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第26話  ~万事解決~



「ふーむ、やはりどこからどう見ても、フラックオース組が黒幕だった可能性は覆らないんですな」

「そう裏付ける証拠に近いものが多すぎるからのう。傷心の被害者に証言を聞くのはまだ憚られるが、それでも早くに証言してくれた気丈な女性のおかげもあって、やはり確定でよいのじゃろうな」

「ま、今さらね」


 スマーティオ達を捕えた翌日の夕頃、ハルマはアルバー城にてウィークと対面していた。

 二人きりの会話であれば、ウィークはハルマにも敬語を使わず、年の差どおりの互いの言葉遣いだ。知れた仲であるがゆえ、公の場と私の場で、話し方は使い分けているのだろう。


 今日になってから、被害者の女性らからもいくつかの証言を頂き、それを今までの捜査で集めてきた情報と合わせてみれば、ほらやっぱりと言わんばかりにほど、あらゆる線が繋がった。

 もっと詳しい証言を聞けば聞くだけ、今までに見えてこなかったものも見えてきそうだ。

 傷心の女性らに深くあれこれ問い質すのもどうかとして、あまり多くはまだ問うていないのだが、それでもちょっと聞いただけであれこれ確証を得られるのは、ここまでの捜査が上等であった表れであろう。


「あとはスマーティオやフラックオース組の連中から、自供が聞ければ理想的なんじゃがのう」

「非現実的ではありますが、一応尋問はやってみますよ。そこそこ手段は選びませんが」

「苛烈にいっても相手が相手じゃし、結果に繋がる見込みは薄いが……まあ、そなたに一任しよう」

「お任せを。私、不本意ですが拷問は得意なんですよ」


 物騒なことは言いつつも、どうせたいした結果を期待していないのがわかりやすいほど、ハルマも適当に流すような語り口だ。イントネーションでも冗談だと伝えているようなものである。


「えー、それでは確認させて貰いますね。

 被害者の女性は、逆恨みしたフラックオース組の連中に狙われることを避けるため、しばらくすべてが完全に落ち着くまでセプトリア王都で保護する方針で。

 スマーティオは後日にでもセプトリア王都に連行し、恐らく死罪でしょうが刑はこちらで執行。

 今夜も一応尋問はやりますが、それは主に向こうでやるということで。

 以上でよろしいですかな」

「うむ」


 話を締め括るかのように確認事項を述べ、ウィークも快諾。

 これを以って、ハルマ達がアルバーシティでの仕事は終了だ。あとのことは概ねウィークら、アルバーシティの政治家達が進めてくれるだろう。


「ところでハルマどの。エレム王国の騎士団様の今後はいかなる予定で?」

「明日にはもう王都へと向かうつもりですよ。あまりナナリー様から離れてのんびりするのも良くないですから」

「もう少しゆっくりされて行ってはどうかのう。ユースどのは手負いの身じゃろう?」

「個人的感情で言えば、そうしたいのも山々ですがね。そうもいかぬのが心苦しいところです」


 ユースは現在、アルバー城の医療所のベッドでお休み中であり、シリカやアルミナ達も宿泊まりではなく、アルバー城に部屋を借りて居候中だ。

 何せフラックオース組を壊滅に導いたユース達なので、街の医療所なんかに預けていたら、逆恨みした暴徒に狙われる可能性すら考えられる。

 アルバーシティで一番安全なのは城内であり、ユースは保護を兼ねて招かれた形である。


「ひとまずはやはり、元鞘の形にして、事の終結をきっちりナナリー様にも報告せねばなりませんからね。

 ただ、つきましては帰りの道中、ユースどのに治癒魔法を得意とする魔法使いを、一人か二人ほど付けて頂けませんか?」

「わかった、選りすぐりの人材を派遣しよう」


「出来れば綺麗な女性でね。その方が彼も喜ぶでしょ、男だし」

「あちら様はそういうタイプには見えんかったがのう」

「あ、わかるんですね。冗談で言ったのは勿論ですが」

「経験なさそうじゃし」


 あまり顔を合わせていないウィークにすら見抜かれる、ユースの女性経験の少なさってどうなんだろう。

 実際、年上がユースを初めて見た時、あ、こいつ女性免疫あんまり無いなって思うことは多々あるのだが。

 どうもそういう顔をしているのかもしれない。童顔だからとかじゃなく、オーラの問題で。


「それにユースどのは、女には不自由しとらんじゃろ。周りにあんな綺麗な娘さんばっかりでのう」

「それは思いますねぇ。同僚三人の女性が、あんな見事な別ベクトルに美人かわいい美人の三本柱って、なっかなか運のいい環境だと思いますよ。アレ、各種女の子取り揃えてますよで風俗開けるレベルでしょ」

「羨ましいのー。今日もあんなおなごが代わる代わるで見舞いに来てくれとるんじゃろ?」

「いくつになってもウィーク様はそんなこと仰るんですねぇ」

「男は何歳になっても女好きじゃっちゅうの。おぬしもそうじゃろうが」

「イエッサー」


 スケベオヤジどもだ。今の話を女房が聞かれたらすごく怒られるウィークであろうに、男同士の会話というのは不可侵の聖域である。楽しそうな顔してこんな話をして。


「ま、実際のところは腕優先で魔法使いを」

「わかっとるわかっとる。ベストの選別はわしに任せておけい」


 ジョークを経て導き出す結論は、やはりユースにとっては最善のものだ。

 軽い口を叩きながら、一番いい選択肢を話の終着点に持ってきてくれる辺り、やはりハルマとウィークは大人の参謀と為政者である。










 翌日、手筈どおりユース達は用意された馬車に乗り、セプトリア王都への帰路へと出発しようとしていた。

 街の関所前の馬車小屋から借りた、出来のいい(ほろ)を持つ上等な馬車だ。

 来る時は諸事情あって、小奇麗さの無い馬車に乗ったが、帰りは手厚い待遇である。


「それじゃあ、名残惜しいけど出発ですね。ユースどの、傷の方は大丈夫でしょうか」

「平気ですよ。これぐらいの怪我、何度もしてますしね」


「ほんとかな~?」

「いだっ!? 馬鹿っ、おまっ、ふざけんなっ!」


 斬られて裂けたシャツは新しいものに変えたユースだが、その服の下は長い胴体傷と首の傷を覆う、包帯によって真っ白だ。

 そんななりのくせして、ハルマの問いにへっちゃらですと強がるユースの胸を、アルミナが指でつんつんとつついてくるのである。

 二日前に刻まれたばかりの傷を押されたらそりゃ痛い。流石にユースも怒ってアルミナの手をはじき飛ばす。


「そんな大怪我しといて、平気ですなんていうあんたがちょっとむかつく」

「むぐ、言いたいことはわかるけどっ!」

「あんた自分のケガをすっごい軽んじるもん。そうやって無茶するとこだけはマジ治して欲しい」

「わかったから触るなっ!」


 じっとり目でねちっこく言うアルミナの気持ちもわかるユースだが、流石にこれ以上つんつんされては

たまらない。

 本気でもう一回つつくつもりはなさそうだが、言うこと聞かないともうひと突きいくよ、とばかりに人差し指を近づけてくるアルミナの手首を、ユースは握ってぐぐぐと押し返す。冗談のやりとりの範疇。


「言うことには賛同するが、表現の仕方がやりすぎ」

「ひゃへへ……わかりまひた、すみまへん」


 苦笑いのシリカが後ろからアルミナの頬を優しくつねり、ぐにぐにするのでアルミナもやめにする。

 まったく、とばかりに手を離すユースだが、溜め息つく彼の前で、アルミナもあぐら座りのまま、じーっとユースのことを見つめているから目を逸らしにくい。


「ほんとに心配したんだぞ」

「わかってるよ。慣れてくれって言っちゃダメなのはわかってるけどさ」

「無傷で勝てる最強ユースを切望する」

「無茶言うな」


 会話二言で、微妙な空気を苦笑二人で向き合う空気に滑らせ変え、アルミナもふうと息をつく。

 戦闘要因として長く、そうした環境での付き合いも長くなってきたユースとアルミナでは、ケガなんかしないでねと、素直な気持ちを言うのも難しくなってくるのだ。


 騎士と傭兵、戦列に並ぶ以上は負傷も覚悟で臨むのが当たり前である。

 だからなのか、戦人と認めた相手に、ケガをしないでねと頼むのは、その覚悟に水を差すでもないのだけど、なんだか妙に言いづらい時というのが実際にある。

 戦前に、生きて帰りましょうねと言うのは結構簡単なはずなのに、これは何故だかそうなのだ。

 不器用と言うかどうかは人次第。


「ユース」

「あ……は、はい?」

「改めてお疲れ様、よく頑張ったな」


 今の話の流れから、叱られるとでも思ったのか緊張気味に返事したユースだが、シリカの口から出たのは普通のねぎらいの言葉であった。

 なぜ叱られると思ったのかと言えば、無鉄砲なユースをシリカが叱ることが過去に多かったからである。

 アルミナの、心配させないでよという真意を読み取れているユースだけに、そういう流れでシリカにも近い事を言われると錯覚したのだろう。


 そして残念ながら、褒めてもらえてほっとしたようなユースの表情が、その一瞬の感情の揺らぎをわかりやすくシリカの目にも見せてしまうのである。


「むう、なんだそれ。また私に叱られるとでも思ったのか?」

「やー、まあ……ごめんなさい?」

「疑問符つけて聞くなっ」

「ひゃあ怖い、ごめんなさい」


 シリカは前からユースの頭に両手を置き、頭を洗うかのようにユースの髪をわっしゃわしゃ。

 痛くもないが、くすぐったいぐらい。じゃれ合うようなやりとりでユースも表情が綻ぶが、シリカも笑顔ではありながら、ちょっと普段の笑顔より張りがない。


 やっぱり私は怖い先輩だったんだなぁ、って。ユースに笑顔で接してはいつつも、ちょっとだけへこんでいらっしゃる。


「あのぅ、チータさん……シリカさんってそんな怖い人だったんですか?」

「知らない方がいいこともあるよ」


 ルザニアは最近のシリカしか知らないから、丸くなって以降のシリカの一面しか見ておらず、どうして時々ユースがあんな風に、シリカの前で強張るのかがさっぱりわからない。

 剣技指導の時もシリカさんは丁寧で優しいし、一緒に料理をする時も、買い物に行く時だってそう。

 猫かぶっているわけでなく地でシリカはそうだし、尚更ルザニアには怖いシリカというのが想像できないのである。以前ですら、武に関わらない範疇では、偏にとても優しいシリカではあったのだし。


 そのうちわかる。きっと、近いうちに。

 シリカの部下になってもう一ヶ月過ぎているのだ。間もなく、間もなく。


「それでは出発致しましょうか。――はいよー、出発ぅ」


 御者台のハルマが手綱を動かせば馬車が進み始めた。

 関所をくぐり、野の道を進み、北上への第一歩。


 怪我人のユースのそばに、アルバーシティから遣わされた魔法使いのご老公がつき、常に治癒の魔力を

注いでくれるという手厚い旅だ。

 こうした献身的な施しもやがては功を奏し、きっとユースの傷も跡を残さず、綺麗な体に戻ることが出来るだろう。

 傷は武人の勲章と言う一説もあるが、やはり本来を言えば、親に貰った体には傷が少ない方がいいはずだ。


「ねえねえ、ハルマ様」

「はい、どうしました?」


 ゆったりとした旅の中、アルミナが這うようにして馬車前方に身を移し、御者台のハルマの横から顔を出す。

 ユースは治療を受けるのに専念、シリカはそんなユースを黙って見守っており、チータはルザニアと一緒に馬車の後方でゆったりしている。

 今の話相手に、アルミナはハルマを選んだようだ。


「こないだ捕えたあの親分さん、亡くなったって本当ですか?」

「ん、知ってるんですか?」

「城を出る前に、小耳に挟んじゃいまして……舌を噛んだ、って聞こえたんですけど、本当なんですか?」


 今朝、アルバー城を出発する前、城内はややざわめいていた。

 これを話題にざわついていたのはごく一部だが、昨晩スマーティオは舌を噛み切って自害したというのだ。

 それを聞き及んだ城兵が、同僚とその話をしていたところを、たまたまそばを通ったアルミナが耳にしてしまったようだ。


「ええ、まあ……一応本人にも色々話をうかがおうと、尋問してみようとしたところ、何も喋らないうちに舌を噛み切られましてね。遺憾ですよ」

「う……ごめんなさい、嫌なこと思い出させましたよね……」

「ん、何故です?」

「だってその、ハルマ様の目の前で……でしょ?」

「ああ、お気になさらずに。血生臭い光景は見慣れています、思い出したからってどうということは無いですよ」


 アルミナも傭兵として、その銃でいくつもの標的を撃ち抜いてきたし、一緒に戦うユースやシリカが剣で断った結果の、無残な死骸も見てきた方である。血に耐性はある。

 でも、目の前で人が舌を噛み切る光景なんていうのは見たことがないし、だから想像するだけでちょっと身を震わせたりもする。


 血でも死体でもそうなのだが、何を見ても心揺らぐまいと決めて挑む戦場で見るなら耐えられても、何の心構えもしていない日常意識の中で、急にそれを見たり想像したりすると、鳥肌が立つというのはよくある話である。

 アルミナに限らず、戦役時と非戦場では気丈さが変わるという人は結構多い。


「貴女はお気になさらずに。事件は解決しました、皆様のおかげでね。その誇るべき事実だけが、今ははっきりとあるのです」

「はい」


 ねぎらいと感謝、同時に気遣いを含む大人の笑顔を向けてくれるハルマに、アルミナは少し陰りこそあれど、この結末を良しとする笑顔を返した。

 どこか釈然としないものが残ったが、自分達が目指した目的は叶えられたのだ。

 だったら、それでいい。忘れていいかな、とアルミナは前を向き、幼びた無邪気な顔で馬車の向かう先、爽やかな風吹く草原に目を細めていた。


 アルバーシティの風俗街にもよく通ったハルマは数多くの女性を見てきたが、今までに見てきた多数の女性らの中においても、アルミナは綺麗な顔立ちだ。

 もっと大人になればもっと美人になるだろうとも、今が既に魅力的に余るとさえ形容できよう。

 だが、アルミナの横顔を見て無言でそう評価し、微笑むハルマの内心にあるものはそれだけではない。


 具体的に見抜くことは出来ていないようだが、今の話に引っかかりを感じるほどには、やはりアルミナは鋭い子だな、と。

 ハルマの広めた嘘をただ真に受けず、今もきっと何かに思索を巡らせているアルミナを見ていると、参謀ハルマはその軍師脳でつい考える。


 この聡明さは、もしも敵対することあろうものなら、第一に始末すべきとされる対象なのだろうな、と。






 昨夜の出来事だ。


 アルバー城の地下深くには、地下迷宮のように広大な牢獄がある。

 ここがアルバー帝国と呼ばれていた頃は、数多くの罪人がここに投獄されており、その陰惨な歴史をそのまま刻んだように、薄暗いこの地下牢は湿気と血生臭さがひどい。

 セプトリア王国がアルバーシティを統治するようになり、この城を管轄するようになってから、この牢獄の死霊祓いの祈祷も行なわれたが、それでもこの雰囲気そのものは如何ともし難いままである。


 真夜中の牢獄を、かつんかつんと灯りを持って歩く男が一人。

 その人物、ハルマが向かうのは広い地下牢獄の最奥地、スマーティオの幽閉されている牢屋である。


「…………」


 近き牢にすら誰もいない、人の気配を獄内から感じられぬ、孤独な孤独な牢の中にスマーティオはいた。

 罪人向けの鉄の椅子、その手すりと足に、両手両足を縛り付けられ、冷たい背もたれの上部にも頭を固定され、全く身動きが取れずに猿ぐつわをされたスマーティオ。

 その前方で、檻の扉の鍵ががちゃんと開かれる。


「ご機嫌いかがかな、スマーティオ氏」

「…………」


 ユースに斬られた傷も止血され、なんとか生きている状態のスマーティオだが、当然顔色はよくないし、ご機嫌も良いわけがない。

 不敵に笑むハルマを灯り越しに目にし、生意気な年下を疎ましげに見る目を返すのみである。


「あのままユースどのに始末して貰えた方が、あれこれ仕事が増えなくて楽だったんですがねぇ。

 あなたをセプトリア王国に連行する必要もありませんし、どう考えたってクロのあなたにこうして私が尋問に訪れる手間もなかったわけですし。

 ま、ユースどのも罪人は生け捕りという基本理念がしっかりしているようですし、甘さとも取れますが、それを叶える剣技を身につけているというのは見事の一言に尽きる。

 あの若さで、たいしたものですよね。そう思いません?」


 口を塞がれ返事の出来ないスマーティオに問いかけるのは挑発的だ。

 頭が動かせて口が塞がっていなければ、はん、と首をそむけて見せたいスマーティオだが、何も出来ないので近付いてくるハルマから目を離さぬようにするのみだ。


 自分がどうなるのかはスマーティオも聞かされている。

 今夜はハルマにあれこれ尋問され、明日になれば罪人連行用の馬車に乗せられ、セプトリア王都に連行され、女王様のお膝元であるそこで裁きを受けることになると。

 尋問には痛みを伴うこともスマーティオは覚悟しており、近付いてくるハルマに対する物怖じの感情は無い。表情にも、内面にも。

 極道組織の頭目らしく彼も肝が太く、仮に指をすべて切り落とされても、スマーティオは毅然としたままでいられる人物である。


「ま、それはそれでどうだっていいことですがね」


 拷問の始まりだろうか。

 猿ぐつわを噛まされたスマーティオの歯と歯の間に、ハルマが鳥のくちばしのような形をした、特殊な金属器具の先端を差し込む。

 そして、その器具の後方についているネジをキリキリと回せば、それに伴いくちばしが開き、それが歯をこじ開け、スマーティオの口を開かせて閉じられないように固定する形になる。


「"スマーティオは獄中で死亡した"。ナナリー様に報告することは何ら変わりない」

「ぁが……!?」


 猿ぐつわの結び目をほどいて淡々とそう言うハルマに、金属金具で口を開きっぱなしにさせられていた

スマーティオも、思わず声を発していた。

 死は覚悟していたことだ。恐らく王都に移った後は極刑だろうと。

 驚愕の声を発したのは、偏に話が違うというその一事にのみ。


「あなたのことは私、それなりに利用価値があるとも思っていたんですよ。フラックオース組が大きな顔をしてくれるおかげで、それに属さないゴロツキどもがおとなしかったですからね。

 正直、数年前からアルバーシティにぼったくり風俗店が無くなったのも、あなた達が裏社会で恐れられる顔であってくれたからだと思ってますし、必要悪としてのあなた達は私も評価していたんです」


 やれやれ残念、と溜め息混じりに言いながら、ハルマは懐から金属製の、ペンチ型の器具を取り出す。

 工具としてのそれではなく、挟むところが丸く小さな二点で噛み合わせる形になっており、その用途とは拷問器具としてのところに本質がある。


 ここでのハルマの使い方も、器具の正しい用途のとおりだ。

 閉じられなくしたスマーティオの口の中に、器具の先をぬっと差し、舌を挟んで器具の手元をぐっと握る。

 ハルマの強い握力と同じだけの力で、挟部がスマーティオの舌を力強く掴み、その痛みがスマーティオの眉間に深い皺を刻ませる。


「己が身の丈を弁えてさえいれば、貴方にも良き老後があったであろうものを」

「がっ……はがっ……!」


 縛られて動かない両手両足を、固定された頭をスマーティオが動かそうとし、暴れようとするほど、ハルマが舌を引き出す動きには殺意の匂いがする。

 完全固定の金属椅子の上でスマーティオの全身はぎちぎちと動かず、まばたき一つしないハルマに見下ろされる前、スマーティオの荒い息と枯れた声が溢れている。


 灯りにぼんやりと照らされた、ハルマの冷酷な表情は、極道スマーティオですらぞっとするほど無慈悲さに満ちていた。

 スマーティオの口を開いたままにしていた方の、くちばし型の器具のネジをハルマがゆるめ、それを歯の間から抜き出せば、スマーティオの上下の前歯の間に、彼の舌が引き出されたままの形となる。


「かつては帝国とも呼ばれし、あなたの生まれの地の墓にて」


 その時確かに、ハルマは慈しむような笑顔を見せた。

 殺意とはかけ離れた、古くから知る友人が旅に出る背を、幸望み見送るような、そんな笑顔。

 つう、と冷たい汗を一筋流すスマーティオの前、そんな笑顔のハルマが、灯りを握る拳をぐっと固くする。


「安らかに、お眠りくださいませ」


 そしてハルマは、その握り拳で、スマーティオの顎を真下から殴り上げたのだった。




 その後、ハルマによって、スマーティオは尋問の中で自ら舌を噛んで自決したと、アルバー城の者には説明された。

 真実を知るのは、ハルマと、今は亡きスマーティオのただ二人のみである。

第2章はここまでです。

次章の構成の見直しのため、一週間ぐらいの休載を挟みます。

第3章は、13日の18時に公開する予定です。ご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど!最初は歯の形に似た器具で舌を切るのかと思っていたけど…確かに舌を引っ張って相手の顎を使えば自分の歯で自分の舌を噛ませられるのか!
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