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第12話  ~ユースVSグランベナード~



 駆け迫ってきたグランベナードはまず、前足を振り下ろすようにしてユースを踏み潰そうとしてくる。

 これを横っ跳びにかわしたユースは難を逃れるが、立っていた場所の雪がはじけ飛ぶほどの重い一撃は、至近距離でそれを見せ付けられるユースにとっては、精神的にきついものがある。怯みそうなほどぞっとする。


 さらにグランベナードは頭を大きく振り抜き、大きな角をユースにぶつけにかかる追撃を放つ。反撃の剣を返す間もなくこの一撃、それも大盾を振り回すような幅の広い角殴りには、ユースもバックステップして距離を作るしかない。近付き難く、剣の間合いにグランベナードを捉えることが難しい。


 直後、雪山に響いた銃声が、グランベナードの後腿に差し迫る銃弾を放っている。

 しかしこの一撃は、ユースを追い詰めんとするグランベナードに届かない。

 アルミナとグランベナードの間に素早く割って入ったエビルアープ。それが、始めから握っていたのか掌に五本指で捕まえた石を構え、まるでそれを盾代わりに、アルミナの銃弾をはじき上げたからだ。猿の風体の魔物はにんまりと笑い、あまりの行動に絶句するアルミナに対し、知恵比べで勝ったような表情を見せている。


「なんなのあいつ……っ!?」


 さらにエビルアープは素早く雪を蹴り、アルミナに飛びかかってきた。慌てて後方に跳ぶアルミナよりも速い前進速度で、エビルアープが獲物に手を届かせる場所手前まで、あっという間に到達する。獰猛な類人猿の、殺意に満ちた眼差しの急接近は、アルミナの背筋を凍らせるほどの迫力だ。


 ほんの半秒後にエビルアープが腕を振り抜けば、アルミナの首をもぐような一撃となっていたこの局面、そうならなかったのはエビルアープが逃げたから。少し離れた位置であったのに、矢のような速度でアルミナのそばまで達したシリカが、騎士剣を振り上げていたからである。

 自分よりも速い瞬発力を持つ人間に驚きつつも、冷静にその白刃から後方に大跳びして逃れたエビルアープは、アルミナの横で憎々しげに自分を睨み付けるシリカと目を合わせている。

 彼女の横のアルミナ、爪の一撃を防ごうとしたのか銃身を上げ、体を縮こまらせているアルミナを見る目と違い、シリカを見据えるエビルアープの目は鋭い。


 大きく跳んで離れたエビルアープが着地する寸前めがけて、すぐさま銃を構えて引き金を引くアルミナの行動も速いものだ。これもエビルアープは握り締めた石ではじき飛ばし、着地すぐに駆け出して所定のポジションを確保する。

 すなわち、グランベナードとアルミナの中間点。銃弾をグランベナードに当てようとするアルミナの狙いを阻むかの如く、いつでも動ける姿勢に腰を落とし、ぎゅっぎゅと石を握り締めている。


「し、シリカさん……!」

「わかるが今はいい……! 奴らから目を切るんじゃない!」


 確かに頭のいい魔物はいる、しかしそれにしたってあのエビルアープは――そう言わんとするアルミナの態度に、シリカが返すのは一喝に近い声。

 今はそれを考えても仕方ない、あのエビルアープが、石を使って人間の放つ銃弾をはじき、仲間を守るという"賢すぎる"頭を持っている事実は、覆しようのない現実だ。


 エビルアープはシリカと睨み合いながらも、石を持たぬ左手の指をくいくいと動かしながら、ナナリーらを囲うスノーウルフやウェアバットに、目配せと合図を送り続けている。

 この状況がシリカにとってはきつい。アルミナをエビルアープから守れる位置取りと、スノーウルフらがナナリー達に襲撃をかけた際に守りに行ける位置取り、それを両立させなくてはならない。離れた場所でグランベナードと戦うユースに、加勢することがどうしても出来ないのだ。


 そんなシリカとつかず離れずの距離を保つエビルアープに、アルミナが銃弾をもう一発放つが、これも石を構えるエビルアープによってはじき返される。そんなエビルアープから離れた後方には、凶獣がユースに襲いかかる、暴れる光景があるのだから、この冬空の下でシリカとアルミナの冷や汗が絶えない。


「んぐ、っ……!」


 後ろ跳びしながら、雪を跳ね上げて突き上げられる大角を盾で構え受けたユースだが、凄まじい重みと速さの角はユースを大きくはじき飛ばす。

 両足着地しても尻餅をつかされるだけ、いっそ顎を引かず、両肩から雪上に落ちたユースは、接地の瞬間に後転して膝立ちの体勢に移る。人間一人にしてはしぶといユースの行動を見据え、荒い鼻息で睨み付けてくるグランベナードが、前足で雪をがしがしと引っかいている。


 グランベナードは大きく、速い。攻撃手段も3つしかない、踏みつけるか後ろ蹴りか角の振り回しのみ、それにして隙がない。

 どれも人体には破壊的すぎる一撃の数々で、攻撃中のグランベナードに触れることも出来ないユースは、敵の攻撃を待ち、かわして反撃、仕留めるという得意の戦術が使えない。


 ここを、一対一でどうにかしなければならないのだ。ユースが置かれた苦境を見届けることしか出来ないニトロも、とても人間が一人で討てようはずもないグランベナードを前にしたユースを見て、希望を見出す顔など作れない。


「ユースっ……!」

「わかってる……! なんとか、する……!」


 ユースの名を呼び銃弾を放つアルミナの攻撃は、やはりエビルアープには刺さらない。手持ちの石で対処される。

 しかし、アルミナの銃弾が"狙われた"エビルアープを戦場に作り、そいつを自由に動けない状況を保っている。グランベナードとの一騎打ち、すなわち1対2ではない。エビルアープとグランベナードの両方に袋叩きにされる可能性を、アルミナが潰してくれている。


 希望はあるはず。ぎり、と騎士剣を握る拳に力を込め、みしつく左腕を一度振るい、盾をかざせる腕に鞭か活を入れるユース。

 敵は強大、それがどうした、やるしかないと割り切ってこそ戦人。


「行くぞ……!」


 グランベナードが一完歩を為し、駆け出すのより一瞬早く、ユースもグランベナードへと駆け出した。 狩るべき獲物の方から接近してきた事実に動揺を覚えかけつつ、グランベナードもまた減速無き猛突進。

 ナナリー王女が目を覆いたくなるような光景、ユースとグランベナードがあっという間に距離を詰め合う。


 一度下げた頭を振り上げるグランベナードの行動が、駆けながらにして横っ跳びしたユースを、すれすれかするような大きな角の一撃を為す。

 頭を振り上げた直後の上ずったグランベナードの側面にはユース、それがすぐさま雪を蹴り、接近すると同時に振り上げた騎士剣で、グランベナードの胴に刃を食いつかせんとする。


 前進する勢いをほぼ殺さず、障害物を飛越するような勢いで跳躍したグランベナードの腹が浮き、振り上げられたユースの剣は、魔物の肌には届かず空を切る。

 さらにユースから僅か離れたグランベナードは、前足で地面を蹴って後退する動きと同時に体をひねっている。


 攻撃直後で隙のあるユースに、グランベナードの後ろ足が真っ直ぐ突き刺さろうと迫っていた。

 もう動いても間に合わない、それほどまでにグランベナードの動きは速い。ユースに出来ることは盾を構えて、流星のように突き刺してくるグランベナードの蹄を、受けつつ後方に重心を逃がすことしか無い。


「くが、っ……!!」


 重すぎる一撃、人間の筋肉では受けきれようはずもない一撃は、ユースを後方地面に向けて力強く突き飛ばす。盾を装備した左腕の骨が、めきりと鳴いた声を体内から聞き受けつつ、表情を歪めきったユースは背中から雪上に叩きつけられに行く。

 この勢いでは後転は回り過ぎる、だから体をひねって半身で落ちる形になり、雪上を転がる。

 三回転ぶんほど雪上を転がったところで、地面を肘か手で押し立ち上がろうとする。

 膝立ちの体勢を作る、ずきりと叫ぶ体はそれ以上の体勢をユースに許さない、顔だけ上げるので精一杯。


 転がるさなかのユースへ既に、真っ直ぐに駆け始めていたグランベナードは、もう目の前にユースを捉えている。小さく跳ぶようにして、大きな前足二点をユースの前方上空から迫らせるグランベナードの姿が、顔を上げた直後のユースの目に映った。


 これでいい、全力で来い。ユースの左腕に装着された盾は、既に淡く蒼い光を発しかけている。


英雄の双腕(アルスヴィズ)……っ!」


 咳き込みそうな肺に鞭を打ち、必死でその魔法の名を発したユースが、剣を握った右拳を添えた形の左腕を振り上げた。ユースの構えた盾は間に合い、グランベナードの前足を受け止める形になる。

 その現実が確定した瞬間、ユースがグランベナードの体重を支えきれず、腰砕けに踏み潰される光景しか想像できなかった、ナナリーとニトロの絶望感は底知れない。


「グォ……!?」


 ユースの盾とグランベナードが接した瞬間、ユースはその盾を左に思いっきり殴り抜いた。その瞬間に、ユースを踏み潰すだけだったはずの大鹿の前足は、動く足場に振り回されたかのように、魔物から見て右側へと大きく逃がされる。

 あり得ない方向に突然前足が大きく振られたことは、予想外の出来事に為すすべなく、グランベナードの体が雪上に倒れる結果を導いた。土を跳ね上げ、ずしんと大きな音を立てて倒れる巨獣の姿に、ニトロとナナリーが目を見開く中、シリカと睨み合っていたエビルアープも驚いて振り向いたものだ。


 その時響いた銃声が一つ。それとほぼ同時にユースは地を蹴り、僅かなる跳躍を為している。


 倒れた体を起こそうと、グランベナードが四本足をもがかせようとしたその瞬間、その意識はぶっつりと途絶えた。

 倒れたグランベナードの頭部を着地点とし跳んだユースが、落下する勢いそのままに、騎士剣の切っ先でグランベナードの頭を串刺しにしたからだ。

 貫通した騎士剣は雪にまで刺さり、さらには即座、引き抜きながら騎士剣を振り上げるユースの行動が、刺し傷からばっさりとグランベナードの頭を切り裂く結果をもたらす。


 頭を裂かれた瞬間に、グランベナードの首から上がびくりと跳ね上がったのと、雪とグランベナードの首元を蹴ってユースが離れたのがほぼ同時。

 着地と同時にぜえっと息を吐き、完全絶命間もないグランベナードを見据えるユースは、ぎんとその眼差しをエビルアープに差し向ける。決着がついたその瞬間、その精神は早くも次なる敵に向いている。


 その先では、エビルアープの耳元から血が流れていた。恐らく、グランベナードが倒れた音に驚いたその瞬間、アルミナに放たれた銃弾がかすったのだろう。

 頭を狙ったアルミナの銃弾を、それでも咄嗟にかわした反射神経は特筆すべきだが、グランベナードが使い物にならなくなり、自らも浅くながら傷を負ったエビルアープは、余裕顔でアルミナを見下していた表情とは異なる色で、ユースとアルミナを交互に見る。


 大きく後方に跳び、ユースやアルミナから距離を稼いだエビルアープが、地面あるいは雪をその手でばんばんと二度叩いた。

 それを合図と受け取ったか、グランベナードの敗北で腰が引けていたスノーウルフもウェアバットも、踵を返して散開していく。


 エビルアープもまた魔物達の首領の一角であるとするのなら、それが撤退の合図を発したと見ていいのだろう。

 蜘蛛の子を散らすように逃げていく魔物達の光景がそこにあり、数秒後には雪の積もった山中に、生き残った人間五人の立ち残る姿だけが残されていた。


「はぁ~っ……!」

「ユースっ!」


 危機が去ったことに安堵の溜め息を大きくつくユースに、思わずアルミナが駆け寄っていた。

 いてもたってもいられない彼女と同じような心地ながら、最後の最後まで油断しないシリカが、ニトロとナナリーに目配せし、ユースの方へと駆けるよう示す。

 最速でユースに近付いたアルミナに遅れ、ニトロとナナリーも同じ位置に集まる形で、シリカが周囲に意識を割きながら最後に合流する形となる。


「えへへ、お疲れっ……! やるじゃん、いいとこ見せたっ!」

「やー、助かったよ……ありがとうな、アルミナ」

「いいよいいよ、あんたの一人勝ちで。左腕、大丈夫?」

「なんとかな」


 剣先を雪に置くように右腕に力はなく、盾を備えた左腕もだらりと下ろしたユースは、乱れた呼吸ながら実にほっとした顔で、アルミナとの会話を為していた。

 ユースとグランベナードとの戦いには直接介入する余地のなかったアルミナだが、彼女のおかげでエビルアープの動きが制限されていたことは、ユースにだってわかっている。


 正直、グランベナードをどう対処するべきか考えながら戦う中、エビルアープまで参戦してきたあの瞬間は、ちょっとユースももう終わったのかなって絶望しそうになった。あの瞬間の戦慄を思えば、アルミナがエビルアープを押さえてくれたはたらきは、戦況的にも精神的にも大きな支えとなったのだ。

 何度も近い位置で戦場を駆け抜けたパートナー、アルミナの満面の笑みに左の拳を突き出すユースに、アルミナもまた左の拳をこつんとぶつけた。お互い良く頑張った、やったね、っていうやりとりである。


「まったく、ひやひやしたぞ。いい戦いぶりだったけどな」

「や、すいません、心配かけちゃったみたいで……」

「無事ならいいよ。細かい話は帰ってからな。だが、今日はよく頑張った」


 シリカが右手をユースに差し出してくる。安堵の隠せない笑顔を前に、ユースが右手の騎士剣を左手に移し、空いた手でシリカの手を握り返せば、握ったままでシリカが腕を持ち上げ、肘を曲げる。

 互いに親指の付け根が自分に向く形、言うなれば空中で腕相撲の形で手を握り合う形で、シリカがぎゅっと力を込めてくるこの一瞬が、彼女なりの最大の賞賛の表しである。彼女の師から、ユースにも受け継がれていく、叩き上げの武人流の賛辞の仕草らしい。

 ぐっと力を込めてすぐに離されたが、よく頑張ったぞと言葉でも腕力でも伝えられたユースは、今日一番の笑顔で、しかしそれを人前で上げるのは恥ずかしかったか、顔を伏せて頬をかりかりとかいていた。


「お前、すげえな……」

「う、腕は大丈夫なのかの……? あんなもの、受け止めて……」

「だ、大丈夫です大丈夫です……そういう魔法なんですよ、さっきのは」


 感嘆を率直な一言に集約して放つニトロと、落ち着かない顔で問うてくるナナリーに、ユースは余計に気恥ずかしく笑って応じていた。ユースはあんまり、褒められることに慣れていないので。


 白兵戦を得意とし、魔導士や魔法使いの類ではないユースではあるものの、彼には得意とする魔法が一つだけある。

 盾に魔力を纏わせて、あらゆる脅威を退ける守備力を生じさせる、緩衝あるいは反発力、もしくは抗魔の力を司る魔法、英雄の双腕(アルスヴィズ)。練達の魔導士が使う大魔法のように、大きな影響力を持つ魔法では無く、それで出来ることも限られる魔法でありながら、ユースを幾度となく戦場で救ってきた魔法だ。

 重さで圧倒的に勝るグランベナードの踏みつけ攻撃を退け、勝利を手にしたユースの盾は、今は光を放つことなく、静かに彼の左腕で佇んでいる。


「ナナリー様、速やかに下山しましょう。今のような魔物が、また襲ってこないとも限りません」

「む……そ、そうじゃな、二度あることは三度あると言うし……」

「重ね重ね礼を申し上げたいところですが、今はひとまずシリカどのの仰るとおりですね。恐れ入ります」

「いえいえ。さあ、参りましょう」


 なかなかの苦境だった。それを切り抜けた達成感に、もうちょっと浸っていても悪くない状況ではあったが、入念なシリカの促しによって五人は下山への道を歩きだす。

 すっかりほっとしていたユースもアルミナも、ふうっと息を吐いて、汗を拭うと共に真剣な顔立ちに戻っている。二人とも、その仕草が完全に同時で、見方によっては可笑しい。


 ナナリーを守る陣形を作り、安心して下山できよう足取りを、やや速めに進めていくユースとアルミナ。

 先の出来事の直後ということもあり、すっかりお仕事モード、あるいは戦場仕様のメンタリティになっている二人の肩を、ぽんぽんとシリカが叩く。過剰に緊張感を持っているのか、二人してひゅいっと素早くシリカに振り向くのだから、随分片肘に力を張らせているのがわかる。


「二人とも、もうちょっと肩の力を抜け。もう、大丈夫だから。な?」


 シリカは優しく微笑んでそう言った。別に、油断しても大丈夫な状況ですよと言っているわけじゃない。次に何かあっても、私が何とかしてみせるよっていう行間を含めた言葉であって、これはユースとアルミナにとっては、何にも勝って頼もしい姿である。


「特にお前」

「はひゃ!?」

「次があったら私と代われよ。本当に、心配したんだからな」

「あ……わ、わかりまひた……」


 痛くない程度にユースの頬をつねり、改めて安堵混じりの笑顔でシリカはそう言った。返事するユースも、そんな顔を見せられては、ばつの悪い返事しか出来ない。まあ仕方ない。


 そりゃあ彼女にしてみれば、どれだけ気が気でなかったことか。シリカからの独り立ちを目指し、隊長職を担う今、自分が一番やらなきゃって勢いで前に出たユースの気持ちはわかる。

 だから好きなようにはさせたけど、思わぬ強敵の追加やら、状況の変遷に伴って、ユースに加勢も出来ない状況を作り上げられたシリカからすれば、甘んじたことを強く悔いた瞬間も確かにあった。もしも自分に、ユースと自分の場所を入れ替える魔法が使えたなら、すぐにでも使いたかった場面であった。


 下山中、無いとは思うがさっきと同じようなことがあれば、今度は頼むからずいずい前に出るのはやめてねっていうのが、シリカの訴えである。もうさっきので、頑張りたいのはわかったから、って。


「おっこら~れた~♪」

「うるさいな、お前に煽られるとなんかむかつく」

「怒ってないけどな」


 にひひと笑ってからかってくるアルミナにユースが抗議したり、会話の内容からもちょっとは肩の力も

抜けていそうだ。これでいい。

 下山を急ぐべき状況だからそれは譲れないが、あれだけの窮地をクリアした直後である。あんまり緊張したまま帰るというのも少々気の毒だし、二人のやりとりを微笑ましく見守りながら、シリカは周囲に視野を持っている。周囲を警戒する役目、ずっと神経を遣わなければならない役回りは、自分が受け持つというスタンスだ。






 この後、何事もなく下山した五人は、ふもとのシェデムの村にてゆっくりと休んだ。ピクニックって、それだけでも案外体力を使うもので、帰った後はよく眠れるものだ。それに加えて苛烈な一戦を終えた後の今夜は、普段よりも宿にて安らぐ心地が何倍にも増したものである。


 ご飯も三倍美味しかったし、お風呂も五倍気持ちよかった。ユースとアルミナの寝付きっぷりも、普段の十倍はよかった。そんな二人が寝息を立てる姿を見届けて眠りにつくシリカは、これ以上ない安らぎの表情のままで目を閉じていた。


 先日と違って、女二人と男一人が同室で寝ているが、それはあんまり気にしなくてよろしい。戦後の夜は、時々そういうことがあるのである。どうせそう簡単には間違いなど起こりません。

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