第56話 ~ハルマの招待状~
「あっ……! は、ハルマ様っ!」
ある日の昼過ぎのこと。
セプトリア城内を歩いていたハルマに、後方から駆け寄ってくる少女がいる。
振り返ったハルマの目の前にいたのは、ドレスの裾を引き上げて、急いで自分に近付こうとしてくるイリスであった。
「おや、イリスどの。どうかされましたかな?」
「いえ、あの……どちらに向かわれるのですか?」
ハルマは少し、ほんの少しだが、問いかけてくるイリスの表情に違和感を覚えた。
言ってはなんだが、ハルマもイリスが自分をどういう目で見ているのかは知っている。
声をかけてくる時は、だいたい恋する乙女の顔をしているのだ。悪いがわかってしまう。
それが、今日のイリスは普段の彼女とは少し違い、どこか不安げな顔色をしているように見えたのだ。
「謁見の間ですよ」
「……ナナリー様に、お呼ばれになったのですか?」
「はい。ご存知だったのですか?」
「いえ……」
どうも歯切れが悪い。
惚れた相手と目を合わせることに悶えるイリスの性格とは全く違う意味で、彼女の目線は少し横に逃げがち。
やはり今日のイリスは、普段ハルマが知っている彼女とはどこか異なる。
「……ナナリー様は、どんなご用事でハルマ様をお呼ばれになったのでしょうか」
「正直なところ、私にも想像はつきませんね。
直近で言えばオーク対策についての話でもするのかもしれませんが、その話は今朝もう終わりましたし。
ちょっと考えてみても心当たりはなく、何かな~、なんて思いながら行っていたんですが」
ハルマはだいたい、ナナリーに呼び出される時には、何の話をされるのかをいくつか予想立てていく。そうしておけば、予想が当たった時に受け答えがよりスムーズになるからだ。
今回は、なぜ呼び出されたのかが、現時点でまったくわからない。心当たりがない、とはまさしくそうである。
昨日の夕方、オーク制圧から王都に帰還したユース達から報告を受け、その後ナナリーにとりあえずの報告をしたハルマ。
夜のうちに、今後のオーク対策についての結論と方針、人事やお触れの内容などの草案を纏めて、今朝早くにナナリーに報告、許可を貰って実行したばかりなのだ。
その件以外の政治的な話も今朝済ませたし、それから僅か数時間の今、急にまたナナリーに呼び出されるなんてちょっと不思議なことである。
国政のことについて話したいのであれば、朝に済ませておくべきだったはず。
だから、ナナリー様は何か言い忘れたことでもあったのだろうか、程度のことしかハルマには閃けない。
「イリス様は、何か心当たりがおありであったりしますか?」
「ん……………………いえ、特には……」
「何かあるんですね」
「いやっ、そのっ……ほ、本当に、心当たりはないんです……!
ハルマ様に、嘘をついたりなんて致しません……!」
目の泳いでいた少女が、ばっと顔を上げてハルマを真正面に見据え、必死な声を吐き出した。
想い人に嘘つきだと思われるのは我慢ならないのだ。魔物を前にしても怯まない、武人のハルマが怯むほどの迫力で、思わずたじろいだハルマの姿を見たイリスは、そこではっとして自分の口を手で塞ぐ。
「す、すみません……はしたない声を……」
「何か思うところがおありなのですね。
仰りにくいことがあるのでしたら、無理になど問いませんよ」
うつむいてしまったイリスの頭を撫で、ハルマは優しく微笑んでそう言った。
17歳の少女が頭を撫でられて、子供のように心を安らがせることなんてそうそうないことだ。
女王様に呼ばれて謁見の間に向かうハルマは、あまり時間を使い過ぎるわけにはいかない立場だ。
語らいもそこそこに、また謁見の間への足を進めていくハルマの背中を、ぎゅっと両手を胸の前に握り締めてイリスは見つめていた。
恋焦がれる目ではなく、何かを不安視するかのような目で。
今、言えなかった何かを、ハルマに話すべきだったのであろうかと、イリスは悔いに近い感情を抱いている。
一方、イリスに顔を見せぬ位置に来たハルマは、表情に表れるほど訝しげな想いである。
イリスの様子は普通ではなかった。自分に恋をしている少女が、謁見の間に向かう自分に対して、なぜあのような不安げな顔色を見せるのか。
一度だけハルマは、イリスのあんな顔を見たことがある。
アルバー帝国との独立戦争に挑む時、出陣のためにこの王都を出発する時のハルマを、どうか無事でと祈る目で見送ってくれたイリスの表情。
あれと、よく似ている。
「…………ナナリー様か?」
自分が今から向かう先にはその人物しかいない。
それに会いに行くハルマを見送るイリスが、戦場に旅立つ武人を案じるかのような目を浮かべたとは如何に。
何かがおかしい。知る現実と知らぬ現実が、噛み合っていない予感がする。
誰も見ていないことを確かめてから、ハルマは少し険しい表情を浮かべていた。
所は変わって王都の訓練場。
他に人のいない訓練場は、普段よりもずっと広く感じる。
ユースとルザニアが一対一で、木剣を手にそれを打ち鳴らし合い、それを少し離れた場所からシリカがじっと眺めている。
汗を散らしてぶつかり合う二人だが、ユースがルザニアを上役として剣技指導している絵図であり、さらに上役のシリカが客観目線から見届けるような形である。
「うぁ……っ!?」
ルザニアの振り下ろした木剣を、がちんとユースが斜めに構えた木剣で食い止めたのち、ぐんと前に押し返す力を加えた。
重心の高かったルザニアは、ユースの力強い押しに押し出され、数歩後退するのを止められず、仕舞いには尻餅をつくような姿勢で屈してしまう。
「よし、そろそろ休憩しようか」
「はぁはぁ……はいっ、ご指導ありがとうございました……!」
立ち上がろうとしたルザニアだが、息も切れ切れですぐには立ち上がれなかった。スタミナの限界だろう。
そろそろいったん休み時、と判断したユースの宣言に、張り詰めていたものが切れたかのようにルザニアの肩から力が抜けたのが一瞬のこと。
それでもすぐに立ち上がって、先輩のユースに深々と礼をするルザニアの姿には、ユースもなんだかむず痒い心地であった。先輩をやるのにはあまり慣れていないのだ。
「お疲れ、二人とも。頑張ってたな」
「ありがとうございます、シリカさん」
「はぁ、はぁ……す、すみません、頂きます……」
二人ぶんの水筒を持って近付いてくれるシリカから、それを受け取り二人が口にする。
汗で体を光らせるユースだが、くいくいと普通程度に飲むだけで、全部飲み干すようなことはしない。
もう限界寸前、汗だくで肩も上下しまくりのルザニアは、受け取った水筒を両手で握り、んくんくと一気飲み。
そんなに急に飲むと体がびっくりするぞ、とシリカに注意される頃には、水筒の中身は空っぽである。
「はふぅ……ゆ、ユースさん、全然疲れてないですね……」
「や、そんなことはないって。ルザニアは攻めも速いし、別に俺だって余裕あるわけじゃないからさ」
「ユースは体力だけなら私にも比肩するぐらい、もしかしたら超えてるかもしれないぐらいだぞ?
あんまりそれと自分を比較してへこんだりすることはないよ。
同じ境地に立とうとしたら、もっと時間がかかるからさ」
ユースとルザニアは、もう一時間近くぶっ通しで、一対一の木剣の打ち合いに励んでいた。
一時間、ルザニアはずーっと休む暇がないのである。攻めなかったらユースが反撃してくるし、そもそも攻撃的に攻め込む剣技を主軸としているルザニアだから、極めるためには積極的に攻撃しなきゃいけない。
ユースの防御力に秀でる戦い方には、レベルの差も相まって非常に相性が悪く、結局一本取ることも出来ず、ユースの優しい剣撃にちくちくぽこぽこ体を叩かれるばかりの一時間。
これじゃダメ、もっともっと攻めなきゃで一時間頑張り続けたルザニアが今、ぜえはあ息切れの状態なのは当然である。
ユースはシリカにしごかれていた頃から、二時間三時間はボコボコにされるのが当たり前、それも休みなしが普通のことだったので、スタミナ面ではやっぱりずば抜けているのである。アルミナもそうだが。
決して手を抜くでもなく、ルザニアとの一騎打ちを一時間続けても、ちょっと息が弾む程度なのはそのせいだ。いくらかダメージを受けていたら息遣いも変わるかもしれないが、何もくらっていないのだし。
「……まあ、最近のユースは昔と違って、スタミナだけじゃなく剣の腕もだいぶ上達したけどな」
「あ、あれ? そうですか……?」
「なんだその顔、私に褒められたら違和感あるか?」
「そういうわけじゃ……ひぇごめんなさいっ」
シリカに体力について褒めて貰えたとき、ちょっと嬉しそうな顔色こそ浮かべつつも、褒められたのは
体力だけで剣技のことじゃない、まだまだ精進しなきゃ――と、少し残念そうな顔をしちゃうのがユースである。
表に出したつもりはなくたって、気付いてしまうのが数年ユースの師匠をやってるシリカであり、それならとちょっとは剣技についても褒めてあげようかな、と、付け加えてくれたわけである。
なかなか褒めない師匠とユースに認識されて長いので、シリカに褒められたら露骨に顔色が明るくなりかけた一方、ちょっと戸惑いの色も見えるんだからわかりやすい。
なんだお前、せっかく褒めてるんだぞ、と、シリカがユースの頭を十本指で捕まえて、やわい力をこめてくりくり頭髪マッサージのようなお仕置きである。むしろ気持ちいいぐらいの力加減だが。
おかげで顎を引いて薄目になるユースも、シリカの手首を握って抵抗するが、くすぐったくて口の端が上がっている。そもそも褒められて嬉しかったせいで、表情がふにゃついているのは言いっこなし。
「現状ルザニアは、やっぱり体力をつけることが先決かな。
最初の方は、ユースに対してもちょっといい線いく攻めを見せられてる時もあったけど、時間が経つと
わかりやすく動きが落ちて、惜しいところまで行くことも出来なくなってる。
短期決戦しか狙えないスタミナだと、合戦場では致命的になってしまうからな」
「はい……頑張ります……!」
「剣技については筋もいいから、じっくりそれを洗練していこう。
腰と重心の捌き方や、それに伴う握り手のひねり方など、お前の剣技は私のものとよく似ている。
教えてあげられることも多いだろうからさ」
「に、似てるだなんて、私がそもそもシリカさんに憧れて騎士団入りしましたので……
本物には遠く及びませんし、形だけ真似たものにしか過ぎませんよ……」
砂地の訓練場に腰かけて、シリカとルザニアが会話を憩う。
正座のシリカ、しゃなりと正座崩しの座り方のルザニア、脚が砂に汚れてしまうのだが二人は気にしない。
遠征慣れした騎士二人である。土汚れなんて気にする神経をしていたら、野営なんて出来ません。
「でも、体の使い方ならユースを見ても参考になるぞ。
ほら、あれだけ大振り全力で武器を振ってても、腰は全くぶれていないだろ? よく注目してみよう」
「ん…………本当ですね、全然ぶれてない……」
ルザニアの休憩中、訓練場の真ん中で、待ちがてら木剣の素振りをしているユースである。
木剣を握った手を頭の上までしっかり持ち上げて、下腹部の前まで勢いよく振り下ろし、その速度は木剣の風切り音が、本当に大気を切断したかと思えるほど大きい。
それだけの速度で武器をスイングしておきながら、体芯は全くぶれていないユースのボディバランスは、実に完成されたものである。
あれがあるから、戦場で普段より難しい体勢になっても、振り抜く騎士剣はユースの意のまま動くのだ。
「ほら、前に出してる左脚の膝の曲がり具合、あれがちょうどどっしり構えた重心の落とし具合に合うんだよ。
あれより上だとふわつくし、あれより下だと動きたい時に少し遅れる。
もっとも、ルザニアは武器に対しての筋力がユースとは違うから、あれよりもう少し腰を落とした方がいいとは推測できるけど」
「ん、むむむ……そっか、あれを参考にしつつも逆算して自分に合う型にしなきゃいけないのか……」
「本当言うと、ユースは細身に見えてちゃんと筋力が備わってるから、もう少し腰を浮かせてもいいんだけどな。
ああやって沈めがちなのは、あいつの慎重すぎる性格のせいであって……」
「ちょっとー、すいません……
あんまりそう注目されると、なんか気になって集中できないんですけど……」
「いい型してるからちょうどいい教材になるんだよ。
そのまま続けて続けて。ルザニアに見せてやってくれ」
「も~……」
褒められてはいるのだが、あんなルザニアに真剣な眼でまじまじ見られると緊張する。
気にしないようにしてまた素振りを始めるユースだが、なんだか完璧ではなくなってきた。
基本的な部分は鍛錬の賜物か駄目になっていないが、剣を振り下ろすにあたって型を崩さないよう、振り下ろす速度がちょっと落ちていたり、繰り返すリズムがさっきより遅くなっていたり。
ユースは見世物にされると、考え過ぎてしまってダメなタイプらしい。
女王ナナリーの御前で剣技を見せる機会があった時も、ちょっと緊張して完璧にこなせなかった子である。
結局ユースは、何も意識せずに無心で何かをやっている時の方がだいたい良い。シリカもそんなユースの昔から変わらない様を見て、微笑ましいばかりである。
「――おお、いらっしゃっいましたな。
探しましたよ」
「ん、これはハルマどの、おはようございます」
「あ……あっあっ、お、おはようございますっ!!」
ユースが何だかやりづらくなってきた頃、この訓練場に客人一名。
ハルマの来訪にすぐに立って挨拶するシリカだが、じーっとユースの方を見つめていたせいでハルマの来訪にすぐ気付かなかったルザニアは、大慌てで立ち上がって深々とお辞儀である。
異国の大物様を、たった数秒でも知らんぷりしてしまったことが、彼女にとってはとんでもなく失礼をやってしまった心地のようだ。別にハルマはそんなことを気にする人ではないが。
ユースもハルマに一礼したが、まあまあと手を前に出して、鍛錬中にそうかしこまって貰わなくても結構ですよと、ハルマは微笑んで歩み寄る。
来てすぐの光景で、邪魔をしたかなと態度に示すハルマに対し、ユースは一度木剣を足元に置く。
何気ないやり取りだが、ちゃんと礼節を持って互いを慮っている。
「今日は三名で鍛錬ですか。
アルミナどのやチータどのはいらっしゃらないので?」
「チータは元々ここに来るタイプじゃないんで。
アルミナは今日、人がいないのを見て、走り込みしてくるって言って帰りましたよ」
昨日の夕頃、オーク制圧任務から王都に帰還したユース達は、まずはハルマに結果を報告した。
それを受け、昨晩にハルマが今後のオーク対策について草案をまとめ、ナナリーに報告したり、人事などにお触れを出す手続きを取っていた。
今後、近隣町村にオークが襲撃をかけても撃退できるよう、王都の兵も各町村に派兵されるわけで、それなりにセプトリア兵らに人事異動があるということだ。
それで兵の皆様、いずれも忙しくあられるのか、今日はこの訓練場がガラガラというわけである。
そうでなければこの訓練場は、ちゃんと真面目なセプトリア兵様が集まっている場所なんだから。
人がいないとアルミナも、手持ち無沙汰になってしまうので今日はお帰りだ。
彼女は剣士ではないし、ユースやルザニアの剣術を眺めて楽しめる日もあれば、そうでない日もある。気分次第。
というわけで、ユースやルザニアちゃんが修練に励むなら私も体作ってこよー、なんて言いながら、夕暮れまで走り込むことに決めたそうだ。
ああ見えて、傭兵としても結構真面目に体力作りをしているのである。ならびに、きっちり運動しているので体は引き締まるしスタイルの良化にも繋がるのだとか。
脱いだ彼女の姿を見たことがあるのはシリカとルザニアぐらいのものだが、二人に言わせてもアルミナっていい体してるとの話である。
「ふむ、まあお三方もおられるならここでお話していきましょうか。
今からする話も、後ほどアルミナどのやシリカどのにお伝え頂ければ結構ですので」
「はい、何でしょう?」
探しましたよ、と最初に言われているので、何か用があって来たというのはユースにもわかっている。
仕事の話かな、と勝手にすぐに思う辺り、ユースは根っから働き者だ。そうじゃないのに。
「ナナリー様としばらく前から計画したのですが、かなり遅くなりましたがそろそろ正式に、皆様の"歓迎会"を催そうと思いましてね。
出来ればご参加頂ければな、と」
「歓迎会、ですか? それはこっちに来てからすぐ、して頂いた気がするんですけど……」
「あんなものは、形式上のみのようなものですよ。
我々も少々忙しかったこともあって、ちゃんとした歓迎会を開くのが難しかったですからね。
数ヶ月前よりも、いくつか我が国が抱えていた問題も解決することの出来た今、そろそろしっかりした形で皆様を歓迎会に招待したいんですよ」
ユース達がこちらに来て間もなくの頃にも、ナナリーやハルマ、城の方々がユース達を囲って歓迎会を開いてはくれた。
もっとも、こちらに来てすぐルザニアが腫れ風邪にかかってしまったので、それが治ってからのことであり、それも少々時間が経ってからの話だが。
それはそれで、ユースとニトロの関係が良化してからそういう集いを催せたので、むしろ良かったことかもしれない。
ただ、本当にみんなで会食した程度のもので、それをハルマ達は本当の意味での"歓迎会"とは認識していないようだ。
だからというわけではないが、ユース達はもうセプトリア王国に大きな利をもたらすはたらきを見せてくれているし、それに対する感謝の意も含め、何か一つ催したいというところである。
「王都の中央区をちょっとだけはずれた場所にある大講堂――まあ、詳しい場所はまたお伝えします。
そこで一度、舞踏会でも開こうと思っていましてね。皆様には是非、と」
「ぶ、舞踏会ですか……? え、えぇと、俺そんなの初めてでして、何とお応えすればいいか……」
「初めてなら尚更いい機会じゃないですか。
これを機に、一度お楽しみ頂けませんかね? こちら、全力でもてなしますので」
さあユースには異世界じみた単語が出た。
舞踏会とは要するに、王族様や貴族様が集う、いかにも上流社会の催しである。
平民かつ田舎者まっしぐらのユースには、そんな世界に立ち会った経験はない。
ちなみに彼の後ろで、ルザニアもびっくりしている。
「明日の朝にでも、正式な招待状をお届けさせて頂きます。
開催は一週間後を予定、安息日ではありませんが、休日が一日増えたぐらいの認識でいて貰って結構です。
出来れば、良いお返事を聞かせて下さいね?」
「は、はぁ……」
それだけ言うと、ハルマは一礼して去っていった。
残されたユースは、ハルマの姿を見送りきるや否や、やっぱりシリカを振り返る。
どうしましょう、って目だけでわかる顔である。
舞踏会に招待されました、断るなんて選択肢はないんでしょうけど俺そんなの初めてです、どうしたらいいのかわかりません、って、シリカを見る目が口ほどにものを言っている。
「まあ……色々、予習していこうな。ルザニアもな」
「は、はい……」
「は、はい……」
ユースもルザニアも反応がまるっきり一緒であった。
一方、シリカもそこそこ固い顔である。後輩の前でうろたえる姿を見せたりはしないよう努めるが、彼女も決してそういう場に慣れているわけではない。
この日唐突にハルマから伝えられた、絢爛なる世界への招待は、三人の心を戸惑い一色に染めるには実に充分なものだった。
実はいいとこ育ちのチータはともかく、これをアルミナが聞いたらどんな顔をするだろう。
武の道一筋でここまで来たユースは、この思わぬ展開に、先行きがわからず遠い目すらしている始末である。




