第34話 ~騎士団VSフラックオース一家~
ハフトの都は混乱の渦中にある。
なだれ込んだヘルハウンドが火球を吐き、民家を含む建造物を爆撃し、奔走しながら火の手を広げるそいつらをセプトリアの兵が追撃する。
人と魔物の交戦となれば、夜闇に響き渡る音もさらに増す。気合とともに武器を振るい、飛びかかるセプトリア兵と、吠え声とともに人間へと飛びつき、あるいは火球を吐くヘルハウンドという構図が、ありとあらゆる場所で見られるようになるからだ。
警鐘が鳴った時点で、戦う力を持たない民間人はみな家に籠もり、がたがたと震えながら危機が去るのを待つしかない。
それでも家が火事になれば、飛び出さざるを得ないのだ。そうした人々の悲鳴、ヘルハウンドの咆哮、迎撃する駐屯兵の連携声や雄叫びが轟くハフトの都は、焼け落ちる木造家屋の音も重ねて、惨劇の複重奏を奏でている。
錯乱して焼けた家屋から飛び出した民間人を、目にした兵が保護したり、逃げるべき先を指示したりもするが、果たして何人ほど力無き人々を救えるか。
ヘルハウンドの数は多く、総数では確かに魔物の数を上回る駐屯兵も、民の保護と防衛を叶えながらの徹底抗戦であり、やはり厳しい状況だ。
「こっちだ! 安全な場所まで案内する! 走れるか!?」
「はっ、はい……っ……!」
泣きわめく赤ちゃんに火の粉が降りかからぬよう、その子を胸の中に大事に抱いた婦人もまた、我が子と同じく泣き叫びたいほど。
炎の塊になった我が家を後に飛び出し、運良く近場でヘルハウンドの数匹を討伐したばかりの兵士五名に合流できた彼女は、兵の一人に導かれて必死で駆けている。
都の各所には、家を焼かれた人々が逃げる先としての、駐屯兵が数多く集った場所がいくつか作られており、やむなく家を追い出された人々はそこに導かれていくのだ。
だが、その道中にもまた鬼門。ハフトの都を闊歩するヘルハウンドが、仮の安全地帯となっている中央公園に向けて走っていた、当の兵と婦人の前に飛び出してきた。
しかも三匹だ。一人の兵では対処するのも当然厳しい。
「っ、隠れていろ……! 何とかする……!」
正義感に溢れる壮年のセプトリア兵は、横道を指差し、涙ぐむ婦人にそこへ逃げ隠れろと指示する。
従うほかない婦人はそちらへ駆けるが、剣を握った壮年兵へ、ヘルハウンドの一匹が火球を放つ。
大きく横っ跳びにかわした彼のいた場所に、火球が着弾して爆発を起こし、跳ねた土と石畳の破片が彼の体に降りかかる。そこへさらにもう一匹のヘルハウンドが飛びかかる。
「誰か、いないか……!」
大口を開けて飛びかかってきたヘルハウンドの攻撃はかわすも、返す刃で切り伏せようとしてももう一匹が別角度から。
左腕に噛みつかれ、鋭い痛みに表情を歪めながらも、右拳でヘルハウンドの目元を殴って退ける。
都の広範囲に散開した同士が、気付いて駆けつけるまで粘るべきこの局面、負傷した彼めがけて放たれるまた一体のヘルハウンドの火球が、苦しくバックステップでかわした彼の眼前を通り過ぎていく。
尻餅をつくようにして、すぐに立ち上がるも、もう飛びかかるヘルハウンドは、彼を射程圏内に捉えている。
もう駄目か、いや諦めるな、そう信じて剣を構えて抗おうとした彼は、足掻きも虚しく命を散らす運命から逃れようがない。
「ガフ……!?」
彼に飛びかかろうとしていたヘルハウンドの側頭部に、銃弾が突き刺さらなかったらだ。
その衝撃で進行方向すら僅か逸れたヘルハウンドは、即死して動かなくなった体で兵のすぐ横を通過して、頭からごしゃりと石畳の上に落ちて転がっていく。
何が起こったのかわからない兵だが、彼に追撃の炎を放とうとしていた別のヘルハウンドもそうだ。
特に一匹は、何かが横から来たと感じて振り返ったその瞬間、一太刀の剣によって体を真っ二つにされ、そこでようやく自分を断ち斬った男の存在を知る。
生き残っている一体のヘルハウンドも、同胞を撃ち抜いた人間の従士を素早く睨みつけ、口内に含んだ炎を球にして勢いよく吐き出す。
銃を手にした彼女はそれをしっかり見て、横っ跳びにかわし、地に足が着くや否やの空中で引き金を引いている。
身を横に振りながら放ったはずの銃弾は、狙いを一寸も逸らさずヘルハウンドの眉間を撃ち抜き、のけ反ったヘルハウンドの意識が飛びかける中、すでにもう一人がそれに駆け迫っている。
振り抜かれた騎士剣は無防備なヘルハウンドを容易に斬り捨て、その剣の持ち主は、今しがたまで危うかったセプトリア兵を一瞥。
その一兵が存命であることを一目で確かめた救援者は、一度周りを見渡して、近場にいた他の兵がこちらに駆け寄ってくる姿を確認し、内心では胸を撫で下ろしている。
同僚ではない味方による突然の援護、しかも魔物三体を歯牙にもかけぬその実力には、助けられた壮年兵士も呆気に取られるばかり。
そんな彼に、ポニーテールを揺らしながら駆け寄る銃士は、近付けば両膝に手を置き、心配そうな目で兵の顔を覗き下ろしてくる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……君達は……?」
「詳しい説明は省きますけど、味方ですよ。
同僚さんも来てくれてるみたいですし、私達は急ぎますから行きますね?」
「アルミナ、行くぞ! 次!」
「はいはーい! それじゃおじさん、気をつけてね!」
この場は去ってもよしと確かめたユースが相方を呼び、それに応じたアルミナも、兵に軽く微笑んで、パートナーに付き従う足を駆けさせる。
あっという間に離れていく。本来目立たぬものだがその走力もまた、救世主を見送るような心地の兵士の頭に、すげぇの一言を思わせたものだ。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ……それより、あちらの陰に――」
数秒遅れて駆けつけてくれた同僚に、一時退避してもらったご婦人のことを思い出して告げ、使命を果たさんとするこの兵は頭の切り替えが良い。
やがて、その同僚と共に民間人を安全圏へと導き、その道中でも見つけた逃げ惑う人を寄せ、駐屯兵としての彼の役目は完遂に向かっていく。
任務に集中すべきそんな状況の中、彼の頭には、自分を助けてくれた二人の顔が脳裏から離れなかった。
彼が、その二人こそエレム王国騎士団の若き精鋭だと知るのは、また後の日の話である。
火の粉が舞い、阿鼻叫喚の様相を呈するハフトの都の中にあって、やけに冷静な男が一人いた。
死体のような真っ白な肌、胸に大きな十字架模様を描いた青い神父服のような出で立ち、しかし聖職者にしてはこの騒乱の中にて嘆きの顔色なし。
細く開いていない目は曲がりすぎたような弧を描き、にっこりと微笑むような目だ。
口もまた開かず、綺麗な弧を描いて両端を吊り上げる。
笑顔模様の仮面をかぶっているとさえ見紛う、ぴたりと絵に描いたような笑顔を貼り付け、それはかえって感情の色すら無色にする不気味な笑みだ。
そんな彼は、燃え盛る街の一角にて常緑樹に背中を預け、前方の空へと舞い上がる火の粉を、赤く照らされた顔で見上げている。
「んん? やっと来たか」
そんな彼の見据える右前方から接近するのは、ヘルハウンドとは異なる魔物。
二足歩行でありながら手足を使って、四足歩行さながらに大きな猿が駆け寄ってくる。
「ご苦労、ラポーダ。連中はどうだ?」
自分の目の前で、両手両足を地に着けて立ち止まった猿――エビルアープと呼ばれる魔物を見下ろす神父服の男は、穏やかな声で問いかけて猿の魔物の前に、七つの石ころを転がす。
目の前に落とされた石ころを、ラポーダと呼ばれたエビルアープは、一度自分の前に七個固める。
その後、二つを右斜め前へ、二つを左斜め前に置く。
残った三つは纏めて握って一度持ち上げ、しかし元の位置にじゃらりと置く。
「ほう、そうか。二人ずつで分かれて出陣したか」
言葉を話せぬエビルアープ、ラポーダの仕草から、神父服の男は、ユース達の動きを読み取っている。
宿の前に三人留まり、二人が出撃、また二人は別方向へと出撃。
三人留まった者のうち、二人はナナリーとニトロであることも神父服の男は想像で補い、もう一人は騎士団の一名だと情報を足す。
エレム王国騎士団のうち四名が、二手に分かれて街を荒らす魔物達の掃伐に駆け出した事実を、それを偵察した猿の魔物から情報として受け取った彼は、くくっと小さく笑って小さくうなずいた。
「となると……片方はマルティアの方、片方はデイビスの方だな。
魔導士が含まれているだけあって、高所から魔物の集団点を見定めでもしたか?」
顎をこねながら独り言を漏らす彼は、ユース達の中に魔導士が含まれていることすら知っている。
短く思索したのち、ふむと一言口にして、右手の人差し指と中指を一本纏めにした指先を唇に挟む。
そして強く息を吹いた彼の行動により、ぴいぃと長い指笛が鳴り、それは彼のしもべを呼ぶ合図。
「どれ、私も加勢するか。フラックオース組の連中だけでは頼りないからな」
指笛に招かれた強力なしもべが、彼の後方空中から羽音を鳴らして接近する。
赤々と燃える神父服の男の表情は一貫して笑顔であり、その奥に潜む殺意は今、誰の目にも触れていない。
「怪しい人影は見ませんでしたか?」
「いえ、特に……あ、いや、先程から屋根を飛び移る影らしきものを見たという報告は二度ほど受けています」
「なるほど、ご協力ありがとうございました」
ハフトの都を駆け抜けてきたシリカは、周りに敵がおらず余裕を得ることが出来た駐屯兵の一人に声をかけ、有力な情報を手にしていた。
彼が余裕のある状況であるのもシリカのおかげだ。
見敵必殺、瞬殺、前進を地で繰り返してきたシリカは、ここ街の一角にて兵を苦戦させていたヘルハウンドの五匹をあっさり片付けて、その口から情報を頂ける状況を自分で作っていた。
ちなみに彼女が駆け抜けてきた後方も、ヘルハウンドの屍だらけである。
「チータ、上方から探せるか?」
「行ってきます」
混沌を極めるこの状況下、冷静なやりとりの末、チータは空中点を蹴る魔法を行使して、階段を上るような要領で空中に身を移していく。
ナナリーの泊まる宿から出て間もなくの時、その上空から魔物の集合点を見定める際にも、同じような手法で空へと目を移していたようだ。
「いったい何を……」
「ヘルハウンドは確かに群れを為す魔物ですが、それにしても統制が取れ過ぎています。
間違いなく、魔物を使役する何者かがこの街には潜むか、戦乱に紛れているでしょう。
それが人か魔物かはわかりませんが、いずれにせよ有力な存在には違いなく、討伐すべき対象です」
「このそばに……?」
「ええ。よほど高次の魔物使いでもない限り、魔物の群集点からそう遠くない場所にそいつはいます。
魔物を従え、指示を出す手段は様々ですが……いずれにせよ、操る魔物が立ち回る姿を見届けない限りは、指揮官は的確な指示も下せませんからね」
見上げる上空、チータの姿が小さくなるほど高みまで昇る姿を見届けながら、シリカは初対面のセプトリア兵に意図を説明する。
自分がエレム王国騎士団の一兵であり、ハフトの都側の味方であることは全く説明していない。
行動と態度だけで、概ねそれは説明されているようなものである。
「…………ん!?」
「な……!?」
空を見上げていたことが幸いか、災いか、シリカの視界の端にとんでもないものが映った。
いや、やはり幸いだろう。あんな大きな魔物の存在を、見過ごさずに済んだのだから。
彼女の隣で同じものを目にした兵士は、大の大人とは思えぬほどの驚愕声を耐えられていない。
「ただいま戻りました」
「チータ、あれは……!?」
「やはりシリカさんも見ましたね。
一方で、僕は建物の屋上を飛び移る、怪しい存在を一人見つけています」
空から俯瞰的に状況を見てきたチータは、シリカより多い情報を手にしてきた。
彼だけが獲得できた情報とは、恐らくヘルハウンドらを使役すると思しき、怪しい何者かの影。
そしてシリカとチータが共通して得た情報とは、四枚翅を激しい羽音とともに震わせて、北へと飛行していった巨大な虫の姿をした魔物。
北とはすなわち、ユース達が行った方向と概ね一致している。
「魔物使いは僕が一人で仕留めてきますよ。シリカさんはどうします?」
「……行ってくる!」
僅かに間が生じはしたが、シリカはあの巨大な魔物を追うことを選んだ。
間違いなく、格が違う存在だ。あれを討伐しない限り、大きなあるいは多くの犠牲が生まれることが想像に難くない。
あれの向かった先にユース達がいるかもしれない事実は、楽観的に言えばユース達による討伐を期待してもいい事象でもあるが、一方で空の目から何かを察して動く姿からは、そんな楽観的観測は難しい。
強さに自信のあるそいつが、ユース達を見定め、狙って、そちらに向かっている可能性の方が、より色濃く見えるのだ。
ヘルハウンド如きに遅れを取らないユース達だとは信頼できても、巨大なるあの魔物の実力は未知数である。
「ご武運を」
「ああ、任せたぞ、チータ!」
ここに至るまでに、とうに五十近くのヘルハウンドを葬ってきたシリカだから、ここ群集点の魔物の群れに関しては、もう放っておいていい話である。
あとは勝手にセプトリア兵が片付けてくれるだろう。長年、騎士団でも指揮官として多数の兵を率いた経験を活かしてシリカが選んだ道は、実在する兵力に照らし合わせて最効率の選択肢を進んでいる。
空を飛行していった巨大な魔物を追うような形で、シリカが北へと駆けだす中、チータは再び空中点を蹴る魔法を行使して空へと昇っていく。
見下ろす、火の手を多く視界に含む、そんな中で動く影を改めて探す。
高所からでは地上を動く人々の動きは、屋根や屋上を動く一人ぶんの影は小さいが、元より目の良い彼は広い視野を持ってものを探してみせる。魔法ではない、彼の経験と視力が為す探査力だ。
「開門、封魔障壁」
また、その歴戦の経験は、視界外から迫る、魔法による狙撃も感覚的に見逃さない。
チータの背後の空中点、何もない大気のみの空間がぴきりとひび割れ、空間上にばきりと大きな穴が開いたような様相を為す。
そこへ何者かが放った火球が飛来し、それはチータの背中には届かず、空間上に開いた亀裂の中へと呑み込まれた形となる。
「馬鹿だねぇ」
空中点を蹴って身を翻したチータは、火球の飛んできた方向を向き直りながら、目のみならず魔力を感じる意識を以って、今の火球を放った術者の位置を概ね絞り込む。
民家の煙突がある。その陰に隠れていることはもうわかった。
特に細工も無く、階段を駆け下りるような感覚で、チータはその煙突へと降下する。
細工は必要ないのだ。向こうもどうせ、自分の位置に気付かれたことはわかっているはず。
明察どおり、チータがその煙突に近付かんという頃には、その陰に隠れていた男は自ら姿を現した。
煙突持ちの民家の平たい屋根の上、着地したチータは敵の姿を真正面に見る。
紺の紳士服に身を包み、足元は戦場には不向きであろう革靴、眼鏡をかけたそんな男が、杖を手に備えた立ち姿でチータと向き合う。
鼻に近い小さなレンズ二つの眼鏡をかけ、黒髪をオールバックにしたその男の目は、いかにもろくなことを考えそうに無い性格の持ち主だとわかる。
そもそも、人の背後から火球を放ってくる時点で、あまり性格が良くないのは知れたこと。
「やるじゃないか。我がフラックオース一家の末席に加えたいほどの実力だと見えるよ」
「就職面接ですか? チータ=マイン=サルファードと申します」
「ほほう、サルファード家の没落貴族か。うちの荒っぽい連中とは反りが合わなそうだ」
「そりゃ嬉しいね。僕も社会のクズと馴れ合うつもりは一切ないんで」
慇懃無礼して、名乗って、透かして、煽って。
相手方も捻じ曲がった性格の持ち主なのは顔から明らかなのだが、チータもそれと口で渡り合えるほどには、お行儀の良い性格はしていないのである。
「だいたい、あんたみたいな能足りずの下につく末席なんて、死んでも御免だよ」
「初対面なのに手厳しいことを言うね。どういう了見だい?」
「相手との実力差もわからずに喧嘩を売ってきたところだよ。もっとすごすご隠れていれば、もう少しあんたも長生きできたのにな」
要するに、お前より僕の方がずっと強い。
心からそう思っているからこそ、相手を小馬鹿にするような声使いが自ずと出る。単なる安い挑発に留まらず、その言葉を向けられる相手の癇に障るトーンになる。
「お坊ちゃんは世間知らずでいけない。
たった一撃、僕の攻撃を防いだくらいで天狗かな?」
「お前より弱い魔導士を、魔導帝国ルオスで探せって言われたら、そっちの方が難しいよ。
よくそんなお粗末な魔法の使いっぷりで、でかい口をたたけるな」
「知ったふうな口を利きたがるのが若すぎる証拠だよ。
人生経験を積む機会も、ここで死ぬ君にはないのが哀れだけどね」
「お前との戦いで学べることなんて何一つないよ。
強いて言うなら、僕も幼い頃はこんな恥ずかしい魔法を使っていたかなぁと、ちょっとした感慨には
耽られるかもしれないな」
二十代半ばと思しき紳士服の魔導士と、二十歳のチータが、尖った言葉をぶっ刺し合う。
まったく間を挟まずに、こんなに悪口を連発し合えるのだから、ある意味対話相性がいいかもしれないとさえ言える。
「で、お兄さん。こっちは名乗ったんですけど、あなたは名乗ってくれないんでしょうか」
「デイビス=イオーナ=フラックオース。フラックオース一家の三男だよ」
「指名手配犯が自ら名乗るとは……はぁ~」
「捕えられるものなら捕えてごらんよ。君には無理だ」
「人を見る目もありませんか。僕が犯罪者を生け捕りにするようなタイプに見えてるんですかね」
フラックオース組の重要構成員であり、現在その行方を追われている、頭目スマーティオの実子である四人。
悠々とそれを明かす紳士服の男、デイビスは、それが知れたところでチータに敗れる未来などあり得ぬと断言する自信を持っている。
自分がそうだと知られても、知った相手が屍になるなら今後には関係ない。
そんなデイビスの態度には、チータも溜め息が素で溢れる。
まさかこいつ、本気で僕を上回っているつもりなのかと。口にはしないが、傲慢もここまでやれるんだったら人生幸せだろうなと、心中ではすっかり呆れている。
「まあいいですよ……ちょっと揉んであげましょう。自分の実力不足を思い知ってから死んで下さい」
「ははは、口の減らない子だ。結構、その顔が絶望に染まる様を見届けてから殺してあげよう」
現在、両名、無表情と余裕顔。
確実に自分の方が上だと確信している者同士だが、やがてそれが誤りであると知るのは片方のみ。
敗者は自信を打ち砕かれた末に命を落とす戦いとは、単なる決闘以上に敗者に残酷である。
やがて始まるチータとデイビスの戦いは、二重の意味で己の人生を懸けた勝負とも言い換えられるものだ。




