの忘れ形見への復讐が一つ済む。そんなベリリアルの感情が僅かに溢れたことなど、きっと誰も目に留めてなどいなかっただろう。
ただ一人を除いてだ。
この環境下、衆目がニトロかナナリーの剣かに向くばかりだった中、ただ一人だけナナリーの全身像を目線の真ん中に据えていた人物がいる。ユースやニトロではない。
その人物が引き金を引いたその瞬間、静寂なる広場に大きく、エレム王国騎士団出撃の号令が鳴り響いた。
「ぬぁ……!?」
一級狙撃手の放った一発の弾丸は、寸分違いなくナナリーの手元から僅か先、振り上げられた剣の唾を重く横殴りにする。
非力なナナリーの握力はその衝撃と痺れに耐え切れず、また、幼い体には重過ぎる斬首用の大きな剣は、握力が抜けた瞬間に手を離れてしまう。
振り上げられていた故にそれは後方に逸れ、ナナリーの後方側へと落ちて転がるのだ。
「な、何事……っ!?」
何事じゃ、の言葉すら、最後まで発することが出来なかった。
離れた場所から人の波をすり抜け、既に駆けだしていたユースとチータが、やや断頭台に近付いた場所にて地面を蹴り、一気にナナリーのそばへと飛来してきたからだ。
想定できない類の跳躍だ。それはチータが、ユースと自分の足元に、地を蹴るタイミングに合わせて大きな力を押し加える魔法を行使したため。
擬似的に、過剰な跳躍力を得るようなこの魔法は、浮遊的な魔法を使わずに空中戦の運びを可能とするチータにとって、むしろ得意な方の魔法である。
「んゎ……!?」
だん、とナナリーやニトロのすぐそばに着地した二人の片方、ユースの行動が一番早かった。
剣を落とした直後、ユース達の登場に戸惑っていたナナリーの体を両手で持ち、なんとも豪快に断頭台から放り投げたのである。
一応ちゃんと、兵が密集している方向に、大きな弧を描いて投げる辺りはまだ冷静か。
小柄とはいえ人間一人の体、そんな投げ方が出来る腕力は何気なく凄まじいが、きっとそれは軽くない剣を毎日毎日振るってきた、日々の修練の賜物である。
「まったく、悪趣味な見世物だった」
懐からナイフを取り出したチータは、手早くニトロの手首を縛る縄、彼の体を台座に縛り付けた縄を切る。
公開処刑と言うからにはと、ニトロが拘束されて連れてこられるのは想定済みだったようだ。
続いてナイフでニトロの猿ぐつわを切ると、ニトロの首を固定していた木の輪に杖をかつんと当てる。
挟む形でニトロの首を固定していた木製拘束具を、チータの魔法で生じた岩石の細い槍が、べきばきと上下に叩き割り、これでニトロは完全に断頭台から開放された形である。
「ユースっ、チータっ!
私はやりきったぞー! あんた達、そっからしくじったら絶対許さないかんねーっ!」
「アホだな、あいつ」
「絶対やると思ったよ……やめろって釘刺しておいたのに……」
実に賢明でないことを遠くから大声で発してくれる親友に、チータは悪い笑い、ユースは溜め息。
まあそれは別の話である。生きて帰れるなら、後でユースが彼女に説教だ。
「ナナリー様、お怪我は……!?」
「っ……!
ええい、放せ! 付き纏うな!」
多くのセプトリア兵にキャッチして貰えたナナリーは無事なようだが、地面に降ろされ周囲の兵に案じられる中、近付く者達を振り払うように手を一振りする。
低姿勢でナナリーに問うていた兵の頬を叩く事故も発生したが、今のナナリーはそれも気にかけない。
畏怖し離れる兵士達の輪の中心、ずいと一歩断頭台へと接近し、ぎらりとその眼光を持ち上げて、ユース達を睨み付ける。
見上げる女王、それを見下ろす形の魔導士。強く目を合わせ合うのはチータとナナリーだ。
互いに言葉を発し合う前のこの時点から、両者の目の間には火花が散っていた。




